むむむの伊佐朗   作:織田ひろふみ

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閑話⓵

 恐山? ああ、伊佐朗ね。うん、知ってるよ。中学が一緒だった。

 

 いや、同じクラスになったのは二年の時だけなんだけど、まあまあ喋ってた方だと思う。仲良かったかって言われると……仲良かったんじゃないかな。多分。あいつ誰とでも普通に喋る奴だったから、俺だけが特別ってわけじゃないけど。

 

 第一印象? うーん。普通。ほんと普通。背も普通、顔も普通、声も普通。クラスの中心にいるタイプじゃないし、かといって隅っこにいるわけでもない。なんていうか、どこにでもいる。気がついたらそこにいるんだよな。やたら馴染んでるというか。陽キャとも陰キャとも仲良くしてたよ。フツーどっちかのグループに入って、もう片方とは話さなかったりするもんなんだけどな。

 

 コミュ力すげーって当時は思ったけどさ。

 

 でもあいつってちょっと変わってるんだよ。まあそれは君だったら知ってるだろうけど。

 

 そうそう、こんな話があるんだ。

 

 体育の授業で跳び箱やってた時のことなんだけどさ。クラスの奴が飛び越えようとして手が滑って、そのまま向こう側に落ちちゃったんだけど。

 

 手を突こうとして失敗したんだろうなあ、見たら腕が変な方向に曲がってて、本人は真っ白な顔で声も出ない。女子が何人か叫んでたし、男子もだいたい固まってた。先生はその時たまたま体育館の裏に用具取りに行ってて不在。

 

 俺も正直動けなかったよ。だって腕があり得ない角度に曲がってんだぜ。

 

 でもあいつは──。

 

 すーっと歩いていって、落ちた奴の横にしゃがんで「動かないで」って言って、それからどっかに走っていってさ。戻ってきた時は保健の先生を連れてた。保健の先生が来るまでの間、恐山は骨折した奴のそばにずっと座ってて「大丈夫、先生来るから」って声かけてた。

 

 で、後から先生に褒められたんだよな。「恐山の判断が的確だった。最初に俺を呼ぶより、保健の先生呼んだのは正しい」って。確かにそうだ。体育の先生呼んでそれから保健室いくより、保健の先生に直で来てもらったほうが手っ取り早いもんな。みんなが固まってる中で動けたのは恐山だけだった。

 

 でも──うーん、めっちゃ無表情だったのが印象的だったなあ。冷静ともまた違うんだよな。いや、パニックになれって言ってるわけじゃないよ。ただ俺が言いたいのは、普通さ、目の前で同級生の腕がぐにゃって曲がったらちょっとは顔に出るじゃん。うわ、とか、やべ、とか。恐山はなんかフツーだったんだよなあ。

 

 なんかちょっと──気持ち悪いなっておもったっ……って、あ! 今のは恐山には内緒にしておいてくれよ! 

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