二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。




 夕方、駅前のスーパーで会計を待っている間に、陽介から連絡が入った。

 今日は少し遅くなる、食堂で軽く話に付き合う、先に食べてもいい、という内容だった。

 文面はいつもより軽い。

 断りを入れる速さと語尾の緩さを見る限り、断れない誘いではなく、流れで残る程度のものらしかった。

 買い物かごの中身を見て、献立を組み直す。

 魚を焼く予定だったが、冷めると落ちる。なら、少し待っても崩れにくいものへ変えた方がいい。

 鶏肉と長ねぎを取り出し、照り焼きにすることに決める。

 塩気のある副菜を一つ増やせば、帰宅が遅くても食べやすい形に収まる。

 帰宅して米を研ぎ、予約ではなくすぐ炊飯へ切り替えた。

 味噌汁は豆腐だけでは軽いので、油揚げも足しておく。

 

 講義のあとに食堂へ残る程度なら、空腹より気疲れの方が先に出ることがある。

 そういう日は、甘いものより塩気と温かさを先に置いた方が戻りやすい。

 

 長ねぎを斜めに切り、きゅうりは細めに刻む。

 塩昆布で和えるだけの副菜でも、箸の進み方はだいぶ変わる。

 火を入れながら、大学での陽介の顔を思い出す。

 実際に見る機会は多くないが、駅前や校舎近くで偶然会う時の立ち位置はだいたい決まっていた。

 

 誰かと話している時の声は少し高い。

 手振りも大きく、返事が早い。相手の話を拾って、その場の温度に合わせるのがうまい。

 

 去年より、それが板についてきている。

 M大の中で気まずく浮くこともなく、講義や食堂の流れへ自然に入っていけているのだろうと思う。

 外でどう立ち回るかは、本人が決めることだ。

 ただ、帰宅した時の靴音や鞄の置き方を見ると、その調子のよさがずっと続いているわけではないと分かる。

 

 炊飯器の残り時間を見て、風呂も先に入れる。

 今日の戻り方なら、帰宅してすぐ食べるより、先に体を温めた方が楽な可能性もあった。

 

 連絡はその後しばらく来なかった。

 食堂で話が伸びているなら、それでいい。無理に切り上げて帰らせるようなものでもない。

 食卓にはまだ皿を並べず、鍋だけ火を止めておく。

 照り焼きも一度取り出し、温め直しやすいようフライパンへ残したままにした。

 

 玄関の鍵が回ったのは、九時を少し過ぎた頃だった。

 予定より十分ほど遅いが、大きく崩れるほどではない。

 

「ただいま」

 声は外向きの高さを少し落としたくらいで、沈みすぎてはいない。

 ただ、靴の脱ぎ方が雑だった。踵をそろえる気力までは残していない時の脱ぎ方だった。

 

「おかえり」

 居間から返すと、鞄が床へ置かれる音がする。

 投げたわけではないが、肩から外した勢いを止めきらず、そのまま任せた程度の重さがあった。

 

 洗面所へ向かう足取りも、家の中のものに戻っている。

 外ではもう少し間を詰めて歩くが、今は廊下の幅に合わせる必要がないような歩き方だった。

 

 戻ってきた陽介の髪は、少しだけ乱れていた。

 手ぐしで直す気もないまま冷蔵庫を開けかけたので、その前にコップを差し出す。

 

「麦茶」

「助かる……」

 受け取る動きに、外で見せる軽さはもうほとんど残っていない。

 

 一気に半分ほど飲んでから、ようやく息をつく。

 それで喉の渇きは取れたらしいが、肩の位置はまだ下がりきらなかった。

 

「食堂、長かったな」

「うん。なんか、帰る流れ逃した」

 そう言って、ソファーではなく床へ一度しゃがみ込む。

 鞄の中から資料を出すでもなく、ただ一拍置きたい時の動きだった。

 

「誰と」

「同じ講義のやつと、あとその友達」

 麦茶を持ったまま、陽介が少しだけ顔を上げる。

「レポートの話から始まったのに、途中で全然ちげえ話になってさ」

 

 説明する声はまだ回る。

 大学内での会話をなぞる時の調子も残っているが、語尾の切り方だけが家のものに変わっていた。

 

「食堂で座ってたら、別のやつも来て」

「増えたのか」

「そう。で、気づいたら四人。俺、途中から司会みたいになってた」

 

 その言い方に誇張は混じっているだろうが、完全な冗談でもなさそうだった。

 陽介はそういう場で、話の流れを止めない位置へ自然に立つ。

 

「人気者だな」

「それ、からかってる?」

「事実を言っただけだ」

「微妙に反応しづれえな」

 

 口ではそう言うが、表情は緩んだ。

 外でうまくやれていること自体は、悪いことではないらしい。

 ただ、そのままもう一杯麦茶を注ぎ足す手元は少し遅い。

 グラスを置く位置も雑で、コースターから半分外れていた。

 

 風呂場の給湯ランプを見て、先に声をかける。

「先に入るか」

「え、いいの」

「今日はその方がいいだろ」

「……じゃあ、ありがたく」

 

 そう返して立ち上がる時、膝へ一度手をついていた。

 体力が尽きるほどではないが、外で座って話し続けた分の重さが脚に残っているらしい。

 

「飯は出たら温める」

「ごめん、完全に帰り遅くなった」

「連絡は来てた」

「それはそうなんだけど」

 

 謝るほどではないと思ったが、そこは言わない。

 代わりにフライパンを火にかけ、照り焼きのたれが煮詰まりすぎないよう水を少し足した。

 風呂場の扉が閉まる音を聞きながら、副菜を小皿へ移す。

 きゅうりと塩昆布に、思っていたより箸休め以上の役割が出そうだと思ったので、量を少し増やした。

 味噌汁を温め直し、茶碗もよそう。

 風呂から上がったらすぐ食べられるよう、湯気が立ちすぎない手前で火を止める。

 

 陽介が戻ってきた時には、肩の位置がさっきより落ちていた。

 髪はまだ半乾きで、Tシャツの袖を気にせず捲ったまま、椅子へ座る。

 

「生き返る」

「大げさだ」

「いや、今日はわりとマジ」

 

 箸を取る速さは、空腹というより安心した時のものだった。

 外で誰と話してきたかより、今は皿の位置を確認せず手が届くことの方が先に効いているように見えた。

 

「塩昆布ある」

「見れば分かる」

「そうか」

「でも、こういうの助かる」

 

 照り焼きに手をつけたあと、副菜へすぐ箸が伸びる。

 思った通りだったので、それ以上は何も言わず味噌汁の椀へ手を伸ばした。

 

「外でだいぶ喋ってきたんだろ」

「うん。なんか今日、ずっと調子合わせてた気がする」

 そこで陽介は少しだけ笑う。

「別に嫌じゃねえんだけど、帰ると、あー終わったってなる」

 

 その言い方だけで十分だった。

 詳しく説明されなくても、玄関での靴の脱ぎ方から同じことは読めていた。

 

「そっちは」

「今日は普通だ」

「普通って便利な言葉だな」

「足りるだろ」

「まあ、悠の普通はだいたい足りる」

 

 食事が進むにつれて、声はさらに低く落ち着いていく。

 外向きの弾みを切ったあとに残るこの調子の方が、今では見慣れていた。

 

 食後、陽介は皿をすぐには運ばず、椅子の背に一度もたれる。

 そのまま数秒だけ目を閉じてから立ち上がったので、今日はかなり気を使っていたらしいと思う。

 

「置いとけ」

「いや、運ぶくらいはやる」

「分かった」

 

 流しへ皿を持っていく後ろ姿は、家の中の速度だった。

 誰かに見せるためではなく、ただ無理のない歩幅で動いている時のものだった。

 食器を洗いながら、陽介は大学の続きを少しだけ話した。

 誰がどの講義を落としそうか、食堂の席取りがどうだったか、その程度の軽い話が水音の上を流れていく。

 内容は軽くても、持ち帰る相手や会話の数は去年より増えている。

 それでも最後にこうして全部いったん下ろせる場所があるなら、外側の広がりはたぶん無理なく続く。

 拭いた皿を棚へ戻し、台所の灯りを一段落とす。

 居間へ戻ると、陽介はもうソファーの端へ沈み込み、さっきまでの外向きの顔をほとんど残していなかった。

 

 その差をわざわざ言葉にする必要はない。

 靴の向きも、麦茶の減り方も、風呂を譲った時の返事も、見れば足りる程度には揃っている。

 

 この部屋は、誰かを閉じ込めるためのものではない。

 外でいろいろな顔を使ってきたあと、余計な力を抜いて戻れる場所として機能していれば、それで十分だった。

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学二年生)
花村陽介(M大に入学した大学二年生)



次回もよろしくお願いします
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