前世の妹が今世の彼氏に告白したらしいんだが   作:雷神デス

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妹ヒロインは、いいぞ。


前世の妹が可愛すぎて辛い

「加奈。なんで僕が怒ってるのか。分かるよね?」

 

「……はい」

 

 

 正座である。佇まいを直し、本気で反省しなければならない時にするあれである。

 身体はピッチピチのJKだが、前世合わせると三十は超えているであろう者の正座である。

 とても辛い。足先がとてもしびれる。あと目の前にある彼氏の眼光がとても怖い。

 

 

「加奈は。僕のことが嫌いになったの?」

 

「いや、別にそういうわけではなくて~……。むしろ優斗君以上の優良物件なんて、この先どこ探してもいないとは思ってるんだけど~……」

 

「じゃあ。なんであんなことを言ったの?」

 

「……いや、ほら。なんというか、物の弾みと言うかね?その、あのまま告白失敗して、帰って泣いてるところを想像したら、あんまりにも可哀想だなぁって思って、ね?」

 

「……それは、僕はもちろんだけど。奏さんにも失礼だ。彼女、あの後ずっと困惑しながら家に帰っていったよ。何が起きてるか分からないって顔で、大丈夫ですかって君や僕のこと心配しながら、場を収めるためにひとまずは帰ってくれた」

 

「うっ」

 

「あんな風に勇気を出した告白が、加奈のおかしな発言によって無茶苦茶になったんだ。僕も、君にそんなこと言われて芯が冷えるくらい青ざめたし、何か君にとってとても嫌なことをしてしまったのかな、って考えて、怖かったんだから」

 

「返す言葉もございません……!」

 

 

 あの後前世の妹ちゃんこと奏ちゃんは家に帰り。

 俺は目が笑ってない笑顔で優斗君の家に連れ込まれ、部屋の中でガン詰めされていた。

 原因は勿論、とち狂ってほざいたあの台詞である。

 

 

『ちょっと私と別れて、この子と付き合ってみる気とか、無い?』

 

 

 今思い返してみてもふっつーに不誠実だし、ふっつーにぶち切れられても文句言えない。

 二人の困惑した表情は今思い出してもいたたまれないし、あの時の自分を殺したくなる。

 けれど同時に、今でさえも、ほんの僅かに考えてしまう。

 

 

(正彦)の家族が、幸せでなくていいのか?』

 

 

 その自問に対する答えを、俺は未だに持ち合わせていない。

 

 

「……まあ、反省しているならよし。次からはあんなこと言わないでね。もし本気であんなこと言ってたんなら、僕どうなってたか分からないや」

 

「う、うん。ごめんね、優斗君」

 

「一応言っておくけど。僕は加奈以外の女の子と添い遂げるつもりはないから。重いって思われるかもしれないけど、孤児院に居た頃からずっと、僕は加奈のことが大好きだったんだよ?」

 

「えへへ……!私も大好きだったよ、優斗君!」

 

 

 フッ、やっぱり俺のあざとさ全開の美少女アピールは彼に効きまくってたようだな!

 いやまあ、今になってはかなり悩ましい要素になってしまったのだが。

 そもそもの話、俺は今までこの世界が前世と同じかすらも、怪しんでいたのだから。

 

 なんで、今になって?

 

 そう思ってしまう自分が居ないと言えば、嘘になる。

 前世で自分が暮らしていた実家に、今世の家族に無理言って、家族旅行という体で見に行ったことがあった。別に自分がかつて正彦だったことを、前世の家族に教えたかったわけじゃない。

 ただ、一目。幸せそうに笑う家族の顔を見て、安心したかったから。

 

 結果として、俺の家も、俺の家族も、影も形も残っていなかった。

 引っ越したのかと思って近所の人に話を聞いても、そんな話は聞かなかった。

 そもそもの話、俺の苗字であった唐沢(からさわ)自体、誰も聞いたことがないと言った。

 

 町も、近所も、その殆どが前世となんら変わりないはずなのに。

 ぽっかりと、俺の家と俺の家族だけが、別のものに置き換わっていた。

 俺はその時、今世と前世は、似ているだけの世界であると確信したのに。

 

 

「……さっきからずっと考え込んでるね。もしかして、奏さんが気になる?」

 

「へ?べ、別にそんなこと無いけど……?」

 

「加奈は、あの子とは初対面なんだよね?それにしては随分と彼女に入れ込んでいるように見える。もしかして、僕に何か隠していることでもあるの?」

 

「えーと。実はあの子は、生き別れた私の妹なのだ!……とか」

 

「……加奈の両親は、加奈を産んですぐに事故で亡くなったでしょ。君の次に子供を産む時間なんて無かったはずだし、双子にしては年が離れてる」

 

「あ、あはは……」

 

 

 実は間違ってはいなかったりするのだが、まあバカ正直に真実を言うわけにはいかない。

 俺ならそんなことをほざいた奴は病院に行くことを勧めるし、今後は距離を取るだろうし。

 それに、言ったところで何か解決するわけでもないだろうしな!

 

 

「……分かったよ。無理に聞き出さない。こうなった加奈は頑固だし」

 

「その。ごめんね?」

 

「いいさ。例えどんな隠し事があっても、僕が加奈を嫌う理由にはならない。それに、秘密の一つや二つ持っている方が、女の子は可愛く見えるからね」

 

「おお……!?」

 

 

 王子様フェイスで、当たり前のようにイケメン台詞を吐きやがる……!

 いやまあそうなるよう仕向けたのは俺だけど、凄まじい才能を感じるね。

 多分俺が居なくても、こいつならホストとかで稼げるイケメンになってると思う。

 

 

「けど、約束して。今後二度と、あんなことは言わないって。例え別れるにしたって、あんな理由じゃ納得することなんて出来ないから」

 

「だ、大丈夫大丈夫!もうあんなこと言わないよ!約束、約束!」

 

「……なら、いいけど」

 

 

 よし、切り抜けた!

 内心でガッツポーズしながら、「それじゃ、ゲームでもしようよ!」と自然と遊ぶ流れに持っていく。このまま妹のことを追求された場合、俺は多分すぐにぼろを出してしまう。

 であれば俺がやるべきは、話をうやむやにし、ぶりっ子ムーヴで場を乗り切ること!

 

 

「ねぇ、加奈」

 

「ん?なぁに、優斗君」

 

「加奈は。僕のこと、好きなんだよね?」

 

 

 

「大好きだよ!当然でしょ?」

 

 

 これは決して嘘ではない。朝宮加奈は十六夜優斗のことが好きだ。

 孤児院に居た頃から一緒に仲良く遊んでいたし、今も暇さえあればデートして遊んでる。

 彼以外の男を相手に付き合うなんて俺には難しいだろうし、多分彼との結婚を逃せば、俺は一生他の誰かとくっつくことなく、生涯を終えることになるだろう。

 

 

「……それは」

 

「それは?」

 

「……いや。なんでもない」

 

 

 なんでも無いとか言われると気になっちゃうんだが。

 というか明らかに何かを呑み込むような間があったんだが?!

 最近になって、割と彼って重めな人間である可能性が浮上してきた。

 おかしいな、爽やか王子様系イケメンにするよう教えてきたはずだが……!?

 まあ何にせよ、下手に突っ込んで藪蛇になるのも嫌だし。

 

 

「そっか!それでさ、明日のお弁当は私が作ってこようか?昨日も今日も優斗君が作ってくれたし、たまには私が作るよ!何がいいかな?」

 

「加奈が作ってくれるの?なら、そうだな。加奈が昔、よく作ってくれたお弁当がいいな」

 

「え、あの手抜き弁当!?」

 

「いや手抜きって……」

 

 

 しまった、つい本音が出た……!

 いやけど、適当に作った卵焼きに適当な味付けのクソでかソーセージ焼いて、あとは小学生男児が喜びそうな冷凍唐揚げと申し訳程度のサラダを入れただけの弁当だぞ?

 ぶっちゃけると前世の俺がよく食べてた、自作の急ごしらえ弁当だぞ?

 

 

「全然手抜きなんかじゃないよ。朝から頑張って起きて、孤児院の職員さん達を休ませるために作ってくれたお弁当だったんだもの。皆、加奈が作ってくれた弁当を、美味しい美味しいって食べてたんだよ?」

 

「ハハハ、いやあ……」

 

 

 言えない。実は全然他の子達の為じゃなかったとか言えない。

 何なら孤児院の職員さん達、俺に感謝するどころかものすっげぇ苦い顔して渋々見過ごしているのに気づいた上で作ってた、とか口が裂けても言えない。

 いやだって栄養バランスとか考えすぎてあんま美味くねぇんだもんあそこの飯!

 

 

『その、職員さん達のお手伝いをしたいと思って……!』

 

 

 とか言いながら、台所に行って勝手に弁当作って事後承認でOKを貰ったのである。

 子供のやさしさという免罪符を大いに活用し、幾度か自分の食べたいもんを食べるために、拙いながらも大人の手伝いをしたいという健気な子供を演じ。

 週に一度だけ、本来であれば栄養バランスを考え作るべきご飯を好き勝手にレシピ考えて作ることを許してもらっていたのだ……!

 

 

『君、もしかして料理ハマってる……?』

 

 

 ドレスオムライスとかを作り始めた時期から院長に見破られてしまった。

 けど多分他の職員さん達も結構楽しんでたと思うんです院長先生。

 何ならベテランの伊藤さんとか途中で俺に食べたい料理提案してました。

 決して俺のせいだけではないんです……!

 

 

「だから、またあのお弁当が食べたいな。加奈が皆の為に作ってくれた、最初のお弁当が」

 

「そういうことなら、断る理由も無いや!優斗君の為に、想いを込めて作るね!」

 

「フフッ。楽しみにしてるね、加奈」

 

 

 ……もう少し凝った料理作りたいと思ったのは内緒だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「卵~卵~、卵焼き用の特売卵は何処にある~っと」

 

 

 普段のあざとさ全開のきゃぴきゃぴ口調は、制服をパージしてる時は封印だ。

 二度目の生でようやく理解したが、多分あの口調の女子も大体は、知り合いが誰もいない時は普通に話していると思うし、何ならキャラを多少作っていると思う。

 俺の場合は男受け(主に優斗君からの)を良くするためだったのだが、利点は他にもあった。

 

 

「多少変なことしてても受け入れてもらえる、ってのはありがたいよなぁ」

 

 

 多分女子の間でも、俺みたいな口調の奴は嫌われるものだとは思う。

 どんなコミュニティであっても、周囲と迎合出来ない奴は嫌われるものだ。

 だが、俺の場合は隣にあまりにも強力すぎる盾の存在がある。

 大正義彼氏、優斗君の人気ぶりと合わさることで、この異質感は裏返るのだ!

 

 

『え、優斗君あんなタイプの女が好きなの?うぅ、私には恥ずかしくて出来ない!』

 

『変な女だけど、すごく勝ち組の彼氏を連れてる!もし私達があの子をいじめたら、あの人気者を敵に回すことになるの……!?』

 

『私たちとそう変わらない女なら納得できなかったけど、私たちとはタイプがかけ離れすぎててなんで私じゃダメなのとか思わない……。くっ、認めるしかない!あの女の存在を!』

 

 

 多分きっとこんな感じだと思う。ちなみに全部脳内妄想である点は悪しからず。

 まあ実際、『変な奴だけど優斗君の彼女だし』っていう補正はあるのだろう。

 今のところ、俺達二人は校内ではラブラブカップルとして名をはせている。

 少なからず嫉妬を受けそうな立場だが、今のところ直接それを言われたことは無い。

 

 

「神様仏様ハイスぺ彼氏様、ってな」

 

 

 俺は自分の幸せのために、全力で彼の人気に、彼の人柄に乗っかる気でいる。

 できるだけ楽をして、出来るだけ楽しんで、幸せに生きて人生を謳歌してやる。

 そのための最低条件は、彼との繋がりであり、それが無くなった時点で朝宮加奈の人生に、幸せという単語は消えてなくなってしまうだろう。

 

 

「……だってのに、何言ってるんだか」

 

 

 それでも脳裏にちらつくのは、会うはずも無かった妹の姿。

 今では赤の他人でしかない、何処からか突然現れた彼氏を狙う女子高生。

 放っておけば丸く収まったのに、あの時に出た言葉は。

 

 

 

「あの。加奈さん、ですよね?」

 

「うわあああああああああ!?」

 

「ちょ、そんなに驚かれます!?」

 

 

 背後から聞こえた、聞き覚えのある声に思わず叫び出して後ずさる。

 周囲の客がなんだなんだとざわつく中、俺はパニックになった脳内でどうにか言葉を絞り出す。

 そう、目の前で困惑している、俺の前世の妹こと奏ちゃんに……!

 

 

「毎日ちゃんと美味しいごはんは食べてますか!?」

 

「え!?いや食べてますけど、なんで急にそんなことを……!?」

 

 

 違うこれじゃない、気になってはいたけどそれじゃない!

 とりあえず再婚相手のお父さんはちゃんと妹を養ってくれてたらしい。

 それ自体はとても喜ばしいし諸手を上げて祝福したいが、それじゃあない!

 

 

「さっきは変なこと言って申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

「すいません、今も変なこと言ってます!とりあえず土下座はやめてくださいね!?周りのお客さん見てるので!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お、落ち着きましたか……?」

 

「ほんとごめん。マジでごめん。申し訳ございません。腹を切ります」

 

「そこまで誠意を示さなくても結構ですよ……!?」

 

 

 会計を済ませ、スーパーを出た俺達は、夜空の下を歩いていた。

 どうも彼女は今日の食事の買い出しに来たらしく、俺とは違いしっかりとした料理の材料がレジ袋に入れられている。見た感じ、今日は家でカレーでも作るらしい。いっぱいお食べ……。

 

 

「何故かやたらと慈愛の眼を向けられてる気がしますね!?えっと、もし私が忘れていたら申し訳ないんですけど。加奈さんとは、どこかで会った事があるんでしょうか……?」

 

「いや、一度も無いよ。勝手に情緒が壊れてるだけだから心配しないでほしい。ただ君が生きてるという事実に、私はこの世全てに感謝を捧げているだけだから……」

 

「絶対どこかで会いましたよね!?初対面の人にそんな感情向けられるわけないですよね!?」

 

 

 嘘はついていないぞ、嘘は。実際前世でも会ったこと無いもの。

 会ってみたいとは。ずっと、ずっと思っていたけれど。

 

 

「まあまあ。そんなことより!こんな夜に買い出しに来て大丈夫なの?女の子が夜道を歩くのは危ないし、親と一緒に来た方がよかったんじゃない?」

 

「あー、よく言われはするのですが。父は仕事で忙しいし、母はあまり体調も良くないので。家族で家事を分担して、料理だけは私が担当してるんです。ほんとならもう少し早めに買い物を済ませているのですが、今日は用事があったので……」

 

「腹を切ります」

 

「何故!?」

 

 

 絶対その用事って告白のことじゃん、振られた記憶を思い出させたじゃん。

 最悪のバッドコミュニケーションだ。優斗の彼女である俺にそれを聞かれたことは。

 彼女にとってどれほど、どれほど屈辱的で、嫌な気分にさせると思ってるんだ。

 

 

「生きててすいません……」

 

「ネガティブすぎますって!加奈さんのせいでも優斗さんのせいでもないですから!ただ私が先走っただけですから!……ちゃんと調べれば、彼女持ちって分かったはずなんですから。私がバカなことして、恥を晒してしまっただけの自業自得です」

 

「……その」

 

 

 一瞬、どうしても浮かんでしまった疑問を、呑み込もうとして。

 

 

「いいですよ。聞いても。隠すことなんて、何もありませんから」

 

「……それ、じゃあ。なんであなたは、優斗君のことを?」

 

 

 別に好きになった理由なんて、誰がどう思おうが勝手なことではあるのだろう。

 顔で選ぼうと、資産で選ぼうと、好きという感情自体にはなんら差はないはずだ。

 それでも、俺がそれを聞いたのは、多分。

 

 

「……笑わないでくださいね?飼い犬を、助けてくれたからです」

 

「飼い犬?」

 

「はい。普段病気がちで、家で一人いることも多い母さんのために、って。その子とのお散歩の途中で、リードが切れちゃったんです。成長した後も、貧乏性のせいで同じリードを使い続けてたのが悪かったんでしょうね……」

 

「私もお金は使うの渋っちゃうタイプだし、よく分かるなぁ。それで、どうなったの?」

 

「リードが外れたその子は、すっごい勢いで走り回っちゃって。それで、道路に出ちゃったんです。私が止めようと必死に走っても、全然追いつけなくて。車が迫って、轢かれるってなったところで。彼が、優斗さんが、あの子を抱き上げて、助けてくれたんです」

 

 

 おい、ハイスぺ彼氏。俺全然そんなこと聞いてなかったんだが?

 お前滅茶苦茶イケメンなことしてるじゃねぇか、なんだその主人公ムーブ。

 さてはあの日擦り傷付けてたの、転んだとかじゃなくて犬を助ける時に負ったな?

 

 

「すっごいかっこいいことしてるなぁ、優斗君……。それで、惚れちゃった、と」

 

「アハハ……我ながら、一目ぼれじみた惚れ方だったんですけど。私にとってのヒーローと、同じことをしてくれたんです。あの人は」

 

「ヒーロー?」

 

「私。まだお腹の中に入ってた頃、お母さんごと死にかけたことがあったんです」

 

 

 そっか。

 母さん、その話、この子にしたのか。

 聞かせなくてもいいような、どうでもいい話だろうに。

 

 

「その時、当時高校生だった私の兄が。お母さんを庇って、車に轢かれて死んでしまったんです。お母さんはずっと、その時のことを後悔していて。けど誇らしげに、そのことを私に話してくれたんです。『あなたと私は、お兄ちゃんが助けてくれたから幸せに生きてるんだよ』って」

 

「そっか」

 

「だから私にとって、お兄ちゃんはヒーローで。私が失いかけたものを、優斗さんはお兄ちゃんと同じように助けてくれて。なのに、お礼ひとつ必要とせず。そんな人だから……一目ぼれ、しちゃいまして。この人と結ばれたいって、そう思っちゃって」

 

「……そうなんだね」

 

 

 照れくさくて、嬉しくて、同時にどこまでも、悲しくて。

 今俺が、彼女の前で兄としていられないことが、どうしようも無く辛くて。

 もう少しでつかめたはずの幸せを、俺は初めて突き付けられて。

 

 

「まだ、優斗君のこと好きなの?」

 

「え!?……そ、それをあなたの前で言わなきゃならないんですか?一応言っておきますけど、別にあなたから優斗さんを奪おうとか、そんなつもりは微塵も無いですからね!?」

 

「あ、ごめん!そういうつもりじゃなくて……!その、本当にただ興味を持っただけ!他の意図はないから!牽制とかではないから!」

 

「……優斗さんには、言わないでくださいね。そりゃ、まだ、好きですよ」

 

 

 顔を赤くして、俯きながら言う彼女の姿に、胸を締め付けられる。

 同時に、過ぎ去ったはずの過去が、一つだけのはずだった無念が、幾つも沸き上がり。

 前世の俺は、妹であるはずだった彼女に、幸せになってほしいと願ってしまう。

 

 

「奏ちゃん。連絡先交換しよ!今ので分かった、奏ちゃんはとってもいい子だし、滅茶苦茶可愛い子だって!今後も一緒に遊びたいから、お願い!」

 

「……勿論いいです、けど。自分の彼氏を狙った女を前に、そんなこと言えるの。多分加奈さんだけだと思いますよ?」

 

「いいのいいの!私は私、他は他!付き合う友達は私が決める!」

 

「おお、なんかかっこいい……!」

 

「ふふーん、でしょ?」

 

 

 半ば強引ながら、連絡先の交換を済ませて。

 お互いに手を振りながら、帰路に就く。

 家まで送ってあげてもよかったのだが、俺にまだ母さんと会う勇気はなかった。

 

 

「……初恋、かぁ」

 

 

 見る目があるな、と思う。

 きっと彼と付き合えた彼女は、将来をずっと、幸せに過ごせるだろう。

 何せ色々と欲張りでやたらうるさい俺ですら、けなす点が一つも無いくらいいい男なのだ。

 あんなにやさしい子であるならば、彼に文句が出ることなど一つもあるまい。

 そして彼もまた、あんな優しい子に対する文句など、一つもあるまい。

 きっと二人が付きあえば、二人仲良く、末永く幸せに生きられる。

 

 

「……うん、よし。決めた」

 

 

 俺こと、朝宮加奈は、十六夜優斗のことが大好きだ。

 孤児院からの付き合いだし、いつも俺の後ろをついて回ってくれた、可愛らしい弟分であったし。今では俺の彼氏として、俺を一途に好いてくれる、誰がどう見てもいい男だ。 

 けれど、俺と居る限り、彼は俺に幸せを分け与え続けなきゃならないのだろう。

 俺の最低な人生計画に巻き込まれ、搾取し続けられる存在として目を付けられた。

 

 

「俺にとっても。優斗君にとっても。奏ちゃんにとっても。三方よし」

 

 

 彼が俺を好いてくれているのは、俺が好かれようとしているからだ。

 昔から俺を好いてくれるよう、昔から彼に媚びへつらって、情を沸かせたからだ。

 じゃあ、俺の本性を見れば、彼の抱いた情は果たしてどうなるだろうか?

 

 

「幻想が晴れてくれたら。きっとあいつは、優しくて可愛くて、世界一素敵な女の子に惹かれてくれるだろうから」

 

 

 必死こいて作り上げた、勝ち組になるための人生計画。

 捨てるには惜しいが、捨てるに足る理由は出来た。

 ならもう、取り繕うのはやめにしよう。

 

 

『ほら、触ってみなさい、正彦。もうじき、お前の妹が産まれるのよ』

『正彦も、もうじきお兄ちゃんになるの。お兄ちゃんらしいこと、沢山してあげるんだよ』

『これからは、家族皆で。幸せになろうね、正彦』

 

 

「お兄ちゃんだもんな」

 

 

 例え、今の俺がそうでなかったとしても。

 お母さんと約束したことは、今でも覚えているんだから。

 時効なんて、そんなズルい手は使えるわけも無いだろう。

 

 

「妹の恋、叶えてやりたいもんな」

 

 

 推し二人、お邪魔虫一人。

 このお邪魔虫を嫌わせて、しっかりと正しい二人をくっつけて。

 皆幸せで、皆笑える、負け組一人のハッピーエンドを作ってみせよう。

 

 

「可愛い妹のために。頑張るぞい!」

 

 

 気合を入れて、俺はバー厶クーヘンをほおばった。




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