エヴォルダー   作:法相

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4話:一姫とシンザン

「それでは君のご家族に連絡を取るから連絡先を教えてくれるかな」

「はい」

 

 頷いてスマフォを取り出し、連絡リストを開いて見せる。灰沢さんはそれをメモに取り、自分のスマフォに打ち込んで部屋を出てから電話を始めた。

 これで一つ、面倒なことを解決できた。向こうも俺がいないほうが清々するだろうからこれでいいんだ。

 

『剣、少しハ落ち着イタのか?』

「ん、まぁな。てかお前、よく日本語わかるな。いくら機械生命体って言ったって」

『細かイことを気にスルな』

「細かくないよ。都宮さん、ゼロの声って聞こえます?」

「聞こえてるわよ。装着者とでも言えばいいのかしらね、エヴォルダーと合体できる人間はエヴォルダーの声を聞こえるって認識でいいわよ」

 

 隣にいるクワガタ……シンザンも肯定するように頭を一度縦にふる。

 なるほど、納得だ。要は一般人と俺らでは相性、あるいは周波数が違うとでも捉えればいいというわけだ。

 それでも不可解なことはあるけど……今はそう納得するしかない。

 さて、あとは向こうが説得するまで時間をどうつぶすか……

 

「ねぇねぇ剣くん、連絡先交換しようよ」

 

 食い気味に俺に詰め寄る都宮さんに思わず「あぇ?」と変な声を漏らしてしまう。

 

「えと、なんで……」

「なんでもなにも、これから同じ場所で働くわけだから連絡先の交換くらいしときましょうよ。もし緊急連絡があった際には必要でしょ?」

「え、えと……」

 

 いかん、そもそも女性に慣れていないせいで声がうまく出せない。

 それを察してくれたのか、シンザンがテレパシーを送ってくれたようで『一姫ちゃん、彼困ってるよ?』と助け舟を出してくれた。

 あらやだごめん、と素直に一度距離を取ってくれる。

 た、助かった……

 

『剣、ヘタレというヤツなのカ?』

「ヘタレとはちょっと違うけど、あんまり人と会話するのは慣れていない社会不適合者なところは自覚してるよ」

 

 ゼロの問いかけに素直に答える。

 自分に自信がないという自覚も相まってか、人と話すのはあまりうまくない。

 だからいじめられもしてたんだろうけど、今は関係ない話だ。

 

「ごめんねぇ、つい勢いづいちゃった。それと、都宮さんじゃなくて一姫って呼んでよ。さっきは呼んでくれたのに」

「う、人の下の名前呼ぶの慣れてないんですよ……さっきのは嫌味のつもりでしたし」

「あんなん嫌味にもなりゃしないわよ。大丈夫よ、取って食べたりはしないから」

「そ、そうなんですか」

(マジで嫌味のつもりだったんだ……根がきっと真面目なのね、剣くん)

 

 若干視線が生暖かくなって、すっごい母性溢れる笑顔でなんか頷いている。少し怖いぞ。

 とりあえず、ここでは連絡先交換しておくのが吉なのか……? いやでも俺みたいな奴の連絡先いれても「きもい」とか思われないか……

 

『剣、全部口にでてイルぞ』

「うそ!?」

「本当よ。そんなきもいとか思わないって! お姉さんを信じなさい!」

 

 ドン、と自分の胸を強く叩いて「えへん」とこぼす。

 なんか、こういうキャラの人は俺と正反対な気がする。いわゆる陽キャラ、というやつか。

 うーん、こうやっぱり自信がないのはダメなのか……でもご立派な人間でないのは確かだし……

 

「もう、うじうじしないの!」

 

 素早く背後に回り込まれ、思い切り抱きつかれる。

 そして背中にはと、とても柔らかいマシュマロのようなものが……!

 

「み、都宮さん! あ、当たってます!」

「当てているのさー! ほら、早く連絡先交換しないともっとやっちゃうぞー? ついでに一姫って呼びなさーい?」

「わ、わかりましたから! い、一姫さん! お願いですから離れてください!」

 

 自分でも顔が真っ赤になるのがわかりつつ、必死の懇願をして離れてもらう。

 深呼吸をしながら早鐘を打つ心臓を落ち着けつつ、一姫さんを見る。

 彼女はいたずらが成功した子供のように「にひひ」と微笑んでいた。

 

「すまない、なかなか説得に手間取った……って、都宮くん、なにをそんなに嬉しそうにしているんだ? 新城くんは顔真っ赤だし」

「気にしないでください!」

「詮索しないでください……そ、それでウチの両親は」

「ああ。とりあえず少し嘘は混ぜたけど了承してもらったよ。危険な犯罪者に襲われてたからしばらくウチで保護するってね。ただ私物を持ってくるとかなると一度家に行かねばならないけど」

「大丈夫です。とりあえずは安心した……」

 

 ほっと、剣は胸を撫で下ろしその様子を見て一姫は微笑む。

 

『一姫ちゃん、そんなに嬉しいの?』

 

 彼女の相棒であるシンザンは不思議そうに問う。他人が側から見ればわからないが、一姫にだけ聞こえる声。

 それに一姫は笑顔で「もちろん」と答える。

 シンザンは一姫と二年以上の付き合いがあるが、未だに彼女を見て不思議と思うことはある。

 人間とは実にさまざまな個体が存在すると言うこと。

 シンザンが目覚めてから見てきた人間の大半ははっきり言って醜い存在であると感じていた。

 個体差があれど生命体であるエヴォルダーにも当然ながら感情と知恵がハッキリと存在している。

 最初に目にした人間はシンザンを裏世界で売り捌こうとしていた。機械生命体という非常に珍しい存在はそれだけで莫大な金が動く。

 覚醒したばかりで意味もわからずオークションにかけられ、決して気持ちのいいものではない感情がぶつけられた。

 それからあらゆる人間の手に渡っていき、自身の欲望を満たすために自分を所有しようとする人間に心底うんざりとしてしまったと記憶を振り返る。

 そんな生活がどれほど続いた頃だったかもう定かではないが、シンザンは十人目の所有者のところから脱走した。

 これ以上流されるのはごめんだ、と自由を得るために羽ばたいた。

 しかし所有者は諦めなかった。自分の物が反逆することを非常に嫌う性格だったため、痛めつけてでも取り戻そうとしていた。

 幾多もの銃弾を背中で浴び、甲殻は穿たれ山中に墜落した。

 思うように動けず今まで自分の声が誰にも聞こえなかったのを承知で『助けて』と言った。

 そしてそこで駆けつけたのが一姫だった。

 

(あの時一姫ちゃんが来なかったらどうなってたことか……)

 シンザンの話を聞いて、一姫は地の利を最大限に活かして追手を顔も見られずに追い返した。

 

 初めて声が届いたのが一姫で、本当によかったと今でも思う。

 

『人間の武術っていうのは未だにわからないけど、一姫ちゃんって強いよね』

「なによ〜シンザン。褒めてもなにも出ないわよ〜?」

 

 ニコニコとして嬉しそうな顔を見るとシンザンも温かい気持ちになる。

 

「? なんの話してるんですか?」

「シンザンが私のことを強いと褒めてくれてるのよ。いや〜いい相棒を持てたものです」

「なるほど……確かに凄かったですもんね」

『わかってくれるなら嬉しいなぁ』

「なら……よかったのかな。えと、そのシンザンさんもよろしく……」

『よろしくお願いしますね。そちらのエヴォルダーくんも、ね』

『うむ、マダ言語がアヤふやなトコロもアるが頼む』

「その辺もすぐ慣れるわよ。それじゃ灰沢さん、剣くんはどこに寝泊りするのか教えてくれますか? 私が案内したいのです」

「ああ。君の隣の部屋だよ。新城くん、これが部屋の鍵だ。なくさないようにね」

 

 灰沢は懐からカードキーを取り出し、剣に渡す。

 それを見て一姫は目を輝かせ剣の手を握り、引っ張った。

 

「ちょ!?」

「さぁ行きましょう! 私たちが行くのは寮だけど設備すごいから楽しみにしてね!」

『……御主ノパートナー、いつモああナのか?』

『昔より元気いっぱいかな。それじゃあ私たちも行きましょう。一姫ちゃん歩くペース早いから』

 

 うむ、とシンザンの言葉に同意しゼロたちは少し遅れて二人の後を追った。

 

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