二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。




 午後の講義が終わって教室を出る頃には、廊下の人の流れも去年ほど読みにくくはなかった。

 移動に時間がかかる棟と、先に席を取った方がいい教室は、春のうちにだいたい頭へ入っている。

 掲示板の前を通りながら、次の週の予定を確認する。

 機械工学専攻へ進んでからは、移動だけでなく、必要な準備の組み方も前より無駄が減った。

 

「鳴上、次のレポート見たか」

 後ろから声をかけられ、足を止める。

 同じ講義を取っている学生で、去年より名前と顔が先に一致する相手が少しずつ増えていた。

 

「見た。提出、来週だ」

「早いな……まだ今週始まったばっかだろ」

「早めに触った方が楽だ」

「お前はそうだろうけどさ」

 

 軽い愚痴を聞き流しながら、階段を下りる。

 去年なら必要以上に様子を見ていた場面も、二年目に入ると会話の切り上げ方まで自然になっていた。

 

 食堂の前では、別の講義で顔を合わせる学生に会釈だけする。

 輪の中心へ入ることはないが、完全に通り過ぎるだけでもなく、その間で十分だった。

 

 外へ出ると、夕方の空気が少しだけ湿っている。

 雨になるほどではないが、洗濯物を外へ長く出すには向かない程度の重さだった。

 

 スマートフォンを開き、時間を確認する。

 

 今日は図書館に寄ってもいいが、冷蔵庫の中身と炊飯の時間を考えると、まっすぐ帰る方が収まりがいい。

 駅へ向かう途中で、陽介から短い連絡が入った。

 五限終わり、少し押した、寄り道なし。文面だけでだいたいの流れは足りる。

 この書き方なら、帰宅は普段より二十分ほど遅い。

 急いではいないが、誰かと食事して帰るつもりもない時の文章だった。

 電車の中でそのまま買い物の要不要を組み直す。

 今日は牛乳だけで足りる。米はある。味噌もまだ半分を切っていない。

 

 帰宅して鍵を開けると、部屋の中は朝の形をほぼ保っていた。

 ソファーの端に置いたクッションの向きも、洗面所のタオルの乾き方も、出る前の記憶と大きくはずれていない。

 鞄を置き、先に炊飯器を確認する。

 今から研いで予約をかければ、陽介の帰宅にちょうど合うが、講義の押し方を考えると少しだけ遅らせた方がよかった。

 

 米を量って研ぎ、水加減を合わせる。

 炊き上がりの時間を一度入れてから、やはり五分だけ後ろへずらした。

 味噌汁は朝の残りに豆腐を足して使える。

 鍋を出して火にかける前に、冷蔵庫から小松菜と鶏肉を出し、主菜の段取りも先に決める。

 包丁を動かしていると、大学の空気がようやく抜けていく。

 講義や人の声で埋まっていた頭の中が、火加減と調味の順番で静かに整っていく感じがあった。

 陽介が遅い日は、先に食べるかどうかを毎回少しだけ考える。

 ただ今日は、遅いと言っても待てない時間ではない。連絡の文面にも、食事を別にする前提は入っていなかった。

 鶏肉を焼きながら、もう一度画面を見る。

 追加の連絡はない。なら、電車に乗れていれば予定通りだろうと思った。

 味噌汁は火を止め、温め直しやすい位置へ寄せておく。

 炊飯の残り時間を見て、先に風呂を入れるか迷ったが、今日は帰宅後すぐ食べた方が流れがいい。

 食卓へ箸を二膳出し、皿の位置を整える。

 向かい合わせのままでも落ち着くが、最近は少し斜めにずらした方が会話しやすいと分かってきた。

 それがいつからそうなったのかは覚えていない。

 気づいた時には、食卓の置き方も、よく使う皿の順番も、二人で使う前提の形に落ち着いていた。

 

 玄関の鍵が回る音がしたのは、炊飯器の蒸らしが終わる少し前だった。

 予想より三分早い。電車の接続がよかったのだろうと思い、火を弱める。

 

「ただいまー」

 声はいつも通りだが、少しだけ高い。

 疲れていないわけではないが、外で気を張ったままではない時の高さだった。

 

「おかえり」

 台所から返すと、鞄の下ろされる音が続く。

 床へ投げるほどではなく、椅子へかけるよりは雑で、その中間なら講義続きで少し疲れている。

 洗面所の方で水音がして、すぐ戻ってくる。

 手を洗う動作が早い日は腹が減っていることが多いので、先に茶碗を出す。

 

「今日、わりと早かったな」

「最後のやつ、先生が珍しく巻いた」

 陽介が冷蔵庫を開けかけて、こちらを見る。

「なんか飲んでいい?」

「麦茶ある」

「助かる」

 

 コップへ注ぐ手つきは少しだけ勢いがある。

 喉が渇いているのと、講義続きで話す量が多かった日の癖が一緒に出ていた。

 

「そっちは」

「レポートの説明が増えた。あと、顔見知りが少し増えた」

「少しって言う割に、悠、去年より名前呼ばれてるよな」

「たまたまだ」

 

 そう返しながら、ご飯をよそう。

 陽介の方は今日は多めでいいと思い、茶碗の八分ではなく九分まで入れた。

 

「俺もさ、ゼミじゃねえけど、よく見る面子は増えた」

 椅子へ座りながら、陽介が言う。

「去年より、誰がどのへんで詰まるか分かるから、話も早いんだよな」

 

 その言い方なら、今日は極端に嫌なことはなかった。

 ただ、机に肘をつくまでの動きが少しだけ重いので、肩と腕は思ったより疲れているらしい。

 

「飯、先でいいか」

「そのつもりで用意してる」

「さすが」

「味噌汁、今温める」

「完璧かよ」

 

 完璧というほどではない。

 連絡の時間と声の調子を合わせれば、この順番になるだけだった。

 食卓へ並べると、陽介はすぐ箸を取った。

 食べる速度が落ちていない日は、空腹と疲労のどちらも軽めで済んでいることが多い。

 

「今日の鶏、うまい」

「火を通しすぎてないだけだ」

「そのちょうどいいが難しいんだって」

 

 会話は途切れ途切れでも、不足はなかった。

 大学で見たこと、教室移動の面倒さ、去年なら戸惑ったことを、今は普通の話として並べられる。

 

 ただ、実際に見ているのは内容そのものより先だった。

 箸の持ち方が雑になっていないか、声が変に沈まないか、食後すぐ黙り込む気配がないかを先に拾っている。

 今日はそこまで重くない。

 講義が詰まっていたぶんの疲れはあるが、家に着いてから崩れるほどではなく、食事で戻せる範囲に収まっていた。

 

「そういや、今週の後半ちょい遅くなるかも」

 味噌汁を飲んでから、陽介が言う。

「レポートの相談みたいなの入るかもしんねえ」

「分かった」

 

 その場で頭の中の炊飯時間を組み直す。

 遅くなる日が二日続くなら、汁物はまとめて作り、主菜を軽くした方が無駄がない。

 

「連絡は入れる」

「頼む」

「先に食ってていい日もあるよな」

「文面見て決める」

 

 そう答えると、陽介が少し笑った。

 細かく説明しなくても、その判断基準がだいたい伝わるところまで来ている。

 

 食後、陽介は皿を流しへ運び、そのまま水を張る。

 以前より手順が一つ増えただけだが、その一つがあると後の片づけはかなり違った。

 

「今日、洗濯物中入れた?」

「入れた。湿気てたから、部屋干しに替えた」

「助かる。外そのままだったら、たぶん微妙だった」

「そう思った」

 

 短い確認を挟みながら、食器を洗う。

 陽介は隣で明日の資料を鞄から出していて、その置き方だけで、まだ完全には気が抜けていないと分かった。

 

 それでも、外の予定が少し増えたからといって、戻る場所が曖昧になることはない。

 講義も人付き合いも去年より広がっているが、最後に帳尻を合わせる先は、もうこの部屋で固定されていた。

 

 洗い終えた茶碗を布巾で拭き、食器棚へ戻す。

 明日の朝もまた同じ位置から取り出せるよう、重ねる順番までいつも通りに揃えた。

 

 居間では、陽介がソファーへ半分沈みながら資料をめくっている。

 その姿を見て、今夜は風呂を少し早めに回した方がよさそうだと思い、給湯器の電源へ手を伸ばした。

 

 外側の時間割は少しずつ広がっていく。

 それでも帰ってきて、食事をして、明日の支度をして終わる流れが崩れない限り、生活の中心は動かないままでいられた。

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学二年生)
花村陽介(M大に入学した大学二年生)



次回もよろしくお願いします
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