サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん   作:ナツコソビオレ

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あの村は今…  その壱

「アイシーちゃーん、お料理、中央のテーブルに全部運んでいいからね!」

「わ、わかりましたわ」

「それとギンさん、お客さんがまだ増えると思うから、広間で入りきらなかったらそこの階段から中二階の吹き抜けに案内しといてください!」

「はい、お任せください」

 

 次々と指示が飛ぶ。

 つい先日までの彼女らと想像もできないほどに、急かされるほどに働く古龍たち。

 それに指示を出す、見知らぬ一人の女性。

 

 いったい、これはどうしたことなのか?

 

 

 

「本当に彼女の存在は助かりますですワねぇ、私たちで滅ぼほしてしまった村でこれだけ活気が保てるのはあの元気が労力もなく発掘できてしまったからというのが何より大きいと、ワたしは最高に今も評価しているのでありますワねえ~」

 

 キッチンから早口で飛んでくる独特な声。

 そのキッチンには、一人の女性が棒立ちしている。

 

 メラ美だ。

 

 メラ美が、鉄の鍋をずーっと棒立ちして抱えて、身じろぎ一つしないでそこにいた。

 

 目はうつろで、とてもじゃないが、あの早口の元ではない雰囲気をにじませている。

 

「…にしてもですよ、この村のエネルギッシュなことと言ったら、私たち古龍の想像をはるかに高く超えて、ヒトの特性と可能性を見せつけてくるようじゃないですか?」

「…あのさ、クロ……いい加減黙らないか…」

「私たちとしても、そんな中で仮の名前をそれぞれ持っておいて本当に良かったでございますワよねえ、いつまでも、『おいフレアドラゴン』であるとか『ドミネイトポイゾネスドラゴンさん』なんて呼び続けるのがヒトの世界じゃ違和感だって、みんなわかってきましたモノねえ」

「…スマンセン……休み休み喋って…」

 

 やつれている。

 暴れ放題やったメラ美が、今やだいぶやつれている。

 鍋をただ抱えて、首からは札を三つほどぶら下げられて棒立ち。

 いつぞやのリーダー的な挙動はどこへ行ったのか。

 ちなみに、その首から下がった板と札には、ヒトには読めない古代語でこう書かれている。

 

 私はヒトの生息域を崩壊させました。

 破壊活動の刑期があと三千年残っています

 こいつはほかの生物に迷惑をかける存在です

 もうしません

 

 ちなみに鍋はその間にもグツグツ煮立っており、そのうち料理に使われる。

 気分が良ければ一瞬で蒸発しそうだが、そんな元気はないバロメータ表示のようなものである。

 なお、その罰の一環として、この言葉の嵐に揉まれ続ける行為も今、メラ美は受けている。

 彼女たちは眠る必要などはないので体調を崩すことなどはないのだが、それでもずっとこれが休まず続くのは、きついようだ。

 どこから聞こえてくるのだろう、休みなしのこのトークとずっと付き合い続けること。

 その相手と呼べるものは、目に触れる範囲にはおらず、指定されたら逃げることもできないうえに、休むことは全くない。

 …これが多分、彼女にとってだけではない、最も辛い刑罰であるようだった。

 なお、このずっと話続けているクロに関しては、もう少し後になって説明されることだろう。

 

 

 そうして、目まぐるしく一日が動き続け、今までにない忙しさを彼女たちは経験して…。

 ヒトだけは眠る。

 

 彼女たちだけの時間が、ひとまず夜中にはやってくるのである。

 

 

「…ヒトの世界って、こうもすべてがすべて、忙しそうに動いているものなんですかね」

「それは…そうなんじゃないかなぁ、なんといっても、動くと動いただけ食べ物がいるわけでしょう?」

「一番気になったのは、その動く原動力が、どうも生きるためと限定されていないようなのが不思議でして」

「ああ、それは私も気になったね」

「特にうちの、ノマルちゃんがその点だと一番謎が多い生き物になりませんか?」

「「そうそう」」

 

 人という生き物以外の視点での議論に、夜は夜で花が咲く。

 

 ノマルちゃん。

 先ほどから話に上る名前の存在であるが、それは今回の話の最初から、古龍たちに指示を出していた、ただの人である。

 

 

 

 ノマル=コマール

 

 肉体年齢14歳。

 あの、メラ美の火炎で吹き飛んだ村の住人の中の一人であった。

 そして、今ここに古龍たちがいる原因の最も大きな要因のひとつでもある。

 

 

 

 あのフレアドラゴンの厄災によって吹き飛んだ一帯に、もちろん生命らしいものは残らなかった。

 危害を加えたもの、危害を受けたもの、悪意のあるものとないもの。

 すべてが吹き飛んで消えたわけであるが…。

 当然ながら、周辺にだって生き物はいる。

 被害として死に絶えた生き物は、野生生物を含めると、そりゃもうおびただしい。

 周辺の山河も枯れ果て、地形は見る影もなくなった。

 

「一応なぁ、私だって理性は残してやってんだぞ!? 範囲の加減はしてたってば!」

 

 らしい。

 ただし、それでも山一つは丸ごと生態系もろとも焼失した。

 これをさすがに、ギンとキノという二匹は許さなかった。

 メラ美の言い出した、世の中に適応するという課題に対して、これを放置しては前提がすでに崩壊しているだろうという真っ当に理性的な意見。

 この直後、古龍全員による今回の移動の総括、キノとギンによる被害の集計の公表。

 銀龍、シルシルによる龍族の影響による未来の変化係数の算定などが行われ…。

 結果、フォルセティとメラ美には、特に、一貫性がないはた迷惑な行為があったとされ罪として認定をすることになり、相応のペナルティが付加される。

 それと同時に、この村と破壊された山河の現状復帰を、彼女たちだけの力で行うこととなったのだが…。

 

 ここでひとつ、確認をしよう。

 彼女たちが、ここに至るまでに抱えていた悩みが何か。

 目的は何か。

 彼女たちにできることとは何なのか。

 

 様々なことがある。

 

 そして、そこを確認したうえで実行したことを見てみよう。

 

 まず、近隣の破壊をグリーンドラゴン、キノの能力で埋め、回復させる。

 その能力は、生態環境を異常に活性化し、主に微生物などを爆発的に増やす。

 アイスドラゴン、アイシーにより冷やされた大地に無法な力でいじられた土地には常識でありえない数万年放置されたかのような自然が、今までの生態系と全く別に生まれる。

 そこに、銀龍、ギンが事象の変化…つまりは時間を経由して生命と物質を操る能力を加える。

 古龍たちの現状のリーダーをしているだけに、こいつの能力ははた迷惑の中でも実に規格外だ。

 その彼女の能力によって、無軌道な周辺の山野の環境と村そのものの復活を試みる。

 

 ただし。

 

 一つ問題はある。

 彼女らには、誰一人ヒトの感性が備わっていないし、感情も理解できていない。

 さらに、もともとの村の姿もだれ一人知らないのだ。

 それが、再生だけをやったとしたら、どうなるか…。

 

 結果は。

 

 すべて死に絶えた村の住人たちは、確かによみがえった。

 …が、しかし。

 数日前に、怪物たちの被害で死んだ者の魂。

 数か月前に病死していたものの残骸。

 つい先日メラ美によって命を落とした存在。

 それらの中で、適当に選出されたものと残骸が残っていて復活させやすそうなものを、彼女たちは特に感慨なく復活、再生させる。

 村の崩壊の前に、人数がどれくらいいたのかに関しては認識すらしていない。

 人がいればいいの精神による、いわゆる適当。

 それによって、村は復興された…。

 当然ながら、復活した者たちは現状の村の姿が違うことを理解できず、死んでいた誰かがいること、遠い昔に死別した誰かがいきなり元気でいることなど、混乱の極致に叩き込まれる。

 当然、適当なのだから、大事な誰かが存在しないことに悲しみ続ける者もいる。

 復活はしたが、幸福とはずいぶんかけ離れた姿がそこに出来上がった。

 

 しかし……まぁ。

 

 それが起きたとしても、人とは、存外強いものだったらしい。

 数日もすると、生きているだけましと、すべてを飲み込んで人々は生活を始めていたし、住居もしっかり整えだしていた。

 と、いうことで。

 そこにやり残しと失敗を念のために居座っていたドラゴンどもは、この混乱の中で村と無関係の来訪者と認識されることなく取り込まれていた。

 そうして数日後、最終的には最初にやる予定だった食べ物屋をこの村に移設するような形に落ち着くはずだったのだが…。

 

 そこに大変な難題が発生したことが、ノマルという彼女の存在を大きくする理由になるのだ。

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