10
ジオン公国のスペースコロニーの多くは他サイドが採用している開放式コロニーではなく、密閉型コロニーを採用している。
密閉型コロニーは中央に日光ライトが備えられており、開放型コロニーと違ってそれが太陽の代用になる構造をしている。そのため低コストで土地を効率よく使える利点があったが、地球の景色を知っている世代からすれば、閉じた世界ともいえる構造の密閉型コロニーへの不満が無いわけではなかった。
U.C.0079年1月3日の早朝、日光ライトが点灯しない早朝からズムシティに置かれた政府機関は表面上はいつも通りであったが、裏を覗けば官僚たちがバタバタと働いていた。
その中でも公王庁内部では殺気だった空気が流れていた。
謁見室には張り詰めた空気が室内を支配し、玉座に座るデギン・ソド・ザビとギレン・ザビが向き合っていた。
2人の周囲をジオン軍の高級将校と官僚たちが周りを囲み、ギレンの言葉を待つ。
「デギン公王」
殺気だった沈黙が支配するこの場を裂くようにギレンの一声が響いた。
デギンとギレンは親子の関係にあるが、この場では公王とジオン軍総帥として2人は立っている。
「本日7時20分をもって我がジオン軍は地球連邦政府に対し宣戦を布告致します」
言ってしまったと、この場に立つ官僚の一部は異口同音に内心でそう呟いた。
「今から3時間後、ドズル麾下の部隊が宣戦の布告と同時に連邦の艦隊に対し、攻撃を仕掛ける手筈となっております」
この場でのやり取りは台本通りだ。
ジオン公国の公王であるデギンに地球連邦への宣戦布告を上奏し、決裁を貰う。
実際は既に準備は殆ど終えているため、この場でのやり取りは儀式的なものだ。
この場で何を言ったとしてもジオンの命運は変わらない。
それは分かっていても、この場に立つ官僚の一部は暗澹たる思いでこの場にいた。
「この戦、勝算はあるか?」
「これから行う作戦について説明します。ご覧ください」
ギレンがそう言うと高級将校たちが3Dプロジェクターを起動し、プレゼンテーションソフトの画面を表示させた。
ギレンの隣に高級将校の1人が立ち、3Dプロジェクターの画面にレーザーポインターを当てた。
高級将校がギレンに代わり、デギンへ説明を始めた。
「我が軍は宣戦布告と同時に連邦軍艦隊に奇襲を敢行、並行して月のグラナダ市を制圧します。グラナダ制圧後、サイド1、2、4に対して攻撃を実施し、その後……」
画面が切り替わり、一基のスペースコロニーが表示される。
「サイド2の8バンチコロニー『アイランドイフィッシュ』に核エンジンをセットし、連邦軍総司令部が設置されている地球の南アメリカ大陸に対してコロニーを質量兵器として落とします」
「コロニー落としというべきだな」
デギンの言葉に高級将校は頷いた。
「コロニーの質量をもってすればジャブローを岩盤ごと消滅、同時に地球環境にも大打撃を与え、反撃準備も大幅に遅らせることができます」
「理には叶っている。しかし、何故アイランドイフィッシュに核エンジンを着ける。廃棄コロニーを落とした方が良いのではないか?」
「アイランドイフィッシュは初期に建造されたコロニーの1基です。他のコロニーよりも過剰な強度を持っています。
スーパーコンピュータでのシミュレーションの結果、アイランドイフィッシュ以外のコロニーを地球に落とすと大気圏内で分解する可能性が高い結果が出ました。
他にもサイド5の11バンチコロニー「ワドホート」とサイド6の「イズマ・コロニー」が候補に上がっていましたが、今回の作戦ではどちらのサイドも攻撃の対象外になるため除外しました」
「アイランドイフィッシュ以外はありえないということか」
「その通りです」
見事なまでに台本通りだと官僚の1人は思った。
上奏のために何日も準備してきたのだ。
デギンが質問するであろう内容をあらかじめ考えておき、粗がないようにしてたのだ。
「軍事に関してはワシは素人だ。貴公らに任せよう。だが、現実の許す限り戦争を早く終わらせて欲しい」
そういうとデギンは3Dプロジェクターから高級将校に視線を向けた。
「かつての世界大戦で連合国と中央同盟国は原子爆弾の報復合戦をした結果、ヨーロッパ大陸は破壊し尽くしされてしまった……戦争の長期化は双方共に悲劇を生む」
一通りの説明は終わり、デギンは開戦を承認するために決裁を進めていく。
「…キシリアはまだ目覚めんか」
自身の隣に立つギレンにデギンは力無く言った。
「あれだけの爆発に巻き込まれたのです。キシリアの引き継ぎには難儀してますよ」
デギンの手が震える。
キシリア・ザビはザビ家の長女であり、他のザビ家の例に漏れず、ジオン軍の要職である突撃機動軍司令に就いている。
本来であれば、キシリアはグラナダ市の制圧のために今頃は紫色に塗装したチベ級戦艦パープル・ウィドウに乗っているはずだった。
だが今、キシリアは病院のベッドの上にいる。
「爆弾を仕掛けた犯人も見つかってないのだ。もしまたキシリアが命を狙われるようなことがあったら…」
今から2週間前にキシリアが乗車していた公用車が爆発する事件が発生した。
爆発の原因は車体に設置されていたプラスチック爆弾によるもので何者かによるテロだった。
運転手は死亡、キシリアは辛うじて一命を取り留めたが昏睡状態に陥っており、2週間経った今でも回復していない。
爆弾を仕掛けたのは犯人は未だに逮捕できておらず、それもデギンには苛立ってしょうがなかった。
「キシリアの穴は必ず埋めます。それが軍隊のシステムです。父上」
デギンは顔を顰めるのを隠そうともせずに筆を進め、決裁を終えた。
暗澹たる思いが更に深くなったと官僚の一部は思わざるを得なかった。
ジオン共和国が成立した時点で、ジオンと地球連邦の戦争はいずれ訪れる試練だったのかもしれない。
他サイドに比べれば質量共にあらゆる面で勝るジオンでも地球連邦と比べれば雲泥の差だ。
まともに戦えばすり潰されて負ける。
そんなジオンでも地球連邦に勝つためにはコロニー落としによる短期決戦しかない。
軍部は1週間でケリをつけると言っていたが、ケリをつけて貰わないと勝ち筋が無くなってしまう。かつての世界大戦のように戦争が4年に及んでしまえば、ジオンは確実に負ける。
ジオン唯一の勝ち筋であるコロニー落としだったが、この作戦を成功させるためには同胞であるスペースノイドに手をかけなければならなかった。
最新兵器であるモビルスーツに核弾頭を発射できる携行火器でスペースコロニーを破壊する。
この場にいる誰もが口には出さなかったが、アイランドイフィッシュに対する毒ガスの投入も決まっている。
同胞たるスペースノイドに対してNBC兵器をバンバン使い、挙げ句の果てに自分たちの故郷であるスペースコロニーを地球にぶつけるのだ。
このコロニー落とし作戦を推進する軍部と官僚たちは事情を知る者たちにこう言い放った。
「ジオニズムを掲げるジオンこそがスペースノイドの代表であり、それに味方しないスペースノイドはアースノイドの味方だ。彼らにはジオンの礎になってもらう」
ジオン以外のスペースノイドを皆殺しにすることは後世に禍根が残ることは間違いない。
曲がりなりにもスペースノイドを守ろうとする地球連邦と独立を宣言してあらゆる虐殺行為を行おうとするジオン公国、いったいどちらに正当性があるのだろうか。
ジオンが勝とうが負けようが銃後の世界は悲惨なことになる。
デギンは穏やかな振る舞いをしているが、実態としては地球連邦との関係を悪化させるような政治をしてきた。
長男のギレンはとんでもなく頭は良いが何を考えているのかまるで分からない。
コロニー落とし作戦もそれが戦争に勝つための手段ではなく、目的なのではないかという見方も一部では出ている。
開戦の儀式を眺めていた官僚たちの一部はそう思いながらも、自分たちの仕事に専念することにした。
戦争は避けられない。
ならば、双方の犠牲が最小限に済むように尽力すべきだろうと思うようにした。
これから起こる将来について知らないフリをすることを彼らは決めた。
11
ニャアンはジョンの家の玄関の鍵を開けた。
その手にある鍵はジョンの両親が出張する前に、ニャアンの家族に預けていた合鍵だ。
滑り込むように中へ入り、玄関が閉まると再び施錠し、合鍵をパンツのポケットへしまう。
足音を立てずに廊下を歩き、ジョンの部屋の前まで辿り着くとニャアンは部屋のドアをゆっくりと開けて室内へと入り込む。
ジョンの部屋は殺風景だ。
相変わらずデスクとチェア、ベッドにクローゼットくらいしかまともな家具がない。
ニャアンはベッドまで歩くが、狭い部屋なのですぐに辿り着いた。
ベッドにはジョンが寝ている。
毛布を被り、無防備な寝顔を晒しているジョンを見てニャアンは口元を緩ませながらベッドの上へと足を運ぶ。
ニャアンは毛布越しにジョンへ跨り、彼の上体へと倒れ込む。
ジョンは多少呻くが、眠りが深いためか起きない。それをいいことにニャアンはジョンの顔に近づいた。
ジョンが起きてないことを確認するとニャアンは唾液を垂らしながら舌を出した。
そしてニャアンはジョンの顔を舐め始めた。
最初は口の周りから舐め、次に頬、顎を舐めていく。
ジョンの顔が唾液まみれになったのを満足するとニャアンは毛布へと体を滑らせる。
ジョンの体温で温められた毛布の中でニャアンは自身の体をジョンへと密着させる。
「いいにおい…」
ジョンの髪の匂いを嗅ぎながらニャアンは顔を緩ませる。
遺伝子技術の研究者で家を空けることの多いジョンの両親に代わって、ジョンはニャアンの一家と関わることが多い。
以前までは両親が家を空けることが多いとそのままニャアンの家に泊まっていた。
そういう時はジョンとニャアンが一緒に寝ることが多かったが、最近になってジョンは1人で寝たいと言い出すようになった。
ニャアンは断固反対したが、ジョンに押し切られる形で別々に寝るようになった。
『もう11歳になったんだから1人で寝ようよ』
『ジャック、わたしのこときらい?』
『男女七歳にして席を同じゅうせず、と言うだろ?』
『なにそれ?』
聞いたこともない言葉を話すジョンにニャアンは首を傾げたが、今になって理由が分かった。
ジャックは自分をエッチな目で見ているのだ。
胸、尻への視線はすぐに分かった。
特に髪型をポニーテールにすると食いつきが良い。
ジャックは変態だ。
エッチに耐えきれなくなって自分から逃げ出したのだ。
自分をそういう目で見るジャックの視線がニャアンには心地良い。
ジャックは自分以外にも女友達はいるが、エッチな視線を向けるのは自分だけだ。
ジャックの視線を独り占めして良いのは自分だけなのだ。
ジャックは変態だ。
だから自分がジャックのしっかり面倒を見なければならないのだ。
そう思いながらニャアンはジョンのパジャマ中に手を入れて彼の胸板を触った。
自身の膨らんだ胸とは違ってがっしりとしたジョンの胸にニャアンは互いの性別の違いを感じる。
そのまま微睡に身を任せ、ニャアンはジョンの首元に顔を埋めた。
ニャアンからは見えていなかった。
ジョンの枕元にはT字型の金属片が置かれており、淡い光を放っていた。
12
初夢は新年を迎えた時に見る夢だ。
どのタイミングで見る夢なのかは諸説ある。
1月1日から2日もしくは3日までに見る夢か、はたまた新年で最初に見る夢のことを指すのかは解釈が分かれる。
ジョンが初夢という言葉を知ったのはジオン公国に滞在した時のことだった。
去年の夏休み、両親の仕事に同行してジオン軍の海兵隊の訓練を見学した時に仲良くなった部隊の人たちからそんな話を聞いた。
アイランドイフィッシュから離れたジオンでの数日間はジョンにとって刺激的で楽しい日々だった。
隊員たちもジョンが思っていた以上に気さくで彼らの故郷のコロニーに伝わる文化をジョンに教えてくれた。
コロニーの文化以外にも彼らはジョンに様々なことをレクチャーしてくれた。
見様見真似で近接格闘(CQC)をやったり、銃器の安全な取り扱いや射撃の5要素といった軍隊では欠かせない要素をジョンは吸収した。
そういう戦いのための知識というのは自分が強くなったような気がしてジョンも悪い感情は湧かなかった。
だが、そのことをアイランドイフィッシュに帰った後、ニャアンに話すと非常に機嫌が悪くなった。
『ジャックはひとごろしをするの?』
『ひとをころしたらジャック、けいむしょにはいっちゃう』
『ジャックにあえなくなっちゃうなんてそんなのわたしはいやだよ』
ニャアンからそんなことを言われると思っていなかったジョンは冷や水を浴びせられたようで何も言い返せなかった。
ニャアンの言い分は間違ってはいない。
CQCと銃は人を殺すために生まれた技術だ。
それをカッコいいという考えだけで学ぼうとすればその事実をニャアンから指摘されるのは当然といえば当然だった。
だが、同時に自分を否定されたようにもジョンには思えた。
ジオンの海兵隊と共に過ごした短いあの日々が何の意味も無かったと言われたようにも感じてしまったのだ。
ニャアンは大切な幼馴染だ。
冷や水を浴びせられたとしても彼女を大切にしたい。それに彼女の身に何かがあれば、すぐに動く自負はある。
あの時のニャアンは正しいことを言っている。
それを分かっていながらもジョンの心は無意識にニャアンから離れていった。
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