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カナベルこと
例えばパソコンである。打ち込むそばから文字が消えていくのだ。
あとは玄関の人感センサー付き照明 。人が通る時に自動で点灯するアレだが、人が通ろうと通るまいとここ最近はパチパチとせわしない。
テレビも不意にぐにゃりと人が歪んだりする始末だ。
「白物家電は一気に壊れるっていうけど……あれ? テレビとかパソコンって黒物家電だっけ……まあいいや、とにかく何だか……」
厭~な感じではあった。
そんなある日、加奈のSNSにとあるDMが届いたのだ。それを読んだ時、加奈の喉からはおもわず「うっ」という乙女らしからぬ声が漏れてしまった。
内容はとある相手からの、とある要求だ。はっきりいって気乗りしないにも程がある。しかしバックレるわけにもいかない相手だった。
かくして数日後──。
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「あなたがカナベルさんかしら」
背後からかけられた声音は、鼓膜の奥へねっとりと粘りついてくる響きを帯びていた。加奈はおそるおそる首筋を巡らせ、おもわず息を詰める。視界に飛び込んできたのは初秋の宵闇をそのまま掬い取って仕立てたような、異様な圧迫感を放つ一人の女の姿であった。
仕立てのよい黒一色のワンピースはまるで喪服めいて見える。襟ぐりから覗く鎖骨の窪みには、ぞっとするような色香と、ある種の凄みが濃密に澱んでいる。年齢は二十代半ばとも三十路を越えているとも見紛うばかりで、その得体の知れぬ風情に、加奈は気圧されてたじろぐ他なかった。
周囲のざわめきがふいに遠い世界の幻聴のように掻き消えていく。
ああ、この悪寒たるや!
背骨をじわじわと這い上がっていくその感覚に、加奈はふと昔観たリ〇グというホラー映画の事を思いだした。
「……ええ、そうです。あなたが、その……」
ええ、と女が頷く。
「
女──京子は、つ、と一件の喫茶店を指さした。そんなポーズ一つがやけに様になっており、加奈は暫時茫とした態度で京子を見つめ、慌てて頷くのだった。
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「世の中には不思議な事が沢山あるの」
座席につくなり、京子はいきなりそんな事を言った。コミュニケーションの第一歩としては酷く
しかし、それにしたって京子は何が言いたいのだろうか──加奈が意図をはかりかねていると、京子は紅を引いた唇の端をわずかに吊り上げて言った。
「不思議は不思議のままにしておきなさいってことが言いたかったの。あなたがよく知っている──まあ私のほうがよく知っているのだけど──伊佐朗君みたいにね」
加奈は喉の奥をぎゅっと掴まれたような錯覚を覚え、思わず膝の上で両手を硬く握り締めた。
テーブルの硝子天板に映る京子の白い指先は、まるで死蝋めいた冷ややかさを湛えつつ、どこか毒を含んだ百合のように妖しい艶を放っている。探りを入れてやろうと息巻いていたはずの自負など、この居心地の悪さの前には微塵も役に立たず、ただ心臓の早鐘ばかりが耳朶を打った。
「掻塚のことに、これ以上深入りしてはいけないわ」
もっとも──と京子は続ける。
「もしかしたら、もう遅いのかもしれないけれど」
京子はそう吐き捨てるように呟くと、音もなく優雅な所作で椅子から立ち上がった。
黒衣の裾が翻り、わずかに線香にも似た香りが加奈の鼻腔を擽る。そして竦み上がったままの加奈の肩へ、京子はぬらりと影を落とすように身を寄せ、その端麗な顔を耳朶のすぐ際まで近づけて──
「稜威之大麻以ちて、垢穢を截ち断り給へ」
と呟いて、
「伊佐朗君に近づかないでね」と言って、京子は去っていった。残された加奈は暫時呆然としたあと、何やらちょっとしたムカつきを覚え、その後、ここしばらく妙に重かった体から倦怠感がしゃっきりぽんと抜けていることに気づいた。