二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。




 八月の陽射しは、昼を過ぎても落ちなかった。

 鳴上は陽介と並んで商店街の通りを歩きながら、地面に溜まった熱の重さを靴裏で拾っていた。

 八十稲羽へ戻って二日目になる。

 昨日の夜から残っている花村家の硬さは、朝になっても薄れていなかった。

 

 今日は特捜隊の面々と顔を合わせることになっている。

 場所は昔のように気軽に集まれるが、話す内容まで軽くなるわけではない。

 鳴上は待ち合わせへ向かう道すがら、花村家で増えた確認の数を頭の中で並べていた。

 帰宅時間、行き先、連絡の有無。

 あれはただの親の小言ではない。

「昨日の空気、まだ引っかかってる?」

 隣で陽介が聞いた。

「引っかかってる」

「だよな。オレもさすがにちょっと変だと思った」

「だから今日、外側の話も聞く」

「うん」

 陽介は短く頷いた。

 軽口に逃がすことはできるが、もう完全には流せないらしい。

 地元に戻ったからこそ、家の中の異様さがかえって目立つのだろうと鳴上は思った。

 

 待ち合わせ場所には、里中が最初に来ていた。

 手を上げる仕草は昔と変わらないが、立ち方に無駄が少ない。

 少し遅れて天城、完二、直斗が揃い、最後にクマが駆け込むように現れる。

 顔ぶれが並んだ瞬間だけ、昔と同じ空気が少し戻る。

 だが、それは長くは続かなかった。

「久しぶり」

 里中が言う。

「って言っても、そんなに呑気な集まりでもないんだけど」

「だろうな」

 鳴上が返す。

「花村先輩んち、昨日からなんか変だったろ」

 完二がいきなり言った。

「顔見りゃ分かる」

「おい、いきなりそこ?」

 陽介が苦笑する。

「いや、まあ、変だったけど」

 天城が小さく息を吐いた。

「やっぱりそう見えるのね」

 その言い方に、家の中だけで済む話ではないことがもう含まれている。

 鳴上は全員の顔を順に見た。

 懐かしさはある。

 だが今日は、それを確かめるために集まったわけではない。

 店に近すぎず、地元の空気が切れない場所に移って腰を落ち着ける。

 飲み物が置かれ、最初の数分だけ東京の話や大学の近況が交わされた。

 陽介の就活がかなり順調であること、鳴上の進路も見えてきていること。

 その話題には皆ちゃんと反応したが、すぐに本題へ戻る。

 

「先に言いますが、」

 直斗が口を開いた。

「今の八十稲羽は、表面だけ見ればまだ静かです。ですが、不自然な動きがかなり増えています」

 直斗の言い方は落ち着いていた。

 情報を整理して話す時の癖は、前より磨かれている。

 鳴上は黙って続きを待った。

「最近、ジュネスの周辺に見慣れない連中がうろついてるの」

 里中が言う。

「露骨に何かやるっていうより、様子見してる感じなんだけど、地元の人からしたらもう十分いやなのよ」

「ただの余所者って空気じゃねえんだよな」

 完二が続ける。

「歩き方も、見てる場所も、ちょっと荒っぽい。ヤクザっていうか、ああいう手合いに近い」

 陽介の表情が変わった。

 話の輪郭が急に現実味を持ったのだろう。

 鳴上はその横顔を一度だけ見て、すぐに視線を戻した。

「ジュネスを狙ってる、って見ていいのか」

 鳴上が聞く。

「そこまでは断定しきれないけど」

 天城が言う。

「少なくとも、あのあたりを中心に動いているのは確かね。旅館の方にも、最近ちょっと変な噂は入ってくるの」

「どんな」

「土地のこととか、先の見込みとか、そういう聞き方をする人がいるみたい」

 言葉だけなら曖昧だ。

 だが、地元の空気に根を張っている人間ほど、その曖昧さの嫌さを知っている。

 天城の声には、それが出ていた。

 

「周りのおばちゃんたちも、かなり嫌がってるクマ」

 クマが身を乗り出した。

「クマ、バイトしながらいっぱいお話きいてるけど、あの人たち、ぜんぜん地元になじもうとしてないんだもん。見られ方がもうへんなの」

 クマは普通に話しながらも、最後だけ少し語尾を丸めた。

 生活圏の雑談から拾った情報の方が、時に芯をつく。

 鳴上はクマの言葉をそのまま受け取る。

「嫌われてるから、すぐには入り込めないと思うクマ。おばちゃんたち、ほんとにああいうの嫌いだし」

「それは分かる」

 里中が頷いた。

「実際、顔出しても歓迎されてないし、周りも警戒してる。だから今のところは、あたしたちも間に入ればまだ抑えられるのよ」

 里中はそう言って、指先でグラスの縁をなぞった。

 地元の人間関係の中で立ち回るのは、里中がいちばんうまい。

 強く押さえ込むのではなく、嫌な空気を広げないように先に動く。

 あの連中と住民側を真正面からぶつけないことが、今の防波堤なのだと鳴上には分かった。

「誰かが騒ぎ出す前に、別の話題にずらしたり」

 里中が言う。

「妙な噂が広がりすぎないようにしたりね。地味だけど、今はそれが効いてる」

「旅館でも同じよ」

 天城が続ける。

「直接関係ない人まで不安になりすぎないようにしてるの。そうしないと、町全体の空気がすぐ変わるから」

 

 特捜隊の守りは、昔のような戦いではない。

 地元に根ざした位置から、住民感情を持ちこたえさせている。

 目立たないが、今は何より重要な実働だった。

 

「ただ」

 直斗が静かに言った。

「これは長く続けられるやり方ではありません」

 その言葉で、場の空気が少し沈む。

 鳴上も同じことを考えていた。

 人間関係と信頼で持ちこたえさせるやり方は、均衡が保たれている間しか機能しない。

 

「クマも、なんかへんな感じがするクマ」

 クマが少し声を落とした。

「みんな嫌ってるから、今はまだいいの。でも、ずっとはもたないかもしれないっていうか……うまく言えないけど、へんな空気が残るの」

 クマは生活感のある言葉でしか話さない。

 だからこそ、その不安は生っぽかった。

 バイト先で交わされる雑談や、買い物に来るおばちゃんたちの愚痴の中に、もう町の緊張が混じっている。

 

「でさ」

 里中が、少し言いにくそうに花村を見た。

「花村、知ってる? ジュネスが今、地上げの噂立ってるんだけど」

 その一言で、陽介の表情が止まった。

 家の中で感じていた違和感が、初めて外側の言葉になる。

 自分の家の問題が、もう地元の噂として流れている。

 その現実を、陽介はたぶん今ここで初めて正面から受け取った。

「……地上げ?」

 陽介が聞き返す。

「そう」

 完二が言う。

「露骨に言やあ、そういう話だ。まだ表立って騒ぎになってるわけじゃねえけど、知らねえ連中がうろついてりゃ、みんなそう見る」

「しかも、ただの噂で済ませるには連中の動きが嫌なんです」

 直斗が補う。

「見るべき場所を見ている。脅しか、下調べか、その両方かは分かりませんが、目的なしに歩いている感じではありません」

 陽介はすぐに返事をしなかった。

 店のことが、家の中だけで止まっていなかった。

 その事実だけで十分重いのだと、鳴上には分かった。

「親父、そこまで言ってなかった」

 ようやく陽介が言う。

「店のこと、なんかあるっぽいのは分かったけど」

「陽一おじさんが全部言ってないのは、たぶん理由がある」

 鳴上が言う。

 陽介は小さく眉を寄せた。

「だろうな……」

 そこから先の言葉は続かなかった。

 

 鳴上は会話の断片を頭の中で並べ直す。

 花村家の中の確認。

 陽一とユリ子の張りつめ方。

 ジュネス周辺の怪しい連中。

 地上げの噂。

 住民たちの不安と嫌悪。

 

「正直、今のところはまだ持ってる」

 里中が言う。

「町の側も、そんな簡単に好き勝手させる感じじゃないし」

「おばちゃんたち、ほんと強いクマ」

 クマが頷く。

「変なの来たら、ぜったい顔に出るもん」

「でも、それに甘えていい段階でもない」

 天城が静かに言う。

「みんな疲れてしまうもの。嫌な空気って、長く続くとそれだけで削られるから」

 鳴上は短く息をついた。

 花村家だけの問題ではない。

 もう八十稲羽の現実と接続している。

 しかも、まだ大きく表面化していないからこそ、じわじわ町を削っている。

「今の均衡は、放っておいて保たれるものではありません」

 直斗が言った。

「だから、知らないままでいるのがいちばん危うい」

 陽介はしばらく黙っていた。

 それから、小さく息を吐く。

「家の中だけの話じゃなかったんだな」

 誰に向けたものでもない声だった。

 店のことがもう外で噂になっている。

 その事実だけで十分重かった。

「だから呼んだんだよ」

 里中が言う。

「知らないままで動く方が危ないし」

 鳴上は短く頷いた。

 特捜隊がしているのは、情報を渡すことだけではない。

 地元側が今どこまで支えているか、その限界がどこにあるかまで共有している。

 それも守りの一つだった。

 話が一段落したあと、昔の呼吸に近い軽い言葉が少しだけ戻る。

 クマがバイト先で余計なものを食べさせられた話をして、巽が笑い、里中が呆れる。

 だが、その笑いも長くは続かない。

 今の八十稲羽の空気が、もうそれだけでは済まないからだ。

 

 帰り際、鳴上は町の方へ一度だけ視線を向けた。

 夏の光の中では、通りも店もまだ普通に見える。

 人も歩いているし、生活も回っている。

 それでも、その普通のあいだに誰かが立ち続けている。

 特捜隊も、クマも、地元の住民たちも、少しずつ持ちこたえさせているのだと分かる。

 陽介は隣で黙って歩いていた。

 家のことを外から言われた衝撃が、まだ抜けていないらしい。

 鳴上はその歩幅に合わせながら、次に向かう先を決める。

 

 外側の圧は見えた。

 だが、その均衡に甘えていい段階ではない。

 花村家の中で何を隠しているのか、もう踏み込まなければならなかった。

 八十稲羽の午後の熱気の中で、鳴上はその必要だけを静かに確かめていた。

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大在学中大学四年生)
花村陽介(M大在学中大学四年生)

里中千枝(地元で専門学校に通いつつ警察官を目指している)
天城雪子(実家の温泉旅館の跡継ぎ若女将)
巽完二(実家の染物屋を継いでいる)
白鐘直斗(東京と八十稲羽とを往復しながら探偵は続けている)
クマ(相変わらずジュネスのバイトリーダーではあるが、花村家は出てテレビの世界から出勤しているらしい)

なけなしのペルソナ4ベースであることがわかる回なのにうまいこと千枝ちゃんとか雪子とか動かせなくて申し訳ねぇという気持ち。りせちーはタレント活動が多忙で来れませんでした。無念。

次回もよろしくお願いします。
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