むむむの伊佐朗 作:織田ひろふみ
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(夏の心霊特集回 ゲストに怪奇作家の遠国春彦を迎えたスタジオトークの部より抜粋)
大河内:さて遠国先生、毎年夏になるとこうして心霊特集が組まれるわけですが、そもそもなぜ怪談は夏のものなんでしょう
遠国:それはもう──お盆だからですよ
大河内:確かに(笑)
遠国:怪談というのは納涼の娯楽である前に、死者の季節の行事ですからね。お盆には亡くなった方々が帰ってこられます。怪談とは本来、お帰りになる方々についての噂話なわけですね
梨花:あー……上京した誰々さん、今年帰ってくるよ、みたいな感じなんですね
遠国:その通り。それが巡り廻って恐ろしい話として今も多くの人に認知されているわけですね
大河内:勉強になります。ああ、そういえば……お盆といえば迎え火ですが、あれはどういう意味の行事なんですか
遠国:目印です。十三日の夕方に門口で
梨花:あ、うち今朝おばあちゃんが支度してました
遠国:結構なことです。それでね大河内さん、火を焚いて死者を案内する行事は、なにも迎え火だけではないのです
大河内:他にもあるんですか
遠国:花火です。花火大会の元祖は江戸の両国の川開きですが、あれは享保のころに飢饉と疫病の犠牲者の慰霊と悪疫退散のために始まったものでしてね。つまり花火大会というものは、そもそもが慰霊祭なのですよ。おまけに申し上げれば、打ち上げ花火ほど大きな灯りはこの世にありません。あれが目印にならないはずがないでしょう
白鳥(ハニーズジュニア):えっ、じゃあ花火大会って毎年すごい数のお客さんを呼んでるって事ですか。生きてない方の
遠国:どちらの見物客も、集めています
(スタジオ笑い)
大河内:海外にも似たような行事はあるんでしょうか
遠国:台湾に中元節というのがございます。旧暦の七月はいまの暦ですとだいたい八月にあたりますが、この月は鬼門が開くと言いましてね。あの世の住人がひと月まるごと現世で過ごす。町をあげてご馳走を並べ、身寄りのない霊まで漏れなく招いて供養の限りを尽くします。基隆という港町では、水路に灯籠を流して水死者を灯りで岸へ招く。灯りだけではありませんよ。爆竹を鳴らし銅鑼を打って、音でもお報せする。徹底しているでしょう。ああ、それから彼の地では亡霊を鬼とは呼びません。好兄弟──よい兄弟たちと呼び替える。名を呼べば来てしまうと知っているからです
梨花:えぇ……招いちゃって大丈夫なんですか、それ
遠国:それはね梨花さん、大事なところです。招いてもてなして、満足させて、お帰り願う。ここまでで一続きの作法なのですよ。手厚くもてなすのは慕われるためではありません。機嫌よく帰ってもらうためです
大河内:なるほど。招きっぱなしではいけないわけですね
遠国:その通りです。それにもうひとつ、大事な前提があります。迎え火というのは、帰ってくるのがご先祖様だという前提で成り立つ作法です。自分の家の門口で焚くから、自分の家の者が来る。呼ぶ火そのものには、誰を呼ぶかを選ぶ力なんてないのですよ
大河内:……というと、どうなるんです?
遠国:それをご説明するのに、字のお話をひとつ。呪うという字は、祝うという字と元は同じものでしてね。神前で祈るのが祝、その祈りが凶へ転べば呪。行いの形は同じで、善し悪しはあとから決まるのです。同じ火が迎え火にもなれば付け火にもなるのと一緒です。決めるのは行う者と、行う
大河内:火を焚くのに向き不向きの土地がある、と
遠国:ええ。ご先祖様の帰ってくる家の前で焚くから、あれは迎え火として成立する。では──帰ってくるのがご先祖様ばかりとは限らない土地で、同じ火を焚いたら。そこいらじゅうが墓場のような土地で、誰のものとも知れない大きな灯りを上げ続けたら。どなたが来ると思います?
白鳥:……ちょ、ちょっと脅かさないでくださいよぉ……
(スタジオ笑い)
大河内:せ、先生。あまり視聴者の皆さんを怖がらせてもいけませんので、このへんで少し肩の力の抜ける話を
遠国:おや、失礼しました。では毒にも薬にもならない、ことわざの話でもしましょうか。泣きっ面に蜂に弱り目に祟り目、一難去ってまた一難に踏んだり蹴ったり。不幸が重なる言葉なら、この国にはいくらでもございます。ところが幸福が重なる言葉となると、これがめっきり数を減らします
白鳥:ほんとだ!
遠国:先人は知っていたのでしょうね。良いことは続かないが、悪いことは続くと。灯りに羽虫が集まるのをご覧なさい。一匹来ている灯りには、必ず二匹目が来るでしょう。あれと同じでね、魔は魔を呼ぶのです
梨花:もうやだ……
大河内:では最後に先生から、視聴者の皆さんへこの夏の心得をいただけますか
遠国:迎え火はご自分の家の分だけ焚くこと。送り火を忘れないこと。招いたものは、帰すまでが行事です。それから万一、覚えのない灯りや覚えのない物音に出くわしたら、それはどなたかの行事だとお考えなさい。よそさまの行事に飛び入りしてはいけません
大河内:ありがとうございました。続いては視聴者投稿の心霊写真コーナーです
(了)