エヴォルダー   作:法相

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一章:管理局
3話:管理局


う、ん……」

 

 頭が重い。けれどなにか気持ち良い感触が頭を包んでいる。

 一体なんなのだろうか、力が入らない目蓋を必死に開こうと力を振り絞る。

 うっすらぼやけて見えてきたのは、誰かの顔だった。

 

「あ、起きたわね」

 

 この声は……空き地で聞いた声……

 ぼやけた視界がどんどんはっきりとしてきて見えたのは、俺の顔を覗き込む都宮さんだった。

 

「ぁ……ども……って」

 

 今の俺は横に寝そべっている。そして後頭部は柔らかく、暖かい。

 つまり、俺は今膝枕をされている。

 

「どぅえ!?」

 

 思わず飛び起きてしまった。

 

「おっと」

 

 俺を回避すると「元気そうで安心したわ」と言われ、そのまま転げ落ちた。

 勢いがあったせいか地味に痛い。

 あたりを見渡せばなにやら高級感漂う家具で揃えられた部屋で、今都宮さんが座っているソファーもかなり質が良いのだろう、黒革で光沢がさらに高級感を漂わせている。

 アレだけでどのくらいの値段するのか……少なくとも一般サラリーマンの月の給料より高いだろう。いや、それよりも。

 

「あの、ここはどこでしょう……」

「詳しい話は後できちんと話すわ。まずは自己紹介しましょう。私は都宮一姫、一姫って呼んでね」

「……俺は新城剣です。呼び方はお好きにどうぞ、都宮さん」

「私としては呼び捨てでもいいんだけど? 剣くん」

「からかわないでくださいよ」

「本気なんだけどなぁ」

 

 口をとがらせて愛らしいアヒル口をしてくる。美人なので普通に様になっているのがなんとも愛らしい。

 しかしそれとこれとは話が別で……

 

「ちゃんと説明してもらいましょうか」

「わかったわよ。まぁまずここは私の属する組織、正式名称は長ったらしいからはしょって管理局って言っておくわね」

「そういえばあの女の前でも噛みそうな名前を言ってたな……」

 

 て、違う! いや違わないけど、もっと別の問題があった!

 

「お、俺とくっついてたやつは!? あのライオンみたいなやつ!」

「ああ。あのエヴォルダーくんなら別室で私のシンザンが見てるわよ。新個体だから少し窮屈をかけちゃうかもだけど……」

「とりあえずは無事ってことか。よかった……でもこの組織とやらも気になりますけど、そもそもエヴォルダーってなんですか? 生きてるようだけど、どう見ても、それに触ってもガワは金属でした。ありゃ一体……」

「じゃあ最初にその質問から答えましょう。剣くんもだいたいの想像はつくだろうけどエヴォルダーっていうのはいわゆる金属生命体なのです。それも特別な力を持ったね」

「まぁ明らかに異質な力を持っているのは確かでしょうね」

 

 俺の目の前で二人の女性のエヴォルダーが分離して、それから合体して常人をはるかに超えた動きをしていた。

 俺自身もゼロと会話のようなものもして、同じく合体した。けれども……実感がない。

 あの時のことが夢ではないことは彼女が今ここにいる時点で証明されている。

 

「話を続けるわね。彼ら、あるいは彼女らエヴォルダーの出現経緯は基本的には不明で、今回みたいに上から落ちてくるなんて話は初めてなの。さらに言うならエヴォルダーはその構造のほとんどがブラックボックスで現代の科学じゃ計り知れない存在っていうこと」

「おっといきなり当事者もわからないと来ましたか」

「ごめんね。ただいくつかの特徴はわかっているの。なぜか地球の生物の姿をしていること、会話はテレパシーのようなもので直接頭にくること、そして合体できること。このプロセスを解析さえできれば人類をさらに進化させるかもしれないことから進化を意味する『EVOLUTION』をもじってエヴォルダーって名付けられたの。まぁ存在自体が公になってないけどね」

 

 いわゆる機密事項ということか。

 しかしそうなるとこの話を聞かされた俺も無事ではすまないんじゃなかろうか。

 

「……俺はこれからどうなるんだろ」

「わかんない」

「わかんないんすか!? アンタが連れてきたんでしょう!?」

「いやー上からの指示でねぇ……でも悪いようにはしないから。多分」

「せめて確信してくれませんかねぇ!?」

 

 不安しか煽ってこないぞこの女。

 頭を抑えて大きくため息をついて「厄日だ……」とぼやいた。頭痛がするわ……

 

「ごめんごめん。でも私より事情に詳しい人がもうすぐ来るはずだから……と、噂をしたら」

 

 カツカツ、と足音が聞こえてくる。それと羽の音……そしてドアが開かれる音がした。

 そこにいたのは、三十路半ばのスーツの男だった。年齢は三十代半ばだろうか、少しくたびれている様子に見えなくもない。

 その後ろにはゼロや都宮さんのクワガタもいた。

 

「すまない、都宮くん。遅れてしまった」

「灰沢さん。お疲れ様です。剣くん、こちらの方が私の上司でここの責任者の……」

「灰沢志郎(はいざわ しろう)です。すまないね、こちらの都合で君が意識を失っている間に連れてこさせてもらった」

 

 誘拐じゃん、と思いつつも俺に人質の価値とかないよな、と内心で自虐する。

 少し遅れて俺も自己紹介をして、ゼロが俺の元に来る。都宮さんの方にもクワガタが戻って嬉しそうに頭を撫でている。

 

「で、あの……なんで俺ここに連れてこられたんでしょうか。多少の想像はつくんですがこんな高級そうな部屋にまで呼ばれるほどとは思ってないので」

「ふむ、ごもっともだね。まぁそこのソファーに座ってくれ。ゆっくりと説明をしよう。もしかして都宮くんが説明をしたかもしれないが」

「とりあえずゼロはエヴォルダーとかいう未知の存在で、ほとんど概要がわかってないということはわかりました」

「ざっくりだ……ま、まぁいい。ともあれ君がここに連れ込まれたのは二つ理由がある。一つ目は君が我々管理局の存在を見たこと。それともう一つ、君がそのエヴォルダーと合体できたことだ」

「ん? そこの都宮さんだって合体できたんだから別におかしくない話では?」

『そうイう訳デモないノダ、剣』

 

 頭にゼロの声が響いてくる。なんか最初より片言が減っているような……それは置いておいて、「どういうことでしょ?」と聞いてみる。

 

「君にはそのエヴォルダーの声が聞こえているんだろう? それは私にはできない芸当で、かつ君が選ばれた証明でもあるんだ」

「選ばれたって……そんな大袈裟な」

「大袈裟じゃないわよ? だってこの管理局でエヴォルダーと合体できるの私だけだし。誰でも合体できるんだったらもっと世の中にエヴォルダーが知れ渡ってるわよ」

 

 そういうことだ、と灰沢さんはうなずくが、俺はまだうまく理解できていない。

 

「まぁ君がまだわからないのは無理もない。だが一つ目の理由は納得できるだろ? 我々は極秘裏に政府が作った組織だ。そのため情報漏洩しないように君を連れてこさせてもらった。何も知らずに今日のことをSNSで拡散されてしまったら今後に関わるからね。その上君は牢屋送りだ。それはこちらとしても気分が良くないからね」

「守秘義務ってやつですか。まぁこんなこと人に言って信用してもらえるとも思いませんが」

 

 そもそもスマフォに登録されているのって家族だけだし、ツイングみたいなSNSもやってないし、興味もない。

 俺がこの件を人に漏らすのはまずあり得ないと言ってもいいだろう。

 だがそれを信じて無事解放してくれ、というのはこの人たちにとっては無理な話だろうし、説明義務もあるだろう。

 

「俺は誰にもこのことを話してはいけないし、ネットに呟かない。破れば即刑務所って理解でいいんですよね?」

「その通りだ。迷惑をかけてしまって申し訳ないが……」

「別に気にしませんよ。ま、奇妙なのとも知り合えましたし」

 

 チラリ、とゼロを見る。『奇妙トハなんダ』と直接頭に響かせて訴えかけてくるが、今はスルーしよう。

 一度きりの人生に政府機関本当かは知らんがに関われる機会なぞそうそうない。そう言う意味だけでも貴重な経験だったとも言える。

 

「で、二つ目の理由なんですけど……合体できたことに問題があるんですか?」

「ある。こちらとしては合体できる人材は是非とも確保しておきたい。何しろ彼女でも手に負えないような人物も確認できたわけだしね」

 

 灰沢さんは都宮さんを見ると頭を抱える。合体できる唯一の人間ですら手に負えなさそうな相手が出た以上仕方はないのだろう。

 当の本人である都宮さんは「次は負けないわよ」とも言ってるが……まぁ置いておこう。

 

「別に俺はなにか手伝う分には問題ありませんよ」

「本当かい? こちらとしては嬉しい限りだが」

「ただ何かしらの利益は俺もいただきたい。さすがにただ働きっていうのは割に合わないと思うので」

「もちろん。とりあえずの要望はあるかい?」

「今は休みなんでいいんですけど、このエヴォルダー案件の際に学校をいいふくめてもらうのと……できれば実家からこっちに住まわせてもらうことを許可してもらいたい」

「構わないが……ご両親とは仲が良くないのかい?」

「……まぁ、ガキのわがままだと思って納得していただければ。あとその、言い難いんですがもう一つ。できればその……」

「お金なら支払うさ。リスキーなことに協力してもらう以上、対価は払わせてもらう」

「察してくださってありがたいです」

 

 今後生きていく上でなにかしら金銭は必要になる。

 あとはそれに見合うだけの価値を俺自身が付与しなきゃいけないってとこかな。

 

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