前世の妹が今世の彼氏に告白したらしいんだが   作:雷神デス

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私の彼氏が思ってたより寛容なのだが

『遊ばないの?今、皆でドッジボールやってるよ!』

 

 

 最初に彼女が話しかけてきたとき、まず最初に覚えたのは不快感だった。

 彼女が悪いわけでもないのに、ギロリと睨みつけて、向こうへ行けとそっぽを向いた。普通ならそれで終わりな関係は、加奈という少女にとっては全く意に介することではないようで。

 

 

『そんな風に不貞腐れてたら、将来碌な大人にならないよ~?私も昔はこういう集まりに参加するのなんて無駄だ、もっと何か役に立つことをしなきゃ、なんて思ってたんだけど、こういうので培われる対人スキルはバカに出来ないって学んでね……!』

 

『どっか行け、って伝わらなかったの?』

 

『ん?伝わったけど?』

 

『じゃあなんで話しかけてくるの……』

 

『私が君と話をしてみたいな、と思ったから?』

 

『……余計なお世話だ。どっか行ってよ』

 

『やだね!そうやって不貞腐れたらなんだって思い通りに行くなんて思ったら大きな間違い。俺、じゃなかった。私はもう、誰かに言われてやりたいことを曲げるような弱い生き方はしないと決めたのだ!私が納得する理由を聞くまで、退かぬ媚びぬ省みぬ!』

 

 

 ものすごく強引で、ものすごくテンションが高い子だった。

 お節介焼きで、何でもできて。そんな彼女を、誰が何を決めるまでも無く、施設に預けられた子供達は皆、彼女をリーダーとして慕っていた。

 

 

『それに、職員さん達から聞いたけど。ご飯も碌に食べてないらしいじゃん。ちゃんと食わなきゃでっかくはなれないぞ!まあ、栄養重視で少し味気ないのは分かるけど、ちゃんとそういうのを施設の栄養士さんが考えて作ってくれてるんだから。食事と睡眠は欠かすと辛いよ~?』

 

『ほっといてよ。もういいんだ』

 

『残念だったね!そんな雑な言葉じゃ、私はまだ君の答えに満足できないよ!ちゃんと理由を言ってくれるまで梃子でも動かない!』

 

『僕が何をしようが、僕の勝手だろ!』

 

『なら私がこうやって君に絡むのも私の勝手!』

 

 

 だから、酷く苛ついた。

 そんな風に、誰からも好かれて、誰よりも幸せそうな彼女が。

 今まさに、どん底に居るような僕に、そうやって無邪気に話しかけてくる姿が。

 

 

『僕は、いらない子なんだよ』

 

『なんで?』

 

『……不倫で産まれた子供なんだよ。僕があんまりにもパパに似てないからって、検査に出されて判明した』

 

 

 児童養護施設に預けられている子どもたちは、大抵何かの事情を抱えている。

 そんなこと、もう少し大きくなれば理解できたと思うけれど、その頃の僕はそんな簡単なことが理解できずに、自分は世界で一番不幸で、いらない人間だって思い込んでた。

 

 

『ママは逃げて、パパは僕に人が変わったみたいに冷たくなった。仕事が忙しいからって言って、僕をこの施設に預けた。……捨てられたんだよ』

 

『ごめん急に重い話が出てびっくりした。不味いなぁ、これ変に触れちゃダメな話題だった……!?』

 

『むしろ軽い話題だと思ってたの……?』

 

『くっ、仕方ない。頭数増やしてより強固な盾を作ろうとしていたが、君は盾役から見逃してあげよう……!職員さん達参加させた方が盾の面積はでかいし役立つか……!?』

 

『すっごく最低なこと言ってる』

 

 

 不思議と、話す気なんてまるでなかったのに。

 いちいち大きなリアクションを取る彼女に釣られて、僕の声は少しずつ大きくなっていた。

 

 

『ていうかこの孤児院、孤児以外も預けられるんだ……?』

 

『……そもそも、ここの正式名称は児童養護施設だし。今の日本でそんなに孤児が生まれるわけないでしょ。ここに居る子だって、大体は親の都合で家に帰れないだけだ』

 

『……もしかして君って頭がいい……!?』

 

『君の頭が悪いだけじゃない……?』

 

 

 自然と、話が続いていた。

 彼女は他の子どもたちと違って、すぐに僕から興味を失うことは無かった。

 彼女は他の大人たちと違って、他と同じであることを強要するわけでも無かった。

 

 

『よし。君に参謀としての地位を与えよう。今現在危機的状況に陥っている我が軍の為に、力を貸してくれたまえよ』

 

『あ、やっぱり負けてたんだ。なんか凄い勢いで数が減ってるもんね……』

 

『敵側にゴリラちゃんが行ったことが痛手だった……!彼女の球を腹に受けた子は、私以外全員死にかけのカエルみたいな姿に……!』

 

『……ゴリラって渾名、あんまり女の子に対して使わない方が……』

 

『え?渾名じゃなくて名前だけど?ほら、五里羅ちゃん』

 

『親の正気を疑うんだけど』

 

『彼女を討ち取ることに成功した者には褒美をくれてやろうって話になってる。ちなみに五里羅ちゃんはイケメンに弱い。そして君はイケメンだ。後は分かるな……?』

 

『分からないんだけど』

 

 

 まくし立てるように、一切の拒絶の隙を与えずに。

 彼女は簡単に僕の心の隙間にズカズカと踏み込んで、手を伸ばしてきた。

 ずっと憂鬱で、死にたくなって、他者を拒絶していたはずの幼い僕は。

 

 

『さあ、行くぞ参謀!あ、名前は諸葛亮でいいっけ?』

 

『三顧の礼どころか初対面で無理やり誘ってきたのに……?……優斗だよ。十六夜優斗』

 

『十六夜って苗字マジであるんだ。私は加奈!よろしく、参謀優斗君!』

 

 

 そうやって、強引に人を引っ張っていく所は。

 今も昔も、まるで変わらなかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ねえ優斗君。私、思うんだ」

 

「何を?」

 

「ドッジボールって、高校生がやる球技では無くない?って」

 

 

 体育の時間、今世の俺が最も忌むべきものの一つである。

 前世では数少ない、俺が楽しめる時間の一つであったのだが、今世の身体はやたら弱い。

 ピチピチJK加奈ちゃんボディは前世の動きに耐えきれず、その結果何が起きるかと言うとだ。

 

 

「おーい朝宮。死にかけのカエルみたいに転がってないで、さっさと後ろに移動しろ~」

 

「鬼!悪魔!体育教師!戦力差を考えてこっちにも五里羅さんを寄越せ!」

 

「五里羅。分身できるか?」

 

「ごめんあそばせ、加奈さん。今のわたくしには、このボールをコートの向かい側に居る相手にぶつけることしか出来ないの。私にとってはそれが、このチームで役立つための唯一の方法。力ある者として果たすべきノブレス・オブリージュ!」

 

「だそうだ。とてもストイックで素晴らしいな。では試合再開」

 

 

 畜生なんて奴だ、やはり体育の時間なんて碌なもんじゃない。

 孤児院時代からの盟友五里羅さんが向こうのチームに行った以上勝ち目はない。

 しょうがない、奥の手を使うか。

 

 

「ねぇ優斗君、ちょっと五里羅さんにアルカイックスマイルを喰らわせてきてくれない?私はその隙にボールをぶつけて勝利をもぎ取るから」

 

「今僕男子側でドッジボールしてるから難しいかな。あと、体育とはいえ試合は正々堂々した方がいいと僕は思う」

 

「勝てばよかろうなのだ……!」

 

「はいはい。おとなしく真面目に戦おうね」

 

 

 おのれ、昔は五里羅さんへの唯一の対抗策として存分に活躍してくれたのに!

 ちなみに五里羅さんはお胸がでかいしゴリラとはかけ離れた美貌のお嬢様である。

 名前とパワーとバトルスタイル以外は完全無欠なパーフェクトレディなのだ。

 そんな彼女に残された唯一の弱点、それは……!

 

 

「ねぇ五里羅さん。最近出来たカフェのバナナパフェ、食べたくない?」

 

「食べたいですが、賄賂には乗りませんわよ?わたくしを懐柔しようとしても無駄ですわ」

 

「そのカフェの店員さんクソイケメンらしいよ」

 

「……無駄ですわよ、加奈さん。この五里羅、そう簡単に悪魔に魂は売りませんわ!大体、例え店員がイケメンでも、知り合える保証なんてものは……!」

 

「私その店員さんとよく話すし連絡先知ってるから、多分紹介できるよ」

 

「あぁ!ごめんなさい皆様!わたくし、つい油断してボールに当たって……!」

 

 

 流石は五里羅さんだ、自らの幸せを掴みに行くことに躊躇がねぇ!

 何やら相手チームから「卑怯者ぉ!」だの「五里羅ちゃんの純情を利用しやがって!」だの「私にも紹介しなさいイケメンを!」だの聞こえるが全て負け犬の遠吠え!

 世の中は勝つか負けるか、勝ち組か負け組かで構成されているのだぁ!!

 

 

「さあ、最大の障害はいなくなり、私は舞い戻る!華麗なる逆転劇の始まりだ!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「体育館でよかったわね、朝宮さん。鼻をぶつけただけで済んで」

 

「華麗なる逆転劇が始まるはずだったんです、先生。ただ私の足と腕と腰が言うことを聞いてくれなくて……!」

 

「逆に君の言うことを聞く部位の方が気になってきたわ、私」

 

「とりあえず心臓は言うこと聞いてくれてますね」

 

「聞いてくれてなければ救急車呼んでるのだけど」

 

 

 あの後盛大に転んで、鼻をぶつけて保健室に直行した朝宮加奈です。

 隣に居た回避特化のクラスメイト、河蝉(かせみ)ちゃんからの冷たい目線が痛かったです。

 絶対零度を覚えさせれば対戦環境で猛威を振るってくれるかもしれません。

 

 

「加奈。あんまり悪だくみしても、こんな風に痛い目見るだけだと思うよ……?」

 

「やだなぁ、優斗君。ゆるふわ勝ち組ガールの私が悪だくみなんてするはずないよ?」

 

「じゃあ、五里羅さんに言ってたあれはなに?」

 

「篭絡だけど?」

 

「それ悪だくみって言うんだよ?」

 

 

 HAHAHA!面白いことを言うマイダーリンだ!

 悪だくみって言うのは悪役が悪いことを企むから悪だくみと言うのだぞ?

 つまりゆるふわ勝ち組ガールの私が考える作戦は悪だくみではなく計略です。

 それを自信満々に伝えてあげると、保険医の先生とマイダーリンに同時に溜息を吐かれた。

 

 

「多分校内であなたの事をそんな風に思ってるの、あなただけよ……?」

 

「いやいやいやまさかそんな。えへへ~、そんなわけないですよ~?」

 

「媚びが甘い。なんだその中途半端な上目遣いは舐めてんのかクソガキ」

 

「あれ、幻聴かな?教師から聞こえちゃならない発言が聞こえたような?」

 

 

 おかしいな、私の眼の前に居るのは曲がりなりにも教職員のはず……!?

 

 

「メイクも最低限しかせず、ただアニメと漫画で培っただけの仕草で“媚び”だと?片腹痛いわ小娘が。若さと彼氏持ちに甘えているだけの若造が……!」

 

「ねぇ優斗君、この先生とんでも無いことを言い出したんだけど」

 

「安心して、加奈。加奈よりはまともだよ」

 

「わ~!加奈、安心できる要素が一つも見当たらな~い!」

 

 

 詰め寄られた。怖い。

 

 

「来い。本物の“媚び”ってもんを見せてやる……!」

 

「ねぇ先生、私とっても嫌な予感がするの。そのスマホに映ってる女の人、先生だよね?ていうかこれたぶんこの前言ってた合コンの動画だよね?」

 

「まあ、察しがいいわね加奈さん!とっても偉いわ、花丸あげちゃう!」

 

「えへへ、嬉しいなぁ!それじゃあ花丸貰ったので離してもらっていいですか?」

 

「ダメよ~ダメダメ!女たちの醜い奪い合いをちゃんとその目に焼き付けろ小娘」

 

 

 やだ、動画に映ってる先生が見た事ないくらいメスの顔してるわ。

 バチバチメイク決めて、胸元強調した服を着て、お酒を一口飲んだ後にふらついてるわ。

 あなた確かこの前の飲み会で酒瓶三本飲んでも倒れなかったって聞いてるんですけど。

 そんでモーションかけてる男たち全員にちょっと目を逸らされてるみたいなんですけど。

 

 

「いいか小娘。これが“媚び”だ」

 

「先生。音量消していいですか?教師の猫撫で声聞くのきついっす」

 

「耳を塞ぐな目を背けるな現実を見ろ。これが仕事ばかりしていた独身女性の行きつく先だ……!そんな出来た彼氏が居るお前ではたどり着けぬ領域だ!!」

 

「優斗君助けて!先生が胸元見せて男に寄りかかって!けど全然相手にされてないよぉ!見るに堪えない!」

 

「ねぇ加奈、多分そういうのを口に出すから先生はその手を離さないんだと思うよ?」

 

「お前もこっちに来るんだよ朝宮ァ……!メイク、教えてやろうなぁ……!」

 

「やだー!!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 どうにか先生から逃げ切り、昼休みの時間に教室でぐったりと倒れ伏す。

 大抵の生徒は食堂で食べるが、弁当を持ってきた生徒は教室で食べることも多い。

 食堂のおばちゃんが作る飯もなかなか美味いが、人が多いので席を取れないこともよくある以上、こうやって弁当を作って教室内で食べる方が落ち着けることも多いのだ。

 

 

「死ぬかと思った。あれが、独身女性の末路……!」

 

「多分あの先生は極端な例だと思うよ……。それで、加奈。昨日言ってたお弁当は……」

 

「ああ、あれだよね?はい、お弁当。……ほんとにこんなんでいいの?」

 

 

 先日のリクエスト通り、卵焼きにソーセージ、唐揚げに申し訳程度のサラダ。

 あとは容器に入れるのが面倒なので、サランラップを巻いたおにぎりをぱぱっと並べる。

 おにぎりの具は俺好みの濃い味付けと、優斗君好みの薄い味付けの二種類だ。

 

 

「これだからいいのさ。うん、美味しい。安心する味だ」

 

「私にはよく分かんない感覚だね~。高くて凝ったもののが美味しくない?」

 

「大切な人からの手料理ってのは、どんなものだって美味しいものだよ」

 

「ん~。そんなもんかなぁ?」

 

 

 ああ、けれど。

 父親が作ってくれた、やたら味が濃いチャーハンは美味しかった気がする。

 大分健康に悪そうな料理でこそあったが、思えばあれが唯一今記憶に残っている、血のつながった家族からの手料理だった気もするな。

 

 

「そんなもんだよ。だから、ありがとう、加奈。僕の大切な人になってくれて」

 

「……うん」

 

 

 多分、このまま幸せな毎日に浸かっていれば、俺にも家族は出来るだろう。

 子供を産んで、夫に楽させてもらって、誰からも羨ましがられる生活ができるだろう。

 けれど、残念ながら、俺の前世が。約束が、その生活を望まない。

 だから俺は。彼に嫌われるための切り札を使う決意をした。

 

 

「……ところでさ。優斗君」

 

「ん?」

 

「実は私。優斗君に隠していたことがあるんだ……」

 

「え、何?今日何かあったっけ……?」

 

 

 急にこんな切り出し方されれば、そりゃあ驚きもするだろう。

 しかし優斗君。君はこれを聞いて、更に驚き、そして失望することになる。

 俺が今までずっと隠してきた、取り繕ってきた本性。

 そう、俺が今まで。誰にも言ったことのない真実を。

 

 

 

 

「私。ゲームショップの18禁コーナーに、入ったことがあるんだ……!」

 

「……う、うん。そうなんだね……?」

 

 

 言ってしまった。もはや後戻りはできない。

 彼がこの事実に、一体どれほどの反応を見せるかはまだ分からない。

 しかし、優斗君が犯罪と犯罪者をものすごく嫌っていることは知っている。

 以前見せたとある人に対する怒りは、常軌を逸したものだった。

 何なら実は少しトラウマになってたりもする。

 

 

「しかも、店員さんがアルバイトだったのをいいことに、買いたかったR18指定のゲームを変装して買ったことがあるんだ……!」

 

「そうなんだ……。ダメだよ、そんなことしたら」

 

「うん。何を言われてもしょうがない。たとえ嫌われても……!」

 

「いや嫌わないけど……?」

 

「え。犯罪だよ?」

 

「いやまあ犯罪だけど……」

 

 

 な、何やら思っていた反応とは違うように見える。

 これはれっきとした、青少年保護育成条例に違反した行為であると言うのに。

 彼ほどの知恵者が、それを知らないはずはないと言うのに、何故ここまで反応が薄い!?

 

 

「別にそんなに責め立てるようなことではないし……」

 

「優斗君!?ど、どうしたの!?前に見せた君の正義の心は何処に!?清廉潔白、如何なる後ろめたいことも無いはずだと信じていたはずの可憐な彼女が犯罪に手を染めていました、なんてのは裏切りでしかないはずでは……!?」

 

「いや、そもそも僕、加奈のことを清廉潔白だと思ったことは無いよ……?」

 

「ば、バカな!?」

 

 

 俺があれほどまでに、男の理想たる清楚系あざと美少女を演じていたと言うのに!?

 い、いったい何が原因でぼろが出たというのだ!?

 

 

「多分清廉潔白な子は、ドッジボールであんなことしないと思うよ……?」

 

「え、あれくらいならセーフでは?」

 

「価値観が違う……!」

 

「いやだって、ルール違反ではないじゃん!?」

 

 

 まさか、今までやってきた数々の策略を彼は悪だくみだと思っていたのか!?

 バカな、ではもしかして……!

 

 

「体育祭で敵チームのエースの告白を手伝ってあげる代わりに、手を抜いてってお願いした時も……優斗君は私の作戦を汚いと思っていたの!?」

 

「むしろ汚くないと思っていたの……?」

 

「それじゃあ、遠足の時のおやつを賭けたチンチロ大会の時に四五六賽を使った時も……!?」

 

「なんでそれは許されると思って、18禁云々は許されないと思ってたの……?」

 

「いやだって法律違反はしてないし」

 

「道徳違反はしてると思うんだよね」

 

 

 まさか、そんな。

 彼がこれほどの重大犯罪を軽く許してしまうなんて。

 計算が狂ってしまった、これで俺を嫌ってくれると確信してたのに……!

 

 

「けど。ずっと言い出せなかった自分の後ろめたいことを、今日教えてくれたんだね。ありがとう、加奈。僕、加奈の知らないところをまた一つ知られて、とっても嬉しいよ」

 

「ぐわー!?眩しい……!優斗君は聖人君子か何かなの……!?」

 

「大分ハードルが低いね……?」

 

 

 く、次のプランを考える必要がありそうだ……!

 けどまあ、収獲はあった。

 彼は俺が考えている程には、犯罪者に対する嫌悪感は薄いようだ。

 

 

「けどそれならさ」

 

 

 だから、前々から少しだけ気に病んでいたことを、今解決してしまうか。

 

 

 

 

「俺のお父さんのことも──」

 

「あれは君の父親じゃない」

 

 

 

 底冷えする程の低い声に、思わずびくっと後ろに下がる。

 彼は少しの間、怖いくらい剣呑な眼をしていたが。

 俺の様子に気づき、慌てた様子で苦笑する。

 

 

「ごめん、怖がらせちゃったね。よし、ご飯を食べて、また午後からも授業を頑張ろうか。この前みたいに居眠りしちゃったらダメだよ?」

 

「う、うん。気を付けまーす」

 

 

 ……やっぱりというか、なんというか。

 彼は、俺の今世の父親に対しては、かなり当たりが強い。

 彼が父を嫌う理由を考えれば、俺も嫌われると思ったのだが。

 

 

「一応、懲役は終えてるのにな」

 

 

 聞こえぬように呟き、溜息を吐いて。

 いつか二人が仲直りできるようにと祈りながら、握り飯に食らいつく。

 父直伝のチャーハンおにぎりには、彼は少しも手を付けなかった。




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