前世の妹が今世の彼氏に告白したらしいんだが   作:雷神デス

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隙の多い姉と弟の組み合わせはいいぞ


今世の弟は面倒くさがり屋だけど頭がいい

 自分の親より酷い親なんていないと思っていた。

 母親の浮気は最低なことだし、他人だって分かった瞬間に突き放す父親も大嫌いだった。

 今でこそ多少の理解は示せるようになったが、二人に対する敵意は簡単には薄れない。

 

 けど。

 気になってたあの子の親は、僕の両親なんかよりずっと酷かった。

 

 

『私の両親?お母さんは死んじゃって、お父さんは今檻の中かな。あと三年で出てきてくれるんだって!その時は、今度こそ家族で一緒に暮らすって約束してるんだ!』

 

 

 彼女の微笑ましい夢を聞いた時。

 背筋を這うような嫌な予感は、ずっと消えなかった。

 彼女の夢は叶えたいのに、理性がそれを間違いだって警報を鳴らしていた。

 

 

『加奈ちゃんのお父さん?ああ、轢き逃げだよ。男子高校生を轢いた挙句、捕まるのが怖いからって妊娠中の奥さんを放って警察から逃げ回ったらしいよ』

 

『奥さんは病院で赤ちゃんを産む途中だったんだってさ。それで急いでたのかもねぇ。その奥さんも、旦那が犯罪者になってしまったって衰弱死しちゃったみたいだけど。その両親の親戚なんかも子供を受け取るのを拒否して、この施設に流れ着いてきたの』

 

『そんなのに、出所したお父さんと暮らすから~、ってずっと養子縁組のお話断ってるのよね。健気だけど、ねぇ?正直、元犯罪者をまともに雇ってくれる場所があるかどうかよね』

 

 

 職員たちからその話を聞いた時から、ずっと彼女の為に何をすべきかを考えた。

 ずっとずっと、親と一緒に暮らすことを夢見ている彼女は、いつも笑っていた。

 それにつられて笑う皆の中心で、彼女だけは不幸な未来に進んでいるように見えた。

 

 

『え?なんでお父さんが好きなの、って?そりゃ、血のつながった家族だもん』

 

『けど。人を殺したんだよ?』

 

『そりゃ、それは悪いことだけど。ちゃんと反省して、国が定めた罰を償えば、誰にだって幸せになる権利はあるはずだろ?』

 

 

 理屈は分かるけれど。

 確かに彼女の父親は、犯した罪を償えたのかもしれないけれど。

 けどそれじゃあ。

 

 

『君は、君をずっと一人にした父親を、許せるの?』

 

 

 ずっと寂しかったはずなんだ。

 家族が居ない寂しさも、悲しみも、十分知っている。

 そんな相手と、ましてや話すら碌にしたことのない父親と暮らすなんて。

 

 

『許すも何も。お父さんが私に会えない理由は、ちゃんと反省して牢屋に居るからなんでしょ?それについて文句を言うなら、お父さんがこれから先何やっても文句を言わなきゃならないじゃん。私そんなに器小さくないって』

 

『けど……!』

 

『大丈夫!お父さんはきっと、家族のために頑張れる人だよ。だって──』

 

 

 血のつながった子供に愛を向けない親だって。

 そんな、どうしようも無い親も。親に愛を向けられない、どうしようも無い子供も。

 どっちも、居るんだよ。

 

 

『私は、朝宮加奈は。幸せになるために生まれてきたんだから!』

 

 

 その目に宿る、星空みたいな希望の光を。

 僕は、ずっと守りたかった。

 だから。

 

 

 

『加奈ちゃんのお父さん。小さな女の子を怪我させて、また捕まったんだって』

 

『加奈ちゃんのお父さん。職場で問題起こして、また首になったんだって』

 

『加奈ちゃんのお父さん。問題起こしすぎて、まだ加奈ちゃん引き取れないんだって』

 

『『『あの子、何時まで待つのかな?』』』

 

 

 

 だから。

 

 

 

『ねぇ、加奈ちゃん』

 

『どしたの、優斗君』

 

 

 

 だから、僕は。

 

 

 

『僕。加奈ちゃんを、世界一幸せにするね』

 

『え、プロポーズ?早くね?』

 

 

 

 君のためなら。

 

 

 

『僕が。加奈ちゃんを、一生支えるよ』

 

『……優斗君って。将来、王子様みたいな人になれそうだね?』

 

『お、王子様?そうじゃなくて、僕は君のお婿さんに……』

 

 

 

 何だって、やってやる。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「加奈~!洗濯物取り込んでくれる~?」

 

「はいはーい。ついでに畳んどくねー」

 

「ありがと~!」

 

 

 何やら色々あって疲れたが、家の中くらいはゆっくりと休めるというものだ。

 家事の大半は養母がやってくれるし、お金は養父が稼いでくれている。

 おかげで俺は、何の憂いも無く勉強や遊びに集中できるのである!

 

 

「姉ちゃんも物好きだよね。休みなのに家事の手伝いばっかしてさ」

 

碧海(あおと)もたまには手伝いくらいしなって。お母さんの負担を少しくらいは減らさなければ!」

 

「えー。俺ゲームで忙しいからまた今度~」

 

「こんのぐーたらめ……!」

 

 

 まったく、あんまりガミガミは言わないが、少しはこの環境のありがたさを噛みしめるべきだ。

 とはいえ、養子である俺と比べて、碧海が血のつながった親に甘えてしまうのはしょうがないことかもしれない。彼にとってはこれが、当たり前の日常なのだから。

 むしろたまには手伝う分、他の一般家庭と比べれば働き者の可能性だってあるわけで。

 

 

「仕方ない。約束してたゲームも、私が洗濯物畳み終わるまで後回しだね」

 

「……ちょっと。俺今、強いボスで詰まってんだけど。倒すの手伝ってくれるって言ったじゃん」

 

「あー忙しい忙しい!誰か手伝ってくれればすぐ終わるのにな~!」

 

「分かった、分かったよ!手伝ってば!うう、鬼、悪魔ぁ!」

 

「許せ弟よ、これが姉というものだ……!」

 

 

 それはそれとして、ちゃんと手伝う習慣を作らせておくのが良い姉というものよ!

 ついでに将来いい奥さんと結婚して、両親を幸せにさせてやるがいいわ!

 孫の顔を見せてやるのも、俺じゃ勤まらないからな!

 

 

「……そういやさー。この前、お母さんから聞いたんだけどさ」

 

「ん~?」

 

「姉ちゃん、大学入ったら家出るって、ほんと?」

 

「ああ、まだ気は早いとは思うけどね。あと二年あるし、狙ってる大学も結構難関みたいだし。まあ大学生になるにせよ、就職するにせよ、家は出たいって思ってるけど」

 

「なんで。ずっと居ればいいのに。今時実家住まいで働いてる人なんて珍しくないじゃん」

 

 

 こやつ、やけに食い下がりおる。

 とはいえ、これに関しては引き取られた時から決めていたことだ。

 孤児院から引き取ってくれて、こんなにも俺を助けてくれたあの二人に……これ以上、俺の我儘で迷惑をかけるわけにもいかないだろう。

 

 

「ずっとは迷惑かけられないだろ?ただでさえ養育費の分稼がなきゃならないのに、他の事まで世話になるわけにはいかないよ」

 

「まだ言ってんのかよ、それ。母さんも父さんも、そんなこと気にしなくていいって言ってるじゃん。そりゃ、優斗兄と結婚するんなら、家を出なきゃならないんだろうけど。大学に通うくらいなら、ここで暮らしながらでも……」

 

「あ、すまん。もしかしたら優斗君、お兄ちゃんじゃなくなるかもしれん」

 

「……は?」

 

 

 俺と優斗君との交際関係を知っている弟は、あんぐりと口を開いて固まってしまう。

 いやまあそうなるよな、俺だってあんな優良物件手放したくなんてねぇよ。

 もしかしたら弟も、ハイスぺ彼氏たる彼の恩恵に与かろうとしていたかもしれないが。

 すまない弟よ、俺の彼氏に頼らず、自分で幸せを掴んでくれ……!

 

 

「え、なんで?付き合ってるし、結婚する予定なんだろ?」

 

「その予定ではあったんだがな。姉ちゃん、優斗君と円満にお別れしたいなと思っててな……」

 

「いやなんで!?あんなラブラブだったのに!?」

 

「うむ。まあ、色々事情はあるんだが」

 

 

 いやほんとに説明しきれない事情があるんだが。

 

 

「えーと、そうだな。私が滅茶苦茶気に入ってるラブリーチャーミーな女の子が、優斗君を好きになったらしくてな?」

 

「まあ、優斗兄モテるもんね。それで?」

 

「けど優斗君には私という彼女が居るでしょ?だから誠実にも、その宇宙一可愛くて清楚で愛らしく誰よりも健気なその子を振ってしまったんだ」

 

「何がどうなってそいつをそこまで評価することになったんだよ。うん、まあ、泥棒猫みたいな奴が現れたってことでいいんだな?それからどうしたんだよ」

 

「いや。だから、ほら。可哀想じゃん」

 

「……誰が」

 

「だから、その子が可哀想でいふぁいいふぁい!?何ふるんだ碧海!」

 

「バッカじゃねぇの!?」

 

 

 こ、こやつ!思いっきり俺の頬をつねりやがった!

 ちんまい小学生の頃より力付けやがって、女の身の今となっては羨ましいな畜生!

 けど仮にも女の子を相手にそれやるのはどうかと思うぞ俺は!

 都合のいい時は女であることを振りかざしてやるぞ俺は!

 

 

「なんでそれで姉ちゃんが身を引く必要があんの!?普通にそいつが悪者だろ!なんだよ彼氏持ちに告白って。勇気を出したもクソも、ただのバカか、もしくは他人の恋人を奪おうとしたクソ女じゃん!ぜんっぜん可哀想じゃないっての!」

 

「あの子はそんな子じゃないって!ほんとに、純粋な気持ちで優斗君を好きになったんだよ!碧海も会ってみろ、きっと一目ぼれしちゃうぞ!」

 

「しねぇよ!って俺好きな人いるし!」

 

「え、マジ?教えて教えて。姉として、私がそいつを採点してやろうではないか……!」

 

「教えねぇよバーカ!てか、一番可哀想なのは優斗兄だからな!?」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 おのれ、痛い所を!

 ぐうの音も出やしねぇ!いや出たな。

 

 

「そりゃあ確かに、付き合ってる相手にいきなり振られたりしたら、嫌だよな。そこは流石に分かってるよ。俺、じゃなかった、私も」

 

「当たり前だ」

 

「だからこそ、私だって考えたんだよ。誰も傷つかず、円満に私の願いを叶えられる方法を」

 

「……一応聞いてやろうじゃないか」

 

「俺の方から振るからダメなんだよ、弟よ。イケメンハイスぺ彼氏である彼の経歴に傷をつける上、私みたいな女に振られたって言う事実は彼のプライドを傷つけてしまう恐れがある。それは私の本意じゃない。だからな……私の方から、優斗君に振られればいいのさ!」

 

「バーーーーーーカ!!ほんとバカ!小学生からやり直せ!このダメ姉!」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 

 俺の渾身作戦が全否定された!?何故だ、完璧な理論のはずでは……!?

 あと弟よ、俺もう既に一回やり直してるのでワンモアは流石にキツイっす。

 もう嫌だよ俺、休み時間が短いと感じることに絶望感を覚えるの。

 一回目の時はあんなに長く感じたのに、何故……!?

 

 

「上手くいくわけねぇだろバーカ!優斗兄の惚れっぷりを間近で見ててなんで気づかないんだよ!?あの人がそう簡単に、姉ちゃんのこと嫌うはずがないだろ!」

 

「いやまあ、そりゃそう思ってくれてるのは嬉しい、けど」

 

「けど、なんだよ」

 

「それって、私と優斗君が幼馴染であり。私が優斗君の将来性を見込んで、小さい頃から可愛らしい女の子としての偽装工作を続けた結果だと思うんだ。彼はきっと私のことを清楚で健気で可愛くキュートで守ってあげたくなる、儚い美少女だと思ってくれていると思うんだけど……」

 

「諸々のツッコミどころは一旦無視することにした。続けて?」

 

「しかし実際の私は、人生を楽に、かつ幸せに生きたいと願う我欲MAX全開少女!セリエAのスター選手にあこがれるよりも玉の輿に憧れるようになった、漆黒の欲望を持つ冷徹で計算高き悪役令嬢なわけですよ……!」

 

「おう。もう聞く価値無さそうだけど辞世の句くらいは詠ませてやるよ」

 

「つまり!彼に私の本性に気づかせてやれば、『信じていた彼女が我欲MAX全開少女で、俺に寄生して楽して生きようとしているなんて!失望しました、加奈ちゃんの彼氏辞めます』となること、間違い無し!!完璧な作戦ではあるまいか!?」

 

「一発殴るな。歯を食いしばれ」

 

「何故!?暴力反対!」

 

 

 なんて弟だ、お姉ちゃんお前をそんな子に育てた覚えありませんよ!

 いや俺がこの子の姉になったの自体、この子が小三になったころくらいだったか?

 んじゃ別に俺育ててないわ、むしろ姉ちゃんと言われること自体結構奇跡では?

 

 

「つぅか、優斗兄が嫌いになったから別れるなんて、そんな不義理なことするわけねぇだろうが。姉ちゃんと違ってあの人滅茶苦茶真面目でいい人なんだから」

 

「ハッ、そうか!?」

 

 

 なんてことだ、その落とし穴に気づかなかった!

 もし俺がどんな人間か分かっても、気弱で奉仕精神の強い彼のことだ。

 遠慮して言い出せず、ずるずるとやりたくも無い結婚までもつれ込む可能性だってある。

 そうなってしまえば、彼も彼女もついでに俺も、全員負けのバッドエンドではないか!?

 

 

「くっ、誤算だった!どうすれば……!?」

 

「……んなことするより。もっと簡単な方法があるだろ」

 

「なに……?弟よ、もしやお前、この状況をどうにか出来る作戦が……!?」

 

「いや、作戦もクソも。嫌われる、って方向性で行くからダメなんだよ。優斗兄の性格上、誰かを嫌いにならせるよりも。……その、誰かを好きだから、って結果を作ってやった方が早いだろ」

 

「というと……ハッ!?まさか……!」

 

 

 そういうことか。盲点だった……!

 そうだとも、俺と付き合っているが故に、彼は俺の妹の告白を断ったのだ。

 俺はそれを、俺という枷があるからこそのものだと思っていたが。

 そもそもの話として、優斗君は奏ちゃんのことを碌に知らない!

 

 

「つまり、姉ちゃんがだな……」

 

「優斗君を、奏ちゃんに惚れさせればいい!そういうことだな!?」

 

「……」

 

 

 黙り込んだが、つまりはそういうことだろう。

 ありがとう、弟よ。俺一人では、この発想にはたどり着けなかっただろう!

 そもそもの根本をひっくり返す、まさにアインシュタインのような発想力だ!

 

 

「そうと決まれば話は早い!弟よ、姉ちゃんは計画を練ることにする!」

 

「へーそう」

 

「奏ちゃんと優斗君が出くわす機会を増やし、少しずつ優斗君に奏ちゃんの良さを伝えてやるのだ!フフフ、フハハハハハ!行き詰っていた私の計画が、ついに動き出そうとしているぞ……!」

 

「あっそ」

 

「フフフ、私の頭脳を超える素晴らしいアイデアをくれたお前にはラーメンを奢ってやろう。たしか碧海って駅前のラーメン美味しいって言ってたよな?例の好きな人を連れて向かうといい。それくらいのお金は出してやるぞ!」

 

「そ」

 

「あの、もしや何か怒ってらっしゃいます?」

 

「自分で考えれば?」

 

 

 弟が凄い冷めた目で俺を睨んでくるのだが。

 何故だ、弟のインテリジェンスをこんなにほめたたえてやっているのに。

 この前ラーメン食べに連れて行ってやった時はあんなに喜んでいたのに。

 まさかこれが、反抗期という奴なのか……!?

 俺反抗期とやらが来なかったらしいから対処法が分からない……!

 

 

「加奈~!碧海~!ご飯の時間よ~!洗濯物持って降りてきなさーい!」

 

「あっと。碧海、そっち持ってくれる?報酬の話はまた追々しようじゃないか」

 

「……ハァ。ご飯食べ終わったら、三時間はゲームに付き合ってもらうから」

 

「わ、分かったって。……勉強時間どうにか確保しなきゃなぁ」

 

 

 この家の人々は、鹿島(かしま)家はこんな俺を受け入れてくれた。

 ほんの僅かな切っ掛けで、俺を引き取ってくれた彼らは、何度俺がその手を振り払ったとしても、何度でも俺の方に手を差し出してくれた。

 どうしようも無く優しくて、お人よしで、居心地のいい家族たち。

 

 

「そういえば、加奈。苗字、まだ変える気はない?」

 

「あはは……ごめん母さん。こればっかりは、意地みたいなもんだからさ」

 

「そう?ちょっとだけ残念。お母さん、卒業式で鹿島加奈って呼ばれるのを聞きたかったな~?」

 

「ざ、罪悪感で攻撃されている……!流石は母さん、恐ろしい人……!」

 

「フフッ、けど。もし加奈がその気になったなら、何時でも言ってくれていいのよ?その名字だと……きっと、いつか苦労することも出てきちゃうと思うから」

 

「うん。ありがと、母さん」

 

 

 俺の苗字は、今世での実の両親である朝宮の姓のままだ。

 色々と理由はあるが。まあ、言ってしまえば、意地でしかない。

 ずっと待ち続けた、血のつながった父に対する、ちょっとした嫌がらせ。

 

 

「……意地なんて捨てて、うちの苗字名乗ればいいのにな」

 

「今更変えてもなんか変じゃん?私、苗字を変える時は結婚の時だけって決めてるから」

 

「むしろなんで結婚の時だけ変えるんだ……」

 

「いい家に玉の輿して、なんちゃら夫人とか呼ばれてマウント取りたい……!」

 

「最悪だよこの姉」

 

「フフッ。加奈はしたたかねぇ」

 

 

 うるせぇ、少しくらいいいだろうがい!

 本来なら十六夜夫人とか、滅茶苦茶かっこいい苗字で呼ばれることになったんだろうが。

 今は自分からそのルートを潰す気でいるので、多分別の名前になるのだろう。

 

 ……それまでには、ちゃんと。

 俺にとっての、新しい恋を始められて。

 意地で残してる朝宮の苗字を、残してほしいものだ。

 

 

「ご馳走様!お風呂入ってくるね!一番風呂はいただき!」

 

「加奈が洗ってくれたんだから、誰も文句言う人いないわよ。いってらっしゃい、のぼせないようにね?」

 

「またタコみたいに赤くなった姉ちゃんを引き上げるの、俺嫌だからな」

 

「ぐおおお!?あの記憶を思い出させるな!考え事しすぎてただけだっての!」

 

 

 湯舟の中で、明日からの計画についてを考えるか。

 俺の前世の妹は、びっくりするくらい可愛いから、きっと前のよりは楽な目的だ。

 俺にいいように使われて生きるよりかは、彼もきっと幸せだろう。

 

 

『僕。加奈ちゃんを、世界一幸せにするね』

 

「子供って単純だよなぁ」

 

 

 孤児院に居た頃、俺にいきなりそう言った彼のことを思い出す。

 まあ今の俺は贔屓目無しに見てもかなりの美少女だし、惚れるのもしょうがなくはある。

 前世の俺だって、今の俺みたいな美少女と一緒に居れば、きっと惚れるだろうしな!

 

 

『僕が。加奈ちゃんを、一生支えるよ』

 

「ああいう台詞って、大人になれば忘れるもんだけど。優斗君、まだ覚えてんのかな?だとしたら恥ずかしいだろうなぁ。俺なら黒歴史にしちゃってるかも」

 

 

 今でも、こっぱずかしい台詞だと思ってるし。

 あの時の彼は、きっと若気の至りで暴走しちゃったんだろうな。

 でなければ、あの頃の俺に惚れる要素、容姿以外無いだろうし。

 その容姿にしたって、あの孤児院には俺より可愛い子も居たし。

 

 

『加奈ちゃん。どうか、俺と恋人になってほしい。必ず君を、幸せにする』

 

「……あー」

 

 

 やめようやめよう、恥ずかしい思い出を振り返るのは。

 今は、奏ちゃんに恋させるための作戦立案をする時間だ!

 遊園地か、カフェか、あるいはカラオケにでも三人で行くか……!

 

 

『加奈は。僕のこと、好きなんだよね?』

 

 

 お風呂でくらいは、考え事せず、疲れをいやすことにした。

 きっとこれ以上考えたら、またあの日みたいにゆだってタコみたいになっちゃうだろうから。

 弟にあんまり借りを作るのも、姉の威厳を損なうし。

 

 

「……幸せに。ならなきゃな」

 

 

 そのために、朝宮加奈は生まれたんだから。




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