サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん 作:ナツコソビオレ
(おい、あんま近づくな)
(無理なことはわかっているでしょう?)
(さっきからカチカチ当たってんだろ、もうちょっと対応くらいできないのかあ?)
(歩いて揺れているのに、どうしようもないでしょう…浮けって言いますのかしら)
(できれば、そうしてほしいが?)
(どうしてあなたは、わかっていて隣人の気を悪くしようとするのでしょうか)
(…暇なんだよ、動けなくて)
(それと今の行動の接点が見えないのが問題なんですけど…もういいですわよ)
(気にしたら負けだぜぇ)
(……でしょうね)
そんな声がするような、しないような。
いや、実際にはしない。
古龍どもだけが通じるようなテレパシー的なアレ。
それがしばらく漫才のように垂れ流しになっているだけである。
旅の一行で聞こえているのはフォルセティだけだが、こちらは完全に無視。
「だめだわ、この谷、底すら見えないし避けて通るにはでっかすぎ…」
「ふぬ、迂回しかないか……しかし、地図は無くてもこんな近い山道はすべて覚えているはずだったのだが」
「歳は取りたくないものですわねぇオスカー」
「そんな耄碌する年に見えるか!?」
「さぁ?」
大人は大人で、軽快にやり取りしながら街へ行く道を必死に探している。
だが、見知らぬ地割れがごく最近起きたかのような断崖に今、苦しんでいる。
「こちらに、橋がありますよ」
一方、さも何事もないようにすたすた歩くフォルセティ。
その歩くほうを見ると、確かに橋のようなものがある。
「おぉ~フォルさんお手柄! どこから渡れるか分かれて歩いてたらすごい時間かかったよ!」
一行の一人、マネキは順応が早い。
とりあえず仲間なら頼るし信じるの心構えで肩が組めるその精神は、同行者ノマルにとってあこがれるべきところの一つでもある。
「…橋の…樹のにおいが…まるで今切ったようにすごい気が…」
「なわけないでしょ、こんな大木並べたでかい橋、村総出の大工事したんだよたぶん」
いつなのかは特に気にしない。
「…枝が…青々とした葉のついた枝が…」
「長い事経って、種が飛んできたりしたんだよ、よくあるってノマルちゃん、ねえオスカーさんも」
「覚えがあるような、ないような…まぁ、春には毎年道の整備を大掛かりでやる決まりだから、だれかやったんじゃろなぁ」
「そゆことそゆこと」
「…フォルセティさんは、何か言うことは…」
「道はあるのが当然ですよ、ノマル」
何事もなくいう。
当然ながら、村の再生のたびに、こいつら古龍のせいで周囲の道も地形も跡形もなくなっている。
さらに言うなら、植物も知っているものなどどの程度残っているか不明なレベルで、もはや知らない世界。
旅に出ようものなら、本来、前人未到の森を無理やり突っ切ることになっていたはずなのだ。
そこで、お勧めに提出されたのがフォルセティ。
一番最初、あの村に古龍どもが全員で向かうとなったときに、直進するのに積極的に道を作ったのはキノとフォルセティとメラ美であった。
キノは通り道の植物や微生物を操作して枯らしたり曲げたり、自然で起こらないはずの変化をたやすくやってのける。
…つまり、これは目の前で人が見たら怪しさが炸裂する。
さらに、キノはここにきてから一度壊滅の主犯をやっている。
却下。
メラ美は、局所的なプラズマ火炎と破滅的な収縮高熱レーザーのような何かで直線ルートを作るのにとても貢献した。
…これは古龍たちの居たその場でも数千度の熱量をそのまま受けながら行われる作業なので、早いが熱い。
ヒトと一緒に同行しながらこれを使うと仮定するなら、初手で壊滅は確定しているようなものだ。
却下。
フォルセティ以外にはいなかったのである。
他が絶望的にダメなの以外に、人に対して多少は知識があるところも評価点だった。
ノマルが幸せに旅ができるかどうかの監視とともに、旅をする一行の数十メートル先の地形や森を切り抜くように真空でえぐり、大木を切り裂いて飛ばして床を作り、橋を作り…。
いかにも道が元からあったかのように加工していくのだ。
…誰もごまかされようがないくらい、古い道のように偽装はできていないが。
いや、そんなことをする気がもともとないのだが。
しかし、何があっても気にしないマネキがいる。
通れるならそれで、詮索などはしないのだ。
安全性がありそうという嗅覚が働いたなら、利があるうちはそれを得ることだけを優先するのだ。
「マネキさん! 山があり得ない形で空洞になって…」
「昔海だったんだね!」
「マネキさんそこに半分になった大きい生き物の死体あるんですけどこれ何…!?」
「オスカーやったね! 今日たどり着けなくてもお肉だよ夕食!」
「マネキさん…だんだん、ただの道のはずが木の板を敷き詰めた道路に変わっていくのが怖いんです…」
「都会に近い証拠ってやつだろうね!」
「マネキさん………何かに…気づいて…ますよね?」
「しらんなぁ、私たちの旅が順調ってこと以外はな!」
何かに護られているに違いない。
その認識は、もはや一行のヒト区分の存在全員が肌に感じている。
ノマルは、その存在がいるとして、目的不明なのが怖い。
マネキは、それがあるなら全力でそれを長く受けられるよう探らない姿勢を徹底する。
オスカーは、もはや理解することを諦めて見の姿勢に入っている。
フォルセティは…。
怖がっている様子のノマルがさらに委縮して楽しさが消えないようにするには何をしたらいいのかと、手を変えながら道を作り続けている。
ついでに。
(ほら、おまえが地面ちゃんとしてないから怖がってるんじゃないのかぁ? 見えないけど)
(ノマル店長、どうしてあなたにあれくらい懐かないのかしらね、御自覚ありまして?)
(ヒトの心ってやつを理解するいい機会じゃんよ、もっと道広くしたり頑張ってみようぜぇ)
「…勝手なことばかり言い続けてると瓶壊しますよ」
「な、何か言いましたフォルセティさん?」
「いえ、ノマルには何も言ってないのでご心配なく」
ちょっとムカついている様子も見せだしていた。
ちなみに、この話の最初から何かしら一行と関係なく会話している何かが存在しているのだが。
これは、メラ美とアイシーである。
フォルセティの万一のため、または大事のための対処として、メラ美とアイシーも実は同行している。
どこにいるかというと…。
ノマルの預かっている小瓶の中。
ギンとシルシルによって次元断層圧縮によって厳重に封印され、玉のようになって同行している。
なお、玉は三つあり、最後の一つ、木目の玉の中身はクロである。
これはさらに空間圧縮と相対距離完全固定の制約をつけて厳重に封印されている。
見た目ただの玉だが、数キロの厚みの歪曲空間にみっしりと木材が詰まり、その合間の暗闇にクロがいるが、距離的にキロメートル単位なので声が届かない。
重みは瓶との間に浮いて、さらにそれが絶対的に固定されているので、瓶を持った者にその重さは感じられることはない。
なぜクロがわざわざいるのかは、いづれ。
つまるところ、ほぼ半数の四体の龍が実質くっついて、街になだれ込む構図。
いったい何を狩りに行くつもりなものか。
この時点で、十分に無法の限りなのだが。
こうして、本来あり得ないほどの直線距離で十日ほど。
「人だ…!」
「そこなのね、感動するの…」
謎のトンネルに突入して、気づけば山の中腹っぽい高台に出た。
たまに轟音がする暗い中を歩くこと一日半、崩落がなく進めたのは、フォルセティではなくノマルが持った事象改変の力の発現だろう。
その結果でたどり着いた景色は、眼下に見下ろすように都市を見渡す絶景である。
人もたくさん見える。
その何よりも、人にずっと会えなかったことを考えていたノマル。
大勢の人と会えたり、話したりできることに思いをはせたのだろう。
ただし、そこには直行できる道がなかったので、フォルセティに山の別ルートを案内してもらうことになった。
直線で何とかしようとするのに、高さの考慮がなかったとも言う。
そのまま奇妙なルートで下山。
とうとう街に、一行は到着した。
「すごいなぁ…すごいなぁ」
「ノマルちゃん、すごいのはノマルちゃんのほうよ」
大通りの真ん中で体操のように伸びたり体を回したり。
田舎がどうというより、もはやパフォーマーに見えるような領域。
目立つ。
マネキもオスカーも、年下でなければとっくに距離を置いている。
恥ずかしい以上に、事情というものもある。
つまり目立つということは…。
何かに狙われる可能性も高まるということだからだ。
その悪い予感に呼ばれるようにして目を向けたのは、一人のスリだった。
小遣い程度でも持っているものを一つ、あの隙だらけの少女から抜き取ってやろう。
そう、近づこうと姿勢を低く近寄っていく…ところで。
大通りの真ん中、真昼間の通行の多い通行路で。
その男はいきなり風船のように……破裂した。
(おいぃぃぃぃ!!!?)