むむむの伊佐朗   作:織田ひろふみ

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【掻塚村名主家文書 口上書】

 【掻塚村名主家文書 口上書】

 

 弘化二年十一月綴のうち一通

 

 乍恐以書付奉申上候。

 

 私店小僧長吉儀去る十一日夜五つ時過ぎ村外れ百姓源右衛門方へ煎じ薬相届け候様申し付け遣はし候。然る処夜明けに至るも店へ罷り帰らず薬も相届かず候に付き村方衆中に御手数相掛け候段先達て御届け申し上げ候通りに御座候。

 

 翌十二日朝源右衛門方手前二丁ばかりの道端に薬の包み置かれ有之候を通り掛かりの者見付け出し候。包みは崩れも無く掛け紙の封も其のままに御座候。同夜は宵より雨降り通しに候処包みも掛け紙も濡れ候はで乾き居り候。

 

 長吉儀は十四日朝何事も無き体にて店の土間に罷り在り候を手代見付け候。此の三日何処に罷り在り候やと厳しく相尋ね候へども当人一向に覚え無しと申し候。薬の儀は源右衛門方より道へ出迎へに参られ候女子に慥かに手渡し申し候と申し募り候。源右衛門方に女子の奉公人は無く同夜出迎へに出で候者も一人も無之候。

 

 右は畢竟長吉不埒の夜遊びより出で候儀と存じ奉り候。当人急度叱り置き申し候間何卒御慈悲を以て此の上の御咎めこれ無き様御聞き届け被下置度奉願上候。以上。

 

 弘化二年十一月十八日

 

  薬種商伊野屋庄八

 

  家主六兵衛

 

 名主様

 

【現代語訳】

 

 恐れながら書面をもって申し上げます。

 

 私の店の小僧の長吉は去る十一日の夜五つ時(夜八時頃)過ぎ、村外れの百姓源右衛門方へ煎じ薬を届けるよう申し付けられて出ました。ところが夜明けになっても店へ帰らず薬も届いておらず、村の皆様のお手を煩わせましたことは先日お届け申し上げた通りでございます。

 

 翌十二日の朝、源右衛門方の手前二丁(およそ二百メートル)ほどの道端に薬の包みが置かれているのを通りがかりの者が見つけました。包みは崩れもなく掛け紙の封もそのままの姿です。その夜は宵から雨が降り通しであったのに包みも掛け紙も濡れずに乾いていたのでございます。

 

 長吉は十四日の朝、何事もなかった様子で店の土間にいるところを手代が見つけました。この三日どこにいたのかと厳しく尋ねても本人は一向に覚えがないの一点張りです。薬は源右衛門方から道へ出迎えに来た女の人に確かに手渡したと言い張っております。源右衛門方に女の奉公人はなく、その夜出迎えに出た者も一人もいませんでした。

 

 これはつまるところ長吉の不埒な夜遊びから出たことに相違ないと存じます。本人はきつく叱っておきましたゆえ、どうかお慈悲をもってこれ以上のお咎めのないようお聞き届けください。以上。

 

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