サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん 作:ナツコソビオレ
「この、あの…失礼ですけど、これは食べ物なのでしょうか」
「養分だよお?」
「生き物の生命維持に必要なものが、すごい入ってると思うから、遠慮なく使ってくださいな?」
一人の少女に、おもむろに差し出されたもの。
皿である。
皿の上に、丸い何かが乗っている。
四つほど。
泥団子のような、パンのような、整えた粉のような。
それが、触っても動かないくらいに皿と一体化している。
これは何だ?
本当に何をして食べるものなのだ?
少女は言い返すことも、問いただすこともできないでいた。
なんか、養分とか言われた気もするが、その意味はいったい何なのか。
本当に疑問は尽きない。
そして…。
仕方がないので、さらに乗ったその状態のまま、少女はかみついてみた。
噛めない硬さ、そして舌に即時に感じる異物感などは…ない。
ただ。
どうやったのか、本当に分離できない。
乗ったものと皿が完全に融合して離れる気配がない。
そのうえ、食べているのに味らしいものが実に感じられない。
微妙な酸味や苦みを感じるようで、物量に対して何もかもが淡白。
さらに果物のような水っぽい部分とパサパサした生焼けの部分が不規則に襲い掛かってくる。
ここまで長々解説をして非常に取り止めがないことを最後に言うが…。
単純にまずいし、食いものとして、そもそも失格だ。
いや。
まずいというより、食べたうえで、これが何なのか判断ができない。
これはそういう物体だ。
言いたい。
これをそのままの感想として訴えたい。
しかし、少女の周囲を見ると、それをはっきり言える空気とはいいがたい。
食べる様子、手に取るしぐさなど、あらゆるものを七人ほどの店員が、遠慮もなく囲んで、ずーっと見ている。
出口がないレベルでしっかりヒトの籠を作るように固めて、じーっとみられている。
…なんとも、反応を出しづらい。
逃げたいとすら思った。
「食べましたね…」
「食べられるものは作ってたね!」
「私たちはもしかしたら、このままなじんで、このまま食事を作って普通の人たちを名乗れるんじゃあ、ないのかい?」
口々に、観察した様子を周囲が好き放題に言う。
しかも、何か満足しているようだった。
「…ふざけるな」
「はい?」
「ど、どうだったんですか、それの感想は?」
「…ふざけないでくださいね」
先日、ふらりと迷い込んだ客には、結局食べ物の提供というものをすることすらなかった。
ここにいるこの古龍たち、客を囲んで観察している古龍たちには、とても必要な反応なのは、言うまでもない。
そこに、もたらされた言葉。
最初の言葉。
「ふざけないでもらいたいです! これはそもそも注文とかけらも似てもいないし、何かの説明も受けられてません!」
らしい。
少女、最初の反応は、ブチギレであった。
「しかも味も何もないし、のどは痛くなるし、さらに何なんですか、そこをさらに実験を眺めようなお店の側の態度は! おかしいでしょう!?」
おかしいよ。
間違いなくおかしいのである。
が。
それがおかしいのか、何が正しいのか。
そもそも味がわからないまま作ってみたそれが料理と呼べるものなのか。
古龍たちは、誰一人、それに関して知識がない。
あっちもこっちも、誰も何もわからないのである。
彼女の言うとおり、実験か何かなのかと問われるなら、これは確実に実験だ。
お試しのものを人にまず食べさせる、人体実験そのものだ。
「説明してください! まず説明してください! これ、材料に何を使った、なんなんですか!?」
「…ええと、毒子の溶解液で樹皮を丸々溶かした後に解毒して木の実と養分がありそうな土を鍋に入れてメラ美が過熱消毒したんだよね?」
「で、熱がありすぎて半分以上瞬間で蒸発したから、そのあとにキノが成長環境ぶちこんで微生物で栄養を整えて形をそれっぽくした、んだったはず」
「かき回すのに、フォルセティが大木丸々一本吹っ飛ばしたのと、一度アイシーが過熱したのを冷やすのに絶対零度までやったから温度のムラがすごかったことは、付け加えていいと思いまーす」
「ああ、それもあったねー」
「………あの、何を言ってるのかわかりません……」
それはそう。
いったい何が起きてこの物体ができたのか、おそらく想像は生半可なものには無理だろう。
説明できる範囲では、おそらく、大木一本を溶かして切って異常な加熱と冷却などをした結果、この丸いものができた、というくらいのものだろう。
調味料など、味に関しての概念などは、そもそも考えの範囲の片隅にすら存在したことすらない。
こいつらの作ったものは、そういうものだ。
何がどうなったかは、客である彼女には理解できることはない。
ただ、どの程度、相手に食べさせるものを無理解なままお出ししているかの空気についてだけは、その瞬間に理解できた。
つまり、半人前にも程遠い、ということだ。
「……私、あなた方を見ていて、失礼ながら理解できたことがあります」
「はいな?」
「これを出して、あなたたちはお金を取る気なのであれば…たぶん無理ではないかと思います、私」
「おかね…」
「おかね?」
「体の部位にそういうのがあんのかい?」
「…え?」
心の底からの怒りで、説教でもしたい気分だった彼女だが、反応がまずおかしい。
稼ぐつもりで、目立つお店をいきなりこの村に建設したのではないのか?
いや。
そもそも、料理店という体裁の場所ではないのか?
そこから、言い合いからの事情の出し合い、説明に話が発展し、ほかに客もいないので数時間ずっと話が続く。
少女からは、住む建物などがなく変わり果てた原始生活にもどったかの状態の、森におおわれた村での人々の生活に対しての不安や戸惑い。
そこになぜか建っている唯一の文明らしい建物が、村の生き物にとって不穏なものに見えているということが、少女の口から初めてわかった。
巨大な木の幹など、雨風をしのげる場所にドアをつけ、住む準備をしているが、住人たちはその建物には恐ろしくて近づこうとしない。
生活に手いっぱいで、調査などができる心の余裕がないのも、あるだろう。
そこで、少女がただ一人の調査をしにきた。
彼女からの話は、そんなところ。
古龍たちからは、建物が残っていたからとりあえずそこに住み着いた、程度の、とても曖昧で適当な話だけがどいつからも大量に伝えられたが、実質中身はない。
なぜなら、すべて適当なウソでしかないのだから。
少女からの印象は、それゆえに、当然怪しい奴らでしかない。
一方、古龍たち一同からの印象は…。
裏表がない。
悪意がない。
魂から、よどみがない。
ともすれば、最高の評価といっていい。
手放しに、一人の否定もない。
これが、ノマルと呼ばれた少女との遭遇だった。
彼女自身も、適当な生命の掘り起こしの中で村に蘇ったそのまま放置に近い状態で置かれ、周囲の人間がいたりいなかったりする混乱を抱えているだろう。
その中で、これだけ古龍たちから見る「瞳」の視界で奇麗に見える。
これが、古龍たちの視点から見てすら珍しいととらえられた。
「…わかりました、村のみんなのために、私は働きたいと思います。」
料金などを取らないで、食べ物だけを提供するという謎の建物。
村の、文化というものそのものが消失した中での、食べ物と住む場所の確保。
意味不明な用語を話す、村の住民のような、違うような古龍たちと村の距離感を何とかして近づける存在が必要なこと。
それらを、少女なりに考えた時、それしかないことが少女の中ではっきりした。
それならと。
寝泊りも、ここでやって住み込みでいいという厚遇の待遇をもらい、着るものも、どこからかたくさん取り出された。
古龍以外の店員第一号となった彼女。
翌日には、少女…ノマルは店長に昇格した。
入り口を改装し、道を整備し、食べ物の材料の確認と在庫確認などを一手に引き受け。
料理に使えるものの支度、メニューの作成、味の確認と仕込み。
なんと、ノマルはそこまで一人で一日でやった。
古龍たちにとって、わからないものをすべてやってのける、あまりにも逸材。
それは、持ち上げられる。
が。
それだけではない。
……逸材であるが故。
「クロ、じゃあ、頼むね」
「こういう時に頼りになれる存在、というのはやっぱり信頼の評価である、というのが私にもちゃんと伝わっているのですワねえ!」
「いや…」
「皆様方もやはり、この状況と人々の暮らしに心を痛めて上位種ならではのやさしさを向けていると、私は心から信じておりますですワ! いわゆる慈悲! この世に与えられる奇跡にして正しき光! 私はそれが存在していることにこそ喜びを…」
「とっとと始めんかい!」
「あラ、お急ぎでございましたらごめんなさいね、私、こうやって喋れることだけでも無上の喜びをどうしても隠しておれませんで、しかもこう言った私だけの舞台を用意していただけて全員で…」
「だから早くしろと言って…!」
「落ち着いたほうがよくないかしら、メラ美…」
「やめろよアイシー! ヒトがいる中でその脅しみたいな冷気出してたら、ヒトはそれだけで死ぬからな!?」
「あら、そんなに生き物ってもろかったかしら」
先日のメラ美の行動によって、まだ警戒すべきという気持ちが残っているのか、熱の抑制という観点でアイスドラゴン、アイシーがちょっと出張る様子を多く出すようになった。
ただし、彼女自身も、適切な能力の調節、幅などを理解などしていないので、危険物として取り締まられる側である。
この会話をしているその数分だけで、部屋の窓や彼女の周囲は真っ白に霜がついて真冬である。
ノマルの寝ている部屋でこれ以上やられると、ノマルは確実に目を覚まさず凍り付くだろう。
「まぁまぁ、今の程度なら、私たちも人の隣にいて生活しているように見える、まるで生物のような存在になれているのでしょう?」
「できてるかな…」
「今、わたくしたちの隣でヒトが死ぬことなく保存できている、これは指標として、とても大きいではありませんか」
「…ギン様が、そういうのであれば」
ノマルが寝ている部屋で、ことさらどっしりと構え億側にいる銀龍、ギン。
たまに出てきて裁定や圧迫感を与える存在。
メラ美も、直接攻撃を受けたりはしないが、彼女に対しては常に低頭気味だ。
ちなみに、常にあの札は付けられたままである。
「毒子は、ずいぶん力の加減がうまくなったのではないかしら」
「そうだと嬉しいですわね」
生物に関しては、存在そのものが厄介と言わざるを得ない毒の支配者、ポイゾンドラゴンの、通称毒子。
指示によっては使い勝手が「古龍側からは」よく、ギンの評価は常に、存外高い。
今回も、眠ったノマルに対してさらに深層催眠を促す猛毒を作っている。
一歩間違えると呼吸が止まる劇毒が肌に塗られているのだが、それを死なない程度にできたことを今回評価されたようだった。
「毒子さまのご協力とデータ提供は、本当に私と相性がいいものだとかけらも思っていませんでしたが、ギン様はよい視点をお持ちで今となっても発見が多うございますよねぇ…私はこういう時に思いますのですワ、ここにきても新しいことをできますのは…」
「はやくやれ」
「まぁまぁ」
さて、そろそろ、やたらしゃべるクロと言う何かと、毒を使って最高に評価の高い少女を死にかけではないかという昏睡状態にする古龍たち。
これが今現在、何をしているのかというと…。
「では開始しますワ、少しだけさみしくなりますが、ご承知くださいませネー」
クロ
種族名 グランドルーラーブラックドラゴン
分類上ドラゴンと同様の類に扱われるが、正確に言うとするならこれはドラゴンではないのかもしれない。
なぜなら、姿も形もすべてが曖昧で誰にも視認が不可能だからである。
光のない部分にだけそれは存在し、力を行使できる何か。
しかし、それは光がない場所にはもれなく存在し、物体にも精神にも無条件で干渉ができる。
闇という条件の中では、文字通りの支配者となれる存在がこのクロである。
しかし、同時にわずかな光でもその動きは完全な遮断をされてしまう明確な欠点も持つ。
そして、今やろうとしていることは少女、ノマルへの干渉なのだが、それにもいくつか問題がある。
あまりにも逸材だったノマル。
それの行動も望みも極めて真っ当であるが故、それを細かく知って、その中で足りないもの、必要なものをすべて解決しようと思った古龍たち。
それをできる限り正確に知るために、根本的な情報を拾うために脳と精神の内部から、願望や希望を取り出して把握したいという意見があったのだ。
それが、クロにはたやすくできる。
が、それには、精神をパーツごとに分割して切り広げ、内部を取り出して吸収してから戻すという段階が必要であるのだという。
なお、それはその個人を、分解することで破壊する行為、そして手段とまったく同一である。
自信を破壊されていく飛び切りの苦痛と再生不能にされかねない恐怖を、ずっと与え続けられる。
そこで、プラスされるのが毒子である。
深層まで一度麻痺させ、くまなく精神と脳髄を分解して情報を取り出す。
心から評価している人に対してやることか、これが?
だが、ヒトらしい感性を誰も持っていないのだから、止める奴もいはしない。
そうして、人知れずノマルは魂もろとも分解されて情報を覗き見られて再度結合された。
人知れず、当人も知ることはなく。
翌日起きてから、ノマルは数時間歩くことに非常に違和感を覚えて転げたり、いろいろ異常を起こすが…。
復元力のすごさなのか、しばらくして、見た目は元通りになって、店長として働きだす。
これにより、ヒトに必要な住環境設備、衣服の必要性などが初めて古龍の概念の中に誕生。
翌々日から、村の中で森に埋もれて発見できていなかった衣料品の倉庫、井戸、まだ使える建物などが次々、村の誰かによって発見されていくことになる。
一気に文明度が上がり、ほかの地域と一致しないと偽造を疑われるためうかつに生み出せなかった貨幣、紙幣を除く日用品は、村にこうして行き届きだすのだ。
すべては、ノマルという一人の逸材が生み出した功績…。
いや犠牲の成果なのだが、それを知る者はいない。