10話:海竜のダムでの死闘
「あれ、もう行っちゃったの?」
「ええ。あいつ、必要とあらば一姫さんを殺す気みたいですよ」
「怖いなー。ま、簡単に殺されてはあげないけどね」
少し時間が経ち、花奏は姿を消していた。
なににもとらわれる気はない、そう言って彼女は俺とゼロの前から黒鉄と合体して飛び去っていった。
俺はなぜ彼女が今なにをしているかは知らない。だから今花奏がなぜ敵対するような立場になっているかは深く聞くことはできない。
けれども彼女は俺のことをしっかり覚えてていてくれた。
それは、すごく嬉しいことだった。俺だけじゃなくてあいつにとってもあの時間は大切なものであったということだから。
『……我にはわからないことだらけだ』
そう呟くゼロに「俺もだよ」と返す。人生なんて、世界なんてそんなものだ。
「……どんな話をしてたかは知らないけど、満足できる時間は過ごせたみたいね」
「なんでそう思うんですか?」
「すごく穏やかな顔をしてるからね。少しやけちゃうかなー」
『一姫ちゃん、そう言いながら顔がすごい笑ってるよ』
「そりゃあ剣くんの新しい一面見れたんだもの。楽しさの方が勝るわよ」
こっぱずかしいセリフを自然に言われ、俺の顔は熱くなる。
……そういえば俺も一姫さんのこと全然知らないな。今回のことで少しだけ知らない表情を見れて、嬉しくはあったけど。
「一姫さん」
「ん? なに?」
「よかったら今度一姫さんの話も聞かせてもらえませんか? 俺は一姫さんのこと、あんまりわかってないから」
少しだけキョトン、と一姫さんはするが、すぐに微笑んだ。
「いいわよ。その代わり剣くんのこともしっかりと聞かせてね」
「もちろん。まぁそこまで面白いことのない人生だとは思いますけど」
『それでもいいんじゃないかな? 私は剣さんの話興味あるもの』
「さすが相棒、息ばっちしね」
『そういえば我も剣個人の話は聞いたことないな』
ゼロもシンザンも乗り気でいるようだ。
本当に面白味もない話になると思うけど、ここまで興味を持ってくれるのは少しだけ嬉しい。
そろそろ日も暮れてきた。
「今日はもう戻りましょうか」
「そうね。それじゃあ」
彼女はごく自然に手を握り、そのまま駆け出した。
この自然な流れが一姫さんらしいな、と思わず笑ってしまった。
※
湖で遊んで少し経って、俺たちは市内の山奥にある雁木ダムにまできていた。
「なんでこんな山奥のダムに……」
「一応関係ないとは思うけど上からエヴォルダーがらみという可能性を考えて私たちに話に来たんだが……今回の犯人がアホなんだろうな」
灰沢さんは呆れたように手元に持っている手紙をヒラヒラと揺らす。
手紙の内容は『八月一日、午後三時に雁木ダムを破壊する』というものだった。
いわゆる犯罪予告というものだ。
この時代にわざわざ犯罪予告をするなんてなかなか危篤な人間だ。
「それにしてもダムっていうだけあってかなりの水がたまってるわね」
『沈まされたら終わりだね、これは』
一姫さんはシンザンと現場を見ながらどういう危険性があるかを考えているようだ。
彼女のいう通り、水を堰き止めているダムというだけあってかなりの量の水が溜まっている。
「ここはこの県では一番大きいダムだからね。一万立方メートルは優に超えているだろうね」
灰沢さんもダムを見て「実際に見ると凄まじいなぁ」と感嘆の声を出していた。
しかし立方メートルとゆわれてもあんまりピンとこない。一万という数字とダムが想像以上にがでかすぎるのでどれだけすごいのかがあまり把握できない。
人間許容量超えると実感できないのはほんとだな。ゼロのことらは受け止めれたけど、それ以上に現実的であるはずのダムの方がよくわからないのは不思議なんだよなぁ。
とはいえ、このダムが堰き止めている水の量から決壊したら間違いなく大パニックになる。
大多数の死傷者が出ることは容易に想像できるし、虚偽の予告だったらその方がむしろありがたい。
「でも爆発物って外から見えるでしょ? この規模ならダイナマイトの一本や二本では壊れないでしょうし」
「そうだね。だけど戦闘機を持ってたら……なんて」
「ないわよそんなもん。シンザンと見たけど周辺には爆発物らしきものはなし、愉快犯だと思うわ」
やれやれと言った表情で頭をかきながら一姫さんは戻ってくる。
ゼロの方も爆薬物の匂いを管理局で覚えてから来たが、ゼロも反応しないということは本当にないんだろう。
破壊すると言ったらダイナマイトやミサイルがいるだろうし、その反応がない以上は虚偽の犯罪予告で間違いないだろう。
念のためにもう一回周辺を見てから……
『阿呆どもが』
声が聞こえると同時に、俺たちは声の方へ振り向く。
水しぶきがあがり、タツノオトシゴの特徴を持つエヴォルダーと合体した人間が出現した。
完全に虚を突かれ、奴は一姫さんを引っ張りそのままダムの中へと戻っていった。
『一姫ちゃん!?』
「ゼロ、変身!」
『承知!』
ゼロと合体し、ダムの中に飛び込む。
いくら一姫さんが常識外れに強くともあくまで生身が相手の場合、エヴォルダー相手には分が悪すぎる。
ましてや水中、どんなに長くても人間では一分半持てばいい方だ。急いで助けなければ!
勢いよく飛び込んだおかげか、多少距離は稼げた。しかしあのタツノオトシゴはすでに十メートルほど進んでいた。
なんとか逃れようと一姫さんも抵抗しているようだが、振り解ける様子はない。
けれど彼女が抵抗しているおかげで奴も思うように進めないでいるようだ。これならすぐに追いつけ……
『などと思わない方がいいぞ? 坊主』
『誰も一人で犯行をするなんて言ってないからなぁ』
「!?」
左右から同時に衝撃が襲い、身体が一気に沈められていく。
思わず顔を左右にふれば、タツノオトシゴが俺の両腕を押さえ込んでいた。
一姫さんを捕まえた奴も含めれば三人。それぞれ頭に生えているツノの本数が一、二、三本と別れているので見分けがつくが……想定外の事態だ。
(同種のエヴォルダーが三体、しかも完全水中戦使用だと!?)
『ぬかった! 剣、振り払うぞ!』
(言われずとも!)
言葉に出せずとも、合体している間は俺の意思だけで意思疎通は取れる。
全力で腕に力を込めて振り解こうとするが、水圧で地上のそれとは比べ物にならないほど遅く、力が伝わらなかった。
『カカカカ。陸上の生物が我らシードラゴンズを相手にまともに戦えると思っているのか!』
……向こうの装着者の声は聞こえずとも、エヴォルダーの声は聞こえるのでそういう意味ではエヴォルダーの声が直接脳内に響くというのはありがたい。少なくとも、表面的なものは。
『やかましいぞツヴァイ。坊主、あの女より先に楽にさせてやろう』
『貴様ら、恥ずかしくないのか!? 武装していない女に不意打ちなどと……!』
ゼロの怒りの声が水中にいる装着者たちに響き渡る。
その声が一姫さんを捕まえている奴にも伝わったせいか、動きを止めて呆れたような声で喋った。
『阿呆が。貴様らの実績やこの女の戦力を考えれば当たり前の判断だ』
『お、アインが珍しく返事してる』
『ドライ、黙っててやれよ。勝ち確定みたいなもんだからこの坊主が死ぬ前に冥途の土産ってやつだろ』
ギャハハ、とツヴァイとやらが笑う。
それに憤慨したのかゼロはさらに怒りに燃え、吠えた。
その声に対してアインが鬱陶しそうな声で二度『阿呆が』と答えた。
『卑怯だと思うなら勝手に思え。罵りたければ罵れ。足りない戦力、格上との差を埋めるために手段など選んでいられるか』
そう言って奴は捕まえていた一姫さんを一瞬だけ離し、その首を締めた。
「〜〜〜〜!」
ゴポ、と一姫さんの口から大きく息が漏れる。まずい、あの状態じゃあと一分も……
そして『やれ』というアインの言葉と共に俺とゼロは急激に沈められていく。
水圧によって身体にかかる負担も同時に急激に増えていく。
(まずい、俺の方ももう息が……!)
『くそ……クソ! すまん剣、我が無力なばかりに…;一矢報いることすら……!』
口惜しい、そう考えるほどにゼロはこの状況に屈しかけていた。
ここで俺が言うべきことは……いや、やることは。
(バカが! ここから逆転するんだよ……!)
『剣……?』
強がることだった。
すでに身体は水圧によるダメージ、酸素低下による思考能力の低下。
そんな状況で俺が導き出せることなんてそんなものだった。
だってここで終わったら、一姫さんはどうなる?
短い付き合いだが、彼女は死なせていい人じゃないし、死なせたくない。
だったらあがくしかないだろ。
アホでけっこう、バカでけっこう。チンケで惨めでちっぽけであったとしても。
(だからゼロ、お前も折れずに付き合ってくれ!)
身勝手で子供じみたわがままをゼロに伝える。少なくともあの日にゼロたちに出会ったことで俺は前よりも少しだけ自分に自信が持てるようになったんだ。
だったら今度は俺がゼロを少しでも、助けてやらなきゃいけないだろ!
『く、は……お前は本当にバカなのだな』
(今更だろ……!)
『で、あったな。ならば……我も応えてみせよう!』
そうゼロが答えた瞬間だった。
俺たちの身体が、光り輝いたのは。
『『『『!?』』』』
全員が全員、驚愕し俺を拘束していたツヴァイ、ドライも離れていく。
だがそんな俺たちの動揺をよそに、急速に俺が絡っているゼロのアーマーが『再構築』されていった。
元ネタは今回の敵の元ネタは初代仮面ライダーにでてきたシードラゴンです。