エヴォルダー   作:法相

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7話:事件の匂い

 剣と一姫の特訓が行われているのと同時刻、街の廃工場にて事件が起こった。

 麻薬密売の現場を取り押さえるために屈強な警官たちが扉を蹴破り、突入した時にそれは起こった。

 

「警察か……」

「先生、頼みますぜ! お前ら、先生が抑えてくださってるうちにずらかるぞ!」

 

 どこかやさぐれたような男と、その雇い主である小太りの男。背後には他の商人や顧客がいてすぐに逃げ出そうとしている。

 警官たちはすぐに追いかけようとするが、突如落下してきた物体によって阻まれる。

 落ちてきたものは、金属の外装を被ったバッタだった。

 

「まさか、エヴォルダー!?」

 

 隊長である男はエヴォルダーのことを名前だけは聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。

 

「相棒……いくぞ。変身」

『了解だよ、兄貴!』

 

 男の言葉と共にバッタは分解されて男に装着されていく。

 

「! 全員撃て!」

 

 部下たちに指示を下し、警官たちも発砲する。

 連続した銃声が鳴り響き、弾丸は狂いなく男、八咫鐘志郎やたがね しろうに向かって放たれる。

 

「……嘘だろ」

 

 全員が持っている弾丸を撃ち尽くした。

 総勢十数人はいる警官の拳銃を全てだ。いくらか外れているとしても個人という敵に対してはオーバーキルの火力だ。

 しかし、それほどの銃弾を志郎は全くもって意に介していなかった。

 むしろ彼はつまらなさそうにため息を吐く。全くのノーダメージ、信じられなかった。

 

「はぁ……お前ら、大したことないな。面倒だからとっとと終わらせるぞ」

 

 バッタの脚を模した脚部パーツが可動し、それに合わせて志郎は飛び上がった。

 

 一分後、現場はズタボロになり、動けなくなった警官たちが転がっていた。

 

 

「ん、スマフォが鳴ってるわね」

 

 組み手をあれから数戦行い、全敗を喫していたところに俺たちのスマフォが同時になる。

 どれどれと俺たちはスマフォを開くと灰沢さんからメッセージが来ていた。

 

『麻薬密売を行なっていた組織を取り押さえるために出向いた警官部隊全滅。証言からエヴォルダー絡みの事件と断定、至急現場に向かう。迎えが行くから現在位置を教えてくれ』

「昨日の今日でもう事件かよ……」

「人生は思うようにはいかないわよ。剣くんは休んでてもいいのよ?」

「冗談でしょ、このくらいの予想外は予想内です」

『ソレは結局ドッチなのダ?』

 

 深くは聞いてくれるな、相棒よ。男の子だからこういうこと言いたい時もあるんだよ。

 とはいえ、本当に非日常な出来事だ。これにもいつか慣れるのか、正直怖い気持ちもあるけど今さらだ。

 現在位置を灰沢さんに送り、覚悟を決めた。

 

「行きますか、ゼロ」

『承知。精々死なナイよう二立ち回れ』

 

 もちろん、とゼロの鼻先に拳を当てて気合いを入れる。

 

「やる気はバッチリね。いいわよ、それでこそ男の子! 安心しなさい、カバーは先輩としてしっかりとしてあげるから」

「お願いしますよ、一姫さん」

「もちろんです!」

 

 彼女とも腕同士を合わせて士気を上げる。ゼロとシンザンもそれになにか感じたのか似たように双方の足の爪先でさわりあっていた。

 そして数分と経たずに黒い迎えの車が現れ、俺たちは乗り込んだ。

 ……しかしこの車でかいな。俺らはまだしもゼロたちも余裕を持って入れるスペースあるとか。

 

「そりゃ物体として存在している以上、運べなくて事件解決できませんでしたじゃ話にならないからね。こういうことに経費をケチってはいられないよ」

「って、灰沢さん!?」

 

 運転手はまさかの灰沢さんだった。え、普通は専属ドライバーとかじゃないの!?

 仮にもここの偉い人なんだよね!?

 

「現場で見ないとわからない部分も多いからね。なるべく私も一緒に出ることにしているんだ。仕事なら安心したまえ、ちゃんとできる者に分担してやってもらっている。持つべきは優秀な部下だね!」

 

 現場主義なのか、この人。

 と、感じるのも束の間。急激に車がトップスピードを出して走り出した。

 ちょっと待てこれ何キロ出てるんだ!? あわててスピードメーターを見ると、すでにメーターを振り切っていた。

 

「って、アホか!? これ交通法で捕まるしそれ以前に事故るだろ!? てかこれ違法改造してない!?」

「あー大丈夫よ剣くん。これでこの人一回もクラッシュしたことないから」

 

 すでに慣れているのか一姫さんはのんびりとくつろいでいる。

 いやクラッシュするしない以前の問題だよ! 道交法で捕まるだろこんなん! あ、この人も公僕か。

 

「これならヘリとかの方がよくないですか!?」

「残念ながらその免許を持つ人材が派遣されなくてね。本当に申し訳ない」

「そんな理由!?」

 

 ケチる以前にすでにケチられていたようだった。

 本当に公僕かよ、管理局。さすがに不憫に思えてきた……

 しかしすでに交通規制と報道規制がされているのか、事故ることもなく恐ろしいほどにスムーズに現場の廃工場にたどり着いた。マスコミもいないとかマジかよすげえな。

 そのことを呟くと灰沢さんは「あいつら人じゃないけど人語を介するから困るよねぇ」と微笑みながら言っていた。でも目が笑ってねえ。

 

「そうね。変なタイミングで芸能人捕まえてごまかそうとするし、私マスゴミきらーい」

「あえて言わなかった単語をバッサリ言い切ったよこの人」

 

 灰沢さんもそうだけど一姫さんもなにかマスコミに嫌な思い出でもあるのだろうか。

 と、俺たちに気づいたのか頭を包帯で巻いている警官が近づき、灰沢さんに敬礼してことのあらましを伝え、そのまま怪我の痛みで苦悶の顔を浮かべつつ他の警官の肩を借りて去っていった。

 ゼロやシンザンを見つつも驚かないことから、今回の件でエヴォルダーの存在を実感していたのだろうか。

 

「……ところで今の人お知り合いですか?」

「まさか。ちゃんとここに来る前に連絡はいれといただけさ。私と君たちの特徴と、ライオン型とクワガタ型のエヴォルダーと一緒に来るっていうね」

 

 なるほど、と納得する。何事も事前に話しておけばスムーズってことだな。

 それに灰沢さんと同じ公僕だから秘密も守られる、と。こうやって知らないというか社会の常識と闇の部分を同時に見れるのは案外貴重な機会だからしっかり覚えておこう。

 

「で、敵さんはバッタのエヴォルダー使い、と。昆虫型という意味ではシンザンと一緒ね」

『私と一姫ちゃんなら負けないよ。問題はどこにいるかだね』

『……匂ウ、な。我ラ以外のエヴォルダーの匂イ。追跡は可能ダ』

 

 え、と俺と一姫さん、そしてシンザンも一様に驚く。

 

「どうした?」

「え、えっと……ゼロが匂いが分かるから追跡可能だって言ってます」

「……犬かな? いや、それよりも本当か!?」

「本人がそう言ってるんで……試してみる価値はあるかと」

 

 どうせほとんどがブラックボックスで未知の存在なんだから、信じて動くのも十分に価値があるだろう。今は即断即決すべきだ。

 

「よし、急ごう。あ、でも車に乗ってわかるかな?」

『無理ダ。車ダト匂いが遮断されルからすまンガ歩け』

「無理なので徒歩だそうです!」

 

 あ、わかりやすく顔がしょぼんとなってる。

 

「それじゃあ私と剣くんが先行してきます。灰沢さんは戦えないでしょうし」

「すまないが頼む。それとエヴォルダーがバレないように慎重に。それとこれはGPS、持っておいてくれ。場所が分かり次第私も車で向かい管理局、警察にもバックアップを頼む」

「了解です! それじゃあゼロ、道案内頼む」

『承知』

 

 クンクン、と地面の匂いをかいでゼロが先導を始める。

 さて、どんな相手か……不安半分に俺たちはゼロについていった。

 

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