風吹き抜ける大地で   作:舞@目標はのんびり更新

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襲撃と脱出

この衝撃をなんと表現すればいいか、流石のレオにも分からなかった。

視界いっぱいに広がる、巨大なモンスターボール。星型のサングラス。そこから伸びた金ぴかのド派手な服。あまりにもレオの感性から外れすぎて、言葉に出来ない。

「ミラーボさん! こ、こいつです! 女を奪っていったのは!」

そう、モンスターボールの正体はアフロを髪を赤と白の二色に染め上げた人間だったのだ。

あまりにも衝撃的過ぎて、警戒態勢を解いてしまったくらい。もし不意打ちを食らっていたら致命傷を受けていただろう。それだけの失態を犯していた。しかし、目の前の連中はレオなど眼中にないらしい。

「おやまァ。情けない。お前たちこ~んなチビッコにやられたっていうのかい?」

嘲笑が響く。

何故か妙に腹が立ち、思わず手首を翻し懐の獲物を抜きそうになって、我に返った。

外見で判断してはいけない。それは相手もだが、自分自身にも言えることなのだ。今、この苛立ちに身を任せてもよいことはない。殺人事件を市長宅で起こすわけにもいかないし、必要とする情報も入手できない。何より後処理も面倒。そして、ミラーボの実力もまだ不明なのだ。

トロイとヘボイが威を借る人物。筋力の付き方からして身体能力はまあまあだが、ポケモンの方は分からない。

まだまだ青いと気を引き締め……少しだけ四肢の力を抜いた。

「悪いけどォ、その娘をこのまま放っておくわけにはいかないんだよね~。なんとその娘は普通の人間には見えないモノが視えちゃうみたいでさァ。それってボクらにとってヒジョーにマズいんだよね~。痛い目に遭いたくなかったら君もつまらないことには首を突っ込まない方がいいよ~」

紫色の入ったサングラスのせいで、ミラーボの目がよく見えない。別に目を合わせたいわけではないが、感情が、思考が読めない。

「お前たち~!」

「はいっ!」

ミラーボの号令に、背後にいたトロイとヘボイが姿勢を正す。

「ボクは一足先にパイラタウンに戻ってるからその子をお連れするんだよ~。いいかい、2度と失敗は許されないからね~。ふっほほほ~」

そしてミラーボは右手を上げる。何をするのかと、レオはとっさにモンスターボールに手をかけた。

しかし、

「Let's music start!」

そして流れる軽快な音楽。

レオが唖然としている中、ミラーボはステップさえ踏みながら町長宅を出て行った。その後に3人の配下が続く。

「……なに、あれ」

ミレイの呟きが、レオの思いを代弁してくれた。

あまりに堂々とした去り方に唖然として、追撃をしようとも考えられなかった。対峙するだけで気力が全部持って行かれたようだ。

「やいやいやいっ! この前は油断したが今度はそうはいかないぜ! やっちまえ!」

ヘボイのゴニョニョとハスボーがレオに襲い掛かる。そこでようやく、レオは思考を切り替える。

「ディア、ニュイ」

遅れて、2匹がボールから飛び出した。そして指示を受けるまでもなくレオの前に立ちふさがる。

ディアのサイコキネシスによりハスボーの動きが拘束され、向かってきたゴニョニョはニュイの騙し討ちにより返り討ちに合った。

「くそーっ! また負けちまったい!」

「今度はオレの番だ! ヘボイのようにはいかないぜ!」

次はトロイが前に出て、ボールからポケモンを繰り出す。

「行け! ヨマワル、イトマル! 糸を吐……く!?」

しかしイトマルは指示を受ける前に念力で叩き伏せられ、ヨマワルもニュイの噛みつきであっさりと倒れてしまった。

「くそっ、こうなったら……行けぇ!」

しかしトロイは懲りずにポケモンを更に1体、ボールから出す。現れたのはマクノシタ。こちらもディアのサイコキネシスで簡単に片が付く。

「っ、ディア!」

しかしとっさに、レオはディアを制止した。その緊迫した声には強制力があり、ディアの体が硬直する。ニュイまでも身体を強張らせて……結果無防備な姿をマクノシタに晒してしまった。

「チィッ!」

とっさにレオはニュイを飛び越え、マクノシタとの間に割り込んだ。

「レオ!」

ミレイと、ニュイの悲鳴。

「ぐ……っ」

辛うじて防御が間に合うが、腹部を庇った右腕が痺れる。下手に受ければ内臓が破裂していただろう威力に、歯を食いしばった。

一撃を防がれたマクノシタは反動のまま跳び退り、次はレオの顔面を狙う為跳躍する。

マクノシタの拳と、レオの掌がぶつかり合う乾いた音が響いた。

そのままレオはマクノシタの腕を捻り上げ、投げ飛ばす。だがマクノシタは軽やかに着地し、三度レオを襲った。

「金縛り!」

素早くディアが割り込み、マクノシタの動きを封じる。しかしこれも時間稼ぎにしかならない。

「うわっ、マジかよ!」

「ポケモンバトルに生身で割り込むって馬鹿か!?」

トロイとヘボイの嘲笑。

「レオ……!」

背後からミレイの案じる声にレオは舌打ちで答え、痺れた右手を軽くスナップする。

「すまんディア、判断ミスった」

レオの横で、抗議するようにディアが鳴く。だがそれは、レオを案じたもの。

「おら! 何してんだ、行けマクノシタ!」

マクノシタが、金縛りを必死に破ろうと抵抗をする。残された猶予は少ない。

「ねえ、レオ」

ミレイが、レオのコートに縋った。

「レオは、視えない? マクノシタから黒いオーラが視えるの」

「黒い、オーラ……?」

オウム返しに、呟く。言われ目を凝らすが、ミレイの言う黒いオーラは見えない。

「あれを視たから……私、あいつらに捕まったの。……あの黒いオーラのポケモンは、誰かに何かされたんだわ」

普通なら信じられないであろう言葉。ミレイの言う黒いオーラは、レオには視えない。それでも、あのマクノシタが尋常ではないことは分かる。

そしてレオも、己の視界のみを信じる程盲目ではないし……それに、レオの方がミレイよりも異常だということを自覚している。

「お願い、レオ。悪いことだっていうのは分かってるけど……レオにしか頼めないの。あのポケモンを……救って、ほしいの」

ポケモンを救う。

そうミレイは言った。つまりそれは、あのマクノシタが苦しそうに見えるのだろう。

 

あの、黒いオーラのせいで。

 

「……いいぜ」

頷くと、ミレイの表情が綻んだ。

左腕につけている装置を、起動させる。微かな駆動音に口角を吊り上げ、腰から下げている予備のモンスターボールを握った。

ほぼ同時に、金縛りの解けたマクノシタがディアに向かって攻撃を仕掛ける。

「ディア、ニュイ!」

レオの声だけで、2匹にはレオの意図が伝わる。

マクノシタの体当たりが、ディアに命中する。その直前。ディアが身を翻した。

唐突に目標を見失ったマクノシタが踏鞴を踏む。無防備な姿を晒したマクノシタは、レオの投げたボールから逃れることが出来なかった。

抵抗するかのように2、3度揺れたボールは、しかしすぐに静止した。

「な、なっ……!? オレ様のポケモンが!?」

すぐさまディアがマクノシタの入ったボールを回収する。これでもう、マクノシタはレオの物だ。

「まさかお前、スナッチ団のレオか!?」

ヘボイとトロイが叫ぶ。が、気付くのが遅い。こうなってしまってはマクノシタを取り戻すにはスナッチマシンが必用となるが、現存するのはレオが持つ物のみ。

「まずいぞ! オレ達また負けちまったからミラーボさんに怒られちまうぜ!」

「どうしようもこうしようも、こうなったら……逃げろー!」

見事な逃げっぷりに、レオは手を出す気さえ起きなかった。レオとミレイの横を素通りし、逃げ去っていくトロイとヘボイをただ見送る。

あの様子ではミラーボの元に戻ることも出来ず、もう仕返しに来ることもないだろう。実力的にも、無視して構わない。

「やっぱり、レオって凄い。この調子で他のポケモンもスナッチしていこうよ」

「おいおい、犯罪を推奨していいのかよ」

レオに人並の倫理観はないが、他地方で生まれ育ったミレイは違う。他人のポケモンをゲットするのは泥棒だと、教えられているだろうに。

「……だって、黒いオーラのポケモンを助けられるのはレオだけなんだもん!」

頬を膨らませ、レオを仰ぎ見るミレイ。その姿に何故かレオは安堵を覚えた。

「……本当に、面白い奴」

そう、レオは眩しいものを見るように目を細めた。

 

 

 

 

 

 

急遽、同行者が増えた。それがポケモンならそこまで問題はないが、レオが連れるのは人間の女性。燃料代はともかくとして、食費やその他諸々。その分荷物が増える。出立を急ぎたくても、事前準備を怠れば自然はすぐに牙を剥く。たった数時間程度とはいえ、砂漠の横断には命の危険が付き纏うものだ。

「……ああ、そうだ。また連絡する」

携帯電話の通話を切り懐に仕舞う。丁度、ミレイがショップから出てきたところだ。

「お待たせ!」

満面の笑みを浮かべて、ミレイが駆け寄ってくる。その腕の中には紙袋が抱えられていた。どうやら最低限の物は買えたらしい。

「……ったく」

「はいこれ、ありがとう」

いくらレオでも、女性が買い物にかかる時間は予想がつかない。食料品を買い込んできたはいいが、時間が余って仕方がなかった。

律儀に釣り銭と領収書を渡してくるミレイから、レオの代わりにミレイの護衛をしていたディアに視線を移す。

「ディア。変わったことは」

「なーんで私に聞かないかなぁ」

「お前に聞いたところで分からないだろう」

憮然とした表情のミレイにそう答え、レオは嘆息する。

「それもそうね。……それで、どこ行くの?」

「パイラだ」

「パイラ?」

オーレの地理に疎いミレイは、地名を言われても場所が分からなかった。

「フェナスの西に位置する、治安の悪い町さ。ガラの悪い連中が屯してるから、あまり離れるなよ」

「え゛、それって大丈夫なの?」

「勿論。数年前に比べたら大分マシさ」

どこか楽しそうに、レオは笑う。

「……そう、なんだ」

「少なくとも今は、お前みたいなのがぼーっと歩いてても、あっという間にバラされて部品に分けられて、売られる事はないさ」

「……え゛?」

今度こそ、ミレイは絶句した。

「ちょっとレオ、今の本当!?」

「4、5年前の話だって」

歩きながら、レオは思考を巡らせる。

いつのタイミングがベターか。戦術は、足手纏いを守りながらどう戦うか。撃退するか、仕留めるか。

フェナスの3つある出入り口のうち、レオのバイクがあるのは南側。仕方なしにそちらに向かう。

スナッチ団と、明らかな不審者の襲来があったからだろう、人通りがまったくと言っていいほどないのは好都合。

「……矢張り今、か」

レオの呟きに、足元の2匹が身を強張らせた。

「ミレイは俺と一緒に。……いや、少し離れろ」

口頭で伝えるのがもどかしく、早口になってしまう。

「え、え?」

ミレイが戸惑うのも仕方ないかもしれないが、説明する余裕はない。

一定のリズムで歩いていたレオが唐突に立ち止まる。同時に、ディアのサイケ光線が炸裂。

それは一見見当外れの方向に向けられた。そう思ったのはミレイだけだったらしい。

「があっ!」

ディアが狙ったのは、南側出入り口の側に植えてある、背の高い樹木。そこから青色のプロテクターのようなものを着た男が落ちてきたのだ。

「えっ、レオ……!」

「喚くな。敵だ」

レオの足元でディアが威嚇をする。

「……あ」

ようやく、ミレイは思い出したらしい。

ミラーボの印象が強すぎてすっかり記憶から抜けていたが、確かに市長の家にいた。ミラーボに付き従っていた赤青緑の三色を纏った男たち。

「くそっ、アリゲイツ!」

奇襲が失敗したことを悟ったのだろう、青の男がアリゲイツを出してくる。

「あっ! 黒いオーラのポケモン!」

「了解」

ゴーグルを装着し、レオはスナッチボールを握った。

「ダークラッシュだ!」

男の命令と同時に、アリゲイツがディアへと襲い掛かる。

「リフレクター!」

とっさに前に出たディアが張った不可視の障壁が、アリゲイツの体を弾き返す。しかし、その衝撃の重さにディアが呻いた。だが、それはアリゲイツも同じ。

「追い打ち」

体勢を崩したアリゲイツに、ニュイの電光石火が決まる。そこでレオはスナッチボールを投げた。

「まずは1匹」

すぐさまディアがサイコキネシスでアリゲイツの入ったボールを回収する。

「くそっ、ブルーノのアリゲイツが!」

「ロッソ、ベルデ、頼む!」

「ああ、任せとけ!」

次に現れたのは赤と緑の2人。2人が出したポケモンを見て、ミレイが息を呑んだ。

「っ……! マグマラシと、ベイリーフも!」

更に、ブルーノというらしい男がブービックとベトベトンを出してくる。

合計4匹のポケモンが、ディアに襲い掛かった。マグマラシとベイリーフの体当たりを、ディアは軽やかにかわす。当たれば大ダメージは免れないだろうが、それは命中すればの話。いっそ軽やかにディアは地面を蹴り、2匹から距離を取る。そしてスピードスターを放った。威力はそこまでないが、怯ませるには充分。

「サイコキネシス」

僅かな隙を縫い、強力な念波をベトベトンに向けて集束させる。弱点を突かれたベトベトンは、何もできぬまま戦闘不能に陥った。しかしブービックは違う。

「フラッシュだ!」

強烈な目晦ましが、辺り一面に広がった。

「きゃっ」

ミレイの小さな悲鳴。目を保護していないミレイは、まともにフラッシュを見てしまったのだろう。レオはゴーグルのお陰で被害を免れたが、ディアは至近距離で眩い光を直視してしまう。

「シャドーボール!」

ブービックのシャドーボールから、ディアが逃れる術はなかった。……はずだった。

「ディア」

しかしディアは、まるで見えているかのようにシャドーボールを避ける。更にベルデの2匹目のポケモン、サメハダーのロケット頭突きまでかわしてみせた。それも間一髪、というわけではなく余裕を見せて。そして追い打ちにスピードスターにより、あっさりとサメハダーは気絶する。

「なっ……!」

「間抜けめ」

レオは嘲り、スナッチボールを投げる。投げられたスナッチボールにマグマラシは吸い込まれ……暴れることはなかった。更にレオはベイリーフに狙いを定める。

「キノガッサ、マッハパンチ!」

フラッシュに紛れ接近していたブルーノのキノガッサが、至近距離から拳を繰り出した。しかしそれはディアにではない。トレーナーであるレオに、だ。レオが倒れれば、、ディアやミレイも簡単に抑えられると踏んだのだろう。

マッハパンチは確実に先手を取れるという技であり、ポケモン相手でも命中率も高い。とても人間が避けられる距離と速度ではない。……本来ならば。

 

だがレオは、その“常識”に当てはまるような人間ではない。

 

レオの左肩を狙ってくる拳に合わせるように、右足で踏み込む。キノガッサの拳を見切り、スナッチマシンを駆動させながら右足を軸にして体を反転。

「っ、らあっ!」

気迫の籠った声と共に、ミドルキックをキノガッサに叩き込む。41キログラム超の体躯が簡単に吹き飛んだ。

そのまま身を回転させ、ベイリーフへスナッチボールを投げる。不意を突かれたベイリーフは大人しくスナッチボールに収まり、すぐさまディアがサイコキネシスで回収した。

「んなっ!?」

「マジか!?」

「くそっ!」

ロッソがさらに2つのモンスターボールを握った。

出てきたのはベトベトン2匹。それを見たベルデもベトベトンを出し、ブルーノはベトベトンの他にバクーダを出してきた。

「潮時か」

レオの呟きに、ディアが耳を動かした。

「ミレイ、ディアに案内させる。行け」

「え……でも」

「足止めする。いいから」

再度、繰り返す。

「後で、追いかける」

その言葉に、ようやくミレイは頷いた。

「行け!」

弾かれるように、ディアはすぐさま踵を返した。初動が遅れたミレイを追い越し、慌ててミレイが追いかける。

「逃がすか! バクーダ、突進!」

ミレイに向かって、バクーダが突進をする。

「っ」

とっさにレオは、横合いからバクーダを蹴りつけた。流石に220キロの巨体が吹き飛ぶことはなかったものの、バランスを崩させることには成功した。

「レオ!」

「構うな、ディア、頼んだ!」

躊躇しながらも、ミレイは走る。

「逃がすか!」

ベトベトンのヘドロ爆弾。

そして響く銃声。

計4発の銃弾が、狙いたがわずヘドロ爆弾を撃ち落としたのだ。

「バクーダ、火炎放射!」

地面タイプの技を使用しなかったのは、ベトベトンを巻き込むことを考慮してか。足止めのためなら、例えベトベトンが戦闘不能になろうとも、地震を使うべき。そうすればミレイは足を取られるし、そのフォローに回るディアも動けなくなる。

しかし、ブルーノはそうしなかった。

火炎放射が放たれる1秒にも満たない間に、レオはバクーダとの距離を詰めた。

「沈め」

そして頭部を上から押さえつけ……強引に地面に押し倒した。

レオの細腕では想像だにしない力技。いや、例え肉体派でもバクーダの巨体を地面に沈めるなど不可能だろう。その衝撃に地面の方が耐えられず、丁寧に舗装されていた道路に無残なひび割れが出来てしまっている。衝撃でバクーダが気絶してしまっているのだから、威力は推して知るべし。

一方のレオは疲労の片鱗を見せず、瞬時に次の行動に移った。ベトベトンがヘドロを再び飛ばしてきたのだ。それを先程倒したばかりのバクーダを盾として防ぐ。更にベルデたちは容赦なくレオの左側……正確にはスナッチマシンを狙って発砲をしてきた。手段を選ぶ余裕がなくなってきているのか、はたまたポケモンさえいれば制圧できるとタカをくくっていたのか。

何にせよ、余裕がなくなってきているのは確かだ。

「さて……」

相手は数を有利にして絶え間なく銃撃を繰り返している。その間にベトベトンたちは溶け、更に穴を掘って接近する算段らしい。しかし、その程度見抜けないレオではない。

「生憎と、悠長に待ってやるほど甘くはないんだよ」

懐から取り出したものを少し弄んでから、地面に叩きつける。とたんに発生する白煙。

あっという間に煙幕が充満し、周囲は何も見えなくなる。それにブルーノたちは戸惑った様だが、銃の引き金を引く手に迷いはない。案の定というべきか、装備しているゴーグルには熱源を感知するセンサーも備えているのだろう。

だが、ポケモンの方はそうはいかない。目標を見失ったベトベトンたちが狼狽えているのが、レオには手に取るように分かった。

 

 

 

 

 

 

背後から銃声が聞こえる。

映画やドラマでは何度も聞いたことがあるが、実際に聞くのは初めて。画面越しでは決して体感できない、腹に響く振動に慣れることはないのだろう。

「レオ……っ」

その音が恐怖となり、ミレイを蝕む。例え気丈に振舞っていたとしても、ミレイは一般人なのだ。銃声に怯むのも仕方ないし、他地方とは違うバトルに怯えるのも無理はない。

しかし、そんな状況にも関わらずミレイが案じているのは己ではなくレオの身。

『こっちよ、走って!』

思わず足を止めそうになるミレイを、声が叱咤した。

「え……?」

声の主が誰なのか。息を乱しているミレイはそこまで頭が回らない。ただ促されるまま、走る。

「はっ……はっ……」

やがてディアは、1台のバイクの前で立ち止まった。

いくつものパイプが突き出した、明らかに改造が施されているサイドカー付きのバイク。そして、そのバイクを守るようにニュイが佇んでいた。

「ニュイ……、どうして……」

てっきり、レオが連れているものだと思っていた。しかしニュイはここにいる。ということは、レオは1人であのポケモンたちを相手取っているのだ。

ミレイはあの場所に戻りたくなった。しかし、あの場で自分が役に立たない、どころか足を引っ張ってしまうということを思い出す。

何より、レオが行けと言った。ならそれに従うべきなのだろう。

けれど、何も出来ないのがもどかしい。

「ど、どうすれば……」

「何がだ」

戸惑うミレイの背後から、耳朶に響く声がした。

「レ、レオ!?」

「サイドカーに乗れ。……急ぐぞ」

言いながらレオはバイクに跨る。

「あ、うん」

サイドカーにミレイが飛び乗ったのを確認せず、レオはバイクのクラッチレバーを握った。そして右手でハンドルを握ったまま、空いている左手でディアとニュイをボールに戻す。

「一気に発進する、しっかり捕まってろ」

「捕まってろって……きゃっ!」

急発進したバイクに驚き、慌ててミレイはサイドカーの手すりに摑まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フェナスが見えなくなってから、レオはバイクをゆっくりと停車させた。

「……あーびっくりした」

「……その割には元気そうだが」

バイクから下りたレオが、ディアとニュイを再び出した。とたん2匹はレオに詰め寄る。

「……ああ、もしかして単身で挑んだことを怒ってるのか?」

レオの言葉に2匹が鳴いた。

「あれはお前らも納得済みだろ。バイクがなければフェナスから出られなくなる」

ミレイの誘拐騒ぎに巻き込まれたときは、ただの一般人として通せたからすぐに解放された。

しかし次は違う。ミラーボは明確にミレイと、そしてレオを標的としていた。その時点でレオは一般人から重要参考人に格上げされてしまう。それでレオの経歴が調べられると、身動きが取れなくなってしまっていただろう。何せレオは身元不明で、元スナッチ団員なのだ。

「……あ、そういえばさ」

ふと疑問に思ったことを、ミレイは口にする。

「私が逃げるとき、女の子の声がしたの。こっち、走ってって。……あれって……」

それにレオは何とも言えぬ表情をして、足元のディアとニュイを見下ろした。

 

『……ま、いいんじゃない?』

『今後一緒にいるなら、教えといた方が楽だろうし』

 

鼓膜を通さず、脳に直接声が響いた。

 

「……もしかして、テレパシー?」

噂では聞いたことがある。テレパシーを用い人間と意思疎通を可能にするポケモンがいるということを。しかしそれはあくまでも噂。実際に体験したことはない。

「……あなたたちなの?」

ミレイの視線は、自然とディアとニュイに向いた。

「訂正しておくと、これはテレパシーではなく特性であるシンクロの応用だ。思念を伝えるテレパシーと違い、思考や感情を相手と共有させ……」

『レオの薀蓄は長くなるから、聞き流しといた方がいいよ』

「え、えっと……」

『改めて、ディアよ』

『オレはニュイ。よろしくな』

「そっか、よろしくね。私はミレイ」

ミレイが屈んで、ディアとニュイに視線を合わせる。

『ええ。……さっきは怖い目にあわせて、ごめんなさい』

「え、全然。気にしてないよ。それを言ったら、ディアの方がいっつも戦う破目になるんだし……」

『私は戦いたいからいいのよ。でもミレイは怪我したらすぐには治らないから、気を付けないと』

「うん……。でも、私はディアが傷つくのも嫌だからね」

そう言うと、ディアとニュイは顔を見合わせた。

『……ねえ、ミレイ』

「え、何?」

 

『レオを信用しない方がいいわ』

『レオはあなたが思う程良い人じゃないぜ』

 

「……え?」

その言葉の真意を問う前に。

「ニュイ。情報の摺合せをするぞ」

レオに呼ばれ、ニュイがレオの元に寄っていく。ディアの方もそれ以上続ける気はないらしい。

ミレイは唇を噛み締め、進行方向に広がる砂漠を見つめた。

 

嫌になるくらい、空が青い。

 

 

 

 

 

 

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