二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。


17

 がたん、と金属の引っかかる音がした。

 屋上へ出るドアの向こうで、閉まりきらない何かを無理に押し開けるような音だった。

 鳴上と陽介は同時にそちらを向いた。

 その瞬間、まだ薄く残っていた気配が左右からすっと退く。

 イザナギも、陽介の背後に居残っていたスサノオも、声もなく消えた。

 さっきまで確かにそこにいたものが、人の気配に合わせて身を引いた。

 

 少し歪んだドアが、外へ押し出される。

 蝶番の悲鳴のあとに現れたのは、見慣れた背格好だった。

 

 鳴上雅也は屋上へ一歩出ると、まず足元を見た。

 次に折れたフェンス、捻れた支柱、砕けた床を順に眺める。

 その視線が爆心地のような自分たちの周囲まで来たところで、肩をすくめた。

「お前ら派手にやったなあ」

 呆れ半分の声だったが、冗談だけでもなかった。

 壊れた現場を見て、実際にそう言うしかない、という響きがあった。

 

 陽介が口を開くより先に、鳴上が言った。

「雅也さんが来たんだ?」

 口に出してから、自分でも少しだけ声が尖っているのが分かった。

 雅也はその問いに、すぐ鳴上へ視線を向けた。

 暗がりの中でも、その目だけは妙に静かに光を返す。

「何だ、俺じゃ不満か?」

 鳴上は一瞬だけ目を逸らした。

 胸の奥に沈んでいた緊張が、別の形で持ち上がってくる。

「そういうわけじゃ、ないけど」

 自分でも珍しい言い方だと思った。

 地元警察が来ると思っていたわけではない。

 この壊れ方を、稲羽署だけで処理できるとも思っていない。

 それでも、ほんの一瞬だけ、堂島の顔が頭をよぎっていた。

 堂島なら。

 八十稲羽で世話になったあの伯父なら。

 何もかも黙って見逃せるはずはなくても、少なくともこちらを人間として見てくれる。

 そんな甘い考えが、戦闘後の疲れの隙間に残っていたのかもしれない。

 

 だが、屋上へ出てきたのは堂島ではなかった。

 鳴上雅也。

 公安で、こちら側のことを知っている叔父だった。

 その時点で、これは地元の事件ではなくなる。

 口が少し尖ったままになっていたせいか、隣で陽介が固まる。

 次の瞬間、陽介の手が鳴上の腕を掴んだ。

「いや待って。今の何。叔父さん、何者なんだよ」

 

 消耗した声のままだったが、その分だけ本気で戸惑っているのが分かる。

 鳴上は答えず、雅也の方を見た。

 ここで自分が説明するより、本人に言わせた方が早い。

 雅也はそれを読んだように、小さく息を吐いた。

「花村陽介くんには初めて名乗るか」

 そう言ってから、彼は壊れた椅子の残骸をひとつ避ける。

 歩幅も声も乱れず、場違いなほど足取りが安定していた。

「……俺は警察庁警備局公安課にいる。ちなみに階級はこの前上がって、警視正になった」

 陽介は、言葉の意味を順に並べ直すような顔をした。

 理解より先に、分からない、がそのまま出ている。

「けい……しせい?」

「そこ引っかかるよな。まあそうだろうな」

 雅也は軽く笑ったが、空気を和らげるつもりは見えない。

 言うべきことを、必要な順に置いているだけだった。

「俺達は、ジュネス八十稲羽店を、ひいてはお前らのことを内偵していたんだぜ?」

 

 内偵。

 その語だけが、妙に乾いて耳へ残る。

 鳴上は隣の陽介が、腕を掴んだまま離していないことに気づいた。

 力は強くない。ただ、その手がまだ完全に落ち着いていない。

 

 そのとき、胸の奥の深いところで声がした。

『主、あの男は警戒したほうがいい。我を認識しているようだ』

 鳴上は思わず目を見開いた。

 視線がそのまま、雅也の輪郭をなぞる。

 ただの叔父として見ていた線が、そこで一度切れた。

 

 よく見れば、雅也の身体の外周に、薄い揺らぎが重なっている。

 夜気の歪みとも影とも違う。

 輪郭を保ちながら、定まらず、しかし消えもしない何かだった。

 人の姿へ、別の存在が半歩だけ重なっている。

 

『あれは、シャドウのように揺らいでいるが、ペルソナだ』

 イザナギの声は短く、断言する。

 

 鳴上は雅也を見たまま、ひとつ腑に落ちる感覚を得た。

 数年前、陽介へ向けていたあの視線。

 あのときは、ただ観察しているのだと思っていた。

 値踏みされているようで気に入らなかった記憶だけが残っている。

 だが今なら分かる。

 あれは、ただの大人の興味ではなかった。

 内偵対象として見ていた自分の隣に、もう一人いる。

 そのもう一人の奥にある気配まで、覗き込もうとしていた目だった。

 

 鳴上は無意識に、陽介の方を横目で見た。

 陽介はまだ状況を飲み込みきれていない顔で雅也を見ている。

 疲労は残っているが、意識はもう曇っていない。

 だからこそ、この場で聞かされる現実がそのまま刺さる。

「……じゃあ、最初から見てたのか」

 陽介が低く言う。責めるというより、確認に近い響きだった。

「見てた、というと語弊があるな」

 雅也は壊れたフェンスの先へ一度だけ目をやった。

 その癖に、周囲の状況を確認しながら話しているのが分かる。

「追ってたし、拾ってたし、繋げてもいた。お前らが思ってるより、ずっと前からだ」

 言葉は曖昧でも逃がし方は雑ではなく、詳細を出さないまま後戻りできない範囲だけを確定させるその手つきに、鳴上は身内の柔らかさより仕事の気配を見た。

「ジュネス八十稲羽店も、この件も、日下部家の花村家への接触も、全部このまま放っとける段階じゃない」

 雅也の視線が今度は陽介へ向く。

 次に自分へ戻る。

 二人を一続きの案件として見ている目だった。

「現場は処理が要る。話も通す先がある。消すものも残すものも、勝手には決まらない」

 その言い方で十分だった。

 何をどうするかを細かく聞かなくても、もう大学生二人の手では終わらないと分かる。

 助かったから解散、にはならない。

 生きて残ったぶんだけ、次の枠へ入れられる。

 

 陽介がようやく鳴上の腕を離した。その代わり、椅子の端を掴む。

 指先が少し白くなるのを、鳴上は見た。

「……もみ消す、とか、そういう話かよ」

「必要ならそうする」

 雅也の返事は早かった。躊躇も、言い淀みもない。

「お前らがここで見たもの、やったこと、そのまま表へ出して誰が拾える?」

 陽介は返事をしなかった。鳴上も口を開かなかった。

 答えがないからではなく、答えが決まりすぎているからだった。

 壊れた屋上の真ん中で、現実の側だけが先に段取りを持ち始める。

 異界がほどけたから終わったのではない。現実へ戻ったからこそ、次が始まるのだと鳴上は理解した。

 雅也は二人の沈黙を待たず、続けた。

「とりあえず、お前らはここで座ってる場合でもない」

 声は急かすようでいて、乱暴ではなかった。

 ただ、選べる時間が残っていないことだけを示していた。

「状況はもう、こっちの手で動かす」

 その一言に、鳴上は何も返せなかった。

 拒む材料も、保留する余地も、今は手元にない。

 隣で陽介が小さく息を呑む。

 二人とも同じところへ立たされたのが分かった。

 ここから先は、自分たちが歩いて戻る道ではない。

 もう、別の側から回収される流れへ入っている。

 

 雅也の言葉が落ちたあと、屋上の空気は少しだけ動いた。

 返事を待つ間とも違う、次の段取りがすでに外で進んでいる気配だった。

 ほどなくして、開け放たれたままのドアの向こうに人影が増える。

 先に入ってきたのは、雅也ほど肩の力が抜けていない男だった。

 年齢は上だが、動きは無駄がなく、目線だけで周囲を一度舐めている。

 鳴上と陽介の足元まで視線を落とすと、無言のまま紙袋を二つ差し出した。

「どうぞ。サイズは合うはずです」

 短くそれだけ言われて、鳴上は袋を受け取る。

 中を見ると、靴が入っていた。

 新品ではないが、すぐ履けるよう整えられている。

 陽介も隣で袋を開け、同じように黙った。

 座ったまま履いてみる。きつくも緩くもない。

 指先も踵も、最初から測っていたように収まった。

 隣で陽介がこちらを見る。

 鳴上も見返したが、言うことは同じだった。

「……合う」

「ぴったりなんだけど」

 その事実だけで十分だった。

 自分たちは今夜だけ拾われたのではなく、ここへ来る前から必要なものを必要な寸法で揃えられる程度には把握されていた。靴を履く動作ひとつまで、回収の一部として用意されている。

 立ち上がると、床の冷たさがようやく途切れた。

 それで楽になったはずなのに、気分は逆に重くなる。

 裸足だったときより、社会の側へ戻された感じが強かった。

 

 雅也はそんな二人を見下ろす位置で立っていた。

 労わるでも急かすでもなく、もう説明を始める段階だという顔をしている。

 壊れたフェンスの向こうから吹く風が、彼のコートの裾だけを揺らした。

「再度いうが、この件は大きくなりすぎた」

 言い直しではなく、釘を打ち込む言い方だった。

 鳴上は黙って聞く。

 横で陽介の呼吸が一段だけ浅くなる。

「ここまで大規模になってしまうと、これから先は勝手に波及する。マスコミは嗅ぎつけるし、地元警察の捜査も当然入る。ニュースになっていた地上げの件も蒸し返しがあるだろうな」

 雅也はそこで一度視線を動かした。壊れた看板、折れた支柱、焼けた床。

 現場そのものが、説明しなくても規模を証明している。

「何より、この件で動いていた花村陽一氏にも捜査の手は行く。マスコミの興味も当然そっちにも向く」

 陽介の肩が、はっきりと強張った。

 鳴上は横目でそれを見たが、今は声をかけない。

 ここで中途半端に挟めば、雅也の言葉の形だけが崩れる。

 逆に、崩れたところから別の圧が入ると分かっていた。

「親父に、まで」

 陽介が低く言った。

 反射ではなく、最悪の筋道を確認する声だった。

「行くだろう。何もしなければ」

 雅也の答えは早い。

 その速度が、すでに対処の段取りを持っていることを逆に示していた。

「この場の異常も、そのままでは残らない。残せないし、残したところで誰も処理できない。だから、なかったことにする側が要る」

 鳴上はその言葉を聞いて、妙に納得した。

 理解しているから消せる。

 見えていないふりではなく、見えているものを表から剥がす手つきだ。

 雅也は最初から、その役目でここへ来ている。

「地上げの件も含めて、この一件を鎮静化させるには、もみ消しが必要だ」

 その単語は露骨だったが、飾る気がないぶん現実的だった。

 鳴上は反感より先に、切り捨てるものの順番を考えた。

 正しさを表へ出すことより、今守るべき人間がいる。

 花村家が崩れる形だけは避ける必要がある。

「俺ならそれができる」

 雅也は自分の力を誇るようには言わなかった。

 単に、できる手札が自分の側にあると告げただけだった。

 それが一番厄介だった。脅しなら反発しやすい。

 実務の提示は、反発より先に計算を強いる。

「進路の問題も、お前らの力の管理も、保護も、監督も、もう別々には扱えない」

 そこで鳴上はようやく、自分の中の線引きがはっきりするのを感じた。

 自分がどうなるかは後でいい。

 問題は、陽介と切り離される形で扱われることだった。

 もうひとつは、今ここで出た力の使い方を、一方的に決められること。

 譲れない軸はその二つに絞られていく。

「だが。……お前らが俺の下で働くなら、全部なかったことにできる。してやれる。」

 雅也はそこで初めて、選択肢らしい形を作った。

 だが声の置き方は、勧誘より回収措置に近い。

 就職の相談を装っていても、実際には事故後の収容先を告げている。

「……どうする?」

 その問いが屋上に落ちたとき、沈黙は短く済まなかった。

 風の音と、遠くで軋む金属音だけが間をつなぐ。

 鳴上は陽介を見た。陽介は前を向いたまま、唇の端だけを固くしている。

 その横顔には、状況を飲み込んだあとの苛立ちが出ていた。

 理解が浅いから怒っているのではない。

 理解してしまったから、怒り方が狭くなっている。

「……なんだよそれ、もう決まってんじゃねーか」

 吐き捨てるには疲れすぎていた。

 けれど、諦めだけでもなかった。

 逃げ道がほとんど残っていないと分かったうえで、それでも納得はしていない声だった。

 

 雅也は否定しなかった。

 肯定もしない。

 その沈黙自体が、答えに近かった。

 鳴上は頭の中で要るものと要らないものを分け始める。

 反射的に突っぱねても意味はない。感情を前に出せば、決めるのは向こうになる。なら先に、残せる条件だけを固める。

 ここまで来た以上、必要なのは巻き込まれないことではなく、巻き込まれるならどういう形にするかだった。

 切り離されないこと。

 力の扱いを勝手に定義されないこと。

 少なくともその二つだけは押さえる必要がある。

 

 雅也は返答を急かさなかった。

 だが待つ姿勢の中に、いつまでも保留できる余白はない。

 屋上の惨状も、靴の用意も、すでに次の導線が敷かれている証拠だった。

 選ぶというより、飲む条件を調整する段階に近い。

 鳴上は一度だけ深く息を吸った。

 隣で陽介の気配を確かめ、視線を雅也へ戻す。

 言うべきことの順番だけは、もう決まっていた。

 屋上を抜ける風が、折れたフェンスの端をかすかに鳴らした。

 雅也の返答を待つ間も、外ではもう次の段取りが動いている。

 その気配だけが、壊れた現場の静けさと噛み合わずに残っていた。

 

 鳴上は一度だけ陽介を見た。

 立っていられる。意識もはっきりしている。

 だが消耗が抜けたわけではない。

 ここで条件を誤れば、後から動けなくなるのは自分より陽介の方だ。

 進路そのものは、もう遅いと分かっていた。断って元の大学生活へ戻る道は潰れている。なら、どこまで切り取られるかではなく、何を残させるかだけを先に決めるべきだった。

 鳴上は視線を雅也へ戻した。

 相手は急かさない。

 その代わり、こちらが条件を選ぶ時間も長くは取らせない顔をしている。

「ひとつだけ」

 鳴上が口を開くと、陽介が隣でわずかに顔を上げた。

 雅也も何も挟まず、その先を待つ。

「陽介と一緒のところじゃなければ、この力は雅也さんたちを潰すために使う」

 言い切ったあとも、声は荒れていなかった。

 脅すつもりではない。

 条件を置いただけだった。

 ただ、その条件に後退がないことだけは、自分でも分かる言い方になった。

 陽介が息を止める気配が横で揺れた。

 驚いたのか、呆れたのかは見なくても分かりきらない。

 それでも鳴上は視線を動かさなかった。

 ここで陽介の反応を拾うより先に、雅也の受け取り方を見極める必要がある。

 

 雅也はすぐには答えなかった。

 折れた支柱の向こうで風が鳴り、屋上の明かりが一段だけ揺れる。

 その短い沈黙のあいだ、相手は冗談として流すかどうかを測っているようには見えなかった。

 現実に置ける条件かどうかを、そのまま秤に乗せている目だった。

「……お前さあ」

 最初の声は、半ば呆れた響きを持っていた。

 だが軽くはない。

 言われた内容の重さを、そのまま認めたうえで出る声だった。

「さっきのを見た感じ、お前らニコイチ運用が前提だろ」

 軽口めいて聞こえるが、茶化して流したのではなく、最初からその扱いを現実的に検討していたと分かる返し方だった。

「そこを今さら引き剥がして管理コスト増やすほど、こっちも暇じゃない」

 雅也はそう続ける。

「力の噛み合い方も見た。単独で別々に持たせるより、一単位で回したほうが早いし、何より安全だ」

 鳴上はその言葉を受ける。

 理屈はどうでもよかった。恋人だからでも、相棒だからでもなく、一緒でなければ成立しない。その条件だけが残れば足りる。

 陽介がようやく低く言う。

「……そこ、通るんだ」

「最初から切る気はあまりなかった」

 雅也はあっさり返した。

「今回の現場見て、まだ別建てで考えるほうが不自然だ」

 雅也が即答する。陽介は言い返しかけて、途中で黙った。

「ただし、こちらにも条件がある」

 雅也の声が少しだけ硬くなる。

「お前らは一緒に入れる。その代わり、管理も訓練も運用もまとめて乗る。勝手は減るし、自由な大学生の延長もここで終わりだ」

 鳴上は短く頷く。

 そこは最初から切り捨てるつもりでいた。戻れない生活を惜しむより、切断されない導線を確保するほうが先だった。

 力の扱いも所属も監督も保護も向こうの手で決まる流れは残る。だが陽介と別々に置かれないなら、まだ崩し方を考えられる。

 

 雅也はポケットから端末を取り出した。

 画面を見る時間も短く、すぐどこかへ繋ぐ。

 声は低いままだが、今度は完全に現場指揮の調子だった。

「会議室を抑えろ。あと、例の書類も準備な」

 返事は鳴上たちの位置からは聞こえない。

 だが、それで十分だった。

 次に連れて行かれる場所があり、そこへ出す書類まで用意されている。

 今この瞬間に決まった話ではない。

 もっと前から、この夜の先が敷かれていた。

 電話を切った雅也は、二人を順に見た。

 壊れた屋上の爆心地みたいな場所で、立ち尽くしたままの自分たちを。

 靴まで揃えられ、行き先まで押さえられた自分たちを。

「とりあえず、その条件で進める」

 許可を与える口調ではなかった。

 回収したものの置き場を確定させる、実務の言い方だった。

「ただし、ここから先はもっと現実的になる。分かってるな」

 鳴上は頷いた。

 陽介も少し遅れて、同じように首を動かす。

 もう大学生としての気楽な延長には戻れない。

 今夜壊れたのは屋上だけではなく、積み上げてきた生活の形そのものが別の枠へ押し込まれ始めていた。

 雅也がドアの方へ顎を振る。

「行くぞ」

 短い一言で足りた。

 もうここに留まる時間は終わっている。

 鳴上は隣の陽介を見た。

 歩けるかを問う代わりに、その立ち上がり方だけを見る。

 陽介は顔をしかめながらも、自分で体を起こした。

「どうせ見てたんなら、被害者をもう少し労ってくれてもなあ……」

 ブツブツいう言葉は、荒れたジュネスの屋上に溶けていく。

 それを確認してから、鳴上も動く。

 壊れた屋上を離れる足取りに、勝った直後の軽さはない。

 現場を出るのではなく、次の場所へ引き渡されに行く感覚だけがある。

 

 夜気の残る屋上から一歩外へ出た瞬間、異界の名残はさらに遠のく。

 代わりに、もう戻らない大学生活の切れ端だけが、靴底の下で静かに鳴った。

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大在学中大学四年生)
花村陽介(M大在学中大学四年生)

鳴上雅也(悠の叔父。警察庁警備局公安課特殊犯罪対策室に所属している。この前警視正に昇格したシゴデキ男)

Q:どうして警視正がこんなとこに自ら出てくるんです?
A:こんな強力な力をもつペルソナ使いをシャドウワーカーに渡す前に手駒にしないと(略
 しらんけど

こんだけ派手にやらかしたらもう逃げらんなかった回。書きたかったとこその2です。

次回もよろしくお願いいたします。
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