前世の妹が今世の彼氏に告白したらしいんだが   作:雷神デス

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血を辿って、縁を辿って


今世の彼氏と前世の妹をくっつけたいんだが

 恋人も家族も友達も、全ての人間が平等に楽しめる場所が何処かと言われれば。

 俺はきっと、前世では結局遠足でしか足を運ばなかったこの場所を指すだろう。

 そう、つまりは、弟一人と、友人として前世の妹一人を連れてきても問題ない場所!

 

 

「ビバ!遊園地!」

 

「あんまり騒ぐと他の人に迷惑かけるかもしれないからほどほどにね、加奈ちゃん。フリーパスを四人分っと……」

 

「い、いいんですか?加奈さんと優斗さんだけで来なくて……。なんというか、デートにお邪魔しちゃってる形になってしまっている気が……!?」

 

「大丈夫大丈夫。今日はデートという体で来たわけではなく!」

 

「……家族旅行に、彼氏と友人連れてきた形になるそっすね……。半数家族じゃないけど」

 

「うふふ、何を言っているのかな私の可愛い弟や。本当ならお父さんやお母さんも来てくれたはずだけど、色々あって仕事で来れないっていう感じになったはずじゃあないか。最初からこの四人で来る予定だなんてそんなことあるわけないだろう?」

 

「なぁ優斗兄。こいつぶん殴っていいよ」

 

「なんで!?暴力反対!暴力反対!」

 

「あ、あはは……」

 

 

 弟が最近私に暴力を振るおうとしてきて困ってます!

 しかしまあ、我ながら素晴らしい作戦であると言わざるを得ない。

 家族旅行に友人と彼氏を誘うことなど、割とよくある話だと聞いている!

 前世含めてもあんま家族旅行とか行ったこと無いからよく分からんけど。

 

 

「けど、随分と急な予定だね。加奈のお父さんとお母さん、こういうのには真っ先に予定を開けてそうなイメージあるけど。碧海君、何か二人から聞いてるかい?」

 

「あーいや、そこにいるダメ姉がまた変なことをぐはぁ!?」

 

「碧海君!?顔が真っ青だけど!?」

 

「あれー?どうしたのかなー?体調でも悪いのかなー?仕方ないなぁ物陰で休ませるねー?」

 

 

 心優しき姉である俺は、悶絶してる弟の肩に手を置き、労わりながら人気がなくある程度何をしても問題ない場所までボケナス愚弟を連れてってやる。

 二人とも~心配しなくてもいいよ~?暫くしたら直るからね~?

 

「暴力反対はどうしたバカ()ぇ……!プロ並みのボディブロー叩き込みやがって……!」

 

「余計な口を縫い合わせるにはアッパーカットのが良かったな?約束しただろうがコラ、余計なことは言わず、今日は私の言うことを聞くってなぁ?なけなしのバイト代をお前のチケット代に費やしてやったんだから、おとなしく言うこと聞けや愚弟……!」

 

「女から漏れ出ちゃいけない声が出てるぞ姉ちゃん……!いやけど、無理だろ!?もうなんか勘付き始めてんだからな優斗兄!姉ちゃんみたいなアホがあの完璧人間騙すとか天地がひっくり返ったとしても無理だって!隠し事を隠し通せるわけねぇって!」

 

「ばっかお前、俺はなぁゲフンゲフン。私は秘密の多い女なんだ、ぞ☆」

 

「うわきっつぐはあああああああ!?」

 

「何がキツイ?言ってみろ」

 

 

 あと俺だって隠しごとくらい幾らでも隠せてるっての!

 実は結構がさつなところとか、実は滅茶苦茶寄生する気満々で付き合ってたこととか。

 あとはあれだ、あいつのお父さんに突撃隣の晩御飯した時とか……!

 

 

「多分姉ちゃんが思いついてること全部見抜いてると思う」

 

「おいおいおい。お前何時からエスパーになった?テレビ出ようぜ金を稼げる!」

 

「姉ちゃんって金絡むとほんと情けないよな。プライドとか無いの?」

 

「プライドで生きていけるならプライドも拾うけど?」

 

「こいつ、自分は持ってない前提で……!」

 

 

 バカ野郎プライド持ってる奴が他者に寄生して生きようとすると思うなよ?

 俺は自分が楽するためなら苦労を一切顧みない女だぞ?

 勉強とかはその最たるものだ。楽するためには努力が必要なのだよ。

 

 

「あの。弟さん……碧海君、でしたっけ。大丈夫そうですか?」

 

「え?ああ、大丈夫大丈夫!とっても元気だから!仮に体調不良でも数分寝かせれば治るから!私子守歌得意なんだよね~、特に肉体言語での」

 

「姉ちゃん、弟ってのは姉の奴隷ではないんだからな……?」

 

「はー?お前が小学生の頃変質者から助けてやったのは誰だったかな~!?私に一生分の恩が出来たとか言ってたはずだよね~!?まさかこの私に恩を作って逃げられるとでも思ってるのか……?大魔王からは逃げられない……!」

 

「うぐぉ!?こ、このダメ姉、痛いところを……!」

 

「え、変質者!?だ、大丈夫だったんですか!?」

 

「うん、その時は股間のあれを……今の無しで。弟、話を作れ」

 

「いやもう無理だよ伝わるよそれで。デリカシーのない姉ですいません」

 

「あ、あはは……勇気があるんですね……?」

 

 

 しまった、ついお下品なワードを口走ってしまった……!

 ちなみに何がとは言わんが後の検査で破裂してたことが判明したらしい、ざまみろショタコン。

 ……あの頃の碧海って私より可愛い気がするからもしかしたらロリコンだったのかもしれない。

 まあどっちにしろ潰れて正解だったな!

 

 

「けど、弟想いなんですね、加奈さん。大人相手に、弟のために立ち向かえるなんて。なんというか、まるでヒーローみたいです」

 

「ん?ああいや、別に弟想いなわけじゃないよ?」

 

「え?いや、けど、弟さんが襲われてたから助けた、んですよね?」

 

「だってその頃、こいつ弟じゃなかったしね」

 

「……弟じゃなかった?」

 

「姉ちゃん、それが切っ掛けでうちの家に養子として入ったんです」

 

 

 俺によくしてくれている両親は、俺が弟を助けたということで大層感謝してくれて。

 挙句の果てに、俺が孤児だと知るとすぐに引き取り、育てようとしてくれたのだ。

 事情があって幾度か断ったのだが、彼らの経済状況が裕福だとみるや俺は掌返し。

 すぐに二人に頭を下げて、無事割と不自由なく暮らせるご家庭のお世話になることに!

 

 

「そうだったんですか!?その、そんなに仲がいいからてっきり生まれた時から一緒だと……」

 

「多分碧海より優斗君との付き合いのが長いんじゃないかな?あ、ところで優斗君はいずこに?」

 

「あー、えっと……」

 

 

 なんとなく察したが、一応目線を向けてみることにした。

 案の定というか、チケットを買ってる途中で少しギャル味のある方々に逆ナンされてるようだ。

 そのバイタリティは評価せざるを得ないが、諦めたまえギャルたちよ。

 貴様らにオタクに優しいギャル属性でも無い限り、我らが妹たる奏ちゃんにはかなわぬ……!

 

 

「しょうがない。ちょっと彼女面して追い払ってこよう。げふんげふん。マイクテスマイクテス。も~どこ行ってたの優斗君!加奈、寂しかったんだよ?キャルルン!」

 

「あの、碧海君。加奈さんはいったい……?」

 

「何も言わないであげてください。可愛い彼女を演じているつもりなんです。姉にとって、優斗兄の好みのタイプはあんな感じのいかれた女なんです。最後のを口に出すようなアホな女なんです。いやマジでなんだよそれ狂ってんのか?」

 

「んだとこらバカにすんなよこらこれで私は優斗君落としたんだからなこら」

 

「優斗さん、あんな感じの女の子が好きなんです……?」

 

「これたぶん名誉毀損で訴えれば勝てるな。弁護士雇うよう相談しようかな」

 

「後でベアハッグな。じゃあ行ってくる」

 

 

 よぉよぉギャル共、この私の彼氏である優斗きゅんに手を出すなんていい度胸じゃないか。

 随分と厚めに化粧しやがって、今から私の美貌でその自信を……あれ結構素がいいなこの子。

 ちょっと勿体なくね?こういうのが好きなの?え、違う?ああ、動画で見て。

 ん~まあ悪くないと思うけど、こういうのって相性が大事なんだぜ?

 

 

「……弟じゃなかったってことは、赤の他人だったんですか?その時のお二人って」

 

「あ~、一応は知り合いくらいの距離感でした。その、当時からあんな感じで誰にでもぐいぐい行ってるタイプだったので。俺みたいな暗い奴のこと、放っておけなかったんじゃないですかね?家に帰るのが嫌で、一人でゲームしてたのが見つかって……」

 

「家に帰るのが嫌?お二人の会話を聞いてる限り、仲のよさそうな家族だと思いましたけれど」

 

「女みたいだって、クラスメイトにからかわれてたんです」

 

「……こういうとあれですけど、女の私から見ても顔立ち整ってますもんね」

 

「しかも当時は、女の子達とよく遊んでて……それで、余計に」

 

 

 そうそう、多分こういう感じのファンデのが似合うと思うよあなたには。

 ほれ、これあげるから。値段?いいよ別に、あんまり使わないやつだしさ。

 ククク、乙女たるもの何時だって化粧品は複数取り揃えておくもの!

 ウェールカーム!武器商人も真っ青な品揃えだぜ!

 

 

「小学生の子達って、純粋だけど残酷ですからね。それで、からかわれてた……いえ、言葉を取り繕わずに言うと。いじめられてた、んですかね?」

 

「はは……まあ、はい。それから一人で帰ることが多くなって、気にするようになってからは些細なことで喧嘩しちゃうようになって。それで、喧嘩で出来た傷を親に見られるのも嫌だから、公園でゲームしてたんです。その時に、今のバカ姉に絡まれて」

 

「……ふふっ!聞いている限りだと、とても大切な思い出みたいですね?」

 

「……まあ、はい。ああやって、俺を男扱いして、バカみたいに騒ぎながらゲームに付き合ってくれてたの。姉ちゃんくらいでしたから」

 

 

 えー、この写真のあなた滅茶苦茶可愛いじゃん。これベースでやる方がよくない?

 彼氏に似合わないって言われたから?じゃあ、あなたはそっちのが好きなの?

 でしょ?私もそっちのが好き。もうとっくに別れてるんでしょ?見る目ないんだよそいつ。

 自分にとって一番好きな自分が、一番かわいいものなんだから!

 

 

「それで、よく話すようになって。帰り道で一緒に歩いてる時に、車で攫われそうになって」

 

「え!?く、車でですか!?その、私は露出狂的な変質者を予想してたんですけど……」

 

「……前々から、俺のことを付け狙ってた、変態集団らしくて。突然通りかかった車のドアが開いて、腕を掴まれて、引っ張られて。悲鳴を上げる間も無く、連れ去られて」

 

「……大丈夫、だったんですか?」

 

「あ、いえ。あんまりトラウマとかはないですよ?その時は、そりゃあ怖かったんですけど……なんか、その。車の屋根からでかい音が聞こえてきて、息を荒げてた大人達が怪訝な顔をしたんですよね」

 

「車の屋根から?もしかして、加奈さんが石を投げてくれたりとか……!」

 

「いえ、車の上に乗っかってバールのようなもので窓を叩き割ってました」

 

「車の上に乗っかって窓を叩き割ってました!?」

 

 

 人の彼氏狙うよりもあなたのことを可愛いって言ってくれる人見つける方が早いって。

 めっちゃ元いいし。美容に気を使って肌を育てた結果なんだろ?自信を持ってよし!

 あなたは可愛い!こいつの彼女である私が保証する!自信出てくるだろ?

 よし、その意気だ!今日は友達たちと遊んで、内に溜まったもん吐き出してきな!

 

 

「あ、危なくないんですかそれ!?車動いてたんですよね!?」

 

「ゴリゴリ危ないですよ。ていうか普通に窓割れて怪我してましたよ姉ちゃん」

 

「ですよね!?え、それでどうなったんですか?」

 

「姉ちゃんの行動に震えあがった運転手がハンドル操作を誤った隙に、窓ガラスを蹴り割って中に入って、奇声を上げながら犯人たちに殴りかかってました」

 

「強すぎませんか?」

 

「眼と鳩尾と股間を重点的に狙ってました」

 

「全部急所狙いだ……!?」

 

 

 え、連絡先?いいけど私のなんかと交換して嬉しいかぁ?

 彼氏できたらまた相談したい?いいよいいよ、何時でもかけてきな。

 ああ、お礼って言うなら、その服滅茶苦茶可愛いからどこで買ったか教えてくんない?

 別にそれだけでいいって。ちょっと話に付き合ってあげただけだし。

 いやそんないいってお菓子なんて!あ、けどこれ美味しそう。ちょっとつまんでいい?

 

 

「で、全員ボコボコにした後。『なんで私じゃなくて男を狙ったぁ!?』ってぶち切れてました」

 

「そこなんだ!?加奈さんにとってはそこが一番気に障ったんだね!?」

 

「そこみたいです。まあそれで、その話を聞いた両親が姉ちゃんのことをいたく気に入りまして。是非うちの養子になってくれ、って話を三回くらい持ちかけた後、ようやくOKを出してくれて、無事家族になった、って感じですね」

 

「凄い武勇伝聞いちゃった……」

 

「多分まだまだありますよ?また今度聞きます?」

 

「……フフッ。碧海君、ほんとに加奈さんのこと好きなんですね?」

 

「え、急になんです?そんな要素ありました?」

 

「だって。加奈さんの話してる時、ずっと楽しそうですもん」

 

「……気のせいですって」

 

 

 はえーなるほどあの店か。情報提供ありがとね!

 よし優斗君待たせたな。私が無事恐ろしいギャルたちを追い払ってやったぞ。

 ついでに連絡先と新しいファッション情報と昼食にお勧めのスポットを聞き出してきた。

 私の話術にあっさり引っ掛かるとは、まったくちょろいギャルたちだぜ……!

 

 

「おーい、追っ払ってきたよ~。よし、それじゃあ入園していこう!」

 

「あ、戻ってきた。……あの、その大量のお菓子は?」

 

「フッ。私の話術の成果物だね……!」

 

「話術かなぁ……?あれってほんとに話術なのかな……?」

 

「いや何があったんですかほんとに」

 

「さっきの話聞いて分かったでしょ。考えるだけ無駄ですよ」

 

「……たしかに、そうかもしれませんね……」

 

 

 おい待て弟よ、貴様我が愛しの前世の妹奏ちゃんに何を吹き込んだ!?

 まさか俺が自分に目を付けなかったことに腹立てて変質者共叩きのめしたことを!?

 しょうがないだろう、女である俺を差し置いて碧海を狙いやがったんだから!

 普通こんな美少女が隣に居ればそっち狙うだろ!?あいつらは目が腐ってる。

 

 

「やかましい面してないではやく行こうぜ」

 

「何を話したかは分からんが、とりあえず後で仕置きな」

 

「……ぼ、暴力反対!」

 

 

 残念だが、その法は姉を怒らせた弟には適用されないのだ。

 なーに安心しろ弟よ、今日はそう難しいミッションではない。

 私達がやるべきことは単純至極、良い感じにあの二人を仲良くさせるために、まずはこの遊園地の中で二人きりになる機会を作らせてやればいいのだよ!

 

 

「ところで。もうそろそろ昼時だよね?」

 

「あ、ほんとですね。せっかくですし、何処かのフードショップで食事を……」

 

「あー!フードコートがとても並んでいるなぁ!?これはもう、誰かが皆の分の注文を取りに行くしかないなぁ!よーし碧海と二人で食事を買いに行くから、二人にはちょっと座れる場所探しておいてもらっていいかな!?」

 

「え、いや別にそこまで混んでは、分かった。分かったから姉貴、フードを引っ張るな!転ぶ、転ぶから!ついていけばいいんだろ!?」

 

「そう。分かった、行ってらっしゃい二人とも」

 

 

 ククク、遊園地に来る来園者たちの浮ついた雰囲気。

 ここでならきっと、二人だってとても楽しくお話して、距離を縮められるであろう!

 楽しみだ、楽しみだぞ!帰ってきたとき、距離が縮まってる二人の様子を見るのがなぁ!

 ……いやまあ、流石にそんな簡単にはいかないとは思うが。千里の道もなんとやらだ。

 

 

「……俺、今日滅茶苦茶食うから。約束通り奢れよな、姉ちゃん」

 

「分かった分かった。んじゃ私ターキーレッグ食べよっと」

 

「え、ずりぃ!俺も俺も!」

 

 

 ターキーレッグに豪快にかぶりつきながら、炭酸ジュースを喉に流し込む。

 これに勝る食事など、値段に目を瞑れば早々にあるまいよ……!

 弟も病みつきになるくらいの組み合わせだ。二人にも買ってきてやろう。

 

 

「よし!作戦とは別に、今日は楽しむよ碧海!久しぶりの遊園地だし!」

 

「うん!俺、あのざっぱーんってなる奴乗りたい!」

 

 

 すまん弟よ、今日レインコート持ってきてないから濡れるアトラクションは勘弁な!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 多分加奈ちゃんが何かを企んでいるのだろう、というのは早い段階から予想出来ていた。

 碧海君がいるのは、これデートではなく、家族での行事だと誤魔化すためだろうし。

 こういう行事が好きな彼女の両親が居ないのは、多分彼女の思い付きだったから。

 

 

「……す、すごい勢いで買いに行きましたね、加奈さんと碧海君……」

 

「そうだね。まあ、本人もああ言っていたし。どこか適当なテーブルを探して、時間を潰そうか。幸い、彼女がああ言う程には混んではいなさそうだから」

 

「いいんですか?私と二人で」

 

「構わないよ。君が一番よく分かってるだろうから」

 

 

 ぴしゃりと言い放って、彼女の方を見もせずに、観覧車の方へ向かう。

 別に僕は、彼女のことは嫌いじゃない。むしろ好ましいと思う。

 成績優秀、素行も優等生という他なく、高校ではアイドル扱い。

 その全てがたゆまぬ努力によって形成された、彼女自身の実力によって得たものだ。

 

 

「アハハ。だとするなら、猶更でしょう。いいんですか?本当に」

 

「君と加奈を二人にするよりは、僕に付きまとわせておいた方がマシだ」

 

「なるほど。それで、何をお話しましょうか」

 

「そこまで難しい話でもない。疑問の解消と、安心が欲しいだけだ」

 

 

 もし僕が加奈ちゃんと出会っていなければ、彼女と付き合ってもよかったかもしれない。

 まあそんな前提は、僕が十六夜優斗でなければ、なんていうのと同じだが。

 僕が加奈ちゃんを捨て、彼女と付き合う可能性は万が一にもない。

 本来であれば、友達付き合いで済ませて、それ以上は踏み込む必要のない相手。

 

 

「解消と安心。私も大好きですよ。怖いものからは、逃げたいものですから」

 

「君の場合、加奈ちゃんと違って随分と分かりづらかったけどね。本当に僕の解釈が合っているか、少しだけ迷ったくらいに。ただ、君と加奈ちゃんが再会して、連絡先の交換までした、って聞いて。疑念は確信に変わった」

 

「……褒めてくれているのでしょうけど、あの人を基準にされると、少し……その」

 

「……例えが適切じゃなかったかもしれないけど。まあ、君の内面は読み取れなかったよ。けど、君の家庭と、加奈ちゃんの家系を……彼女の父親が犯した罪と、その被害者を知れば。すぐに、その答えに辿り着くだろう」

 

 

 もしかすれば、彼女は既にそのことを知っているのかもしれない。

 知っているからこそ、あの時にあんな馬鹿げたことを言ったのかもしれない。

 あるいは、彼女であれば、直感で感じ取ったのかもしれない。

 彼女の兄、坂山正彦(さかやままさひこ)と、己の父親との、忌むべき関係性を。

 

 

「その答え、って言うのは」

 

 

 彼女は、坂山奏は、いつもと同じような笑みを。

 されど、その眼の奥に。僕もよく見知った物を。

 憎しみの、軽蔑の、あるいは嫉妬の。黒く汚れた炎を宿していて。

 結論を言ってしまえば、実に単純で、実に分かりやすい事実で。

 

 

「加奈さんの父親が。私のお兄ちゃんを殺した件について、ですか?」

 

 

 坂山正彦は、朝宮加奈の父親によって殺された。




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