トレーナーズ・トレーニングセンター。略してトレトレは、ポケモントレーナーを目指す少年少女たちが、ポケモンの知識……生態系などではなく特性や相性などバトルの知識を学ぶ場所。
フェナスシティの自治がしっかりしているもう1つの理由が、トレトレの塾長セイギの存在だ。オーレコロシアムで入賞を果たしたということで、その実力は折り紙つき。スナッチ団もフェナスには手を出せなかったのは、セイギがいるところも大きい。
「……ふぅん」
紙の教材を一通り捲り、レオはひとつ息を吐いた。
公立の教育機関というものがないこの地方は、ポケモンの相性や技、特性を知る手段すら限られる。ネットが普及する一昔前は、他地方では常識とされるタイプ相性ですら知らなかった人間も多い。そもそも識字率も低く、スナッチ団で習得しているのはレオとヤッチーノ、そして首領のヘルゴンザくらい。他地方とは比較にならないくらい、遅れているのだ。
唇を噛み締めたレオは、ボールからの振動で我に返った。労わるようにボールをコート越しに撫で、空いている椅子に腰を下ろす。
「あ、ほら。レオも飲みなよ。美味しいよ」
レオの向かいに座るミレイは、呑気にコーヒーを啜っていた。
「……お前、もう少し緊張感を持て」
淹れられたコーヒーの芳しい匂いが、レオの鼻孔に届く。どちらかというと紅茶党のレオはあまり好んで飲もうともしなかったし、そもそも嗜好品が貴重なので口にしたことは殆どない。
舌の上で慎重に味わい、苦味に眉を顰めながら、ゆっくりと嚥下する。
「……毒は、ないようだな」
「え゛」
レオの台詞に、ミレイは危うくコーヒーを吹き出すところだった。
「ど、毒って……」
「微量だと分からんが、その程度なら手持ちの解毒剤で何とかなるだろう」
「レオって、そんなことまで気にするんだ……」
ふと何故か、かつてヘルゴンザに気にし過ぎだと鼻で笑われたことを思い出した。幼い頃の悪癖は、未だに根付いているらしい。大分薄れたと思っていたのだが、ここに来てぶり返したようだ。
自ら棄てたものに郷愁に耽りそうになり、すぐに思考を逸らす。幸いにして、話題はそこら中に転がっていた。
「っていうか、毒とか分かるもんなの?」
「餓鬼の頃色々あってな」
「ふーん……それってやっぱり、スナッチ団にいたから?」
直球な質問に、思わずレオは苦笑する。
「……いや。それとこれとは別だ」
しかし、もう隠していても仕方のないことだろう。
レオがスナッチ団に所属していたということは知られてしまったし、今後行動を共にする以上スナッチ団の追撃は避けられないだろう。
「というか、お前はそれでいいのか。お前が護衛を依頼したのは、盗賊団の元幹部なんだぜ」
「うーん、確かにそうなんだけどね……」
ミレイはまじまじとレオの顔を見る。
「私、スナッチ団のことよく知らないし。知る前にレオと会っちゃったし、どうしてもレオって悪い人には思えないし……」
そう呟いたかと思うと、ひとつ頷いてミレイが笑う。
「うん、やっぱ。私にとってレオは、私を助けてくれた白馬の王子様だもん」
「お前、まだそんな事……」
怯え、嫌悪されなければ御の字。しかしミレイの反応は、レオの予想を超えたもの。だが、その予想が外れたことに何故か安堵を覚えてしまう自分がいた。
「……目じゃなくて、頭の医者にかかるべきだな」
しかしそれを悟られたくなくて、わざとぶっきらぼうに言い放つ。
「そんな事ないでしょ。レオが、スナッチ団ってのにいたのは分かった。でも、私は今のレオしか知らないし、悪い事してたからといって、悪い人とは思えない。だから、私はレオを信じることにした」
「……全く」
嘆息し、レオは椅子の背もたれに体重を預ける。
「お前、面白いよ」
「……あ」
表情を緩めたレオに、ミレイは見惚れてしまった。
今までの人を小馬鹿にしたようなものではなく、心からの。それでいて慈しみの籠もったような眼差しがどこか浮世離れしているように思えて。
「……レオって、傾国だわ」
「あ?」
「うん、レオは今のままでいて」
メンチを切られ、とたんに人間くささが滲み出る。言動ひとつでこうも印象が変わるものだと、ミレイは実感した。
「意味分かんねえ……お前らまで?」
どうやらレオの手持ちも何かしたらしい。ミレイには分からなかったが、レオは小さく舌打ちして腰のボールを軽く弾いた。
「それで、いい加減話を始めようぜ」
声をかけられたのは、ミレイではない。
「何だ、気付かれてたんだ」
肩を竦めこの部屋唯一の扉から入って来たのは、青みがかった黒髪を肩まで垂らした男……セイギだっただった。
涼しげな目元に、すっと通った鼻梁。恐らくフェナスの人からは人気があるだろう。一見すると女性のような顔立ちは微笑めば向日葵のように華やぐ、そんな確信を持たせた。
対するのは、獲物を見定める鷹のような目の青年。未成熟さを感じさせながらも、作り物めいた顔立ちは他者を圧倒させる迫力を持っている。
「こんな歓待までして、いい加減目的を話せ」
ぎしり、と椅子が軋む。それはセイギに対する威嚇だ。
「俺をスナッチ団員として、警察に突き出すか。セイギさん」
今やレオの口元は嘲笑を刻み、視線は今や厳冬の険しさを持っている。
「……いや。端からそのつもりならコーヒーに薬を入れて、警察を呼んでいるな。俺が警察に捕まるよりも先に、俺に用がある。俺に意識がある状態でないといけない。……俺の持つ、情報か?」
レオの自問自答に、セイギは身を強張らせた。それにレオは僅かに圧力を弱める。
「……アンタ、駆け引きに向いてないよ」
そう、レオは嘲る。
「もし俺が断ったら。ここで抵抗したら。逃げようとしたら。その辺りを全然考慮していない」
セイギの死角から、レオのブラッキー……ニュイが飛び出した。
「そして反撃を受けた時の対抗策。……こうなったとき、お前が反撃するよりこっちが早い」
「ちょっ、レオ……」
ミレイの批難する声は、レオを制止させるには力がない。
「さあ、何が望みだ」
高みから見下すかのように。
レオは言い放った。
「……っ」
10も年下の青年にやり込められている。その事実をセイギは認めるしかなかった。
「……これはまだ、未発表の情報なんだが」
それでも意地で呼吸を整え、セイギは真っ直ぐレオを見る。
「スナッチ団が壊滅した理由は、内部抗争。そしてスナッチ団を脱退したメンバーが、スナッチマシンを持ち逃げし、アジトを破壊したらしい。……君は、そのスナッチマシンを持っているんだろう」
セイギの問いに、レオは笑う。先程のような嘲笑ではなく、僅かだけ口角を上げたもの。
「……今のところ、他人のポケモンを盗むつもりはない」
そこでニュイが一声鳴いた。レオは手招きでニュイを呼び寄せ、頭を撫でる。
「とまあ、口に関しては何とでも言えるがな」
「という事は……持っているんだな」
「……あのさ」
そこでおずおずと、ミレイが手を挙げた。
「スナッチマシンって、何?」
気まずそうなミレイにも、セイギ丁寧に教えてくれた。
「……スナッチマシンとは、スナッチ団がポケモンを盗むときに使う道具だ。詳しい仕組みは分からないけど、既に親がいるトレーナーでも盗めるんだ」
「え゛、そんなこと出来るの!?」
「だから、スナッチ団は恐れられているんだ。……その非道さも含めて、ね」
セイギの咎めるような視線に、レオは平然とコーヒーに口をつけた。
「ふん、奴らにそんな力はもうないさ。スナッチマシンは修理が出来ないくらいに破壊してきたし、アジトの場所もタレコミしたから逮捕もされたんだろ? しばらくは大人しくしてるだろうさ」
「あれ、スナッチマシンはレオが持ってるんじゃないの?」
「小型スナッチマシンはな。大型の、誰にでも使えるスナッチマシンは持ち逃げできないから破壊してきたんだよ」
「へぇ~……」
理解しているのかしていないのか。呑気にミレイはコーヒーを飲む。
しかし、その光景にににコーヒーを吹き出しかけた。
「ちょっ、レオ!」
「ん?」
平然とした顔で。ニュイを撫でていたはずの左手でニュイの頭部をわし掴みにしていた。所謂アイアンクローというやつだ。痛みのあまりニュイは悲鳴を上げていても、レオは力を緩める気配がない。
「何してんのよ!」
「ん、ああ」
しぶしぶ、という風にレオはニュイを解放する。とたんニュイはミレイの後ろに隠れた。
「……いい度胸だな」
本気で虐待しているわけではないのは、レオの雰囲気やニュイの表情を見れば分かる。
「ほら、さっさと戻れ」
抵抗する素振りを見せたニュイだが、結局大人しくボールの中に戻る。
「……それで」
軽く咳払いをし、レオはセイギに視線を向けた。
「アンタ、どうするんだ」
「……それは」
レオと、セイギの視線が交差する。明確な続きはなかったが、レオにはそれだけで充分だった。
「……ふぅん」
そして、レオは上唇を舐める。それはまるで、獲物を前にした獣のようで。
「アンタも、相当変わってるな」
果たしてそれが褒め言葉なのかどうか。セイギは判断に苦しんだ。
始めは義憤。あのスナッチ団が現れたのだから、捕まえなければいけないと急行した。
その現場でセイギは内部抗争が事実だと確信したのと同時に……エーフィとブラッキーに見惚れてしまったのだ。
手入れされた毛艶、そしてトレーナーとの信頼関係。とてもただの盗賊とは思えない洗練された動きに、ポケモントレーナーとしての本能が疼いてしまったのだ。
だから、警察から匿う為にトレトレまで連れてきた。
「……そうだな」
ゆっくりと、レオは立ち上がった。
「塾長のセイギ。俺とポケモンバトルをしないか」
「……何だって」
レオの真意が、分からない。
「俺が勝ったら、今回のことを誰にも話すな。……もし俺が負けたら、好きにしろ」
「……へぇ」
あまりにも自信に満ち溢れた態度。自らが破れることなど微塵も考えていない。だがそれはセイギも同じこと。
「……いいだろう。受けて立つ」
トレーナーズ・トレーニングセンターの塾長として。何より1人のポケモントレーナーとして。負けられない……否、負けたくない試合にセイギは興奮するのを押さえられなかった。
◇
授業でも使用している、屋内のバトルフィールド。
「レオ、頑張って!」
リングの外でミレイが無邪気に応援する。
「ルールは」
挑戦する立場なのだが、レオは腕組みさえして問う。
「6対6のダブルバトル。どうだい」
その言葉にレオはゆっくりとモンスターボールに手を伸ばした。
「6体もいらん。2体……こいつらが倒れたら負けでいい」
「……本気かい」
その宣言に、セイギは目を剥いた。
セイギにも自負がある。少なくとも、フェナスの中ではトップクラスの実力の持ち主であるし、実際にフェナスコロシアムでの優勝経験もある。オーレコロシアムにだって、ベスト16ではあるが参加した。
だというのに、レオは手加減をしてやると言い放ったのだ。
「無論。……それとも、1対6にしてやろうか」
口角の端を、レオは僅かに持ち上げた。
その発言に観戦を決め込んでいる生徒たちの間にもざわめきが起こる。
あまりにも無謀。無謀すぎる。数とは暴力だ。例えどんなにレベル差があろうと、連戦すれば疲労は溜まる。
「……いいだろう。後で3匹目を出したとしても認めないからね」
レオの挑発に、セイギは乗った。
「フン、まあ頑張ってくれ」
ゆったりとした動作で、レオはモンスターボールを握る。
「先行は譲ってやる」
ボールから出てきたのはディアとニュイの2匹。
「……どこまでも」
流石のセイギも、怒りを隠せない。
「サンド! サボネア!」
セイギが出したのは進化前のポケモン2匹。ポケモンは、通常進化すると能力値が上昇する。しかし、進化すると技の覚えが遅くなるのだ。セイギは、それを考慮していたのだろう。
「試合開始!」
審判の合図と共に、セイギの指示が飛ぶ。
「サンド、砂嵐! サボネア、ニードルアーム!」
動いたのは、サンドの方が先。砂嵐を起こし自らに有利なフィールドを形成。屋内だというのに砂嵐が発生する。そこに、サボネアが腕を振りかざしディアに肉薄する。
「ディア、先手必勝!」
しかし、技が届いたのはディアの方が先だった。
ディアの破壊光線が、至近距離に迫っていたサボネアに直撃した。こうなっては特性砂隠れも効果を成さない。
「何と言う無茶を……」
下手をすれば自らも巻き込みかねないというのに、ディアには躊躇いがなかった。さらに言うならば、破壊光線は使用後に反動のため動けなくなるという弱点を抱えた技。使用タイミングが難しいというのにレオは躊躇なく使用開始に指示を出し、エーフィもそれに応じた。
「呆けてる暇、あるのか?」
「しまっ……!」
想定外の戦法にセイギが動揺する。その一瞬にニュイが、砂嵐をものともせずにサンドへと突進する。何も出来ず、サンドは吹き飛ばされた。
「ほら、あっという間に残り4体」
「……っ」
セイギが新に出したのは、グライガーとノズパス。
「……成程」
サンドの砂嵐。砂隠れ特性持ちのサボネア。そして地面タイプのグライガーとノズパス。これで、セイギの得意とする戦闘パターンの予想が出来た。
未だ砂嵐の止まぬ中。
体勢を立て直したディアの隣にニュイが並ぶ。
「……後で洗ってやるから、我慢しろ」
レオはあえてゴーグルをつけず、目を閉じた。
感覚を研ぎ澄まし、風の一筋、砂の一粒一粒までも意識する。
「ニュイ」
その囁きは砂嵐によって掻き消された。
「やれ」
「グライガー!」
グライガーの燕返しがディアを襲う。しかし、間に割り込んだニュイが砂を巻き上げた。
砂が、グライガーの目に入る。
いくら地面タイプを持つグライガーが砂嵐のダメージを受けないとはいえ、目に砂が入ってしまっては怯むのは当然。
必中のはずの燕返しが不発に終わる。ノズパスがフォローに入るには、グライガーは離れすぎていた。
「ディア」
レオは呼ぶだけ。しかし疎通はそれだけで事足りる。むしろ言語すら不必要なくらい。
サイコキネシスの一撃で、グライガーが沈んだ。そしてニュイが、ノズパスへと肉薄する。
そこに割り込んだのは、セイギが新たに繰り出したマリルリ。ニュイの騙し討ちを受け止めるべく、待ち構えた。しかし、途中でニュイは急激に方向転換を行う。
それにより、砂が巻き上がる。
「また……!?」
再び、砂による目晦まし。しかし、今度はそこにノズパスがいる。
「岩石封じ!」
ともすればマリルリも巻き込みかねないタイミング。しかし、ノズパスはコントロールを誤らなかった。
いくつもの岩石が、ニュイに襲い掛かる。だがその直後、ニュイの姿が掻き消えた。
「なっ!?」
そしてのサイケ光線がマリルリを薙ぎ払った。
防御に定評のあるマリルリが、一撃で沈んだ。ディアの特攻の高さに、セイギは息を呑む。
「追撃しろ」
ノズパスの背後から、ニュイが飛び出した。
砂を巻き上げた瞬間影分身をし、本体はフィールドを覆い尽くす砂に隠れていたのだ。ノズパスはそれに気付かず、分身を狙ってしまったのだ。そしてノズパスは、方向転換を苦手としている。
背後から不意を突かれたノズパスが、吹き飛ばされる。だが、セイギはノズパスを信じ、指示を出した。
「ノズパス、マグニチュード!」
自らの特性で瀕死を堪え、ノズパスがフィールドを揺らす。
「っ……!」
その振動はレオの元にまで届いた。体感的には、マグニチュード8くらいか。
それに巻き込まれ、ニュイの動きが明らかに鈍くなる。
「ディア!」
レオの呼びかけに、揺れをものともせずディアがスピードスターを放つ。元々残り体力がレッドゾーンだったノズパスは、それが当たるだけで戦闘不能となった。
「キマワリ、根を張る!」
セイギの最後の1匹は、キマワリ。根を張って活路を見出そうとしているのだろう。
だが所詮、時間稼ぎにしかならない。
キマワリが倒れるのも、時間の問題だった。
完敗だった。
エーフィとブラッキーの2匹に傷らしい傷を与えることも出来ずに手持ち6匹が全滅した。圧倒的なまでの実力。フィールドを利用するつもりが逆に利用され、優位に立たせてくれなかった。
「勝負あり、だな」
淡々としたレオの声に、セイギは実力差を痛感した。
同時に、これ程までのトレーナーが在野に埋もれていたことに世界の広さを痛感する。
「すっごーい。やっぱりレオって強いんだ……」
ミレイの褒め言葉に、トレーナーではなくニュイが胸を張った。
「調子に乗るな。……何だ」
目を丸くするセイギに、ニコニコと笑うミレイの視線がやけに気になる。嘆息を堪え返答を促すと、想像だにしていなかったことを言われた。
「いや、互いに、信頼しているんだと思って」
「……信頼?」
言われ、レオは小首を傾げ2匹を見下ろす。
「……どうだか」
小さく、自嘲の笑みを刻む。僅かなレオの表情の変化に気付いたのは、足元の2匹だけ。とたんに騒ぎだす2匹をおざなりに宥め、ボールに戻した。
「セイギさん、大変!」
そこに駆け込んできたのは、ミレイも知っているあのスーツの女性だった。
「また変な男達が大勢でやって来たのよ! 前に逃げたあの2人もいたみたいだったわよ!」
「何だって!?」
変な男達と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、トロイとヘボイと名乗ったごろつきの男。
「……あいつらが」
狙いがミレイだということは明白なのだから、近場に身を潜めいつかは来ることは予想していた。仲間を呼ぶのも想定内。
しかし、もう少し時間がかかるものだと想定していた。
「もっと……情報が欲しいな」
無意識にレオは上唇を舐めようとして、砂の味に顔を顰める。
「……警察には、届けたのは?」
レオが言葉を投げかけると、女性はレオとミレイがいたことに初めて気付いたらしい。
「あら、あなたはあのときの……」
「その節はお世話になりました」
「あ、こちらこそ……って、そうじゃなくて」
深々とミレイが頭を下げると、女性も釣られて頭を下げた。それから我に返る。
「警察には行ったわよ。でも、この街にやって来たスナッチ団の追跡と、市長さんが出張に入るから、その警備もあるって言われて……」
丁度手薄になる時期を狙われたのだろう。いや、手薄にさせられたというべきか。
今、この時になってフェナスにスナッチ団員がやって来た理由。
今までスナッチ団がフェナスに手を出さなかったのは理由がある。他の街と比べて自治組織がしっかりしているため逮捕される危険が段違いだということ。そして街のポケモンのレベルが他と比べて低いこと。最近できたばかりのコロシアムもまだ準備段階で、獲物と成り得るポケモンの数にばらつきが出ること。
その危険性の割に稼ぎが低いから、手を出さなかっただけ。
ヤッチーノ達がやって来たのは、レオがいるから。それも理由のひとつだろう。
しかし、わざわざ目立つスナッチ団員の服を着て、威嚇するかのように堂々と町中を歩いてきたのは。
「……囮、か」
「え?」
レオの呟きは、ミレイに届くことはなかった。
「参ったな……僕のポケモンたちは、回復させなければいけないし……くそっ」
歯痒さで、セイギは唇を噛み締めた。セイギの手持ちは全員が戦闘不能。レオがそうしてしまった。だから、戦えない。
「ねえ、レオ」
ミレイがレオに縋る。
言いたいことは分かる。このまま、放ってはおけないというのだろう。
「……奴らが、向かった場所は?」
「市長さんの家に向かったみたい」
「……了解」
コートを翻す。
「ミレイ、行くぞ」
「……うん!」
無邪気に笑うミレイは気付かない。
レオが、ミレイを戦場へと導いたことに。