挑戦者は超越者となる   作:電極

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初登場()です


メイクデビュー前
憧れとトラウマ


ボク、ゴゥビヨンドはウマ娘である

 

身長は同世代の子達よりも二回りほど小さく、体重は身長の割にずっしりしてる

 

別に太っているわけではなく、全身にみっちり筋肉が詰まっていて、腹筋は板チョコのようにバキバキであることはひっそりとした誇りである

 

でもボクにはウマ娘らしからぬ苦手な事があり、それは全力で走ることである

 

風と一体となり、景色を自身の後方に流していく、そんなウマ娘にとって本能に染み付いた行為が、幼少期に起こした事故により私にとってはトラウマそのものだった

 

そのため初等部ではウマ娘であるのにも関わらず、徒競走ではびりっけつ、中等部に上がる頃には人並みには速くなったが、文字通り【ヒト並み】である

 

中等部から徒競走が男子、女子、ウマ娘と分類され始めたため、びりっけつであることには変わらなかった

 

高等部になり趣味の筋トレ、勉強、遊びのローテーションも染み付いたある秋の終わり、休みだからと昼過ぎから酒開ける父に誘われ居間に入ると、テレビから流れるウマ娘のレースがあり

 

このレースはボクの縮こまったウマソウルを揺さぶり、トラウマを拭うきっかけとなるそんな運命であった

 

幾多の名試合が生まれた大舞台ーーーー 20XX年 ジャパンカップ 

 

無敗の三冠馬ウマ娘とトリプルティアラウマ娘、その二人も挑戦者であり、それを迎え撃つG1八勝のトリプルティアラウマ娘のレース

 

そのレースはボクの走りたいという本能のエンジンをかけた、トラウマすら振り払い自分の脚で走り出す熱を与えた

 

脚と胸に熱を抱えたボクは家を飛び出し視線を乱し、脚は震えながらも走り出した

 

10年近くできなかった全力での疾走、忘れていた風を切る音

 

その懐かしく本能の奥底で求めていた感覚を堪能したとともにボクは

 

乙女がしてはいけない顔で戻した

 

「エレレレレレレレェ........ッオプ」

 

拭いきれなかったトラウマが全身を蹂躙し不快感が胃から登ってくる、目の焦点が定まらず世界が揺れ続けている

 

息を切らしながらも水を被り頭ごと全身を冷やす

すこしづつでも冷静さを取り戻す

 

冷えた頭とは裏腹に走る渇望とターフへの憧れはごうごうと燃え続けていた

 

倍以上の時間をかけてゆっくりと家に変えると玄関の外でオトンとオカンが待っていた

 

母は顔を青くし、父はニヤニヤと笑みを浮かべていた

 

「あんた!!飛び出したと思ったらそんなぐしょぐしょになってもー!平気か?具合悪くないか?タオル取ってくるからちょっと待ってなさい!」

 

母は文句を言いながらパタパタと急ぎ足でタオルを取りに行った

 

「お前、ええ顔なったな」

 

おもむろに父は言う

 

「覚悟が決まったええ顔や、やりたいこと定めた男の顔しとる」

 

「何言ってんねんボクはウマ娘やろ」

 

「ちゃうちゃうものの例えや、まぁええゆっくり聞いたるから部屋で待っとるわ、シャワー浴びてからこいな」

 

そうこちらを見透かしたように笑い飛ばしながらも父も家の中へ入っていった

 

自分の心中を見透かされたような気分のボクは父に続く

 

シャワーを浴び、居間に入ると父と母が座って待っていた

 

「まぁ座れや、おおよその予測はついとるがお前の口から聞きたい。お前は何をしたいんや?」

 

どこか話についていけていない母を尻目に答えた

 

「ボク、トレセン学園に行きたい、ジャパンカップ走りたい、あのウマ娘のように誰よりも速いことを証明したい」

 

「あんた、あんだけ顔色悪してたのに大丈夫なんか?毎朝ランニングしてるの知ってるけど、公園走っとるにぃちゃんとそんな変わらんペースやし、その、全力で走れるんか?」

 

「わからん…でも走りたいって気持ちが湧いてくるんや、理屈じゃなくてただひたすらに走りたい気持ちが」

 

母はボクの話を聞き、不安ながらに父とボクの様子をうかがうように交互に見る

 

「ええよ、トレセン学園行ったらええ」

 

「お父さん!?」

 

「こいつが決めたこと、やりたい事を親の俺等が折るのは違う。でも条件はある」

 

真顔になりこちらを射抜くような眼差しでオトンは言う

 

「別に重賞勝つまで帰ってくるなとか、未勝利勝ち抜けなかったら直ぐ帰ってこいともいわんがな、走ることが辛くなったら帰ってこい。それは勝てなくてもやし逆に幾ら勝ってても走ることが嫌じゃなくても辛いなら帰ってくるんや」

 

久々に見る真剣なオトンの顔に自然と背筋が伸びる

 

「俺もオカンも人でウマ娘じゃない、だから走ることに対する熱意や渇望はよくわからん。けどな俺もオカンもお前が楽しそうに走るのをよう覚えてる。だからなお前が走る目標見つけたんなら応援する。限界を感じたら受け止めたる。だからできる全力出してこいな」

 

真面目になりすぎたかなとごまかすように茶をすする父の言葉に胸が熱くなる

 

「お父さんが言うならお母さんも文句はありません、でもお母さんは時たま帰ってきてほしいかな」

 

そんな言葉を聞きながらボクはトレセン学園への編入を決めた

 

「まぁ編入できるかはビヨンドしだいやけどな」

 

実際そうではあるのだから間違いではないのだが、流れをぶった斬る発言をした父には尊敬した気持ちを少しばかり返してほしい気もした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園

全国から優秀なウマ娘が集まるエリート校である

 

そんなトレセン学園の編入試験は筆記試験、実技試験、面接の3つである

 

そんなボクの編入試験の手応えはこんな感じである

 

筆記試験:余裕あり 実技試験:ギリギリかも 面接:今から

 

そんなこんななボクの現在は、静寂の中厳しい扉に対しノックを3回叩きつけたところである

 

「開扉ッ!!入りたまえ!!」

 

扉の中から聞こえた幼気が残る声を聞きボクは扉を開けた

 

「失礼します」

 

「着席ッ!!かけてくれたまえ!!」

 

椅子に浅く腰かけるボクの前には、書類に目を通すウマ娘と小柄なヒトがいた

 

トレセン学園 理事長 秋川やよいとかの有名な【皇帝】と呼ばれたウマ娘 シンボリルドルフであった

 

面接は志望理由から始まりレースに関する思いや、走りに関わる質問が投げかけられた

 

そんな質問に素直に答えていく、走ることが苦手だったことやトラウマについても誤魔化さず答えていった

 

「それでは最後にいいだろうか?」

 

空気が張り詰める、シンボリルドルフの表情は柔らかいままであったが、彼女の中にナニカが蠢いているのが察せられた

 

「ゴゥビヨンド、君の実技試験見させてもらったよ。集中できていないゲート、動揺が隠しきれていないスタート、中盤からの破滅的なスパート、ゴール後の真っ青な顔。先ほどの話でもでてきたトラウマからなるものだろう」

 

ルドルフの顔が険しくなる

 

「私は、全ウマ娘の幸福を理想と掲げているが、その理想をもって君は走るべきではないと思う」

 

「あのような走り方をしていれば、君はいつか身体を壊し、トラウマにさらに負の出来事が重なるだろう。そうすれば身体だけでなく心も壊れてしまう」

 

「トラウマは病院などで治療したほうが確実だ。と他人事の目線なら言うだろう」

 

「しかし、同じ学園で切磋琢磨するかもしれない間柄だ、だから改めて聞こうゴゥビヨンド」

 

「君はこの学園で何を目指す」

 

空気がビリビリと震えるのを感じる

 

質問を咀嚼し、ゆっくりと嚥下、自分の中で溶かし頭に行き届かせる。そしてゆっくり息を吸い、ボクは答えを出した

 

「ボクは、今〈挑戦者〉です。〈挑戦者〉だからこそ幾多の壁に挑みます。」

 

「伝説も常識も過去も未来も超えていく、超えた先でボクのように誰かに希望を、情熱を与えられる【超越者】になります」

 

ルドルフは答えに対し、少し驚いた表情を浮かべ雰囲気を落ち着いたものへと戻した

 

「ありがとう、君の想いはよく伝わったよ。理事長それでは面接はこれで」

 

「うむ!これにて面接を終了する!気をつけて帰宅するように!」

 

ボクは立ち上がりお辞儀をして部屋を出る

 

勢い任せに口から出た目標に頭を抱えつつ帰路につく。冬の冷たい風が頭を冷やしてくれた

 

 

 

 

 

 

面接から2週間ほど過ぎたとき、家にトレセン学園からの一通の封筒が届いた

 

中身は合格通知と、入寮届、学生情報入力の書類などが同封されていた

 

家ではお祝い、通っている学園の友人から多くの祝福と別れの涙を受けた

 

編入してからのトレーニングに備えて、趣味の筋トレの強度を上げ、日々のランニングもペースを上げ公園ですれ違うにぃちゃんに追いつかれないほどに成長し、また無理をして時たま吐いた

 

 

 

 

 

 

 

 

出会いと別れの季節

 

ボクにとっては大きな一歩を踏み出す季節

 

ボク、ゴゥビヨンドは〈挑戦者〉としてトレセン学園の門をくぐった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ムキムキペチャパイチビウマ娘の物語が始まります
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