二人の食卓、二人の空   作:erupon

51 / 71
こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。

ここから最終年次!どうなっちゃうのー?!


4期生
1


 四月に入って、朝の明るさが少し変わった。

 冬の名残はまだあるが、カーテン越しの光はもう春のものだった。

 

 鳴上は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。

 時計を見てから布団を抜け出し、隣へ視線を落とす。

 

 陽介はまだ眠っていた。

 昨夜は机に向かったまま、説明会の資料と企業サイトを何度も見直していた。

 途中で集中が切れかけていたので、切り上げさせたのは日付が変わる少し前だった。

 それでも、春休み中より寝つきはましになっている。

 エントリーの締切が見え始め、説明会の日程が固まり始めると、曖昧な不安は少し形を持つ。

 面倒は増えるが、手をつける順番は決めやすくなる。

 陽介はそういう段階に入ると、かえって動きやすい。

 外向きの顔を使う仕事に向いていることを、本人ももう分かっていた。

 

 鳴上は布団の端を軽く整え、窓際へ向かった。

 カーテンを半分だけ開けると、朝の冷たい空気が薄く入り込む。

 起こしすぎない程度の明るさだった。

 そのまま台所へ移動し、湯を沸かして炊飯器を開ける。

 冷蔵庫には、昨夜のうちに切っておいた野菜が入っていた。

 忙しい時期ほど朝に手間を残さない方がいいので、四年に入る少し前から段取りを組み替えている。

 講義中心だった時間割は、もう前ほど生活の骨ではない。

 鳴上の方は研究室と卒研が一日の軸に入り、陽介の方は説明会と就活関連の予定がそこへ割り込んでくる。

 大学へ行くのに、大学の用事だけで済まない日が増えた。

 四年とはそういうものなのだと、予定表の埋まり方が先に教えてくる。

 

 味噌汁に火をかけ、卵を焼く。

 隣のコンロでは弁当用の残り物を軽く温め直す。

 弁当箱は二つとも出してある。

 陽介の昼は外で買う時間が読めず、鳴上の方も研究室に入ると食事の時間が曖昧になることがあった。

 食べるものを先に確保しておけば、その分だけ一日が崩れにくい。

 鳴上にとって感情の処理とは、だいたいそういう形を取る。

 

 今日の予定も昨夜のうちに一度確認してあった。

 陽介は午前に大学へ出て、そのあと都内で企業説明会に入る。

 鳴上は朝から研究室へ顔を出し、午後は卒研の進捗確認だった。

 夕方までには図書館にも寄っておきたいので、帰宅はどちらも少し遅くなる。

 互いの予定を把握しておくのは、確認というより前提に近い。

 朝はそこからずれていないかを見るだけでいい。

 

 寝室の方で布団が擦れる音がした。

 少し遅れて、陽介の低い声が聞こえる。

 

「……もう起きてんのか」

「起きる時間だ」

「四年の朝、現実すぎるだろ」

 

 まだ眠気の残る声でそう言って、陽介が起き上がる。

 髪を掻き上げながら洗面所へ向かう足取りは重いが、寝不足で潰れているほどではない。

 

 鳴上はその間に皿を並べた。

 味噌汁、卵焼き、残り物のきんぴら、温め直した焼き魚。朝としては十分だった。

 テーブルの端には、今日使う書類を分けて置いてある。

 陽介の方には説明会の案内と受付票、鳴上の方には研究室へ持っていくファイルとノートをまとめた。

 

 洗面所の水音が止み、陽介が戻ってくる。

 椅子に座る前にテーブルの上を見て、少しだけ目を丸くした。

 

「今日の分、もう仕分けてる」

「受付票は上にした。会場の地図も入ってる」

「助かる。昨日の後半、オレもうだいぶ怪しかったし」

「知ってる」

 

 陽介が笑いながら椅子を引く。

 その顔に無理な明るさがないことを見て、鳴上は味噌汁の椀を置いた。

 忙しいときの陽介は、平気なふりをする方が早い。

 だから、食べる速さや物を見る目の動きで先に見る。

 

「今日、大学のあとそのまま説明会だっけ」

「うん。昼過ぎに神保町の方」

「上着は?」

「持ってく。午前からフルでスーツだとさすがに疲れるし」

「ネクタイは紺を出してある」

「さすがだなあ」

 

 陽介はそう言って、味噌汁を一口飲んだ。

 少し熱かったらしく、眉を寄せてから息を吐く。

 起き抜けの顔つきがだいぶ戻った。

 食欲もあるので、今日一日はある程度きちんと回せるはずだった。

 

「午前から行く。午後に進捗確認がある」

「もう完全に卒研モードだな」

「四年だからな」

 

 その返事は事実でしかないが、口にすると少しだけ重い。

 三年の終わりまでは、まだ一年あると思える場面が残っていた。

 四月に入った途端、その余白がなくなった。

 次の学年というより、卒業までの残り時間として一年が見える。

 陽介も同じことを感じているらしい。

 箸を持ったまま、少しだけ天井を見た。

 

「なんかさ。四年って、もっと先の話だと思ってたんだけどな」

「先じゃなくなっただけだ」

「分かってるけど、始まると早い」

「兆候は春休みから出てた」

「言い方が研究者なんだよ」

 

 陽介が笑う。

 その軽口の温度で、朝の空気が少し柔らかくなる。

 忙しさそのものを嫌がっているわけではない。

 半分は面倒で、半分は少し面白いのだと、ここ数日の様子で分かっていた。

 陽介は説明会から戻ると、疲れたと言いながら相手の話し方や場の空気を面白がっていた。

 鳴上の方も、研究室で自分の手元に寄ってくる課題を、嫌いではない。

 

 負荷は増えたが、まったく向いていないことをしているわけでもない。

 だから生活が崩れずに済んでいる部分もある。

 食事が半分ほど進んだところで、陽介のスマートフォンが小さく震えた。

 テーブルの端で画面が光り、陽介が箸を止める。

 

「また来た」

「どこだ」

「えーと、企業のメール。説明会の確認と、あとエントリー受付」

 

 陽介はスマートフォンを取って、画面を素早く見た。

 春休みの頃は通知が来るたびに面倒そうな顔をしていたが、今は優先順位をつける手つきが少し早い。

 

「大学からの連絡じゃないなら、今は後でいい」

「了解。あとでまとめて見る」

 

 そう返しつつ、陽介は通知一覧を軽く流した。

 必要なものとそうでないものを、一応その場で仕分けているらしい。

 

 その様子を見ながら、鳴上も自分のスマートフォンを取った。

 研究室からの連絡が一件、図書館からの返却期限通知が一件、その下に雅也の名前がある。

 叔父からのメールはたまに来る。

 用があるのかないのか分からない短文ばかりで、だいたい素っ気ない。

 

 件名もなく、本文は一行だけだった。

 進級おめでとう。死ぬなよ。

 

 鳴上は数秒だけ画面を見た。

 雅也らしいと言えば、それ以上ない文面だった。

 

「何、そっちも来てた?」

 陽介が覗き込むように聞く。

 

「叔父から」

「雅也さん?」

「進級おめでとう。死ぬなよ、だそうだ」

 

 陽介が吹き出しかけて、慌てて口元を押さえる。

 味噌汁を飲んでいる最中でなくてよかったと、鳴上は思った。

 

「ひでえ。祝い方が雑」

「いつもこんな感じだ」

「たまに来るけど、だいたい要件だけだもんな」

「今回は要件があるのかも怪しい」

「生存確認じゃね?」

 

 陽介が肩を揺らして笑う。

 その反応で場が少し軽くなったので、鳴上も画面を閉じた。

 

 雅也のメールは昔から、妙に短い。

 それでも来るときは来るので、完全にどうでもいいわけではないのだろうと分かる。

 細かい説明をしない代わりに、切るところだけ切らずにいる。

 その辺りは鳴上にも理解しやすかった。

 

「返すの?」

 陽介が聞く。

 

「後でいい」

「なんて?」

「死なないようにする、で十分だろ」

「それ送ったら、たぶん“よろしい”だけ返ってくるぞ」

「あり得る」

 

 二人でそんなことを言い合いながら、残りの朝食を片づけていく。

 こういう無駄話ができる程度には、朝の時間にまだ余裕があった。

 

 食べ終えると、陽介が食器を流しへ運んだ。

 鳴上は弁当箱の蓋を閉め、保冷バッグへ二つ並べて入れる。

 台所の動線は、もうほとんどぶつからない。

 前に出るべき場所と引くべき場所を、互いに覚えている。

 以前なら忙しい朝はどこかで詰まった。

 今は、忙しい朝ほど手順が先に決まっている。

 

「ハンカチ」

「入れた」

「学生証」

「財布のとこ」

「受付票」

「ファイルの一番上」

「昼」

「持った」

 

 短い確認だけで足りる。

 繰り返してきた生活は、それだけでかなりの部分が回るようになっていた。

 陽介が鞄を肩に掛け、玄関へ向かう前にふと立ち止まった。

 何かを言うか迷う時の癖で、指先がファイルの端を軽く叩く。

 

「卒業したあとさ」

 陽介が言う。

「こういう感じ、普通に続けられたらいいんだけどな」

 

 鳴上は鍵を取ってから、そのまま陽介を見た。

 朝の会話としては少し大きいが、四月に入ってからは珍しくない話題だった。

 

「続ける前提で考えてる」

「……うん」

「変わるところはある。でも、切らない」

 

 陽介が一瞬だけ黙る。

 それから、困ったように笑った。

 

「朝からそういうこと言うの、効くんだけど」

「必要だから言った」

「はいはい。じゃあ覚えとく」

 

 それで十分だった。

 言葉を増やすより、いつも通りに外へ出る方が、この会話には合っている。

 

 玄関を開けると、春先の空気が少しだけ冷たかった。

 通りには新しいスーツ姿の学生や、新社会人らしい集団が混じって歩いている。

 始まりの季節らしい景色だった。

 だが鳴上たちにとって四月は、ただ始まるだけの月ではない。

 今年で終わる大学生活の、その最初の区切りだった。

 来年の春にはもう、学生としてここを歩いていない可能性の方が高い。

 

 陽介が隣でネクタイの結び目を指で直す。

 大学へ向かう顔と、その先で説明会へ向かう顔を、もう切り替え始めていた。

 鳴上は歩幅を合わせた。

 今日の予定、昼の弁当、帰宅時間、連絡の有無。確認すべきことはもう大体済んでいる。

 

 生活は崩れていない。

 忙しいからこそ、崩れないように先に整えてある。

 駅までの道を歩きながら、鳴上は鞄の重さを確かめた。

 研究室のファイルも、図書館へ返す本も、去年までとは少し意味が違う。

 

 その先にあるのは次の長期休みではなく、卒業後の現実だった。

 就職先や進路の話が、もう仮置きのままでは済まない。

 

「夜、遅くなるなら連絡しろ」

 鳴上が言う。

 

「する。悠もな」

「分かってる」

「飯は?」

「どっちが先でも食う」

「了解」

 

 陽介がそう返して、少しだけ笑った。

 その横顔を見て、鳴上は歩く速さを変えなかった。

 

 四年生は、もう始まっている。

 忙しさは確実に増えていくはずだが、今のところ生活はまだ、きちんと回っていた。

 

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大在学中大学三年生)
花村陽介(M大在学中大学三年生)

今回から4期生です。ここまでまだペルソナでそうじゃないのは……
まあ……しかたない

次回もよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。