ボクは幼い頃に両親を失い、親族の間をたらい回しにされて育った。
どこに行ってもうまく馴染めず、居場所を掴めず、鬱屈した気持ちを抱えながら育った。
だからたらい回しにされた地での公園へ遊びにいくのが唯一の救いだったのかもしれない。
けれども子どもと言うのはとても残酷な物で、知らない子どもが来ると集団で異物を排除にかかる。
ボクは何もしないし、関わる気はない。ただ家にいるのが嫌だっただけなのに。
そんなボクの気持ちをよそに向こうから突っかかってきて、集団で暴力を奮ってくるいじめっ子。
ボクがメソメソと泣いてやめてよ、と言っても聞く耳は彼らは持たない。
『はいドーン!』
『へぶしっ!?』
そんな中、いじめっ子の一人に誰かが蹴りを思い切り叩き込んでいた。
暴力がわずかだが止み、その間隙に他の取り巻きにも砂を思い切り投げつけていた。
『目に砂がぁ!? 目に砂がぁ!』
『痛い! 目がすごく気持ち悪い!』
まさに阿鼻叫喚。ボクをいじめていた世界が一瞬で変わった。
『よってたかっていじめとかクソださ行為は俺が許さない!』
奇襲によるアドバンテージを生かし、それぞれに金的をかましていくと言うわりとえげつない行為を平気で行ったその少年はいじめっ子たちを追い返し、ボクに手を差し伸べてくれた。
『大丈夫か? もう追っ払ったぞ!』
『あ、ありがとう』
当時六歳のボクには、その少年が白馬の王子様のように見えた。
お話でしか見ることができないと思ったそんな綺麗な存在で、これがボクと剣くんの初めての出会いだった。
互いに自己紹介をした後は、公園で少し遊んだ後彼がよく遊ぶと言う空き地に行った。
公園に比べて遊具なんかは当然なかったけど、その分のびのびと体を動かして楽しめた。誰かと遊ぶなんて言うのはこんなにも楽しくも穏やかなものだったのかと。
……まぁ下の名前を彼はろくに覚えてなかったようだし、ボクを男の子と勘違いしていたようだけ、それで十分すぎるほどにボクは幸福だった。
『あの、本当に助けてくれてありがとう』
『いいのいいの。奇襲成功してなかったら俺もボコボコにされてたし』
夕焼けを一緒に土管の上で座りながら鑑賞して、感謝の言葉を彼にのべたらなんてことなしに返した。
『俺弱いからああいうことしないと勝てないんだよ。ま、運がよかったんだな!』
それでもボクが助けてもらったことに違いない、と思ったものだが。
それから約一年間、ボクたちは交流を深めて空き地で一緒に遊んで、別の親戚のところに行くことが決まってもう遊べなくなると伝えた時には彼がわかりやすく落ち込んでくれたのを覚えている。
ボクは泣きながら「またいつか会えるよ」と強がりを言って、剣くんは頭を撫でながら「そうだな」と優しく言ってくれた。
こうしてボクと剣くんはお別れをして、月日が過ぎていった。
そして二年前、ボクは当時通っていた学校の帰り道に虎型のエヴォルダーに襲われた。
剣くんと別れて以来、自分にできることとして我流ではあったけど竹刀を武器にして戦えるように鍛えてきた。今度なにか会った時、そしてもしかしてまた剣くんに出会えた時に今度はボクが彼を守れるようにと、隣に並んで恥ずかしくないようにと。
しかし圧倒的な身体能力の差、そして少しずつボクをいたぶって喜ぶ奴の口元は忘れることができない。
抵抗した竹刀も容易くへし折られ、死を覚悟した。
そこで奴は背後から胸を貫かれ、ボクには血飛沫が降りかかった。
呆然とした様子で奴が振り返れば、心臓を握っていたエグゼがいた。
そして心臓を握り潰すと同時に奴は事切れて、倒れ伏した。
『お嬢さん、大丈夫かい?』
脳に直接響く声は女性的で、だけどいくらか無機質なことに恐怖を覚えて無言で首を縦にふって答えた。
――今思えばここが人生の岐路だったのだろう。
『申し訳ないが、ちょっと君を連れていく。何、生きて帰すことは約束しよう』
容易に体を持ち上げられ、そのまま現場から飛び去っていく。
普通の生活ではまずありえない光景で、直接当たる風はとても気持ちが良かった。
十分ほど飛んだところで山に下ろされてエグゼは分離して、その場には紅い不死鳥を思わせる形態のエグゼと灰沢志郎がいた。
『俺は灰沢志郎、管理局ってとこで働いている公務員だ』
『私はエグゼ、さっきの様子から私の声は聞こえていたようだからね。もうしわけないが連いてきてもらった』
『……口止めってことですか?』
『話が早くて助かる。俺はさっき公務員と言ったけど、実を言うとスパイで入っているんだ』
カラカラと笑いながらそう言った灰沢さんを見た時のボクの感想は率直に言えば『怖い』の一言だった。
得体の知れない何かをその身に飼っている、というのを直感が告げていた。
『君もエヴォルダー、このエグゼの声が聞こえたんだ。素質はあるよ。だから俺たちと組む気はないかい?』
話がいきなり飛躍したことを今でも強く覚えている。
しかし正直に言えばその問いかけにボクは、魅力を感じていた。
大人の都合で振り回されることに、強い憤りがあったから。
きっと世間的に言えば間違いなく彼は悪い人間だ。躊躇いなくボクを襲った奴を殺したことからも間違いない。そんな人間についていけばボクも間違いなく破滅するだろう。
それでも、ボクは自分の世界を変えることを選んだ。
誰の意思でもない、ボクの意思で。
『はは、その様子だと乗り気みたいだ』
『では荷物をまとめるために一度戻りましょうか。あなたも持っていきたいものの一つくらいあるのではないですか?』
せめてもの慈悲だったのか、エグゼはそう言った。
『いいや、大丈夫だよ。元から今の家にボクの居場所はないから』
露骨に嫌な顔をされ、それを取り繕おうとしない親戚だ。むしろボクがいなくなってせいせいするだろう。
『組む以上は生活面くらい援助してくれるんだろ?』
『もちろん。月々にお金も払うし、休みもある。学校はあきらめてもらうわけだけだからね。リスキーなことに巻き込む以上それくらいの待遇はさせてもらう。さらにエヴォルダーと合体して戦果を上げれば別途報酬を支払う。まぁまず君と性格を合う相棒を見つけないとだけど……よろしく頼むよ』
そう言って差し出された手を握り、握手をした。
それから用意してもらった部屋に住み、数日後に黒鉄を紹介された。
最初こそカタコト混じりのような言葉で聞こえてきたが、要約すると自分にふさわしいかどうかとか抜かされた。
それで特別な模造刀を用意してもらい、黒鉄とは半ば喧嘩気味に互いを認め合った。
『やるナ、女。私は黒鉄トいう』
『花奏だよ。まったく手を焼かせてくれたね。ま、せいぜい互いを利用しあおうじゃないか』
今思えば生身での対峙もなかなかおかしい話だと思うが。
けれどもそれから黒鉄と共に戦い、時にはエグゼと実戦訓練し、そして言われた仕事で複数のエヴォルダーとも幾度となく戦って、勝利をした。
ただ殺すことだけはしなかった。でもそう見えないようには努力はした。
自分が悪事に加担していることがわかっていても線引きは大事だ。命をこの手で奪ってしまったら……そう考えるだけでゾッとした。
灰沢さんやエグゼ、他のメンバーもそのことには何も言わなかった。いや、むしろそれでいいという空気さえあった。
しかしあの日をきっかけにその考え方は変わった。
彼と、剣くんと再会してしまった。
嬉しい思いと、今の自分の立場に葛藤して問答無用に奪えばいいものを躊躇ってしまった。
幼い頃から抱いていた想いはこの日、恋心だとはっきり自覚した。
本当は彼を巻き込みたくなかった。でもボクは自分の欲望にあっさりと負けた。
そして彼のためであれば、人を殺すことをもしようとハッキリと決めた。それがせめてもの罪滅ぼし、という自己満足だとわかっていても。
だから……剣くんがボクのことをしっかりと憶えていてくれたのは本当に嬉しかった。
でもさっきのエグゼたちとの会話でボクが彼のことを話していたから、と言っていた。
つまり、ボクが原因で巻き込んでしまった。
許せない。
ボクはボク自身を、紅花奏を許せない。
「く、ろがね……ごめんね、付き合ってくれ」
今では最高の相棒に謝罪の言葉を口にする。
都宮さん一人では絶対にあのコンビには勝てない。
それはどうあがいても覆しようのない事実だ。ボクと黒鉄だってあのコンビにはタイマンでは勝てない。
『……まったく、しょうがない女だ。お前自身の身体も大概にボロボロだろうが』
「でも、君は付き合って……くれるんだろ?」
『死んでも責任はとらんし、途中で強制解除になるかもしらんがいいな』
「十分さ。ありがとう」
激痛の走る身体で、本当はすぐにも倒れてしまいそうな痛さだけど、刀を杖にして立ち上がる。
「纏われ……黒鉄」
ボクはボクの一番大事な人のために、自分の『命』をベットにして戦う。
合体はしたものの、装甲は所々が破損しており鎧と言うには少しお粗末だが……今はこれでも十分だ。
深呼吸をし、準備は整えた。
「紅さん……!?」
「へぇ……紅くん、俺とやりあおうってのかい? 俺は君のことを連れて帰ろうって思ってるのに」
少しだけ面白そうに灰沢さんは言う。
「お断りだ。ボクが話したせいで剣くんを巻き込んだ……灰沢さん、それで彼に白羽の矢を立てたのは失敗だったね。ボクは貴方を許さない。ここで完全に決別だ」
「はは、思ったより……いや、想像以上に身勝手でしかしこれほど真っ直ぐな愛情を見せてくれるとは。都宮くんといい紅くんといい……彼は自分が思っている以上に愛されていることに気がついてほしいね」
さて、と。
「都宮さん、急造タッグだけどよろしく」
「……! ええ、心強いわ。よろしく」
『黒鉄、君の相棒も女の子だねぇ』
『黙っていろ。我らが組んだとは言え勝率は一割にも満たんのだから』
紅さんのシンザンに呆れる黒鉄、そして利害一致した好敵手。
それから数瞬にも満たず、戦闘が開始された。