月の処女 [旧題:Plazma大作戦]   作:そらまめ

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PHASE-06 初夢

 

 

12

 

 

 ジョンは1月1日と2日の朝は夢を見なかったので初夢は見ずに終わるのだと思っていた。

 だが、ジョンは目の前の光景を見て、これを初夢にカウントするべきなのか悩んでいた。

 

 ジョンの目の前にはキラキラが広がっていたのだ。

 

(何で僕はまたキラキラを見てるんだ?)

 

 1月2日の夜、ちゃんと自宅のベッドで眠ったはずだ。

 それなのに何故、クリスマスイブに見たキラキラのような場所にいるのだろう。

 T字型の金属片は近くにない。

 ジョンがどうしたことかと悩んでいると突然視界が真っ黒に塗りつぶされた。

 

「えっ!?」

 

 思わず声に出るくらい困惑していると、どこからともなく声が聞こえてくる。

 

___あの時、陽射しをはらんで輝いていた。

 

___癖の強い赤毛の私とは違い、幼いキャスバルとその妹は柔らかなブロンドの似合うまるで童話の挿絵かり抜け出して来たような子供たちだった。

 

___もしこのような愛らしい子が持てるのなら母親になるのも悪くない、そう思った事もあった…

 

 真っ黒な視界を切り裂くようにジョンの横をビームが通り過ぎる。

 雨のようにビームが降りしきり、宇宙空間に色鮮やかな光の軌跡を作っていく。

 ビームが跳び、ビームが舞う。

 その軌跡がミノフスキー物理学によって生み出されたメガ粒子砲の光であるとジョンはすぐに気付いた。

 人間に当たれば即死し、軍艦の装甲をスパスパ抜ける殺傷力と効率性だけを追求したミノフスキー粒子が奏でるメガ粒子砲、その持ち主を探してジョンは左右を見渡す。

 

 持ち主はすぐに分かった。

 

 奇抜な形をしたモビルアーマーが、有線式のメガ粒子砲を放ちながら中世の甲冑を着込んだようなモビルスーツを追いかけ回している。

 そのすぐ近くでは赤色に染め上げたモビルスーツに対して紫色のチベ級重巡洋艦が砲撃をしている。

 少し視線を外せば白いモビルスーツ相手に2体のモビルスーツが戦っている光景が繰り広げられていた。

 

(ジオンの内輪揉めか?)

 

 この戦場に投入されているモビルスーツ、モビルアーマー、チベ級、どれもジオン公国が発明したものばかりだ。

 戦闘艦であるチベ級はともかく、モビルスーツとモビルアーマーはコロニー公社発刊の小冊子にも乗るくらいには知名度はある。

 もっとも、良い意味での知名度ではない。珍兵器として冷笑の対象としてだ。

 

 人型兵器であるモビルスーツは非合理的、宇宙戦闘機より巨大なモビルアーマーは戦艦の的である。

 

 そういう意見がジョンの周囲には根強い。

 人型兵器が軍隊に採用された前例はあるが、宇宙世紀0070年代に入って本格的に開発に取り組むジオン公国の姿はミリタリー知識を持つ者には滑稽に見えたのだろう。

 彼らは地球連邦軍が奇をてらうことなく、淡々とマゼラン級戦艦と宇宙戦闘機の開発に注力していることを絶賛しているようだった。

 

 ジオニック社は自社で生産しているモビルワーカーを「プチモビルスーツ」というブランドで販売している。

 ことからもジオン公国全体でも「モビルスーツ」という兵器に並々ならぬこだわりがあるのだろうとジョンは思っていたが、その熱意と相反するようようにモビルスーツが実戦に投入されているという話を聞いたことがなかった。

 実力が未知数のモビルスーツを珍兵器扱いする評論家の意見も仕方ないが、こうして実戦投入されているモビルスーツたちを見るとその実力は確かなものだろう。

 

 騎士モビルスーツは優れた回避能力でメガ粒子砲の攻撃を回避していく。

 モビルアーマーはその推進力で大重量のボディを騎士モビルスーツに向かって加速させる。

 

 2vs1で戦っているモビルスーツたちも良い勝負をしている。

 青色のモビルスーツと紫色のモビルスーツと対峙するトリコロールのモビルスーツはその実力を存分に生かして戦っている。

 

 この戦場を見てジョンの内心で沸々と血がたぎるような思いが湧いてきた。

 

『こいつらと戦ってみたい。戦い、勝って己の強さを証明したい』

 

 ジョンは目を皿のようにして戦う相手を見定めようとする。

 

(青色と紫色のパイロットはモビルスーツの性能頼りで大したことはない。騎士モビルスーツのパイロットは優秀なパイロットなのだろうが、あまり面白くない。赤いモビルスーツとモビルアーマーは強そうだ。ぶちのめそう。

 

 この面々の中で一番やりがいがありそうなのはトリコロールの奴だ。

 

 トリコロールのパイロットを倒せば俺の強さは証明できる。

 それにあの動きだ。

 アグニ、シュベルトゲベール、バラエーナのような大味なものばかりでは避けられるだけで終わる。楽しくなりそうだ)

 

 ジョンは自分が何を考えているのか理解できていない。

 ただ、自分より強そうな相手と戦いたいという欲望だけで目の前の戦場を観察する。

 

 赤いモビルスーツがデブリの中から手持ち式のバズーカを持ち出してきた。

 どうやらそれでチベ級の艦橋を破壊するようだ。

 先程まで赤いモビルスーツは丸腰だったので武器を現地調達する根性は見習うべきだろうとジョンは考えながら、バズーカの矛先を見た。

 

 チベ級の艦橋、トップが座っている席には特注の軍服と紫色のマスクを着用した女将校が目の前の赤いモビルスーツを目にして驚愕の表情を浮かべていた。

 

 その女将校の姿をジョンはテレビで見たことがある。

 

「キシリア・ザビ…?」

 

 ジオン公国のデギン公王の長女、キシリア・ザビがどういう事情かは知らないが、戦場のど真ん中にいるのだ。

 キシリアはジオン軍のトップとして色々な意味で有名な人物だが、そんな人物がどうしてこんなところにいるのだろう。

 

 赤いモビルスーツは左マニュピレータでチベ級、恐らくはキシリアに向けて敬礼をした。

 左手での敬礼は侮辱や無礼の意味合いがある。

 無礼の作法のまま、赤いモビルスーツは右腕で保持しているバズーカをチベに向けて発射した。

 バズーカから発射された弾頭はチベ級の艦橋に吸い込まれるように消えていき、次の瞬間には凄まじい爆発が発生した。

 

 艦橋にいる要員は全滅だろう。

 キシリアも死んだはずだ。

 ジョンは淡々とその現実を理解しながらも、赤いモビルスーツの動向を見守る。

 

(何があったんだ一体?)

 

 トリコロールのモビルスーツと戦いたい衝動を無意識に抑えながらジョンはこの場で何が起こっているのか気になり始めた。

 この場にいるモビルスーツたちは当たり前のようにビーム兵器を使っているが、ビーム兵器は艦艇に搭載される代物のはずだ。

 いつの間にモビルスーツが携行可能なサイズにまで小型化できたのだろう?

 ジオン同士が戦っていることもおかしいが、そもそもここはどこなのだろう?

 戦いの舞台になっている宙域には見慣れない建造物がある。

 小惑星とスペースコロニーを組み合わせたような構造だが、ジョンは嫌な表情を浮かべた。

 

 この建造物から嫌な予感がするのだ。

 

(こいつら何と戦っているんだ?)

 

 赤いモビルスーツはモビルアーマーと戦い始め、青色と紫色は先ほどよりも連携してトリコロールと戦うようになり始めた。

 

(まぁ、そんなことはいい。戦おう)

 

 ジョンはゆっくりと歩を進めた。

 

 トリコロールのモビルスーツと戦いたい。

 そのためにはあの青色と紫色が邪魔だ。

 先にあの2体をぶちのめした後にトリコロールのモビルスーツと戦おう。

 

 まるで遠足に行くような気分だ。

 去年の学校行事の遠足も楽しかった。

 チャナ、カムナン、アキコの班で色んな場所を回った。

 彼らは明日、初詣に行くと言っていた。

 混んでいなければいいが…

 そういえば、あの時は一緒の班にならなくてニャアンが悲しんでいたな……

 

(…モビルスーツと戦おうだなんて、僕は何を考えているんだ)

 

 ニャアンの名前を思い出した時、ジョンは冷水を浴びたような気分になった。

 CQCの話をニャアンにした時と同じ気分だ。

 

 ジョンは急速な勢いで我に返る。

 

 それと同時にジョンは背中から羽交い絞めにされた。

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「え?」

 

 マチュの叫び声と共にジョンは背中から後ろに倒れこんでしまった。

 

 

13

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 何が何だか分からず起き上がるジョンだったが、彼の目の前には息を切らしたマチュがいた。

 

「だめ、あんなとこにいったら…ジョンしんじゃうよ!?」

 

 マチュが後ろを指さして叫ぶ。

 ジョンが振り返るとそこには何もない。

 先程までと同じようにキラキラが続く空間が広がっている。

 

「…確かに、ありがとう」

 

 取り繕うようにジョンはマチュに礼を言った。

 

「ジョン?」

 

 ジョンの背中にマチュがしがみつく。

 

「さっきのはなに?せんそう?」

 

 マチュの声は震えていた。

 

「多分そうだよ。ジオンが味方同士で戦っているんだ」

「なんでせんそうなんかしてるの?」

 

 モビルスーツを大々的に配備している組織なんて今のところジオン軍しかない。何の根拠もないがジョンはそう言うしかない。

 ジオンの内輪揉めの理由なんてジョンは知らない。

 マチュの問いには首を横に振るしかなかった。

 

「夢見たいな場所で夢を見るとは…川の中から水面を眺めているような気分だ」

 

 地球にいた頃に綺麗な川で遊んでいた時のことをジョンは思い出す。

 あれにグラデーションを付ければこのキラキラに近い光景になるだろう。

月の処女、おっぱい/Plazma大作戦について

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