サイキョーと無敵しかいないドラゴンのお食事屋さん   作:ナツコソビオレ

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街と龍といなかもの

 古龍ども。

 この「現象」ども一同は、そもそも肉体などはないので視力なども存在していない。

 

 何も見ていない、というわけではない。

 肉体で言う、視覚のシステムが一切なく、見えているものが違うというだけで何かしらを見てはいる。

 

 

 

 そこで、さて、何を見ているかという問題であるが。

 カルマ、意志力、精神性などの力をレーダーのように視覚と近いとらえ方をして周囲を把握している。

 とくに精神性、本質というものはよく見える。

 同等の古龍くらい大きい力なら、そのエネルギーだけで山の向こうからでも見えたりするが、近い存在は特に傾向が強い。

 見え方としては、与えるという意識が根幹であれば明るく、奪うという意思が根幹であれば暗く見える。

 他者を殺してでも生きる、躊躇いなく殺せるといった肝の座り方をしている者、他人は利用するものといった思考が基本の存在は、基本暗く見えるということだ。

 古龍から見たこの町は、村と比べて実に暗い。

 

 

 その中で。

 

 ノマルの中にいた、クロの断片、もしくは分体が、ノマルに直接的な悪意を向けた上にかなり暗い色をしている存在を周囲に警告した。

 脳の中であったり、服の裏であったり、バックの中であったり。

 人の存在はそれだけで、クロの居つける場所であったりするわけで、確かにいるのである。

 

 感知した瞬間、フォルセティは躊躇わなかった。

 何に関してのためらいもなく、それの周囲と体内に空気に極大の圧力差の場を作成。

 他者を巻き込まないような場所だけは限定して、まぁ派手に吹き飛ばした。

 

「…街ではよくあることなんでしょ」

「気にするようなことはないですね」

「いや!? え?」

 

 とりあえず肯定から入るマネキと、それに乗っかって事件そのものをスルーしようとするフォルセティ。

 一方、記憶が多く残っていない分、死という概念そのものに抵抗があるノマル。

 古龍の視覚から見た基準で抜群に好印象だった理由もうなずけようというもの。

 

 街の住人達も、服も髪も骨すら欠片になるほどの徹底的な破壊が急に起きて周囲に血液と何かしらのかけらが残ったとしか見えないことを、何と形容したらいいのかわからなかった。

 人がいたという目撃はあったにはあったが、それを辿ろうにも、その男は市民でもなく密航からスラムに流れ込み軽犯罪を行うという、この街で言う「よくある」違法侵入者という身の内。

 街の警備からすると、深く探るほど手間はかけたくないし、そもそも他国と協調がなくては辿りようもない、その手間のかかりようが尋常ではない。

 

 対応としては、ほぼ、見間違いという体で無視となるだろう。

 血が体についたという報告はあっても、そいつ自身が人目引かぬよう忍び寄っていた途中であるので目撃者が実に少数。

 特定も面倒、仮に犯人という何かを探す場合にも動機も手段も雲をつかむレベルで理解しがたい。

 ちなみにいうと、フォルセティが使用しているのは魔法ではないし、使用に何かの挙動すら必要ないという点は、この件と関係あるかは不明ながら明らかにしておこう。

 

 腑に落ちないながら、それだけをずっと追いかけていても一行の目的は全く進まない。

 そんなわけで、気にはしながらも、街で発見された金品、特産品の木彫りなどを売れる店に行ったり、宿を確保したり、役割ごとの仕事をしていく。

 

 そのひとつ、村の遺物を売りさばく現金作り。

 今回の中で最も重要な仕事である。

 

「…それは、どう考えたって足元見てない…帝国の守護龍と国章をあしらった金の像だよお?」

「ですがねぇお客様、これ自体の作者も不明で使われている金も純度が高いとは言えないもので、素材だけの代金と換算せざるを得ないものを、私としてはかなり甘く査定しているつもりなのですよねぇ」

 

 まぁ、嘘である。

 店側として買取で足元を見るのは当然とする態度が悪いのはそう。

 一方で、作者不明で芸術品としての価値が疑わしいのもそう。

 ただ、古龍どもが片手間とはいえ能力を駆使して作ったものという点は、知る者がいないながらも重要な点である。

 

 つまりだ。

 

 人の手で作ってこうは成りえない異様な生物っぽさ。

 そして、片手間で作ったがため物質生成を単純にしすぎたので、これはこの世界で今唯一だろう、不純物が完璧に何もない純物質である。

 この買取の商人は、金の純度が相当なものであること自体には見た瞬間に気付いている。

 

 それをお互い知っているかどうかで、盗品かどうかの怪しさも含めてカマをかけているのだ。

 

 田舎から出てきたというだけで、こんな金の塊をもってうろつく事情を納得できるものとは思えない。

 そんなうさん臭さを見た上なので、一概にこの商人が悪と言うのは言いにくい形。

 

「何とかなりませんか、おみせのひと…」

「…そういわれましても…」

 

 マネキが食いつくのに全く臆することもなかった商人。

 さすがに、意味はわからないが悲しくなったノマルも参戦。

 怪しむ中にも、少女の存在にちょっと動揺も生まれる感じがした。

 が、次の言葉は。

 

「……ソレデハ、これを重さを計って純金としてカイとりマショウ」

「え、どうしたの急に」

「それと、そちらの像も、金トシテ買取ヲしましょう…」

「いやちょっと待って、これは見てすぐわかる木だろ!?」

「ソウシマス」

 

 ものの数秒で、何かわからない口調で買取を決定していく商人。

 ノマルもマネキも、異常で怖さしか感じなくなっている。

 だが、そのままその調子で作業されていっているようで、見守るしかない。

 

 背負った箱で運んできたフォルセティだけは何も言わない。

 まぁ、そんなことかというくらいの表情。

 

 クロである。

 

 この状況でこの奇妙な流れを作れるのは、そいつしかいない。

 どこからか体内に侵入し、ノマルにやったような手段で脳や精神を組みなおしたのだ。

 さんざんノマルで実験したせいだろうか、同じ人の種の精神なら時間をほぼ必要としないほどの速さで目的通りの行動をする人形に今は組み替えられるようだ。

 もとには戻せるかは…正直わからない。

 

「これって、予定と比べて…どんな感じなのでしょうかマネキさん」

「うん…なんていうかね…アイツ狂ってるよ」

「おかしかったんですか、やっぱりと…言っちゃ失礼なのですがなんて言うべきなのか」

「あの店つぶれる前に来れて…よかったねノマルちゃん」

「は、はぁ」

 

 なお、持ってきて買い取られた黄金像以外にも、骨や木、銀などの加工品がいくつもあった。

 あったが、一切が今のヒトに作成不能な奥側深くの模様や焼き印のようなものなど、古龍どもがノマルの記憶を適当に解釈して無から生成したものであるため、工芸としては技術不明の奇跡の品と呼ぶよりない品物たちである。

 この価値をアピールできるものがいたなら、店がつぶれても食うには困らない金が、もしかしたら商人にも入っているかもしれない。

 

 

 おそらく。

 

 

 その一方、オスカーさんは思い出の宿にしっかり当日宿泊を決めて、現金もないのにしっかりくつろいでいた。

 その時のもう一方は。

 

「……それでなんですが、あの」

「なんだね、ノマルちゃん」

「何かのお祭りでも今日この街であって、この注文なのでしょうか…」

「いや、そういう街の様子は全く知らないよ、私」

「じゃあ…どういうことでこんなことに…」

 

 ノマルの目の前に並ぶ、皿、皿、皿。

 マネキの前に並ぶ、祭りと見まごう御馳走の山。

 フォルセティはそれらの煽りを食らわないような位置で静観。

 

 別々の場所にいるわけではない。

 気圧されすぎて食欲すら吹っ飛んでいるノマルと、金が多く手に入ってよさげなお店で大量注文して食べまくるマネキ。

 それを何の意味があるのかと眺めているフォルセティがいるだけだ。

 

「ほらほら、食べなくても食べてもお金は払うんだから、損しないように食べるんだよ二人とも!」

「もうテーブルに乗っかりませんよこれ!」

「ここのはおいしいんだから、何があったって食べるの!」

「旅の分の急な栄養が必要という判断なのですか?」

「関係ない! 私はここの味が好きだから二度とこれなくても後悔しないようにめっちゃ食べる!」

「…あまり理解できない考えでして、参考になります」

「フォルちゃんもなんでもいいから食べてごらんなさい!」

 

 食べる必要などはない。

 しかし、人を名乗ろうという手前、あの長旅の往復で何も食べなかったという怪しい事実は広めたくない。

 つい最近にも、人とは思えないという事実が村人に敵対される理由になったのを記憶しているのだ。

 なので、味などわからないが食べる。

 

「どう、おいしいでしょ?」

「…緊張しているのか、あまり味にまで気持ちが行かないかもしれないですね」

「そういうもんか」

「…で、ですよね! フォルセティさんと気が合うなんてちょっとドキンてします!」

 

 でまかせに近いフォルセティの逃げが、どうしてなのかノマルに刺さる。

 

「でもノマルちゃんは食べないとだめだぞー」

「なじぇに!?」

「これからまだ大きくなるのもあるし、お店の店長なら、こういうところで味を覚えて新メニューにしてもらうことで、こっちも最終的に笑顔になるのよ」

「そ、そんなことを考えて!?」

「一発で何を使ってるか当てられるほどになれとは言わないけど、美味しいと思って覚えた味は何かの時にこれだって思う時が来るものよ」

「マネキさんって、たまに深いですよね…」

「残念不正解、常にでーす」

 

 いう割に、マネキ本人は味わうよりも胃に溜めるをメインにするような暴食っぷり。

 言われたノマルは、真剣にマネキの食べるものの一部を都度都度感心しながら味わって噛み締める。

 合間合間にフォルセティが無反応でひょいぱくと小口でかじる。

 仲良しの会食にしては不可思議な光景だった。

 

 

 そんな食事から、またしばらく。

 

「じゃあ、私はちょっと特権として、こっちの友達におごったりいい顔したいから、少しこのお金借りて遊んでくるから、二人はちゃんと宿にいって寝るんだよ?」

「待ち合わせ場所にも、行かないんですか?」

「お金の管理はオスカーとフォルちゃんで無駄に使うことはあると思えないし、オスカーがそもそも時間通り来る気がしないから、私は自由行動に移らせてもらうってことでぇ」

「マネキさんはまず遊びたいと…」

 

 ノマルの視線が少し痛みを与えるものに感じだす。

 

 が。

 

「ノマルちゃんが街の悪い空気に飲まれないように、フォルちゃんはしっかりガードするんだよ!」

「それは大丈夫です、お任せください」

「信じてるぜえ~」

 

 一言言って、そそくさ人ごみに消えるマネキ。

 彼女自身は泊まる宿も何も知らないままになるが、いいのだろうか…という疑問をよそに、もういない。

 たぶんオスカーと前から知り合いであるから、何らかの連絡や待ち合わせも独自にできるのだろう。

 そう思わないと、ただ街に捨てるか逃げるかしただけになるから、そうに違いない。

 

 

 そうして待ち合わせからしばらく、軽く寝ていたらしいオスカーと合流して、この街としては安宿ながらも村としては立派な部類に見える建物に宿泊。

 ノマルには夜間外出禁止令が敷かれ、安全な数日を過ごす予定の初日が過ぎようとしていた。

 

「…そうだ、これを開けるって、ギンさんからの約束でしたっけ…」

 

 オスカーが用意したマネキとノマル用の部屋はマネキがいないので二人部屋を占領することになったノマル。

 一度眠りかけて、寝ぼけながらギンに渡された瓶を自分の荷物袋から取り出して開けた。

 そしてそのまま就寝。

 

 夜の時間は…この街で必ずしも安全ではなく…。

 この街にとっても、安全ではなくなった瞬間である。

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