キヴォトスの不死身の男 作:はなげ
今回からゴスペルの心情描写が出てきます。
それとゴスペルは基本黒服、マエストロ、ゴルコンダ以外には敬語です。
以下ゴスペルにとっての黒服。
自分をここまで育ててくれた恩人。副産物として生まれた自分をゲマトリアに置いてくれていることにはとても感謝している。ただそれはそれとしてだいぶやばいこともするなぁこの人。と思っている。
黒服以外のゲマトリアとの絡みも追々描写していきたいです。
地面に足を踏み込むたびに乾いた砂粒が擦れる音がし、足を取られる。肌を焼き尽くすかのような熱い日差しに添えられるようについてくる水分など一切感じられないような風が吹くたびに砂が巻き起こり、肌に刺さる。人が長居するような場所ではない環境だ。景色も異様だ。辺り一面の砂はまだしも所々に散見している朽ち果てたビル群はなんなのだろうか。ほとんどの部分が埋まっていることからかなり昔の頃から放置されているものなんだろう。
……ここが黒服さんの言っていたアビドスか……ただ砂が広がっているだけなら立派な砂漠地帯があるのだなと思えるが、朽ち果てたビル群がそうさせない。これでは砂漠というより荒廃した大地だ。いや、それも当然か。黒服さんはアビドスの生徒は2人しかいないと言っていた。キヴォトスにおいて学校とは自治区の象徴のようなもの、その学校の生徒数が2人という体たらくからアビドスは人が住み続けるのを妨げる致命的な問題があると考えるのが妥当だろう。
しかしだ、そうと仮定すると一つ疑問が残る。何故その2人の生徒はアビドス高校に残り続けているのか?
人生というのは命を削ることで生み出されるとても尊い時間だ。そんな貴重な時間をこんな所で消費し続ける意味はあるのだろうか。ましてや高校生というのは青春という人生のなかでと一層貴重で輝かしいものであるそうじゃないか。そんな宝石すら霞んで見えるほど貴重な時間をここで費やす意味が今の俺には分からない。彼女らは不死身ではない。不死身という価値のない命を持つ俺と違って有限の尊ぶべき命を持っている。
それなのに何故? 何故何故何故何故なぜなぜなぜ???
うーん、ガキの俺でもやはりゲマトリアの一員だからだろうか。一度強い疑問を持つと溢れんばかりの探究心に満たされていく。
黒服さんから貰ったマップによれば、この砂漠を抜けたらアビドス高校が見えてくるらしい。とてもワクワクしてきてしまった。2人のアビドス生徒は何故ここに残っているのか。それがもうじき分かるのだ。一体どんな考えを持っているのか。そしてそれが俺の『価値観』にどんな影響を与えてくれるのか。楽しみだ。
「ほ、ホシノちゃん……あのね……」
「それ以上言わないでください! 私も薄々感じているんですから!」
「そうだよね? 私だけじゃないよね? …………そろそろやめるべき?」
「も、もう少し…………」
何やら声が聞こえてくる。こんな砂漠で一体何をしているんだ?
そう思い声のする方向へ向かう。そこに広がる光景に俺は絶句した。スク水を着た2人の少女がツルハシで穴を掘っていたからだ。穴の深さも人が埋まるくらいまでに到達しており、かなり長時間掘っていることが伺える。……もしやこの2人がアビドスの生徒? だとしたらなぜこんな酔狂なことをしているのだろうか? 俺とキヴォトスの生徒では常識が違う部分もあるから一概にどちらかがおかしいと簡単に言うべきじゃないだろうが、それでも言いたい。おかしいだろと。
「ひぃん、喉渇いちゃった……お水お水〜ってあれ? もうお水ない……」
水色と形容すればいいだろうか? そんな髪色をした1人が真っ逆さまにしても水滴一つすら垂れない水筒を見て嘆いている。流石に現地住人の方なのだとしたら熱中症対策くらいはしているはずのためこのまま放置でもいいのかもしれないが、こんな灼熱の砂漠で喉の渇きが続くのは彼女にとってはなかなか酷なものだろう。そう思い自分の持っていた水筒を彼女に差し出す。
「もしよかったらお飲みください。量は沢山ありますから、遠慮なく好きなだけお飲み下さい」
「いいの!? じゃあ遠慮なしに飲んじゃうよ!?」
その少女は飛び跳ねるように近づき、水筒を受け取る。そして水筒の飲み口を真っ直ぐ一直線と言ってもいいくらいのきれいな下向きにして浴びるかのように水を飲む。
「ぷはーっ! おいしかった!! ありがとう優しい人!」
「いえ、お気になさらず。さて料金のほうですが……」
「え? お、お金?」
少女はピシャリと固まり砂漠には似合わないほど青ざめていく。
「なーんて、冗談ですよ。ちょっとしたイタズラです」
「よ、よかったぁー! 肝冷やしちゃったよー」
「ハハハ、冷えたのならちょうどいいでしょう? それにしても暑いですね。毎日この気温なのですか?」
「うん、ここら辺はすごく暑いし、定期的に砂嵐もやってくるのー! ひょっとして外部の人?」
「はい、人を探しているんです。小鳥遊ホシノさんという方なのですが…………」
「私に何か用ですか?」
ピンク髪に宝石顔負けの程に美しいオッドアイを持った少女が穴から出てこちらへ近づいてくる。その視線はまるで敵を睨むかのように鋭いものだった。
この人が小鳥遊ホシノさんかな? なんかめちゃくちゃ警戒されてんだけど……いや知りもしないやつが自分を探しているとなったらこんなもんなのか? ミスったかもなぁ200回ミンチコースに少し近づいたぞ……。
「ユメ先輩、そいつから離れて下さい。何をされるか分かりません」
ユメ先輩? この水色髪の少女のことか。いやそれどころではない。小鳥遊ホシノさんと思わしき人がショットガンのレバーを引いた。ショットガンなんて一万発喰らおうと構わないが、N◯K*1の番組で暴力はダメって言ってたし。穏便に済ますのが吉だろう。そもそも俺だってなんの意味もなく痛みを受けたいわけじゃない。
「大丈夫だよホシノちゃん! この人水を分けてくれた優しい人なの!」
「なっ!? なに勝手に施しを受けているんですか! 後で大金を請求されるかもしれないんですよ!? こんな怪しい奴を簡単に信用しないでください!」
「き、きっとこの人はそんなことするような人じゃないよぉ……」
ユメさんがホシノちゃんと呼んでいたし、この方がホシノさんで確定か。というか大金請求って……黒服さんじゃないんだからそんな悪辣なことやらないよ。てか怪しい奴とは失礼だな!
そう思い自分の服装を確認する。黒色の少しぶかめのローブに黒い軍帽のような帽子、そして肩から脹脛にまで届く長さの剣を背負い、おまけに腰にはウィンチェスターを装備している。
……うん、怪しすぎる格好だわ。砂漠にいるには明らかにミスマッチすぎる格好だ。ユメさんという方はよく信じてくれたな。
いやだとしてもスク水着てるやつに言われたくない気持ちもある。ちょっと言い返してやる。
「い、言わせておけば!! 怪しいとは言いますが、そういうあなた達こそその学校はだいぶ奇怪なものですよ? 一体何を?」
「グッッ……!」
ホシノは苦虫を噛み潰したような顔をする。ゴスペルの言葉を正論と捉えているその様子から、彼女もこの格好がおかしいという自覚はあるようだ。
「あ! 気になるー? なにを隠そう私たちは宝探しをしているんだよ! ここに埋まっていると言われている希少な金属を掘り出すためにね!」
一方ユメは自身の格好がおかしいとは思っていないようだった。
「それでその希少な金属というのは……」
「…………」
「見つかっていないんですね」
「ひぃん……」
「ユメ先輩!! ベラベラとこいつに話さないで下さい。何に利用されるか分かりません!」
気さくに話しかけるユメをホシノが制止する。
「大丈夫だよ、ホシノちゃん。この人は悪い人じゃないよ。なんとなくそういう気がするの」
「それで何度騙されてきたとおもっているんですか? 私を探している理由も不明ですし、こんな奴信用しない方がいいです」
ホシノはゴスペルに銃を向ける。
「何が目的で私を探していたんですか? 答えろ」
「………………」
沈黙を放つゴスペル。彼が何を考えているのかというと……
まずいまずいまずい、理由なんも考えてなかった。既に200回ミンチコースに王手がかかっている! なにか、何か理由を…………綺麗なオッドアイ……そうだ! もうこれしかない!!
「過去にあなたの姿を見て一目惚れしました。一緒に居たいのでアビドス高校に入学させて下さい!」
「………………は?」
「……え、えぇ??」
ホシノとユメはポカーンと呆気に取られる。そりゃあいきなり正体不明の奴が告白じみたことをぶちかまして来たらこうなるのも当然だ。
「ほ、ホシノちゃん! 今告白されたよ!! 返事は!? 返事は!?」
ユメはホシノの肩を掴みながら飛び跳ねる。まるで自分事かのように舞い上がっている様子だ。
「黙って下さい。断るに決まっているでしょう! そもそも名前すらしらないんですから!」
俺から言っておいてなんだけど、名前とかそういう問題か?これ。ま、まあ自己紹介をしなかったのは失礼にあたるな。
「申し遅れました。俺の名はゴスペル。どうぞよろしくお願いします」
「私は梔子ユメ! よろしくね。ゴスペル君!」
「………………」
「ほら! ホシノちゃんも自己紹介!」
「……はぁ、小鳥遊ホシノ」
「自己紹介ありがとうございます。さて、アビドスに入学したいのですが、どうかご承諾いただけないでしょうか?」
「もちろん大歓迎だよ!」
「ユメ先輩、本気ですか?」
「だって勇気を出してホシノちゃんに告白してくれたんだよ? それなのに入れてあげないのは可哀想だよぉ」
勇気というか、やけっぱちというか……
「はぁ……分かりました。でも少しでも怪しい行動を見せた暁には容赦しません。それと告白の返事はNOです。当たり前です」
わざわざ律儀に返事してくれるあたりホシノさんもいい人そうだな。
「お返事ありがとうございます。それでは、これからよろしくお願いします」
アビドス高校へ戻り、ユメとホシノが着替え終わったのにち、ゴスペルはユメからアビドス高校の案内を受けていた。
「ここが生徒会室だよ! ゴスペル君!」
じゃーん! と手を広げながら満面の笑みで彼に紹介するユメ。スキップするかのように移動する彼女の姿はピクニックに出かけている子供のようである。
「そんなにはしゃぐこともないでしょう……」
それを見たホシノはため息混じりに呟く。
「ですが、こうやって喜んでもらえるのは俺としてもとても嬉しいものですよ。ホシノさん」
「そうですか。それならよかったですね」
依然としてホシノの態度は突き放すような状態である。
「もー! ホシノちゃん、そんな態度だとゴスペル君悲しんじゃうよ?」
「そうですよー! あーあ。ゴスペル悲しい」
「黙って下さい撃ちますよ」
「ごめんなさい」
「うーん、2人とも仲良くしてほしいんだけどなぁ〜。あ! そうだ! こういう時は仲良く話し合いだよ! 一つの困難にみんなで立ち向かって友情を育もう!」
「どんな困難に立ち向かうんですか?」
「それはね、アビドスの借金を返す事! …………あ」
自分で言い放ってはおいて、ユメは数秒後に自身が口を滑らせたことに気づく。
「ユメ先輩…………!」
「ひ、ひぃん…………」
「え? 借金?」
借金があるのか? ……いや、アビドスの様子を考えればあってもおかしくはないか。
「ちなみに、借金は大体いくら程ですか?」
「えっと……大体10億くらい…………」
「じゅ、10億…………?」
聞いた事ねえ額きたな……。臓器500個くらい売っても返せないよな。
「えっと……ごめんね。黙ってて……」
「いえ、入りたいと言ったのはこちらですし、尋ねてもいないのですから謝る必要はないですよ」
「しかし、一つ疑問に思うことがあります」
「────何故そこまでしてアビドスに残っているのですか?」
彼がそう問うた瞬間に流れたのは、重い沈黙。そしてしばらく沈黙が流れた頃、ホシノが口を開いた。
「やっぱりあなたも他の人たちと同じですか。ええそうですよ。あなたにとっては意味がわからないんでしょうね。とっとと出ていって下さい」
「気に障ったのなら謝罪いたします。しかし俺は純粋に疑問なのです。借金、荒廃した土地。この場所にあなた達の希少で尊い人生の一部を費やす価値が本当にあるのか? 俺はただ純粋にそれを知りたいのです」
「……思い出の土地なの」
「思い出?」
「うん、このアビドスはね、私が今はもうアビドスを卒業しちゃった先輩方とホシノちゃんと過ごした記憶が残った思い出の土地なんだ。それだけでも、私たちにとってはここにはとっても大きな価値があるの」
そう言ったユメさんの瞳はとても真っ直ぐで、とても美しかった。
「なるほど……」
このアビドスで築き上げられた思い出が今のアビドスを彼女ら2人にとって尊いものにしているということか。……素晴らしい。今までにない気づきだ。どんなに朽ち果てようとも、歴代の人々が強い信念によって自らの人生を捧げて支え続けられた美しく尊いものである事にはなんら変わりはない。それに価値がないなどとほざいていた自分が憎い。
「申し訳ありませんでした」
ゴスペルは2人に向かって深々と頭を下げた。
「えぇ!? いいよいいよそんなに謝らないで!!」
「…………」
ホシノはただゴスペルを見つめる。
「その借金の問題。俺も協力させて頂きたい。お二人が尊い人生を捧げているんです。俺がそうしない理由がありません」
不死身の俺の人生に価値などない。だからこそ、こうして2人を支えることで俺自身の何かを見い出せるのではないだろうか。
「……本気ですか?」
「超本気ですよ。いくらでも協力しましょう」
「ありがとうねゴスペル君!! 頼りにしてるよー!」
「……少しくらいは期待しておきます」
「期待に応えられるように、頑張りますよ」
「ふふっ 2人とも仲良くなれそうでよかった!よし!今日はもう解散しちゃおっか!」
「解散って…話し合いはどこいったんですか…」
「さてはホシノさん寂しいんですね?」
「黙って下さい不愉快です」
ユメさん、仲良くなれねえかもしれねえ…。
その後は色々喋った後に解散になった。ホシノさんもこちらが会話をふっかければなんだかんだ返してくれるので、いい人だ。ユメさんは言わずもがな、とてもフレンドリーで素晴らしい人だった。さて、解散ということだし俺も黒服さんのところへ戻ろう。
「ただいま」
「おかえりなさい。いやはや、見ていて面白かったですよ。特にホシノさんに銃を向けられた際の切り抜け方…ククックッククククックックックククク!」
机に顔を伏せながら。らしくないような大笑いをする黒服。
「笑うなぁ!!あれしか思いつかなかったんだよぉ!…おいちょっと待て、今見ていて面白かったって言ったよな?俺がアビドスに入った理由はホシノさんの観察のためなんだろ?それなのに黒服さんが俺たちの様子を観察できているのはおかしいだろ。それだったら俺が入った意味ねぇじゃん」
「ええ、だってあれウソですから。本当は神秘を持つ生徒とあなたを交流させたらどんなことが起こるのか知りたかっただけです。まあ、ほぼほぼ分かりきってはいましたが少し交流する程度ではあなたの体に作用することはありませんね」
「ウソって…お前契約とかでは嘘つかない奴だと思ってたのに…」
「契約ではなく依頼なのでいくらでもウソつきますよ。それに、アビドスへの来訪はあなたにとってプラスだったのではないですか?先ほどから表情が明るいですよ」
「おっと顔に出てたか。そうだな、今まで命、そしてそれによって生み出される人生は尊いものだと思っていたが、その人生が信念の元で捧げられたものもまた尊いということを学んだよ。当たり前だったけど、気づかなかったことだ。俺はそれをもっと探究したい。そうすれば自分の命にも価値を見出し、崇高な存在になれるかもしれないからな」
「クックック…あなたもどんどんゲマトリアらしくなってきましたね。 ああ、それと…」
「なんかあったか?」
「こちらのサイトに好きな女子と両想いになる方法が載っているので、利用しながらせいぜい頑張って下さい。クックククク」
「一発殴らせろ!!」