前世の妹が今世の彼氏に告白したらしいんだが   作:雷神デス

18 / 18
前世の妹はちょっと変なところがあるらしい

 幼児期健忘、という症状があるらしい。

 色々と難しいことを省くが、簡単に言えば。

 三歳以前の記憶は、大人になると残りにくいらしい。

 だから三歳を過ぎるまでの間、その作業を決して止めてはならなかった。

 前世の俺を、その記憶を、その断片を、私から失わせないようにと。

 

 

『正彦。正彦。正彦』

 

 

 その名をいつ頃から書き始めたかは覚えていない。

 失われていく記憶を、夢を、何度も何度も、殴り書く。

 忘れてはならない、必ず残し続けなければならないものだから。

 その名を覚えている限り、俺は俺であり続けられるから。

 

 

『加奈さん?』

 

 

 ビクリと、身体が震えた。

 恐る恐る顔を上げれば、心配そうに私を見る少女がいた。

 名前は確か、五里羅さんだっけか。

 

 

『何をしていらっしゃいますの?もう、消灯時間は過ぎていますわよ』

 

『あ、ごめん。私、忘れっぽいからさ。忘れないように書いてたんだ』

 

『書いていた?何を……きゃあ!?』

 

 

 彼女は私のノートを見て、酷く怯えたようにあとずさり、悲鳴を上げた。

 私はこてんと首をかしげて、様子のおかしな彼女に近づいた。

 なんだか怖がっているみたいだから、よしよししてあげようと思った。

 

 

『か、加奈さん。それ、なんですか……!?』

 

『何って……』

 

 

 言われて、気づいた。

 そういえば私、今日は鉛筆の芯が折れちゃったから、違うもので書いたんだ。

 それが布団に滴り落ちているのを見て、彼女は慌てているらしい。

 しくじっちゃった、これは明日、職員さん達に怒られてしまうかもしれない。

 俺は恥ずかしそうに笑って、彼女に()()を見せた。

 

 

『ごめんね、零しちゃった。明日洗い流すよ』

 

『何を言ってますの!?血が、血が出てますわよ!』

 

『あ、うん。鉛筆の代わりにしようかなって……』

 

 

 俺は、血が赤いことを知っている。

 私は、血が流れちゃダメなものだって知らなかった。

 俺は、日記が物を覚えるために書き留めるものだと知っている。

 私は、日記をどう書くのが正解かなんてことを知らなかった。

 

 

『……変だった?』

 

『変ですわよ!ほら、血が出ないよう抑えてください!絆創膏貼りますわよ!』

 

『うん、ごめんね』

 

『それに……そのノート、なんだか変だし、怖いですわ!』

 

『え?』

 

 

 後から知ることになったのだけど、その時は日記の書き方が非常によろしくなかった。

 何度も何度も同じ文字を書き連ねて、重要なワードを覚えようとしたのが悪かった。

 無数に並ぶ正彦の文字と、幸せの文字が、乾いて黒ずんで、不気味になってた。

 書いてる途中までは、ちゃんと綺麗な赤色だったはずなのに。

 

 

 

『ほんとだ。ごめんね?』

 

『……本当に大丈夫ですの?職員さんを呼んできた方がいいですわ?』

 

『いいよ、別に。心配かけさせちゃ悪いもの』

 

『けど。私が心配しますわ』

 

『……なら、悪いんだけどさ。教えてくれる?』

 

 

 思えばそれからだっただろうか、彼女が私を頻繁に気に掛けるようになったのは。

 いつも年長者っぽく振舞っても、どうにも彼女だけは俺を心配そうに見てたのは。

 最初はしくじったと思ったけれど、今思えばいい出会いだったのかもしれない。

 おかげで俺は、唯一無二の親友と言うべきお嬢様を得たのだから。

 

 

『日記って、どう書けばいい?』

 

『それ、日記でしたの?何がどうなればそうなりますのよ』

 

『君こそ、何がどうなったらそんな変な口調になるの?』

 

『職員さんに読んでもらった絵本から学びましたわ。わたくしお嬢様ですので』

 

『お嬢様なんだ。変なの』

 

『お嬢様ですの。変ではありませんわ。ノブリスオブリージュですわ』

 

『おお、高い地位には義務が伴うってやつだ』

 

『……そういう意味でしたのね』

 

『知らずに使ってたんだ……?」

 

 

 友達らしい友達を作ったのは、今世ではそれが初めてだったかもしれない。

 少し見栄っ張りで、されど頼りになる、私にとっての初めての友人。

 不思議と息が合って、消灯時間が過ぎているのに、二人で布団の中で笑い合った。

 

 

『加奈さんって、物知りですのね!』

 

『ふふん、でしょ?』

 

 

 そういえば、あの頃の俺って、どうにも幼かった気がする。

 暫く経ってからはマシになったが、当たり前のことを忘れていたし。

 魂が身体に引っ張られるってやつなのだろうか?

 あるいは、前世の情報量に、あの頃の幼い俺の脳みそが耐えきれなかったのか。

 まあどっちでもいい、流石の俺も、そんな昔のことは覚えていない。

 

 

『そういえば、気になっていたのですけど』

 

『ん?』

 

『なんで、加奈さんのお腹には──』

 

 

 何を聞かれたんだっけ?

 何を答えたんだっけ?

 流石にもう、覚えてなんていないけど。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「……思ったより早く着いちゃったか」

 

 

 休日の早朝らしく、駅は今から旅行に行く人達や、悲しいことに休日だろうと会社の命令には逆らえず今日も今日とて労働しなきゃならない死んだ目のサラリーマン達で賑わっていた。

 すまないサラリーマン達よ、私はこれから友達と遊びに行くね……!

 

 

「集合時間まで時間あるし、どっかで暇つぶしでも──」

 

「なら、ご一緒にお茶なんかどうですか?」

 

 

 トントンと肩を叩かれ、背中越しにお誘いを受ける。

 まったく、可愛いことをしてくれるものだ小悪魔め……!

 

 

「……ほほう。このスーパー美少女にナンパとは、見る目があるね?」

 

「お褒めに預かり恐悦至極。お互い、楽しみにしすぎちゃったみたいですね?」

 

 

 俺以上のハイパー美少女こと、奏ちゃんが手をふりふりと揺らして現れた。

 クール系な顔立ちからは予想しえぬ、死ぬほどかわいいキュートな所作。

 俺が今男なら間違いなく堕ちていた、いやまあ今現在で既に堕ちてるわけだが。

 思わず膝を突き、拝んでしまうのも必然というわけよ。

 

 

「……何やってるんですか?」

 

「あまりの可愛さに目をやられてしまってね……!」

 

「加奈さんの奇行は今に始まった事じゃないですけど、流石に人目があるので控えましょうね~。ほら、美味しいラテが飲める店が駅の中にあるんですよ。付き合ってくれますよね?」

 

「奏ちゃんからのお誘いなら喜んで!」

 

「それはよかった」

 

 

 ガシッ、と手を掴まれて、思わず「ひょえ!?」なんて変な悲鳴が出た。

 薄々自覚していたが、もしかして俺ってこういう不意打ちに弱いんだろうか?

 そんな悲鳴がツボったらしく、彼女はおかしそうに笑いながら。

 

 

「もう、変な声出さないでくださいよ。人がいっぱいいるんですから、手をつなぐのは合理的でしょ?恋のライバルではありますが、友達でもあるんですから」

 

「いやまあそれはそうなんだけど……!若干恥ずかしいというか、なんというか……!」

 

「照れない照れない。ほら、離さないでくださいね~」

 

 

 女の子同士で、歳も近いのだから、別にそこまで恥ずかしがる必要はないかもだが。

 それはそれとして、奏ちゃんはもう少し自分の面の良さを自覚した方がいいと思う。

 例え同性だろうと、こんな眩い笑顔で手を繋いじゃったら恋に堕ちちゃうぞ?

 

 

「なんか今ものっすごく『お前が言うな』ってツッコミたくなりました」

 

「急にどうしたの奏ちゃん」

 

「なんとなく加奈さんが原因な気がします」

 

「なんで!?」

 

 

 まったく身に覚えがないのだが。

 そんなこんなしてると、やがて駅の中に作られたカフェエリアを発見する。

 チェーン店ではあるのだが、駅に作られただけあって普通よりもお客さんが多く。

 何やらやたらとお洒落で、優雅にパソコンを打つビジネスマンがいっぱいで……。

 

 

「待ち合わせまで四十分程ありますし、ドリンクだけ頼んで待ちましょうか」

 

「それは賛成なんだけど。大丈夫?私場違いじゃない?普段通り私服で来ちゃったよ?」

 

「少しお洒落なだけで普通のカフェですよ。それに、加奈さんの私服って私よりお洒落じゃないですか。何をそんなに自信無さげにしてるんですか」

 

「いやだって、こういうお洒落なとこ来る時は大体優斗君が一緒だったし……。イケメンオーラのおかげで、私の場違い感が薄れてたし……」

 

「あなたのキラキラオーラも大概ですからね?ほら、バカなこと言ってないで注文しますよ~」

 

 

 そう言って、彼女は何故かポケットをまさぐって。

 暫くした後、何やら顔色を少しだけ青くして、鞄まで探って。

 少しの間直立不動になった後、ふぅと息を吐いて俺の後ろに下がり。

 

 

「加奈さん、お先にどうぞ」

 

「え?いやまあ別にいいけど……」

 

 

 何か奏ちゃんの様子がおかしい気はするが。

 まあお洒落なカフェと言っても、チェーン店ではあるし。

 メニューをちらっと見た感じでは問題なさそうだし、いつものでいいか。

 

 

「えーと、それじゃあ店内利用でサイズはベンディーメニューは抹茶クリームフラペチーノカスタムでチョコレートチップ追加エクストラチップチョコレートソースエクストラパウダーエクストラホイップで。奏ちゃん何する?」

 

「ごめんなさいちょっと一旦待ってもらっていいですか。私呪文は使えないんですよ、メニュー見ながらじゃないと無理なんですよ。なんでそんな自信無さげにしながらスッラスラとメニューも見ずに注文できるんですかあなたは」

 

「あれ、奏ちゃんここよく来るわけじゃないの?」

 

「フフフッ、私が一人でこんな店に入れるとお思いですか……!?基本注文する時は友達に頼んでもらって美味しいドリンクを飲ませてもらってましたとも……!ちなみに友達に頼んで書いてもらった注文メモを今しがた無くしました。助けてください」

 

「いやそんな自信満々に言われましても……」

 

 

 割とこの子ノリと勢いで生きている疑惑があるな?

 結局その後、奏ちゃんを手伝ってあげて無事注文を終えた。

 店員さんの生暖かい視線が、奏ちゃんのメンタルを削っていた気がした。

 

 

「人間って。ここまで惨めになれるんですね」

 

「……その、元気出して?ほら、こういう店の初心者にはよくあることだから」

 

「ていうか思ったより凄いの注文しましたね加奈さん。クリームが溢れんばかりの盛り具合なんですけど、飲めるんですかそれ?」

 

「大丈夫。飲んだ分動けば実質ゼロカロリーだから!」

 

「強弁が過ぎる……!」

 

 

 あらゆる全ての食事に通じる法則、カロリーは動けば消える……!

 スポーツジムにしっかり会員登録して体重維持してる俺を舐めるなよ?

 ジムに通っているおじいさんおばあさんは既に俺を孫だと思ってる……!

 元気に挨拶する度に飴ちゃんを貰えるぜククク……!

 気持ちは嬉しいけど食べた分また動かなきゃならないぜ……!

 

 

「……加奈さんは。私に何か、聞きたいことあります?」

 

 

 少しだけあわただしいティータイムを過ごしているその最中に。

 奏ちゃんは、ふとした拍子にそんなことを聞いてきた。

 多分だけど、俺をカフェに誘った理由なのだろう。

 

 

「急だね。今のところは思い浮かばないけど。どうして?」

 

「この旅行に、あなた達を誘った理由だとか。私があんなことを言いだした理由だとか。ほんとなら、加奈さんが聞くべきことなんて山ほどあるはずなのに。あなたは一度も、私にそれを問いただしたことは無いじゃないですか」

 

「あー、たしかに無かったかも。けど、聞く予定は今のところないかな」

 

「……逆に聞いちゃうことになるのですけど。なんでですか?」

 

「怖いから。……あ、ごめん省略した。えーと、正確に言うと」

 

 

 反射的に返して、きょとんとした顔の奏ちゃんを見て慌てて訂正する。

 きょとんとした顔が凄まじく可愛いけれど今はそれは置いておけ朝宮加奈。

 前世ではお兄ちゃんだったが、今世ではただの友達だ……!

 

 

「私が逆の立場になったら、きっと聞かれることを怖いと思うから。誰かに色んなことを聞かれて、隠したかったはずのことを何もかも暴かれて。最後に残った本音の姿を誰かに見られるのが。どうしようも無く、怖いんだ」

 

「……だとしたら。私は随分と、あなたに怖がられることになるはずですが」

 

「ううん。私が怖いのは、暴いた人じゃなくて。暴かれた後の自分」

 

「それは……どういう意味か、聞いても?」

 

「アハハ、そんなかしこまらなくたっていいのに」

 

 

 俺が一番隠したいことを暴いた人は、今まででたった一人しか存在しない。

 むしろあの人、なんで俺が完璧に隠しているオカルト的事実を的中させたんだろうか。

 普通思いついてもすぐ否定するだろ、故人が転生して女の子になりました、とか。

 十六夜パパに関しては普通にあの人が一番怖い、シンプルに頭の中が怖い。

 

 

「誰だって、自分が本当はどんな人かを知ることなんて出来ないでしょ?鏡を見なきゃ自分がどんな顔かもわからないみたいに。自分が周りからどんな風に見えているか、なんて、自分じゃ分かりようも無いから。それで何度か、へまをしたことがあるんだ」

 

「へま、ですか?」

 

「私が普通だと思ってたことが、周りにとっては普通じゃなかった。怖がられたり、二度とやるなって怒られたり。まあその大半がちっさい頃の話だけど、何度も怒られながら、教わりながら、少しずつ常識とかを学んでいった」

 

 

 転生物ならば知能も前世相応にするのが相場だろうに、神様はそう甘くはなかった。

 幼い頃の俺は滅茶苦茶バカで、前世の記憶があったとしてもポカをやらかしまくった。

 そのせいで施設の職員さん達には大いに迷惑をかけてしまったものだ。

 優斗君と出会ったのが小学生くらいの時期で本当によかったと思う。

 多分五里羅さんと同じくらいの歳頃で出会ってたらドン引かれてた。

 

 

「まあ、子供の時期なんてそんなもんでしょうし。やらかしを覚えている方が稀ですよ」

 

「おぼえてるよ。忘れるのも怖いから」

 

「……加奈さんは。怖いものが沢山あるんですね」

 

「そりゃあ勿論。なにせか弱い乙女だからね!」

 

「遊園地で大暴れしてた人が何やら言ってますね」

 

「ノーカン、ノーカンだから!」

 

 

 あれはあのDQN達が悪いから!俺は悪くないから!

 

 

「……色々聞いたお詫びに。私の方から少しだけ、少し恥ずかしい話をしてもいいですか?」

 

「へ?そりゃ、お話ならいくらでも聞くけど……」

 

「加奈さんには。ちゃんと話してなかったと思うので」

 

 

 真剣な顔で俺と向き合う奏ちゃんの姿に、少しだけドキッとした。

 酷く意地っ張りで、負けず嫌いなその眼は、前世の母さんによく似ていた。

 怖くて、優しくて、冷たくて、暖かな、あの人の眼に。

 

 

「私が優斗さんを好きになった理由。あの日話したことだけじゃないんです。実際のところ……誰彼構わずヒーローって、すっごく嫌いなんですよね、私」

 

「……お兄さんのこと、嫌いだって言ってたもんね」

 

「はい。私にとって、兄はヒーローで。だから嫌いでした。助けられた人達からすればそりゃあいい人でしょうし、もし嫌いなんて口走ろうものなら、兄を知る人から滅茶苦茶に怒られたり、延々と説得されたりするもんでしょうけど」

 

「されたの?」

 

「ええ、それはもうしこたま。それが兄嫌いの原因に繋がってますし」

 

「アハハ、それはまた……」

 

 

 どこのどいつだ、人の好き嫌いにぎゃいぎゃいと口を挟むバカ野郎は……!

 いやまあ、それらの怒りや説得は、前世の俺を。

 つまりは、正彦を想った善意でしかないのだろうけれど。

 

 

「けど、そんなに多くの人を助けて。中には自分の身を危険に晒す人助けすらあって。私は、そんな兄の話を聞くのが、だんだん嫌になりました」

 

「……それは、なんで?」

 

「私と、お母さんを助けた兄は、家族だから助けてくれたのではなくて。“そういう人だから助けた”と。そう突き付けられるようで、嫌だったんです。だってそれじゃあ、例え轢かれそうなのだ私たちでなかったとしても助けてたんじゃないかって。そう思っちゃうじゃないですか」

 

「それだと、ダメなの?」

 

「ええ、ダメですね。私の酷い我儘なのは承知の上で──」

 

 

 俺は、別に自分のことをヒーローだなんて思ったことは無いし。

 他の人が轢かれそうだったとして、同じように身を挺して守ったかは分からない。

 それでも彼女にとって、死んだ後の俺が、そう見えたのだとしたら。

 

 

「私達を救ってくれた兄が、家族への愛情で。命を賭して助けてくれたんだって。決して、自分の命を簡単に手放すような人ではなくて……私と母に生きて欲しかったから、大切な命を賭してくれたんだって。そう、心の底から信じていたかったんです」

 

「……今はどう?」

 

「今は少しだけ違います。みんなを助けるヒーローなんで今でも嫌いです。不気味だとも思います。けど、最近、ほんの少しだけ。兄に対する感情に、整理がつきまして」

 

 

 輝く瞳に、生意気そうな笑み、真っ直ぐ伸びた指先。

 ヒーローを嫌ってるだとか言ってる癖して。

 彼女は俺なんかよりもよほど、かっこいいヒーローに見えて。

 

 

「私。兄を助けて、気分よくなりたかったんです」

 

「……フフッ、なにそれ?なんだかんだで言って、奏ちゃんのがよっぽどヒーローやってない?」

 

「そんなことありませんが?私の人生は有限なんですから、誰でも彼でも助けるつもりなんて毛頭ありません。私が助かるのは、私が助けたいと思った人ですし。その人が例え助けられる準備が出来てなかったとしても関係ありません。いい感じに死ねるシーンだったとしても助けます。感動的なBGMが流れようと助けます。そこで死ねば英雄になれてたとしても、助けます。それで相手から憎まれようと、空気読んで無いと言われようと助けます。勝手に気持ちよく死ぬなんて許しません」

 

「……奏ちゃんって。もしかして割と難儀な性格してる?」

 

「今更気づきました?あと、あなたも大概ですからね?」

 

 

 バカな、俺ほど分かりやすい性格をしてる人間などそういないのでは?

 抗議の目を向けたけど鼻で笑われた、解せない。

 

 

「だから。私は、あなたのことも嫌いです。あんな風に鍵一つのために川に飛び込んで、それをなんでもない風に言って。挙句の果てに、そんな自分をアイデンティティにして。そんな生き方、私は嫌いです」

 

「……そっか」

 

「だから、優斗さんに惹かれました。助けたことを誇るのではなく、助けられた人にただ手を差し伸べるだけじゃなく。次が無いように、って助けられた人に本気で怒ってくれたことが。私にとっての、理想の生き方なんです。強い生き方なんです。……いえまぁ、身も蓋も無い理由を追加すると、顔が好みだったってのもありますが」

 

「あはは、イケメンだからね、優斗君。けど、それで十分でしょ。外見だとか、内面だとか、全部ひっくるめて好きなんでしょ?外見なんて関係ない、って言う人よりもよほど好きだ」

 

「……そうですかね?」

 

 

 それに、きっと。

 本気で人を好きになれた時点で、凄いことなのだ。

 好きな人に愛を伝えられるだけで、かっこいいことなのだ。

 傷つく恐怖を知りながらも進めるのは、きっと。

 

 

「……よし、スッキリしました!と言うわけで、私の好きも大分本気ですので!全力で行きますからね!取られたく無ければ、全力で争ってください!私、結構強いですからね!」

 

「……あー、うん」

 

「なんですかその気の抜けた返事」

 

 

 ……よく考えたらこの子、俺たちが別れたこと知らないんだな。

 本人は悪役みたいな感じで振る舞ってるが、今だと正当なんだよなぁ。

 これは、教えておいてやるべきか……?

 そう悩んでいると、誰かの通知がスマホ越しに鳴って。

 

『二人とも。集合時間、過ぎてるよ?』

 

「「……あ」」

 

 

 この後二人で全力で走ることになった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい(作者:うちっち)(オリジナル現代/恋愛)

 「願いが叶う」というテーマを主軸にした、恋愛シミュレーションゲーム。それをプレイし終え、「こんな世界に行けたら」と願った俺は、気が付くとヒロインの1人になぜかなっていた。理由は全くわからない。▼ そして、ゲームのストーリーは既に始まっているようで、しかもなんと俺がなったヒロインのルートに着々と進んでいる最中らしい。ただ、俺は男と恋愛するのはまっぴらごめんだ…


総合評価:4033/評価:9.06/完結:29話/更新日時:2026年04月04日(土) 19:25 小説情報

ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい(作者:あまぐりムリーパー)(オリジナル現代/ノンジャンル)

 明上ユーリは転生者。ソーシャルゲームであるラスト・インヘリタンス――通称ランヘリの世界にTS転生してしまった。▼ ランヘリでの役割は、序盤で死ぬタイプのヒロイン。そんな立場になったんだからどうしよう……とかではなく。▼ そんなことよりも、主人公くんをいじり倒したい!!!▼※カクヨム、小説家になろうにも投稿始めました▼一章完結済み▼二章完結済み


総合評価:4537/評価:8.73/完結:59話/更新日時:2026年05月18日(月) 19:03 小説情報

TS→後輩(天才女)のヒモ(作者:鰻重特上)(オリジナル現代/恋愛)

「僕を、ヒモにしてください」▼「……はい?」▼ 2053年。ちょっと未来の東京、会社勤めの三十四歳の独身男性(彼女いない暦=年齢)である「英輝夜」はある日、「朝おん」をかました。▼一夜にして戸籍、貯蓄、住所の全てを失った輝夜が選んだのは……。▼ ▼ 後輩の「ヒモ」だった。


総合評価:4943/評価:9.08/完結:16話/更新日時:2026年02月19日(木) 19:00 小説情報

【TS】潰れそうで潰れない訳ありの喫茶店でバイトしたい!(作者:ひぶうさぎ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

本当は潰れそうで潰れない謎の喫茶店店主をやりたかったけど、TSしちゃったから店主に「このままじゃお店潰れちゃいますって!」って言う可愛いバイトの女の子やる▼


総合評価:3403/評価:8.09/連載:8話/更新日時:2026年03月20日(金) 12:12 小説情報

TS転生失敗作ちゃんが頑張る話(作者:cannolo)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ブラック企業勤めの社畜、榊透也は、仕事を辞めて人生をやり直そうと決めたその日に事故で死亡する。▼……だが次に目を覚ました時、彼は謎の実験施設の中で銀髪美少女に転生していた。▼しかも転生した世界は、前世で読んでいた大好きなヒーロー漫画『アステリオン』の世界だった。▼企業ヒーロー、能力犯罪、人体実験。▼漫画の中では派手で格好良かった世界は、実際に来てみるとかなり…


総合評価:4085/評価:8.67/連載:16話/更新日時:2026年05月28日(木) 07:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>