二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。


15

 顕現の余熱が、まだ皮膚の裏に残っていた。

 鳴上は一度だけ陽介を見る。立っている。視線も落ちていない。呼吸は荒いが、もう崩れる位置ではなかった。

 

 それを確かめてから、鳴上は正面へ顔を上げた。

 フェンスの外、霧と白い光の境目に、女神じみた影が浮かんでいる。ジュネスの看板を踏み台にして、屋上そのものへ根を張っていた。

 見上げる形は、たしかに似ていた。

 八十稲羽の霧の奥で相対した、あのイザナミの輪郭をなぞっている。だが近いのは形だけで、圧の質が決定的に違った。

 重さが足りなかった。

 見上げた瞬間に魂の底まで押し込まれるような、あの深さがない。代わりにあるのは、無理に継ぎ合わせた像の軽さだった。

 看板の支柱、フェンスの影、床を這う白い膜。

 それらが光の糸みたいにつながり、あれを持ち上げている。ひとつの存在というより、術式の中心に立てられた構造物に近かった。

 

 壊せる、と鳴上は判断する。

 本物ではない。陽介の見た像と誰かの執念が、この場へ無理やり固めた形代だ。

 

 隣で陽介が口の端を上げた。

「いけるか、スサノオ」

 風が返事より先に巻いた。

 陽介の背後でスサノオが肩を鳴らすように身を起こし、口元に獰猛な笑みを刻む。

『誰に言ってんだ、陽介。少し見ないうちに呆けたか』

 言いながら、スサノオの周囲へ風が集まる。

 ただ荒れるだけではない。渦はすぐに芯を持ち、屋上を舐めていた霧まで巻き込んで、一点へ圧を寄せていった。

 陽介が一歩だけ前へ出る。

 踏み込みは浅い。決めにいく角度ではなく、射線と反応を見るための距離の取り方だった。

「じゃ、まずは小手調べ」

 軽さのない声で言って、陽介が手を払う。

 スサノオの腕から解き放たれた疾風が、鋭く絞られたまま一直線に駆け上がった。

 ガルダイン。

 轟音より先に風圧が屋上を叩き、フェンスが軋む。看板の上で白い像の裾がめくれ、次の瞬間、中心から大きくひずんだ。

 霧と光がばらける。

 女神めいた輪郭が一瞬だけ裂け、内側に黒い空洞のようなものが覗いた。だが崩れ切らない。

 風の刃は確かに通っていた。

 それでも像は、裂けたところから白いものを滲ませ、傷口を縫うみたいに輪郭を戻していく。

 反応は鈍くない。

 ただの幻ではなく、受けて、きしみ、なお立て直すだけの厚みがある。

 陽介が眉を寄せた。

「なかなか……おつよい……」

 引いた声だったが、足は止まらない。

 陽介はすぐに視線を走らせ、裂けた位置と戻り方を追っている。効かないと切り捨てず、どこが硬いかを先に読んでいた。

 

 鳴上も同じ箇所を見る。

 表面は硬いが、均一ではない。風を受けて遅れた場所と、すぐ塞がった場所がある。

 看板寄りの下半身は重い。

 逆に、胸元から肩にかけては像の形を優先していて、支えにわずかな歪みがある。

 崩せないわけではなかった。

 通る角度と火力があれば割れる。問題は、普通に撃てば屋上ごと持っていくことだった。

 

 鳴上は息を整えながら、像から目を離さない。

 次に入れるべき一撃の輪郭だけを先に組む。威力は要る。そのままでは散る。なら、通し方を決める必要があった。

 隣で陽介が低く言う。

「硬ぇな。でも、無理ってほどじゃねえ」

「ああ」

 短く返しながら、鳴上は足場と距離を測る。

 先に探りが入ったことで、撃つべき場所も、外せない条件も見え始めていた。

 

 白い像が、ゆっくりとこちらを見下ろす。

 女神の顔を真似た面が霧の奥でわずかに笑ったが、その笑みすら貼りついた仮面みたいに薄かった。

 鳴上は指先に力を入れ直す。

 相手が本物でないなら、遠慮する理由はない。壊すための順番だけを間違えなければ、それで足りる。

 

 陽介の撃ったガルダインが裂いた箇所を、鳴上は見続けた。

 通っている。ただし薄く削るだけでは足りない。形を支える線ごと焼き切るだけの量が要る。

 問題は、量をそのまま通せば周囲も消し飛ぶことだった。

 看板の上に乗っている以上、外せば足場ごと崩れる。屋上も、陽介も、巻き込みかねない。

 それでも撃たない理由にはならなかった。

 裂けた部分は戻りきっていない。今なら入る。立て直される前に、もっと深く割る必要があった。

 

 鳴上はイザナギへ一度だけ視線を向ける。

「ルシフェル」

『承知した』

 低い声の直後、イザナギの背後で空気が変わる。

 雷を帯びた武神の輪郭へ、さらに別の威容が重なっていく。

 光を掲げるものの名を持つ、大天使。

 三対の荘厳な翼が、夜でも霧でもない光をはらみながら、イザナギの身に静かに降りた。

 稲妻の輪郭に、天上的な威圧が差し込まれる。

 相反するはずのものが無理なく重なり、いま必要な火力の形だけを明確にしていった。

 

 鳴上は目を細める。

 準備は足りた。あとは通すだけだと判断して、偽物のイザナミへ視線を戻す。

 白い像はなお、看板の上からこちらを見下ろしていた。

 神に似せた顔の奥にある軽さを見誤らなければ、壊せるだけの歪みがまだ残っている。

 鳴上は一歩踏み出す。

 陽介との距離を横目で測り、巻き込みの中心から半歩外したうえで、照準だけを像の胸元へ固定した。

 

 それでも近い。

 安全圏はない。それでも、いま外すほうが危険だった。

「メギドラオン」

 言葉と同時に、空間が軋んだ。

 解き放たれた力は光ではなく、圧そのものに近かった。熱と衝撃と破壊の意思だけが、一直線に屋上を貫いた。

 着弾の瞬間、世界が白く跳ねる。

 看板の上の形代が大きくのけぞり、その胸から腹にかけて、まとめて抉られた。

 効いた、と鳴上は即座に読む。

 表面だけではない。陽介の風がこじ開けた裂け目の奥へ、今度は確かに深く届いている。

 だが、届きすぎた。

 爆ぜた圧が周囲へ散り、看板の鉄骨が悲鳴を上げる。フェンスが外側へひしゃげ、床のタイルがまとめて浮き上がった。

 設置されたままだったフードコートの机と椅子が、遅れて宙へ巻き上がる。

 脚が折れ、天板が砕け、風ではなく衝撃で叩き壊されたみたいに屋上を跳ね回った。

 熱と破片が一気に押し寄せる。

 鳴上は腕で顔をかばいながら足を踏み込み、吹き飛ばされる方向だけは抑える。

 

 隣で陽介が爆風に耐えつつ叫んだ。

「おま、それどうにかなんねーの!」

 鳴上は思わず眉を寄せる。

「できたらやってる!」

 返しながらも、目は像から外さない。

 爆炎の向こうで白い輪郭が大きくひずみ、今度こそ崩れかけている。

 胸から腹にかけては、ほぼ裂断に近い。

 だが首と肩、看板側へ食い込んだ下半身がまだ残り、霧と光の糸がそれを無理やり繋ぎ止めていた。

 完全には落ちない。

 火力は足りているのに、散っている。必要なだけ壊しているはずなのに、余分なものまでまとめて吹き飛ばしていた。

 

 屋上の床が、遅れて大きく鳴った。

 爆圧に耐えきれなかった箇所がひび割れ、ジュネスの舞台そのものが術式と一緒に軋んでいる。

 このまま同じ出力を重ねれば、先に足場がもたない。

 形代を壊す前に屋上ごと抜ける。そうなれば、勝っても意味が薄い。

 鳴上は息を整え、裂けた像の中心を見る。

 足りないのは威力ではなく、その威力を逃がさず刺し込む制御だった。

 

 横で陽介が低く息を吐くのが聞こえた。

 鳴上はそちらを見ず、ただ次の一撃の形だけを頭の中で組み直していった。

 裂けかけた白い像が、看板の上でゆらいだ。

 次の瞬間、女神を真似た腕がわずかに持ち上がり、屋上全体へ鋭すぎる風圧が叩きつけられる。

 来る、と鳴上は踏み込んだ。

 ただの突風ではない。刃の幅を持った疾風が、最初から切り裂く前提でこちらへ伸びていた。

 かまいたちが床を走る。

 割れたタイルの縁がさらに削れ、転がっていた椅子の脚が途中から断ち切られ、机の天板が紙みたいに裂けて跳ねた。

 フェンスの根元で火花が散る。

 さっき吹き上がった破片までまとめて刻みながら、風の刃が鳴上と陽介の立つ位置を挟み込むように交差した。

 鳴上は半歩ずれて身を切る。

 陽介も同時に位置を外した。互いに背中を預けるまではしないが、巻き込みの線だけは自然に避け合っていた。

 切っ先のような風が頬をかすめる。

 それでも深くは入ってこない。鳴上の横で陽介が肩をすくめる気配がして、その理由がすぐに分かった。

 霧と土埃がもうもうと巻き上がる。

 視界が完全に白く潰れ、床を叩く破片の音だけがしばらく遅れて降り続いた。

 やがて、それが薄くなる。

 煙る屋上の中で、鳴上と陽介はほとんどそのままの姿勢で立っていた。

 鳴上は横目で陽介を見る。

 

 陽介は乱れた前髪を軽く払うだけで、さっきの疾風を気にした様子もなく、むしろ口元に少しだけ笑みを戻していた。

「そりゃそうか」

 陽介が短く息を吐く。

「オレ、疾風だもんな」

 言うなり、陽介の視線が鋭くなる。

 軽口を戻したようでいて、その目はもう次の組み立てへ切り替わっていた。

 スサノオが背後で低く笑う。

 風をまとったシャドウが、楽しむように肩を回しながら陽介を見下ろしている。

「やれそ?」

『陽介の思うがままだ』

 返事と同時に、風の質が変わった。

 荒れ狂うための疾風ではない。鳴上の周囲を薄くなぞり、出力の流れそのものを探るような細い風が走る。

 

 鳴上は眉を寄せる。

 陽介が次に撃とうとしていないことだけは、すぐに分かった。視線が敵ではなく、自分の出力へ向いている。

 イザナギの足元に、さっきの残光がまだ散っている。

 メギドラオンの余熱、拡散した圧、逃げきれず屋上に残った熱量。それらを陽介の風が一つずつ拾っていた。

 集めている、と鳴上は読む。

 ただし力を増しているわけではない。散ったものを戻し、暴れる向きを揃え、通す形へ編み直していた。

 風が、糸みたいに細く伸びる。

 熱を包み、衝撃を撚り、圧の逃げ道を塞ぎながら、見えないまま一本の流れを作っていく。

 鳴上は息を止めかけて、すぐに緩めた。

 ここで抗えば崩れる。陽介は支援しているのではなく、鳴上の火力そのものに直接手を入れていた。

 

 イザナギがわずかに姿勢を沈める。

 鳴上がまだ命じていないのに、次の一撃に合わせるための構えへ自然に移った。

 陽介も前へ出ない。

 半歩斜め後ろから、鳴上と形代をつなぐ線だけを空けた位置に立ち、風の層を何枚も重ねていく。

 鳴上は両手に力を入れ直した。

 自分がやるべきことは単純だった。撃つことだけに集中し、余分な広がりを出さないよう、最初の向きをきっちり渡す。

 その先は、陽介が通す。

 言葉にしなくても、それで噛み合うと分かった。

 鳴上が一度だけ横を見る。

 陽介は視線を返さず、ただ顎をわずかに引いて、それで十分だという顔をしていた。

 

 白い像が再びこちらを見下ろす。

 胸を抉られた部分を霧で繋ぎながらも、今度は明らかに支えが不安定になっている。

 鳴上はそこへ照準を合わせる。

 さっきまでは胸から腹にかけて広く壊していたのに、今は一点だけが異様にはっきり見えた。

 通すべき芯がある。

 看板、霧、床、光の線、それら全部が集まり、無理やり像を保っている中心だ。

 

 陽介の風が、その一点へ向かって細く絞られる。

 周囲の空気までそこへ引かれ、屋上に散っていた熱の名残が、まるで導かれるように中心へ寄っていった。

 広く壊す力が、形を変える。

 まだ撃っていないのに、鳴上は次の出力がさっきと別物になると分かった。拡散ではなく、穿孔に近い。

 

 形代の表面が、先にひび割れる。

 風圧を受けただけで、さっきまで保っていた白い輪郭が耐えきれず、胸元から肩へ細い亀裂を走らせた。

 火力が足りないのではなかった。

 通し方さえ合えば、この像は持たない。

 鳴上はそこでようやく確信に近いものを持つ。

 壊せる。今度は周囲ではなく、あれだけを落とせる。

 イザナギの周囲で、光が静かに収束する。

 陽介の風がその輪郭をさらに絞り込み、鳴上は次の一撃の入り口が完全に整ったのを感じた。

 

 あとは合わせるだけだった。

 鳴上は白い像の中心から目を離さず、呼吸をひとつだけ、陽介の風に重ねた。

 鳴上は意識の照準を、白い像の中心へ据えた。

 陽介の風がそこへ道を通している。今なら散らない。そう判断した瞬間、余計な迷いが落ちた。

 

「明けの明星!」

 呼んだ声に応じて、イザナギの全身が光る。

 背に宿した三対の翼が一斉に開き、その中心から、万物を焼き切るための光が押し出された。

 ただ放つだけなら、また屋上ごと壊す。

 そうなるはずの出力を、陽介の風が横から掴む。暴れる熱、膨らむ圧、広がろうとする衝撃が、見えない糸で縫い止められていく。

「まじかよ、遠慮なしか!」

 叫びながらも、陽介は手を引かない。

 風の層が何重にも重なり、鳴上の魔力を受け止め、ねじれた流れを無理やり一本へ編み上げていった。

 陽介の喉から、短く掠れた声が漏れる。

 制御の負荷がそのまま体へ返っているのが分かったが、それでも風は切れない。

 光は、もはや爆発ではなかった。

 広く壊すための力が、細く鋭く変わっていく。看板も霧も屋上の床も巻き込まず、ただ一点だけを穿つ形へ収束した。

 鳴上はその変化に目を細めた。

 自分の出力なのに、いま初めて、壊したい場所だけを正確に壊せる感触になっていた。

 白い像の胸元に、光が刺さる。

 次の瞬間、今度こそ中心が抜けた。表面を削る音ではなく、内側で支えていた何かが砕ける手応えが、はっきり伝わった。

 本物の神を倒した感触ではなかった。

 そこにあったのは、あまりに不自然に積み上げられた情念と術式の塊を、芯から断ち切っただけの軽さだった。

 

 女神めいた顔が、遅れてひび割れる。

 肩、胸、腹へ亀裂が走り、その輪郭を繋いでいた白い膜が一斉に剥がれた。

 看板の上の圧が、まず消える。

 次いで、フェンスの外へ張りついていた霧の重みがほどけ、屋上を覆っていた異様な静電気めいた感触も途切れた。

 白い像が崩れる。

 砕けるというより、支えを失って形を保てなくなった。光の粒と黒いひずみが入り混じり、足場もないまま空中へ剥がれ落ちていく。

 同時に、舞台全体が軋んだ。

 屋上のスクリーンが激しく明滅し、モニターに残っていたノイズが線ごと引き剥がされるように消えていく。

 床の上を走っていた白い膜が逆流する。

 看板、支柱、フェンス、スクリーン、その全部をつないでいた術式の線が、中心を失って一斉に切れていった。

 ブツン、と鳴った気がした。

 耳で聞いたのではない。どこか遠くへ通っていた力の導管が、途中で千切れたような感触が鳴上の中を抜けた。

 

 返った、と鳴上は悟る。

 この場に力を流し込み続けていた誰かへ、逆に負荷が剥がれたまま叩き返された。現場側にも、遠隔側にも。

 だが、それを追う余裕はなかった。

 鳴上が真っ先に見たのは、崩れる光でも、壊れた看板でもなく、隣にいる陽介のほうだった。

「陽介」

 呼ぶと、陽介はすぐには返事をしない。

 肩が上下している。立ってはいるが、制御に力を使い切ったあとらしく、呼吸が浅く荒れていた。

 それでも意識は飛んでいない。

 数拍遅れて陽介が顔を上げ、焦点の合った目で鳴上を見る。

 その時点で、鳴上の中ではっきり分かった。

 さっきまで陽介の奥に残っていた、不自然な空洞へ吸われる気配が消えている。削られた重さは残っていても、引きずり込まれる力はもう止まっていた。

 壊したのは形代だけではない。

 陽介を器にしようとしていた流れそのものが、ここで切れたのだと鳴上は悟る。

 陽介が息をつきながら、手を下ろす。

 その指先に赤いものが見えて、鳴上はすぐに眉を寄せた。

 右手の指先が浅く切れていた。

 風で明けの明星を編み直したとき、初めての制御に負荷が噛み切れず、少しだけ手へ返ったらしかった。

 血は滲んでいるが、深くはない。

 それが逆に、陽介が最後まで切れずに踏みとどまった証拠にも見えた。

 

 鳴上は間を置かない。

「メシアライザー」

 

 イザナギの残した光が柔らかくほどける。

 今度の力は壊すためではなく、裂けた皮膚と擦り切れた筋を塞ぐ方向へ静かに流れた。

 陽介の指先の血が消える。

 風に削られた細かな傷も、爆圧で痛めたところも一通りは落ち着く。外から見える怪我は、それでほぼ消えた。

 

 だが、それで全部は戻らない。

 逆再生で削られたものまで、いまここで埋まるわけではなかった。陽介の呼吸にはまだ深い消耗が残っている。

 それでも、さっきよりは静かだった。

 心の奥で無理やり拘束されていた力が消えたせいか、削られた後の荒れ方そのものは、もうだいぶ凪いで見えた。

 

 陽介がようやく苦笑する。

「……助かった」

「ああ」

 短く返してから、鳴上は周囲を見る。

 屋上はひどい有様だった。机と椅子は壊れ、タイルは浮き、フェンスは歪み、看板の上には何も残っていない。

 スクリーンも沈黙している。

 さっきまで耳障りだったノイズは完全に止み、霧も薄れ、テレビ世界めいた異常な舞台の感じだけが急速に剥がれ落ちていた。

 静かすぎた。

 勝ったというより、無理やり止めた直後の現場が、そのまま息を潜めているような静けさだった。

 

 その中で、足の裏がやけに冷える。

 鳴上は視線を落として、そこで初めて気づく。

「そういや……靴」

 呟くと、陽介も下を見る。

 揃って無言になったあと、陽介が顔をしかめた。

「うわ、まじだ」

 二人とも靴を履いていなかった。

 大学生の日常からそのまま引きずり出されたせいで、持っているのはスマホくらいで、他はほとんど何もない。

 壊れた屋上に裸足で立っている現実が、妙に冷たく戻ってくる。

 事件は止まった。それでも、ここから先をどう片づけるのかは、何ひとつ見えていなかった。

 

 鳴上はもう一度、陽介の立ち方を見る。

 意識はある。立てる。呼吸も少しずつ整ってきている。まずはそこまで確認して、ようやく肩の力を抜いた。

 壊れた看板の向こうで、夜の気配だけが残る。

 屋上は静まり返り、異常が去ったあとの空白と、これから現実が追いついてくる気配だけが、そこに重く留まっていた。

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大在学中大学四年生。ふつーにメギドラオン撃つ程度の戦闘脳)
花村陽介(M大在学中大学四年生。周りの被害を見て運用を思いつく程度には地頭〇)

まあ偽物だったので……明けの明星で壊れる程度には張りぼてでしたわ

次回もよろしくお願いいたします。
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