サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん 作:ナツコソビオレ
それは、村人によって、とある建物が発見されたことから始まった。
「街に行く?」
「はい、こんなになって資産が誰のものなんて言っていられないって、みんなが言ってくれたんですよ」
村の再生の途中で、古龍がノマルの精神を分解し、さらに吸収することで希望や情報を取り込もうとしたことを覚えておられる方はいるだろうか。
これを行ったクロによって、彼女…。
つまりノマルから見た人間に必要なもの、もともとの村にあったもの、個人的に欲しかったものなどが映像のコピーのように抜き取られた。
その後、6回に及ぶ壊滅を経ながら。
彼女にとってあってほしいもの、人間にとって無いと生活できないものなど、それらを古龍は伝達上の劣化を一切なくして入手できた。
そして、銀龍によって時間と組成を操作し村人を復元。
…の前に。
ノマルが見ていた景色、そこそこの建物、生活物資なども、それっぽく作る芸ができるようになっていた。
短時間で、とても大きな進歩である。
それによって出来たものの中に、特に必要と思えないけどノマルが欲しいものなどが存在するのは、もはや古龍のご愛敬。
それを、復活した村人が見つけて自分の家だったはずの場所を探ったり、店だった場所から村人に分配しようと生活物資を配ったりするのが、序盤の定番の行動。
7回目ともなると、それも見慣れて行動範囲もわかりだしてくる。
そこで、発見されるように置いたものたち。
その中に、要は、ノマルがちょっと欲しかった奇麗な宝石、店の店頭で見た買えそうもない金品、親にあげたかったプレゼントのための指輪…。
そういった高価なものが、一気に見つかったのだ。
もちろん自分のものだと主張する者もいたし、着服しようとする者もいた。
それでも、最終的には、村人たちはそれを街で売って、村の再建に必要な資金に変えていいだろうという結論に達する。
いままでは、たとえそれが発見されても出かける前に古龍が村をひたすら、うっかり絶滅させていたのだが…。
ついに、生き延びてノマルがその代表として街に行くという決断まで至った。
長かった…。
数日をトラブルなく過ごすことができるようになるまで。
少しだけ協調性をもって、ヒトの中で古龍が過ごせるようになるまで。
村人の死者数がゼロになるまで…。
そこから。
「やっぱり、お年寄りに必要なものって私から見た限りで分からなくても足りないみたいで」
「そういうものは、出てきておかしくないですわね」
ギンが、ノマルから世間話の体で事情を聴いている。
それが、この村に新しくモノを生成させる手順とは、ノマルは全く気づいてはいない。
「服なんかは大量に倉庫から出てきても、どうしても皆さんにとっては欠かせない必需品ってあるんですねえ」
「それは、確かに私たちからは…わからないか」
味にかかわる調味料、酒、その他嗜好品であるタバコなど。
子供から見ても、古龍から見ても、なんで必要か不明なものは多い。
それらは、適当なものを古龍たちが生成したとしても、ちょっとした違いに質の良い悪いを問われたりするので、結局はよそから買うしかない。
味、香り、目新しいほかの地域の特産品、嗜好品。
そもそもノマルが見たことがないものは古龍たちも知らないのだ。
何が欲しいか、ないと生きていけないのかを詳しく村人たちから聞き出せるほど、古龍たちも村人に寄り添っているわけでも、親密になっているわけでもない。
そもそも会話を試みても、今のところ感情がない会話しかできない。
「私、それで一度も行ったことがないので行くことをお願いしたんですよ!」
「大丈夫そう?」
「道になれている長老さんも一緒ですから、きっと平気だろうと、みんな信頼してくれました!」
「…よかったわね、いけて」
「はい!」
街に行ってみたいという希望が心にずっとあったのを、みんな知っていた。
再生されるたびに、実のところ同じように古龍たちは聞いてもいた。
それでも、まぁ、保護して村が全滅する記憶をすべて残すのも酷だろうしと、いろいろ手は加えながらも絶対的な守護をする方向では、今まではなかったのだが。
だがしかし、少女、ノマルの悲願ともいえる街への旅行が実現するとなれば…。
「これの成功、そして実りある記憶として残せるものになるため、我々は協力者である彼女にあらゆる加護を惜しまず行使すべきものと考えます」
ギンのこの一言。
これにより、その日の夜、彼女が眠った後、一つの作業が行われる。
体の見えない部位、身に着けているものなどに、古龍どもは力と意思の断片を注ぎ、彼女に危害を与えるものに対して確実な報復が行えるよう完璧といえる加護が与えられた。
次元歪曲、事象改変、空間操作、絶対零度から七億度までの自由な周辺環境操作。
生命体へのあらゆる組み換え外部操作、運命の永続的改変など。
これにより、この時点で彼女は、歴史上に存在したヒトという種の中で比類なく最強の存在に即座に上り詰めた。
…使う意思がなければ知りようがないので、彼女が知る機会はないとは、思うが。
さて、そんな鬼畜の所業のような改造手術めいた作業のあった翌日。
出発の日である。
「それでは、皆様、ご迷惑おかけしますがお店、よろしくお願いいたします!」
「行ってらっしゃいませ店長」
「お土産はいらないから、自分のために買い物するのよ?」
「シルも行っちゃだめなのぉ?」
「…ご、ごめんね、そんなに大勢で滞在できるお金が…今なくて…」
心底すまなそうにするノマル。
「道も危ないし、次はきっと行けるから今日はおとなしくね、シルシルちゃん」
「シルがいないと、こっちも心の安定枠がいなくなるから大変だからね!」
「………む~………」
シルシル。
ギンと同じ銀龍の種に属する古龍。
見た目は三歳児かと思う小柄な姿の子供である。
大人のギン、子供のシルシルで、過去と未来を象徴しているのだという。
実際の年齢は、実のところほとんど変わらないようなのだが。
それでも、見た目と思考はつられる様で、大体行動は子供。
そしてよく寝るので、起きることから稀のキノまでではないが積極的に周囲に関わるのは多くはない。
そんなわけで。
今回の遠征で街に向かう村のメンバーは、長老…とはいっても四十台のオスカー、宝物の目利きと値段交渉には自信ありのマネキ、運搬の力仕事担当として飲食店から推薦されたフォルセティ。
そして、実のところ発端であり唯一の立候補者だったノマル。
合計四人の、やることに対しては少人数の旅である。
そして。
「この小瓶、持っていって、街についたら一度くらい開けてあげてね、店長さん」
「…なんですかこれ」
「お守りよ」
ギンからノマルに手渡された、小さな瓶。
なにか不思議という感じはしないが、玉のようなものが三つほど入っている。
赤、青、もうひとつは木目の残る木を削ったような球。
宝石のようで宝石ではない、そんなものが無造作に入れられている感じだ。
「……これは、捨てるか売るかしていいもの…ですか?」
「一応は私の大事なものかもしれないから、持ち帰ってくれると嬉しいかしら」
ぞんざいな反応に、ちょっと不安を感じる。
「おかしく感じるようなものだったでしょうか?」
「……ちょっと、なにか震えたような気がしまして…」
瞬間、少しその瓶をギンがにらんだような気がした。
…たぶん気のせいだろう。
「ノマちゃん~、そろそろ行くわよ」
と、少し離れたところからの声。
同行者、マネキからの呼びかけだった。
「了解です、お待たせしました!」
懐いているのか、もともと仲がいいのか、元気に手を振る。
古龍たちに対する反応とは、子供っぽさが戻っているようでちょっと違う態度。
「ではいってきます!」
「気を付けてくださいね、それと、それ忘れませんように」
「大丈夫です、ちゃんと手にもっていきますから」
この世界で最も強大な戦力のパーティが、この日、旅を開始した。