サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん   作:ナツコソビオレ

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あの村は今…  その参

「店長さんよぉ、注文ついでに酒、ついてぐれよぉ!」

「こっちもこっちも、酒あるならくれよなぁ!」

 

 奥手側のテーブルのガラが悪い。

 そして、ずっとこの店に居座ったまま。

 

 

 店主になったノマルはおとなしく言われるままに注文を受け続けているが、さすがに少し困る顔もする。

 どこから湧いてくるのか不明ながら、地下にあるツボに酒が大量にあることが発覚してからというもの…。

 村の変化に対応したり、復興したりすることを諦め、タダで出飲み食いできるここにただ居座る村人が増えてきた。

 

 実際、完全に滅んだ村の慣れの果てなのは間違いない。

 それを立て直すことの疲れとストレスに負ける住人がいるのは当然。

 正確なカウントはしていないが、ノマルの感覚上、70人前後いると思われる住人たち。

 責任感や、使命感を持って、探索や建築に励む村人は半分くらいになった。

 どうも、古龍と打ち解けるための目的と、無料で何でも食べられるスペース。

 これがいいように作用していない気配を感じる。

 

 

 ……だが。

 

「ま、ゆっくり食べていってください」

「酒足りねえぞぉ!」

「これの味、薄いんじゃねえのか酒の味に負けてんぞぉ!」

「明日には、もっと味付け変えておきますよ! 明日はうちの店員も、もっともっと慣れてきますからね!」

 

 笑顔だ。

 混乱しているのも、あきらめるくらい変化そのものに適応できず押しつぶされるのも、むしろ当たり前だと理解している。

 そのうえで、休めば前向きになると応援もしている。

 さすが、古龍の絶大な信頼を集めるノマルであった。

 

「…ち、ちょっと、服をその…引っ張るのは…」

「いいじゃねえか、村の衣装としちゃ、そんな服もっと短くしたほうがそれらしいぜえ?」

「いいぞぉ、もっとやれぇ! おどれえ!」

 

 その一方、村人たちはその意味に気が付くはずはなく。

 

(あれ、行ったほうがいいのかね)

(いや、お前だけは行くな)

(でも、あれにずっとかかりっきりだと、ノマルちゃんが言ってた明日の仕込みってやつ、寝ないですることになるらしいからねえ)

 

 奥で別の客に料理を運びながら、メラ美、フォルセティ、アイシーの三匹も、さすがに迷惑な客という存在を語りだす。

 仕事をこなしながら、合間に店の客についての立ち話に励むその様子…。

 思えば、今までで最も、ヒトらしい素振りがそこにある気がする。

 古龍どもは、そこには相変わらず一切気が付かないのだが。

 

「楽しそうですわね、ここも活気が出て、本当にうれしく思います」

 

 客の悪口に花が咲く中、ふと出てきた誰かの言葉に目を凝らすと、ノマル店長の前に一人の女性がすっと飛び出すのが見える。

 

(ギン様!?)

(おいどうすんだ、あれ死ぬこともできずに消滅するぞ)

(こっちに聞いたってなにも変わらんて!)

 

 古龍たちの中で一番立場が上と思われる空気の、ギン。

 酔っぱらいの群れの中に、堂々と、空気と店長を遮るような位置で君臨する。

 

「お、いいじゃねえか、楽しませてもらってるし、こっちのほうが躍るのにちょうどいいんじゃねえかぁ?」

(お前ら正気か?)

(生命の根源に要求出しやがったぞあいつら!)

(二度と復活できないな、あれら全員見納めだろうな…)

 

 陰から口々に、なんという不穏な言葉が出てくるものか。

 

 

「今日は、このお店にとって実は祝いの日でございまして、御贔屓の皆様に、ともにお祝いしていただきたいと思いまして…」

「そうなんですか!?」

 

 ノマルが誰よりも先に驚く。

 ギンの柔らかな笑みに飲まれて、特に誰も疑問は投げかけないが。

 

 

 当然、嘘である。

 

 ちらりと店長、ノマルに目配せもするが、そこまでの細かい対応は、さすがになりたての14歳には即時対応できない。

 

「それでは、そのお祝いの特別なお酒を、どうぞご賞味くださいませ」

 

 と、指を鳴らした。

 陰からすっ…と、登場するのは、毒子。

 厚手の手袋、いや、少し外側を加工した鉄のグローブを装着した、毒子である。

 

(ヤル気だ!?)

(あいつあんな準備を…!)

(ギン様が気に入ってると思ったら、ひたすら毒でのたうち回って死ぬのを見れるからか…)

「あの…働いてくださいお三方」

「「「うい店長!」」」

 

 様々に思惑の飛ぶ、ギンの行動。

 フォルセティ、メラ美、アイシーにとっては目が離せないところだったが、ギンと毒子によってようやく解放されたノマルに即座に見つかる。

 ノマルも、ほかのお客に物が運ばれてなさそうと声をかけ、見事にそれは当たり。

 慈善事業に近いお店だから文句はあまり出ないが、長いもので20分くらい何も提供されない客がいたようだ。

 

 なお、鍋に火を入れる程度しかほかの古龍は料理に不向きなので、すべてをノマル店長が仕上げる。

 1つテーブルを離れても、休む時間はないようだ。

 

 

 

 

 さて、先ほどのテーブルの様子はというと。

 

「はははは、これはうまいな!」

「のめのめ、甘いがいくらでもいけるぞ!」

 

 口々に言い、笑いながら酔っぱらいたちは酒を飲み続ける。

 毒子の不自然にごついグローブは、少し小さめなツボのようなものに入れられた酒というインパクトに負けて、さほど触れられていないようだった。

 瓶で数杯飲んだらなくなる量ではないので、集まった客も飲めるだけ飲もうと、とにかく量をあおる。

 

 笑う、飲む、喋る、食べる。

 笑う、飲む、笑う。

 笑う、笑う、笑う、笑う。

 

 一同は、酒をそのままギンの立会いのもと飲み続けた。

 時間によって、だんだんと、そんな変遷をしながら。

 そう、ずっと眺めていると、だんだん笑うだけの時間が増えている。

 そして、毒子がわかっているかのように、注ぐのは必要ないと言わんかのごとく、ツボを足元に置いている。

 

 周囲がそうだろうなと思うように、つまり…毒である。

 

 腹膜及び不随意筋を脳の管理できない異常を起こし、最終的に麻痺させて死に至らしめる毒。

 と、いうことは。

 そもそも、笑っていたのではない。

 体が一部震えつづけ、味とアルコールでごまかされて気づかず毒が回っただけ。

 そこに、複合して眠りの毒も加わっていたとしたら…。

 何も知らないなら、もしかしたら、飲みすぎで酔いつぶれたと、見えるかもしれない。

 

 

 ただし、一応、毒があとから垂れ流しにならないよう、毒子には厳重にグローブをつけて、手から追加で毒が回らないようにはしてある。

 どんな相手であってもそれほどかからず眠るよう、計画的で穏便な配慮をしたつもり…だと思われる。

 それでも、確実性のために毒を盛ってることは変わらないし、眠っても大声で口から何か流しながら笑い続けているのは…異常な光景なのだが。

 

「さて、では毒子さん、予備倉庫に、この人たちを運んで奥の頼みましたわ」

「わかりましたわ」

(…予備倉庫っていったか!?)

(クロがメインの住処にしている場所ですよね…あの、休むことなく一人で話をしているのが聞こえるあの…)

(あれに死ぬまで付き合わされるのか、またはノマルみたいに一度精神の構造をパーツ化するほどばらされるのか…どちらにしろろくでもない結末が…)

「三人! お仕事してください!」

「「「うい、店長!」」」 

 

 なお、クロの話し相手としては気絶している最中ずっと使われたようですが、特に酔っぱらいたちに「致命的な」被害はなかったようです。

 そもそもギンに不快という感情も、嫌うという感情もないのであるから、強制には見えないよう時間をかけずにテーブルを開けるという行動をしただけなのである。

 くわえて、店長であるノマルの拘束は店としてよろしくないという理由ありきの行動でもある。

 それをクロの一人語りトーク対策に利用しようとついでに思いつくのが、心がない行動という点は置いとく。

 

 …と、そんな感じで、酔っぱらいなど、ちょっとした相手にはそれほどトラブルを起こすこともなくさばけるようには進歩した古龍。

 敵意さえ示されなければ、共存もそれほど難しくなくできる日は、意外と早く来るのかもしれない。

 そう思った矢先。

 

「おやお嬢ちゃん、あなたも一緒に食べないかい、これ」

「あ、その子はいいんです、触らないほうが…」

「いや、昨日来た時も、同じように座ってずっと動いていないようだから、いいじゃないか、今日は」

「いや、レイはその、かなり特殊なので、触るのはどうしても…」

「まぁまぁ、同じ村でこうして生きている仲間なんだろう?」

 

 悪意も敵意もない、やさしい村の対応。

 それに対処するのは、同じ人同士であっても、たまに失敗はする。

 メラ美は、内心かなり焦りながらも、やり過ごしてその原因を部屋の隅にもっていこうと努力はしていた。

 

 

 レイ。

 実はずっと、村へ最初に出張していた時から後ろからついてきていた古龍。

 

 ……なのだが。

 何もしないし、何も決してしゃべらない存在…ではなく、現象。

 今集まっている9匹の中でも、極めつけに特殊なもの。

 レイは、そういった何かである。

 

 今、レイは笑っている。

 少し口を緩めたように、静かに笑みを浮かべている。

 一度笑うと、戻るのに一週間ほどそのままなことが多い。

 

 どこかを眺めると、遮らなければ一か月では済まないほど、そのまま止まってそれを見ていることもある。

 

 時間の流れが違うのだ、とギンはいう。

 すべての感覚が、あらゆる存在と違うのは、ほかの古龍も感じる。

 

 ギンの言うことが正しいのなら、おそらくはこの時間と空間、世界そのもののデータベースや意識とリンクしているのだろう、という話。

 世界樹だの、ユグドラシルだの、アカシックなレコードだの…そういう呼び方のあれだ。

 それが本当なら、これが傷ついたりこれに嫌われたりすることは、かなり悪い影響が周囲全般に来る可能性を否定できない。

 

 

 

 ゆえに、何も話さないし勝手についてきたり動くが、かなりデリケートな扱いはする。

 なお、一度不用意に試したやつがいるが、これは何をやってもほぼ絶対に消滅しない。

 つまるところ、そういうものをヒトが不用意に触ろうとするのは、とにかく悪い予感しかしない。

 だが一方で、レイ自身はそういった周囲の影響を避ける動きはまずしない。

 いや、それを楽しんでいるか、反応するような精神構造を持たないか、どちらかだ。

 

「本当にね、それが本気でこの世界に飽きるか不快と感じてしまったら、世界自体が終わってしまうから、できればおとなしく…」

「まぁまぁ、楽しくみんなでやったほうが、この人もきっと楽しいじゃろ?」

 

 本当に悪意はないんだよな…と思うだけに、やりにくいメラ美。

 しかし、しつこい。

 そう思うと、ついレイをつかんでいるその村人の手に力が入る。

 

「あちちちち!!!」

「…あ…ああ!?」

 

 やってしまった。

 慌てて離したが、手が燃えている。

 村人をつかんだ手が高熱を発して腕を服ごと焦がし、その服が手に張り付いて燃え出したのだ。

 穏便に、というギンからのメッセージは、そりゃもう完全に無駄になったのだ。

 

「……か、怪物…!」

「いやあのね?」

「怪物だぁ! 村を襲った! 殺した怪物だ!!」

(あれと一緒にされるの、さすがにどうかって思うけど?)

 

 言い返せはしないが、悪く思われすぎじゃないか?

 メラ美がそう思って、しばらく躊躇したのが、またまずかったかもしれない。

 その村人が、あの騒ぎで最後のほうまで残っていたので、自称古龍の子孫のあいつらの襲撃を一部記憶として残していたのは、まぁ、運が悪かったのだろう。

 さっきまで同じテーブルで楽しんでいたのだろう、ほかの村人もそろい、完全に怪物認定されて悪意を向けられるのを、メラ美はそのまま見ていてしまった。

 

 

 殴りかかろうとしたり、ののしったり。

 

 ノマルは何をしていいか放心しているし、ほかの古龍は対処法がわからない。

 即座に人間の感情を理解して鎮静化なんて、感情を理解していないものにはさすがにすぐはできないのだ。

 

「……仕方ないわね、こういう時のための、力の調節ってことだもの」

 

 毒子が、そのとき間に割って入った。

 そして、村人を眠らせるか麻痺させて、死なない程度に全員を止めるのが理想。

 それを把握してはいた。

 

 かしこい。

 

「…あれ、間違った?」

 

 が。

 目の前の村人は、皮膚が瞬間に溶けた。

 そのまま崩れ去る。

 ……そりゃもう、普通の人間がそれを見れば、起こるのはパニックである。

 

「こっち…でもないなぁ、あれえ…制御が…?」

 

 毒子も、少し、急なことに混乱していた。

 そして、毒で次々と食堂の中の村人が死んでいく。

 様々な手段で。

 

 気が付いていたものはいないが、その時、レイが明確に表情を変えているのが、見たものがいれば確実に周囲に広めただろう。

 口の端をゆがめるような、それでいて楽しそうな笑み。

 介入を気付けないレベルで毒子をレイが操ったのだろうか?

 その答えはない。

 

 

 しかし…。

 そのまま、村は全滅した。

 

 

 毒子の毒がすぐに村全域に侵食し、最終的に村の範囲すべてが溶解して毒に沈む最後であった…。

 メラ美が最初も含め最多の4回を記録しているのを含め、6回目の壊滅だった。

 

 メラ美の首につけられていた札は、その回数そのものだったのである。

 なので、のちに毒子にも首から下げる札がひとつ、付けられた。

 

 

 そしてまた村はキノやギンによって再生されたが…。

 特に何の意図も感情もなく、10人ほど村人が増えたりもしていた。

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