サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん 作:ナツコソビオレ
「フルーツが食べたい」
「ダメ」
「前に聞いたフルーツ盛りが食べたい」
「ダメ」
「季節のフルーツの美味しいとこだけ集めた食感がたまらない口どけまったりの盛り合わせがあるって聞いた!」
「よそはよそ! うちはうち!」
「なんでフルーツ食べらんないの!」
「お金がないの!」
数瞬、時間が空気とともに止まった。
周りの数人も、止まったまま、居た堪れない目を向ける。
少しわがままを言い出した、小さな銀髪の子をなだめるように頭をなでて、頭ごなしに怒鳴っていた赤髪の女子が席を立つ。
それも、こう、演技のように片手を上げて態度から大仰に振る舞いながら。
「贅沢言ってるお金ないの! 働け能無しトカゲども!」
だが、言うことと言えば、これ。
「そこまで言うことありませんですこと!?」
「現実を見ろよ!」
口をはさんだ別の誰かに対し、最初から怒鳴っている赤髪が水平に手を振ってさらに大きく叫ぶ。
「いないんだよ!? 客がさぁ!!」
たくさんの椅子と机。
くつろげる広さののびのびとした空間。
そこには、だれもいない。
会話に参加している数人以外、無人。
だれ一人座っていない。
ここは、飲食を提供するためのスペース。
人の少ない村はずれにある店員の多い飲食スペース。
客なんぞ、現実を省みてしまえば、実はいたことなどない。
メニューも特にありはせず、集客能力は絶望的にない。
とても、その人数の生活費に足りる売り上げもなさそうな、その飲食店。
その店員は…。
「見なさい! バックヤードのこの目標を!」
誇りを持て!
そう一面に書かれた文字。
「我々は、生きるために生命である力を示さなくてはいけない!」
「…関係あるのかな…」
中の一人が、ぼそりとつぶやく。
「そこうるさい!」
即座に反応。
指をさして一撃を叩き込むように言葉を摘む。
「関係はある! 絶対ある!」
そしてさらに言葉を荒げる。
「生き物なんだから、霞ばっかり食う生活以外をしないと、バレるでしょうが!」
何を。
「今の世界の生き物を見習って、かつては崇められていたような私たちは常識と誇りを手に入れるんだよお!」
ここは小さな喫茶店。
…だと、何人かが思っている空間。
椅子や机はあるし、調理場もあるので、体裁が真似事ながらあるようには見える。
しかし…。
現実には、だれも来ない。
店員たちも、それなりの服を着てメイド風のヒトをうまいこと再現したようには見える。
それも、実はすべてが人の世にいるはずがない、ドラゴンたち。
そう、ここにいる全員が、客の入りやすい場所も、家や店の風貌も。
真似は出来ても何のノウハウもないのだ。
「でも、本当に何したらいいのよ今回」
そこに質問を投げかけた女性の姿の何か。
ぱっと見にはクール、または妖艶な美人の範疇には入りそうな生き物。
ただ、食事を運ぶだけの給仕としてはいささか派手さが過ぎるようにも見える。
その彼女…実は名はない。
彼女らの習性として、自らの特性を呼ばれること以外は異質であると言う考えがある。
そちらを尊重して彼女を呼ぶなら、彼女の名はポイゾンドラゴン。
ここでは、対外的な便宜上で呼ぶときには毒子と呼ばれる。
「それは…人が来たらお金を奪う!」
「強盗じゃねえか!」
「相手に必要なものを提供できれば強盗じゃない!」
「でも…その理論で結構失敗してございますよね…」
「それでめげてたら、もう私たち野生しかないでしょうが! おうち欲しいよねえ!?」
「ならここはなんなんだよ!」
「試練の場です!」
鎮まる。
数人言い合いをしていたところに急に突き付けられた現実に閉口した。
一気に無音となる。
それを噛みしめるかの如く。
(快適に住んでるんだけどな…)
…と思っている誰かが少数いたとしてもである。
しかし、不意に何かは起きるものである。
ばたむ。
大きな音がした。
入口のほう。
確かに、そして絶対に、ここのメンツがうろつかない場所である。
全員が、輝いた眼でそれを見る。
客か!?
むしり取れる対象がいるのか?
そんな期待が全員に膨らむ。
「いらっしゃいませえ!!」
確認前に、さっきまで主に叫んでいたやつが言う。
対外的に付けることになった名称は、メラ美。
何が主に決め手となった名前なのかは言うまい。
その大声に驚きつつ、入り口の存在は立っている。
間違いなく人だ。
破れた個所もある、ぼろぼろの服を着た人間の男性。
長旅でやつれたのか、肌色も悪く言葉もとっさに吐き出せない。
とてもではないが、裕福な食事に相応の対価を払う生活をしていたとは思い難い。
が。
それに気づくことも、気にするものも、ここにはいない。
人間相当の感性など、最初からないからだ。
「さあ、座れ!」
「いらっしゃいませえ」
「果物とか好きー?」
「注文決まったのか?」
「ご来店までのここの場所はどこでお聞きになりました?」
「生肉食っても行けるほう?」
「ここの文字読んでみてえ!」
「メニューはしってるか?」
「おすすめはあっちの掲示板にありますよぉ」
「オマエは知り合いは多いほうなのか?」
「それとそれと…」
接客とは何か?
誰も、それを知る者はいない。
物珍しい、ヒトに寄ってきた好奇心優先の言葉攻めを行うやつらの群れ。
おもむろに始まる地獄に、違いない。
「お前ら落ち着けい!」
ぴたり。
そこに一人、それを止める行動が生えてくる。
「水とお通しが、まだだろうが」
「「おおぉ!」」
なんという冷静な判断力なんだ。
人間のルールと順番を心得ている!
たぶんな。
言ったのは、毒子。
なんと、接客の何たるかについて言及があるとは。
その驚きとともに、水の入った木のコップを前に構えるように持ち、歩みを進める。
「飲むがいいぞ矮小なる非力な生き物よ」
がしゅ。
そういい終わり、コップを置いた瞬間に毒子は止まった。
腹を見ると、メラ美の手刀が背中から腹をぶち破っている。
確殺と言える、目にもとまらぬ一撃。
「オマエの言葉は客に聞かせるべきではなかったな」
この行為も見せるべきではない。
「ごぉめんなさいねぇ、今片づけますからァ」
「い、いえ」
初めての客の言葉など、もはや意味すら介する気はない。
攻撃したほうとされたほう、両方別室送りである。
周囲の数人が、そこは流石に排除する。
一気に運ばれて何事もあったものとは思わせない。
無理だが、そうする。
「それでぇなんですが、ご注文はお決まりですかしらァ?」
「…そ、それよ……り……」
ばたん。
か細く、そう言ったお客だったが。
言い終わることなく、椅子から転げるように倒れた。
「なんと!?」
「おなかがすきすぎて!?」
「注文を取るのが遅かったからなんですかァ!?」
残った数人がお客には手を触れないまま、とりあえず慌てる。
おろおろと周辺を回る担当、見つめる担当、適当に手を振る担当、少し触ろうと試みる担当とそれを止める担当。
要するに、どれも役には立たない者たち。
「…あ、これ…」
そのうち、ひとりがそばに寄っていく。
そして、倒れている客のそば。
一緒に落ちて広がっているコップをつまんで取った。
双子のドラゴン、シルシルが取り、ギンが眺めて指をさす。
「これのせいですね」
「おい毒子のせいかよ!!!」
「出てこい責任者!」
「わたしですね」
責任者の言葉に反応して手を上げるのはギン。
この集まりのドラゴンでは一番格上とされているものである。
「とにかく、今回はこの人に触れて構わないでしょう…死なないように回復も行えるよう許可します」
そこにきて。
初めて、他の生き物に触れてもいいという許可が出された。
ドラゴンたちご一行にしてみると、例外的な信じられない許可であった。
今日は祭りに違いない。
さらに、いいながらコップに対して手首を小さく振って処分しろと言う合図を出す。
そのコップ…。
木ではあるが、何やら手の形に、模様がついていた。
紫の、手でつかんだような形に広い範囲についた、それ。
ポイゾンドラゴンの、腐食毒がべっとりついた跡である。
人の血中に入ると10分は持たない、劇毒であった。
それを、うかつながら、客はコップを介して直接触れてしまったのである。
一刻を争う、生命の危機が客に不意に迫っていたのである。