スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。
なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。
帰省の前日になると、部屋の中の見え方が少し変わる。
棚の上や洗面所の端にあるものが、持っていくものと置いていくものへ自然に分かれて見え始める。
夕方のうちに洗濯を終え、干したタオルがまだ少しだけ湿っていた。
明日の朝までには乾くだろうと思いながら、食卓の上へ帰省用のメモを広げる。
移動時間、乗り継ぎ、堂島家へ寄る時間。
その横へ花村家へ顔を出す目安も書いてあり、別々の家へ帰るはずなのに、予定表の上ではほとんど一つの動線みたいに並んでいた。
堂島家への土産は、昨日のうちにもう買ってある。
菜々子が受け取りやすいものを基準に選び、重すぎず、移動の邪魔にならない箱を先に脇へ寄せた。
花村家の分は、陽介が自分で持つと言っていた。
ただ、その包みがどこへ入るかまで考えると、鞄の片側は先に空けておいた方がいい。
押し入れからボストンバッグを出し、床へ置く。
開けた途端に、陽介の視線がすぐこちらへ寄ったので、自分の方の準備もそろそろ始める気らしかった。
「どっち使う?」
聞くと、陽介は自分のリュックを指で引っかける。
「俺はこれでいけると思う」
「荷物が増えなければな」
「その言い方、信用ねえなあ」
信用がないというより、前例がある。
去年も帰省前になると必要かどうか分からないものまで鞄へ入れ始めて、最後に重さだけが増える。
自分の着替えを先に揃える。
二泊分を基準にしながら、洗濯の回り方を考えれば、実際に持つ量はもう少し減らせる。
堂島家には自分のものも多少残してある。
だから足りなくなれば向こうで何とかなるが、それでも最初の一泊分だけはきちんと揃えておいた方が流れがいい。
陽介はベッドの端で、自分の着替えを畳み始めていた。
Tシャツ、下着、タオル。そこまでは普通だが、その横へ小さなポーチを二つ並べたところで、手が止まる。
「なに入れるつもりだ」
「充電器と、イヤホンと、あと念のための」
「念のためが多い」
「いやでも、帰省って何が要るか分かんなくなんだよ」
その理屈は毎回聞く。
分からなくなるたびに荷物が増えるので、こっちも先に止めるしかない。
「必要ならジュネスで買え」
「出た、その万能解決策」
「地元だろ」
「そうだけどさ」
言い返しながらも、陽介はポーチを一つ減らした。
減らし方に未練はあるが、完全に反抗するつもりもないらしい。
食卓へ戻り、切符の時間をもう一度確認する。
朝の便で出て、八十稲羽へ着くのは昼前。そこから堂島家へ荷物を置き、少し休んでから花村家へ向かえば無理がない。
「先に堂島家だよな」
陽介が後ろから言う。
「荷物置いた方が楽だし」
「そうする」
「で、そのあと花村んち寄って」
「夕方ならちょうどいい」
去年より、この確認が短い。
どこで落ち合い、どこで別れ、いつまた会うかを、最初から別行動込みで把握しているからだと思う。
「翌日、ジュネス行く?」
「用があるなら」
「いや、菜々子ちゃんに会えたら会いたいなと思って」
「堂島家に行けば会うだろ」
「それもそうか」
会話の内容は大したことではない。
だが、そういうやり取りの中に、地元へ戻ったあとの時間まで自然に共有されている。
冷蔵庫を開けて、中身をもう一度見る。
帰省前に使い切るつもりだった野菜はほぼ片づいた。牛乳もない。卵が二つ残っているので、今夜のうちに火を通しておいた方がいい。
「晩飯、卵使う」
「了解。なんか手伝う?」
「米だけ研いどけ」
「はいはい」
台所へ立つと、陽介もそのまま流し台の方へ来る。
作業は分かれているが、どちらがどこに立つかはもう説明がいらない。
米を研ぐ水音を聞きながら、土産の箱を手に取る。
持ち歩きの邪魔にならないか、角が潰れにくいか、今さら見る必要のないところまで一度確かめた。
そのついでに、陽介の方の荷物も視界へ入る。
財布、スマートフォン、切符、家の鍵。その並びに不足がないか、勝手に頭の中で点検している。
「切符、入れたか」
「まだ」
「先に財布へ入れろ」
「分かった」
言われるまま、陽介が鞄のポケットを開ける。
「ほんと、こういうとこ親みてえだな」
「忘れる方が悪い」
「否定できねえ」
言いながらも、切符はちゃんと奥へ入れた。
そのあとでポケットのファスナーまで閉めたのを見て、そこはもう言わなくていいと思う。
卵焼き器を火にかけ、溶いた卵へ少しだけ出汁を入れる。
帰省前の食事だから簡単でいいが、残り物を無理なく切るならこのくらいの手間はかけた方が早い。
背後で、陽介がまた鞄の中身をいじる。
嫌な予感がして振り返ると、薄い文庫本が一冊、さっきはなかった位置に増えていた。
「それも要るのか」
「移動中に読むかも」
「読まない」
「決めつけるなよ」
「去年、三ページで寝てた」
そう言うと、陽介は口を閉じる。
図星らしいので、そのまま文庫本を取り上げ、棚の上へ戻しておく。
「必要なら向こうで買え」
「またジュネス頼みか」
「本屋もある」
「くそ、正論」
言葉のわりに、取り返そうとはしなかった。
荷物が減ること自体は本人も分かっているらしく、不満の半分は形だけだ。
食卓へ皿を並べながら、明日の朝の動きも組み直す。
冷房を切る時間、ゴミを出す順番、戸締まりの確認。東京の生活を一度たたむ作業も、帰省の支度には含まれている。
「明日、何時に出る?」
「駅まで逆算して八時前」
「じゃ、七時には起きるか」
「お前は七時に起きろ。俺は先に起きる」
「当然のように言うなあ」
当然のように言ったのは、その方が事故が少ないからだった。
陽介が起きてくる頃に朝食と最後の確認が済んでいれば、出発前の流れはだいたい崩れない。
夕食を食べながら、向こうでの時間も少しずつ具体的になる。
堂島家へ着いたらまず荷物を置き、土産を渡し、花村家へ行く前に一度連絡を入れる。その順番まで、もう特別な確認なしで通じる。
「夜、また会う?」
陽介が味噌汁を飲んでから聞く。
「花村家の方が長引かなければ」
「じゃ、終わったら連絡する」
「分かった」
「次の日は、昼前には出られると思う」
「堂島家にいる」
「うん」
そうやって予定を擦り合わせていると、別々の家へ帰るという感じが薄い。
実際には離れる時間もあるのに、動線のどこかでまた交差することが最初から決まっている。
去年も似たようなことはしていた。
ただ、去年より今の方が、その合流が前提として強い。待ち合わせを約束するというより、どこかで自然にまた同じ線へ戻る感覚が先にある。
食後、流し台で皿を洗いながら、帰省中の冷蔵庫の空き方を思い浮かべる。
戻ってきたら何を最初に買い足すかまで考えている自分に気づいて、手元のスポンジを少し強く握った。
陽介はその横で、明日の服をハンガーへ掛けている。
駅まで歩いても暑すぎず、向こうでも浮かない組み合わせを選んでいるようだが、二枚目のシャツまで出したところで止めた。
「二枚要るか」
「予備」
「向こうにある」
「あるか」
「ある」
「分かった」
それも戻される。
鞄の中身が減るたび、代わりに東京の部屋に置いていくものが少しずつ増えていく。
洗い終えた皿を拭いて棚へ戻し、最後に食卓のメモを折る。
帰省の準備として必要な確認はほぼ終わった。あとは朝、戸締まりと荷物を見て出るだけでいい。
部屋の中を見回すと、いつもの生活が少しだけ簡素になっている。
洗面所の歯ブラシも、玄関の鍵も、明日には一度この場から離れる。それでも、不思議と切れる感じはしない。
東京の生活を一度たたんで、地元へ戻る。
実家は別で、向こうでの時間の使い方も同じではない。それでも、明日の移動の先にある二人の動線だけは、もう当然みたいにそのまま続いていた。
登場人物をここでまとめておく
鳴上悠(T大に入学した大学二年生。必要最低限のみパッキングする)
花村陽介(M大に入学した大学二年生。帰省荷物増やしがち)
次回もよろしくお願いします