二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。





 同居の話が持ち上がってから数日後。

 鳴上は大学のオリエンテーリングを終え、いつものように真っ直ぐ家へ戻る代わりに、都内のホテルへ向かった。

 花村家がまだ東京に滞在しているうちに、一度きちんと話を詰める。

 それが必要だと判断したのは鳴上であり、陽一おじさんもユリ子おばさんもそれに同意した。

 

 陽介は電話口で最後まで不服そうな声をしていたが、来ないとは言わなかった。

 その時点で、少なくとも話し合いの場は成立していると見てよかった。

 鳴上はホテルのロビーを抜けながら、今日整理すべき論点を頭の中で辿る。

 期間、住む場所、費用、生活上の分担、通学経路、親への説明。

 どれも感情ではなく、生活の問題として切り分けるべき内容だった。

 

 案内されたラウンジの奥には、すでに花村家の三人が揃っていた。

 おじさんはソファの背に腕をかけ、おばさんはテーブルの上で手を重ねている。

 その向かいで陽介だけが、明らかに落ち着かない顔で窓の外を見ていた。

 鳴上に気づくと、陽介は一度だけ視線を上げて、すぐに逸らした。

 

「来たか、悠くん」

「お待たせしました」

「いや、まだ時間前だし大丈夫よ。陽介だけが先にそわそわしてて」

「してねえよ」

 

 おばさんの言葉に、陽介が即座に返す。

 反射的に返せるあたり、余裕がないわけではないのだろう。

 ただし、今から何を話されるかは十分に分かっている顔だった。

 鳴上はその様子を見てから席につき、置かれた水へ手を伸ばした。

 

 飲み物の注文を済ませてしばらくすると、場の空気が自然に整う。

 世間話を長く挟むような話題ではないと、全員が分かっていたのだろう。

 おじさんが一度だけ鳴上へ目を向け、軽く顎を引く。

 先に切り出していい、という意味に受け取ってよかった。

 

「この前の話の続きですが」

 

 鳴上がそう口を開くと、陽介が小さく肩を強張らせた。

 露骨すぎる反応だったが、そこに対して誰も何も言わなかった。

 おばさんは穏やかな表情のまま、鳴上の次の言葉を待っている。

 おじさんも、面白がる顔は抑えて、かなり真面目にこちらを見ていた。

 

「同居について、条件を整理しておいた方がいいと思います」

「もう前提が進んでるんだよなあ……」

「まだ決定ではない」

「でも決めるための顔してるだろ、お前」

 

 陽介の抗議はもっともだったが、否定まではしなかった。

 鳴上はそれを聞き流し、持ってきたメモをテーブルの端へ置く。

 別に紙に起こさなくても話せる内容ではあったが、形にした方が早い。

 陽介がその紙を見た瞬間、嫌そうな顔をさらに深めた。

 

「メモって何だよ」

「論点整理だ」

「本気すぎて怖いんだけど」

「本気で話すべき内容だろう」

 

 その返しに、陽介は言葉を止めた。

 ふざけて流して終えるつもりが、鳴上には最初からない。

 それは先日のラウンジでも分かっていたはずだが、今日の方が逃げ場は少ない。

 形式を整えられると、冗談の顔をしていた話が現実に変わる。

 

「まず期間ですが、最初から固定する必要はないと思っています」

「固定しない?」

「一年目前期、あるいは少なくとも夏休み前までは様子を見る」

「お試しってことか」

「そう考えてもらって構いません」

 

 おばさんがそこで小さく頷いた。

 最初から長期化を前提にしない、その言い方が気に入ったらしい。

 おじさんも腕を組み直しながら、現実的だなと呟く。

 陽介だけが、まだ納得しきらない顔でメモと鳴上を見比べていた。

 

「期間限定なら、たしかに話はしやすいわね」

「そうだな。陽介が本当に一人で回せるなら、その時点で見直せばいい」

「親父、その言い方だと今は回せない前提じゃん」

「この前の実績があるからな」

 

 おじさんの言葉に、陽介が明確に顔をしかめる。

 反論したいのだろうが、そこだけはどうしても弱い。

 入学式当日の寝坊という事実は、あまりにも分かりやすい前例だった。

 鳴上はそこで余計な追撃をせず、次の項目へ話を移した。

 

「住む場所ですが、最適解は一つではありません」

「そこ一番気になってるんだけど」

「通学時間だけで見れば、双方に完全な一点はない」

「うん」

「ただ、今は生活の安定性を優先するべきだと考えています」

 

 陽介が眉を寄せる。

 それはもう聞いた、という顔だった。

 だが鳴上はそこで話を止めず、さらに具体的に続けた。

 抽象論だけでは、最終的に感情論へ押し戻される可能性がある。

 

「朝の出発を破綻させないこと、帰宅後に生活を立て直せること。その二点を基準にした方がいいと思っています」

「俺の船橋までの距離は?」

「長くなる可能性はある」

「可能性どころか絶対長くなるだろ」

「それでも、毎朝崩れるよりはましだ」

 

 はっきり言うと、陽介は一度だけ口を閉じた。

 その沈黙のあとで、おばさんが困ったように笑う。

 だがその表情の奥には、やはり反対の色は見えなかった。

 母親としては、通学時間より生活崩壊の方が深刻なのだろう。

 

「少なくとも、起きる人が一人増えるのは大きいわよね」

「それ母さんが言う?」

「言うわよ。この前のことがなかったら、もう少し考えたけど」

「うっ」

 

 陽介が短く詰まる。

 同じことを何度も言われているのに、そのたびちゃんと刺さっている。

 それを見ながら、鳴上は残る項目を順に片づける。

 押し切るつもりはあるが、雑に進める気はなかった。

 

「費用については、折半を基本にするつもりです」

「そこはちゃんとするんだな……」

「当然だろう」

「家事はどうする?」とおじさんが口を挟む。

「固定せず、先に帰った方を基準に回す方が自然だと思います」

 

 鳴上の返答に、おじさんが感心したように笑った。

 おばさんも「その方が実際は回りそうね」と頷いている。

 陽介はますます嫌そうな顔をしていたが、内容への反論は出てこない。

 自分でも、かなり具体的に生活が見えてしまったのだろう。

 

「掃除と洗濯は?」

「分担で構いません」

「食事は?」

「毎日きっちり決める必要はありませんが、朝は簡単でも用意した方がいい」

「だから本気なんだよなあ……」

 

 陽介がテーブルに肘をつき、額を押さえる。

 その仕草を見ながら、鳴上は一瞬だけ思う。

 こうして一つずつ生活の条件を並べていくことに、奇妙な違和感はなかった。

 陽介の生活を自分の隣へ引き寄せる話をしているのに、それが不自然だという感覚の方が、もうかなり薄くなっていた。

 

 何かあった時に駆けつけるのでは遅い。

 先日ラウンジで口にしたその考えは、今も変わっていない。

 だがそれだけなら、ここまで細かく詰める必要は本当はないのかもしれない。

 鳴上はその思考をそこで切り、テーブル上のメモへ視線を戻した。

 

「大学が始まって、実際に生活が落ち着くまでは時間がかかるはずです」

「まあ、それはそうだろうけど」

「その間だけでも、生活拠点を一つにしておいた方が効率がいい」

「効率って言い方やめろよ。なんか物みたいだろ」

「言い方の問題ではない」

 

 鳴上がそう返すと、陽介は深く息を吐いた。

 怒っているというより、諦めに近い音だった。

 そこでおじさんが、ふっと肩の力を抜いたように口を開く。

 親としての判断を、ほぼ固めた顔に見えた。

 

「俺としては、かなり賛成だな」

「親父」

「悠くんがここまで考えてるなら、預ける側としては安心だ」

「預けるとか言うなよ」

「でも事実、そういう話でもあるだろう」

 

 おじさんの言葉に、陽介はすぐには返せなかった。

 おばさんも静かに頷いていて、その表情はかなり穏やかだった。

 押しつけではないが、母親としての不安はもう十分に言語化されている。

 あとは陽介が、どこまで抵抗を続けるかだけの段階に見えた。

 

「私は、最初の半年だけでも試してみるのはいいと思うわ」

「おばさんさんもそう思われますか」

「ええ。悠くんなら、甘やかすだけで終わらせないでしょうし」

「なんでみんなして俺を問題児みたいに扱うんだよ……」

 

 問題児とまでは思わない。

 だが、放っておいても大丈夫と言い切れる段階ではない。

 鳴上がそう考えるのは、今朝の寝坊だけが理由ではなかった。

 生活の綻びが出た時に、陽介は意外に脆い。

 そしてその脆さを、自分はもう知ってしまっている。

 

「陽介」

 

 鳴上が名前を呼ぶと、陽介がしぶしぶ顔を上げた。

 不服と警戒と、少しばかりの居心地の悪さが混ざった目だった。

 だが完全に閉じてはいない。

 その視線を受けながら、鳴上は必要なことだけを言う。

 

「少なくとも、今より悪くはならない」

「断言するんだな」

「する」

「俺と一緒で、お前ほんとに平気なのかよ」

 

 その問いに、鳴上は一拍だけ黙った。

 実務上の話をしているようでいて、そこだけは少し違う温度を帯びる。

 陽介が気にしているのは、家事や通学時間だけではない。

 自分と生活を重ねること自体を、鳴上がどう受け取るかだった。

 

「問題ない」

 

 短く返すと、陽介は黙ったままこちらを見た。

 疑っているというより、測っている目つきだった。

 鳴上自身、その返事が嘘ではないことだけは分かっている。

 問題ないどころか、そうすることをもう当然に近く感じていた。

 

 その感覚の名前を、今つける必要はない。

 生活のため、安定のため、そう言い換えることはいくらでもできる。

 だが少なくとも、陽介と暮らすことを負担だと思う発想は、鳴上の中に最初からほとんど存在していなかった。

 

「……ずるいんだよな、そういう言い方」

 陽介が小さく呟く。

 何がずるいのか、鳴上には正確には分からなかった。

 ただ、その声音には最初ほどの拒絶はなかった。

 押し切られかけている自覚と、完全には嫌ではない戸惑いが混ざっている。

 

「じゃあ、条件としてはこんなところか」

 おじさんが場をまとめるように言った。

 期間はまず前期まで。費用は折半。生活は実際に回しながら調整。

 住む場所は鳴上側の生活拠点を基準にして、陽介の通学ルートは別途最適化を考える。

 言葉にされるたび、同居の話が現実へ近づいていくのが分かった。

 

「まだ決定じゃないからな」

「決定ではない」

「でもほぼ決まりっぽい空気なんだよ!」

「話し合った結果だろう」

「そうだけど、そうなんだけどさ……」

 

 陽介はそこで言葉を失い、ソファへ深く沈み込んだ。

 その様子に、おばさんが小さく笑う。

 おじさんも、ようやく肩の力を抜いたような顔をしていた。

 反対が出ない以上、あとは実際の段取りへ移るだけだった。

 

 鳴上はテーブルの上のメモを見下ろす。

 期間限定の同居。表向きはそれで十分だろう。

 生活が落ち着くまでの措置としても、親への説明としても筋が通る。

 だがその言葉の内側で、自分がどこまで先を見ているのか、

 鳴上自身もまだはっきりとは測っていなかった。

 

 ただ一つだけ、確かなことがある。

 陽介が別の部屋で一人きりの朝を迎えるより、同じ屋根の下で起きる方がいいと、今は迷いなく思えることだった。

 その結論だけを胸の内に留めたまま、鳴上は次の段取りを考え始めた。

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学生)
花村陽介(M大に入学する大学生(寝坊したので同居と言われている))

花村陽一(花村の父:ジュネス本部の地域開発本部の本部長に昇進している。東京に単身赴任中)
花村ユリ子(花村の母:ジュネス八十稲羽店で経理担当している)


次回もよろしくお願いします
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