12話:一時の憩い
事件から数週間後、戦麗華とはアレ以降出会していない。それどころかエヴォルダーの事件もなりを潜めている。
「事件がないことはいいことだけど、組織があるって言うのをちらつかされたら嫌でも考えちゃうわね」
「一姫さんにしては珍しいことだね」
『剣くんは違うの?』
シンザンの問いに首を横に振って答える。
俺だって気にはなる。けれども下手に考えすぎると俺はバカだからつまづくだけだし。
むしろ考えることは別にある。
視線をゼロの方へ移し、一姫さんとシンザンも「ああ」と頷いた。
『なんだ我の方を見て』
「いや、お前も大概不思議だなと思ってな」
『局面に合わせて形態を変える同族なんて私も知らないもんねー』
ゼロのこの間の水中形態、俺たちはマリナー(一姫さん命名)と呼んでいる。
これにはエヴォルダーであるシンザンも目を丸くさせるような案件だ。少なくとも彼女(俺が勝手に思ってるだけ)には経験のない出来事だ。
留置所に捕まっている八咫鐘のエヴォルダーにも話を聞いたが、そんな同族にはあったことがないという。
八咫鐘の方も戦麗華について聞いてみたが、答えてくれることはなかった。本当に知らなくて答えなかったのか、知っていて答えなかったのかは怪しいところだけど。
「過去の犯罪リストを見ても載ってないてことは本当に経歴なし。戦麗華については灰沢さんが調べてくれてるけど、詳しい情報は一切わかっていないし」
「エヴォルダー自体が未知の存在なわけだから、詳しいギミックもわかるわけないんだよなぁ」
こんな時に自意識過剰な天才科学者でもいてくれればいいのだが、そんなものが都合よく現れるわけもない。
「困ったなぁ……」
「そういうものよね、現実って。はー宮本武蔵とかそういうヒーローみたいな味方がいればいいのにねぇ」
「いませんよそんなん」
『ものすごい即答だね、剣くん』
「気に障ったなら謝るけど……」
「そんなことはないわよ。私もシンザンもね」
素直に謝りつつ、上を向く。俺だって男だ、昔はヒーローっていうものにたまに想いをはせていた時もある。
でも俺は現実でヒーローなんて見たことない。世の中で似たようなことを思っている人はいっぱいいそうだけど、俺がヒーローを信じることはないだろう。
『おい剣、顔が暗いぞどうした。この二人が今のことを気にするような性格だというのは知ってるだろうに。そのすぐに勝手に落ち込む癖我はやめた方がいい気がするぞ』
「ん、すまん……そんな凹んでたかな」
「けっこう暗かったのは違いないわね。ほんとに気にしてないから安心して」
一姫さんも気を使ってくれたのか俺の頭をポンポンと撫でる。
『相談くらいは我にもしろ。我が異質なのだとしてもここにいる我は我なのだし』
「ん、二人ともありがとう……」
少し気恥ずかしいが、素直に謝辞を述べる。
「どういたしまして。それじゃ今日はこの辺で切り上げましょうか」
※
「ふぃー……最近は剣くんだいぶ強くなったわねぇ」
部屋に戻り、常温のスポーツドリンクを飲み干し一姫は呟く。それにシンザンも「そうだね」と納得してベッドに降りる。
本人は硬い身体を気にしているのかフカフカのベッドがお気に入りらしい。
一姫はそんな相棒を可愛いなぁと思いつつスマフォを打ちながら送信、会話につなげた。
「正直なとこ素質は平々凡々なんだけど、ゼロくんとの適性が異常に高いのかな、合体した状態ならけっこうな強さになったね」
『剣くんはそれにまして努力家だもんね。合体してなくても体術的な能力ももう並の人じゃ相手にならないんじゃないかな』
うん、と一姫はうなずく。
素質が平々凡々であっても可能な限りを努力で埋めようとする剣の姿勢を、一姫は好ましく思っていた。
生身での試合であれば当然ながらまだまだ一姫の方が何手も先を行っているのだが、最初の一から十は成長したと見れるほどの成長だった。
「正直もっと早く会えてたらなぁと思うな。それだったら組み手ももっと強くなってたかもしれないのに」
『こればかりは巡り合わせだからしょうがないよ。でも一姫ちゃんがそういうこと言う日が来るなんて思わなかったな』
「そうかしら?」
『だって私と会った時には家族の前ではすごく機嫌悪かったじゃない』
「いやぁその辺は、ねぇ?」
苦笑しつつ一姫は実家のことを思い出す。
一姫の実家、都宮家はいわゆる普通の家庭とは違った。
昔はお国を守るために育った士族だったということで、この時代になっても変なプライドが高かった。
(金もないくせに学校のママ友と張り合うために無駄に高い調度品買ったり、家系アピールするし、完璧を強要するし、他の子と遊ぶなとか言ってひたすら剣の稽古……それで逃げ出して山で出会ったのがシンザンなわけだけど)
一姫自身もその才能に恵まれていたため、今の身体能力を得ることができた。そして天性の才能で相手の才能というか素質をなんとなくだが感じることもできた。
その目で見た剣はまさに才覚に関しては凡才であった。エヴォルダーとの適性がなければ本格的にその辺にいる大勢の一人になっていたかもしれない。
しかし一姫にとっては嬉しいことに、その予想は外れた。
ないものを努力で埋める姿勢、そして今だした結果を考えれば自分の目が節穴であったのではないかとすら感じた。
「それに反応もいちいち可愛いからついつい弄りたくなるというか、かまいたくなっちゃうのよねぇ」
『うわぁ剣くんかわいそう』
「シンザンひどくない? 私がいじめてるみたいじゃん」
『本人が望んでないのにいじるのはいじめになるから程度は考えなよ。剣くん努力家ではあるけど真面目すぎて冗談通じないんだから』
グゥの音も出なくなる一姫であった。
初めて会って以来長い時間をシンザンとともに過ごしているが、稀にだがシンザンに姉のように叱られる日がある。まるで本当の姉妹のようだとすら感じれるほどだ。
「ごめんなさい」
『わかればよろしい……ん?』
「……変な音、聞こえるわね」
耳をすませば微かにだが音が聞こえ、施設が震える。
地震ではなく、もっと人為的で脅威となるもの。
「……こりゃ内通者いるわねぇ」
『予想通りって言えば予想通りだけどね』
「シンザン、セットアップ!」
一姫とシンザンは意識を切り替え、すぐに合体し部屋を飛び出た。