むむむの伊佐朗   作:織田ひろふみ

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4.雑談のむーん

 ◆

 

「むーん……俺は別に幽霊とかそういうのを信じてるってわけじゃないんだよね、だって見た事ないし」

 

 俺がそう言うと、カナベルは──

 

「でも見た事ないのにいないって言いきれるんですか?」

 

 などと言い返してきた。ごもっともである。

 

 ただ、カナベルはちょっと勘違いしている。

 

 俺は別に幽霊なんていないとは言っていない。

 

「いやぁ、言い切れないとおもう。もしかしたらいるのかもね、幽霊とかさ。呪いとかそういうのもあるのかもね、知らんけど」

 

 そう、俺は本心からこう思っている。

 

 世界は広い。

 

 俺のあずかり知らないところで、あずかり知らないアレコレが起きていて、それがもうめちゃくちゃヤバいみたいな事だってあるんだろう。だからこそ俺はいつだったか、コンビニに行く途中で街灯がプツプツを消えた時に、慌てて明るい店内へ駆け込んだのだ。だって停電とかならともかく、あんなふうに順番に消えてくるなんておかしいだろ? 

 

 おかしいモンは避けるんだよ、君子危うきに何とやらってやつだ。

 

 ──ところで俺は今、新宿のカフェマヤというカフェに来ている。

 

 カフェマヤは区役所通りにある格安カフェで、これがなんと24時間営業なのだ。しかもこの物価高だというのにアイスコーヒーが250円で飲める。

 

 まあその分、全体的なクオリティはお察しなのだが。床はなんだかべたべたしてるし、革張りのソファは所々破けてるし、アイスコーヒーは色のついた生ぬるい水といった所で、控えめにいってもカスである。

 

 しかし店にはワイファイもあるし、コーヒーのみならずメニュー全般が安いということで常にそこそこ人は入っている。

 

 こんなところでカナベルと俺は、昼前からずーっと話し込んでいた。

 

 ま、いわゆるオフ会というやつだが色気のある話ではない。前回の山歩きの一件でちょっと相談というか、話し合わなきゃならんだろうな~ってカンジだったりする。

 

 というのも、あのデブのせいで俺とカナベルは予期せぬ出費を余儀なくされてしまったわけだが、そのデブがどうにも音信不通で、DMを幾ら送っても返信はなく、こりゃ泣き寝入りかなと思ってたところにとんでもないニュースが飛び込んできた。

 

 俺の配信のリスナーに教えてもらった事なんだが、デブがなにがしかの事件に巻き込まれて亡くなってしまったらしいのだ。その死に方たるやかなり異常なものだったらしく、で、まあカナベルに経緯を伝えると──

 

『それって呪いですよ! 間違いありません!』

 

 などと言うのである。

 

 で、冒頭で言ったカンジの話をしてたんだが、俺がハイハイとかソウダネとか言ってるとなんだかむくれてしまったのだ。

 

「──なんで、私たちは無事なんでしょうか? それとも、これから何かが……」

 

 カナベルは不安そうにしている。

 

 小動物然とした彼女が不安そうにしてるのを見るとなんだか不憫だなあって気持ちになるんだが、同時に「うおおおもっと不安そうにしてくれ!」みたいな気持ちにもなるのはなんでなんだろうな? 

 

 全然関係ない話だけど、俺はみゅっくりという生首マスコットが結構好きで、特にみゅ虐というジャンルを密かに推してたりする。

 

 みゅっくりでサッカーかドッジボールやりてえなあ。

 

 きっと「みゅっ!?」とか「や、やめるみゅ~!!」とか言って泣きわめくんだろうなワハハ。まあそれはともかく、何か安心させてやれる様な声をかけてやるのも紳士のマナーってやつだろう。俺の彼女も「女の子には優しくね」と言っていたし。

 

「いやあまあ大丈夫なんじゃない? だって俺らは自腹きってまで祠を修繕したじゃん。経緯だって伝えてさ、手を合わせてごめんなさいってしたし、神様だかお化け? 妖怪とかがいても怒ってないと思うよ」

 

「そう、ですかね……?」

 

「うんうん、まあ金は戻ってこないけどね、連絡とれないってか死んじゃったみたいだし。まあリスナーの情報だからどこまで信ぴょう性があるかわからないけどね」

 

「お金は別に、もういいんですけど……」

 

 なおも不安そうなカナベルだが、俺としてはああいってやるのが精いっぱいだった。まあでも大丈夫なのでは? 

 

 常識的に考えて、むしろご利益があってもいいとすら思ってるよ。いや、マイナスを0にしただけって意味合いではご利益なんかないか。ただまあ、世の中って結局因果応報だと思うんだよね。どんな結果にも原因が必ずあって、嫌な結果を避けたいんだったらそういう原因を避けるよう行動すればいいと思う。

 

 勿論、それでも不運だとか理不尽だとか──そういうものに襲われる事もあるかもしれないけど、そんなものは気にしたって仕方がないではないか。

 

 その辺の事を俺は懇々とカナベルに語ってやった。

 

「まあ……そう、なのかな。私たちなにも悪い事してませんもんね」

 

「うんうん。それにさ、ああいう祠に祀られている神様ってさ、やたらめったらと誰かを祟ったりしないと思うんだよな。人間なんかよりよっぽど道理を弁えていると思うよ。その代わり、明確に無礼な行為に対しては覿面に祟るかもしれないけどさ、ほら、デブみたいに」

 

「そうかな……そうかも……って……あの人……」

 

 カナベルは話している途中ではっとしたような表情を浮かべ、慌ててスマホを取り出す。そして──

 

「ん……? なになに……」

 

 ──『なんか私たちの後ろに座ってる女の人、ずっとこっちを見てて……ちょっと怖いです』

 

 とのこと。

 

 ああ、不審者か。このカフェは良くいるんだよ。なんてったってカフェマヤだからね。ここは新宿の吹き溜まりというか、様々な人種が集まる。夜職の人達、マルチの勧誘、どう見てもお前ら犯罪グループだろみたいな奴ら。そうそう、この前なんて如何にもイカニモな外見の兄ちゃんたちが、スマホの箱をいくつもテーブルの上に重ねて、それでお金のやり取りをしてたんだぜ。

 

 まあそんなイカレポンチな店に女の子連れてくるなって話なんだけどさ、なんたってやすいからねここは。新宿のカフェなんてどこも馬鹿みたいに高いからやってらんないよ。

 

 ──『変な人とは目を合わせない! (; ・`д・´)b』

 

 俺はそう返信を返して、隣の椅子に座った。カナベルの視線的にこの位置なら見なくてすむはずだ。

 

「ど、どうも……」

 

 カナベルはお嬢様気質な所があるんだよな。性善説とか信じてそう。やばい人は本当にヤバいから。

 

 また脱線して申し訳ないんだけどさ、この前新宿で彼女と待ち合わせしてたら変なおばさんがいきなり叫び出してさ、びっくりしたからそっちを見たわけ。そしたらそのおばさん、キーキー言いながらこっちに走り出してくるんだぜ。

 

 あれは間違いなくホス狂の末路だね。

 

 おお怖い。

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