前世の妹が今世の彼氏に告白したらしいんだが   作:雷神デス

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ちょっとだけ投稿が遅れちゃったぜ……!


私の兄はいい人だったらしいんですが

『お兄ちゃんはね。とっても凄い人だったのよ』

 

 

 いつもあの人に言われていたことだった。

 私の兄は、私が生まれる直前に、車に轢かれて亡くなったらしい。

 それも、私をお腹の中に入れたあの人を守るために、その身を挺して庇ったらしい。

 立派な死に方だ、誰よりも家族想いだ、あんな立派な人が亡くなるなんて。

 近所の人も、親戚も、そして誰よりもあの人が、幾度も幾度も口にしていた。

 

 

『あなたはお兄ちゃんの分まで、幸せに生きなきゃね』

 

『うん、わかった』

 

 

 特に分かっていないけど頷いた。

 あの人は身体が弱くて、家事も殆ど出来ないと聞いていた。

 そして私の兄は、いつもそんなあの人のために、身を粉にして働いていたらしい。

 私はしなかった。しんどいからだ。だって私、まだ小学校に通ってる子供だし。

 

 

『親の手伝い?ん~、私は皿洗いくらいならしてるよ』

 

『洗濯物を畳むのは手伝ったことある!料理?お母さんと一緒に作るもんじゃないの?』

 

『俺、火を使ったらダメだよって言われた。危ないんだって!』

 

 

 大抵の家事は、お父さんが雇った家政婦さんがやってくれていた。

 その家政婦さんも、私の兄のことを『良い人だ』と口にしていた。

 兄のアルバムを見た。どの写真でも、兄はとても元気そうに笑っていた。

 あの人の隣で、幸せそうに、あの人を支えていた。

 

 

『笑顔じゃない写真ってないの?』

 

『え?ん~、あの子は笑顔が絶えない子だったから。無いんじゃないかしら?』

 

『そっか』

 

 

 それを聞いても、何故か諦められず。兄の友人にも話を聞きに行った。

 私はどうも、中学生の時期の頃から、兄のことを調べるのが趣味になってた気がする。

 勿論普通の、テレビとか漫画とか、ネイルとか流行り物とかもやっていたけれど。

 一番身が入って、一番面白かったのは、兄のことを知っていくことだった気がした。

 

 

『会った事も無いのに、そんなに気になるのかい?』

 

『会った事が無いから、気になるのかも。だって、変だよ、この人』

 

『おや、変かい?彼女からは、良いことしか聞いてないのだけれど』

 

『身内贔屓でしょ。きっと何かあるよ、やましいこととか、変なところとか』

 

『ハハハ。奏は昔から好奇心旺盛だなぁ』

 

 

 多分『奏は変だ』と言うのを歪曲して伝えたのだろうが、余計なお世話だ。

 こんな父親だったけれど、私のおかしな趣味に関しては多分一番理解があった。

 あの人が聞けばなんて言うか分からないし、お父さんは褒めるのが上手かった。

 幼い頃言われた『将来は探偵だな』なんて言葉も、少しだけ嬉しかったし。

 

 

『それで?彼の友人の話を聞いて、何か掴めたのかい?』

 

『うん。私の兄は、殆ど誰からも完璧に見えてたみたい。誰にでも笑顔を絶やさず、誰かの悪口なんて一切口にせず。身体の弱い母親の為に、高校生の頃から働いて。まだ小学生の時期から家事なんかも手伝ってて。友達の相談にも乗って、誰にでも手を差し伸べたらしい』

 

『聞いた限りでは、聖人みたいな人格だね。良いことじゃないか?』

 

『良いことだけどね。けど、気色悪いでしょ?』

 

『何がだい?』

 

『善意には打算があるはずだよ。隠したいことのための隠れ蓑とかさ』

 

 

 我ながら、昔も今も、私はすごくひねくれていたとは思う。

 お父さんも呆れていたし、友達からも『奏ちゃんって割と変だよね』とは言われていた。

 けれど、わざわざ自分の在り方を変える気も、まともになろうとも思わなかった。

 それがかっこいいと思っていたのもあるし、何より私には余裕があった。

 

 

『打算があったかは分からないけれど。少なくとも彼は、沢山の人に慕われていたね。私にもよく笑顔を浮かべてくれた。その人柄ゆえか、得することもありはしただろうね』

 

『八方美人ってやつ?むむむ、それなら確かに納得は出来るけど。それにしたって完璧すぎない?こんだけ調べてんだから、ぼろが一つくらい出てもいいのに』

 

『さて。どうだろうね。ただ、私が思うに』

 

 

 お父さんは、チラリと私の方を見て。

 面白がるように、ドキッとすることを口にした。

 

 

『君はもう、なんとなくは答えに近づいていると思うよ』

 

『……なにそれ?』

 

『普段の言動から、無意識でも情報は零れるものだからね』

 

『うぐ。た、探偵っぽいことを……!銀行員の癖に……!』

 

『おや、金にまつわる物事程、人の悪意に触れあう仕事も無いよ?』

 

 

 父親はこういう人だ。よくからかわれるし、その癖答えを知っている風でもある。

 何故父があの人と結婚したか、なんであの人との間に私を産んだか。

 まるでタイプが違うように見える二人だから、今となっても疑問だが。

 

 

『奏。君は頭がいい子だ。だからきっと、たどり着けるよ』

 

 

 多分、どんな些細な言葉であれど。

 子供にとって、それは人生を変える程大切なものにもなりえるのだろう。

 未だに答えを求め続けている、私みたいに。

 

 

『さて、奏』

 

 

 私が家を出て、遠くある高校に通おうとした時。

 父親は、何処か確信めいて、私に質問を寄越した。

 もしかすれば、こうなる事はもう、分かっていたのかもしれない。

 

 

『君は、今。彼のことをどう思ってる?』

 

 

 何それ、と言えばいいのかもしれない。

 大好きだよ、と言うのが正解だったのかもしれない。

 気になる、と言うのが、無難だったのかもしれない。

 

 

『……私の兄は、いい人だったらしいんですが──』

 

 

 それでも私は、その先にある答えを口にした。

 多分私の父親は、私よりも坂山奏についてを知っていたんだろう。

 まるでそれをよく分かっているかのように、それ以上は何も聞かなかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「あ、まず前提として言っておきますね」

 

 

 彼女の、坂山奏のことは、高校に入ってしばらくした後に耳に入れていた。

 隣の県に実家があると言うのに、寮に住み込んで進学校に通っているという勤勉な少女がいるらしい。その容姿も相まってか、噂が僕の所に回ってくる程度には彼女は目立っていた。

 それだけならば、さして気にも留めなかったが。

 

 

「私、加奈さん自身に悪感情はありませんし。死んだお兄ちゃんの復讐を!なんてこと考えてはいませんよ。兄妹と言っても、会ってない以上他人とそう変わらないですし。なんであれば、加奈さんは挙動が面白いから、結構好みなタイプだったりしますからね?」

 

「なら。何故彼女についてこそこそと調べていたんだい?」

 

「あ、バレてたんだ」

 

 

 坂山奏が、朝宮加奈のことを調べ回っている。

 人柄や関係性、彼女の両親についての情報や、恋人である僕の情報等を事細かに。

 そのことを不審に思い、彼女について幾つか調べた結果、判明した事実が。

 

 

「君の兄は、彼女の父親に殺された。そしてわざわざ隣の県から越してきて、彼女を付け狙った。これらの情報から考えても、君は彼女に悪意を持っているとしか思えないのだけれど」

 

「信じてもらえるかは分かりませんけど、誤解ですよ。私の場合、加奈さんについて調べていたのはただの興味本位ですし」

 

「興味本位で、わざわざ僕にまで近づいたのか?」

 

「あ、それについては、ほんとに誤解ですからね?」

 

 

 彼女は何処か顔を赤くしながら、手をぶんぶんと振り回す。

 何処からどう見ても、恋する乙女とでも言うしかない、可愛げを感じる所作。

 だと言うのに、僕はそんな様子からも、彼女の裏に潜む黒い何かを感じざるを得なかった。

 

 

「私があなたに惚れちゃったのはほんとですよ!だってほら、散歩中にリードが切れちゃうとか、そんなこと早々あるわけないじゃないですか。あの出会いに関しては本当に偶然ですし、私があなたに惚れる理由としては十分だと個人的には思ってますよ?」

 

「……リードが切れた犬を助けた、ね。まあ、事実ではあるよ」

 

「事実以外に気になる点が?」

 

「三つある」

 

 

 三本の指を上げて、一本目を下げる。

 彼女は未だ、可憐な少女のような笑みを外さないでいた。

 

 

「一つ目。あれ、君の犬じゃなかったろ」

 

「ええ、まあ。寮生活で犬を飼えるわけないですし」

 

「あれは君の友人の犬だ。しかも、その散歩の際には個人的な報酬として千円を渡されていたみたいだね。君にとってあの犬は、家族でも何でもない。それを助けたのが理由で、僕に惚れたと?まだ一目ぼれと言われた方が理由付けとしてはマシだね」

 

「犬が車に轢かれれば、私の責任になっていたかもしれませんし。そこに感謝するのは当然じゃないですか。犬を助けてくれたから惚れたのではなく、私を助けてくれたから惚れた、という風に解釈してもいいんですよ?」

 

「あのリードが古かったことに関しては、飼い主の怠慢が原因だ。買い替えをサボっていた。多分君はあの犬が轢かれても、それを理由にどうとでも言い訳が出来たはずだ。僕が君を助けたというが、君は自分自身で己のピンチを乗り越えられた」

 

 

 あの時、彼女も確かに、犬を連れ戻そうと走ろうとはしていたのだろう。

 けれど彼女は、冷静に、車が走ってくる時には足を止めたのだ。

 犬を身を挺して助けようとするリスクとリターンを、彼女は理解し。

 理解した上で、犬の命ではなく、自分の命を取る行動を行なっていた。

 

 

「二つ目。僕が犬を助けた後の行動。これについては、謝罪も含もうか。僕はその後、君に詰め寄った。『リードすらまともに買いそろえないなら、ペットなど飼うな』と。後に調べて、君が原因ではないと理解したが。不当な怒りだったね、申し訳ない」

 

「わぁ、律儀ですね?」

 

「我ながら、少々大人げなかったとも思っているよ。よくよく考え、観察していれば理解できていたことだろうに」

 

「そんな気にしなくてもいいんですけどね。よくあることでしょうし、それを後々反省できる方が少数派です。それで、気になる点の三つ目は?」

 

「身を挺して犬を助けたことについて。君はむしろ、嫌悪の眼を向けていただろ」

 

「……」

 

 

 沈黙は肯定、ということなのだろう。

 これが一番気になっていたことだ。もし仮に、僕が彼女の犬を助けたとして。

 おそらく彼女は、それでもその行動に対し嫌悪の眼を向けていたのだろう。

 

 

「手紙には、君の建前が書いていたな。『私にとってのヒーローである兄と、同じ行動をした』って。これを断ずるべきかは迷っていたよ。もしそれがただの誤解であれば、僕は君に土下座しなければならないから。けど、今ので確信できた」

 

「へぇ。それは?」

 

「君。兄のこと嫌いだろ」

 

 

 

 

「はい!大嫌いですね!」

 

 

 

 

 違和感はあった。それが積み重なり、確信も出来た。

 彼女はよく兄を引き合いに出していた。事故で死んだ兄を想う健気な妹として。

 けれど、常識的に考えて。死んだ兄について、延々とその凄さを教えられたとして。

 

 

「死ぬほど比較されたので!」

 

「だろうね」

 

 

 出来の良い兄を持つと、後ろの子供にとってそれはハードルになるのだ。

 そのハードルが勉強ならいい。あるいは、スポーツならばまだマシだ。

 それには数字がある。結果が見える。超えるべき目標が確かな形を持っている。

 

 けれど、彼女のように。

 超えるべき何かが、酷く曖昧なものであるならば?

 

 

「いやー、けど。私もあの時は苦労しましたね!まさか犬を助けた後、学校側に電話までして、あの一件を大事にしちゃうなんて!私に依頼してきた子、半泣きでしたよ。『イケメンにめっちゃくちゃガン詰めされた』って!」

 

「当然の処置だ。善意で人を助けたとして、その善意で防いだ悲劇をなかったことには出来ない。ただ、運が良かっただけだ。だと言うのに、何の痛みも伴わなければすぐに忘れ去る」

 

「そういうところ」

 

 

 ビシッ、と指を向けられた。

 彼女はニヤリと、先ほどまでの純粋な少女という仮面を剥がし。

 おそらくは彼女の本性なのだろうか。

 楽しそうに口元をニヤケさせる姿は、まるで悪戯っ子のようで。

 

 

「そう言うところが、私が十六夜さんに惚れてしまった理由なんですよ」

 

「……意味が分からないのだけれど」

 

「あなたは。人がどれだけ弱いか、どれだけしょうもないか。それが分かってるんです。だから人に厳しくするし、私が何かやらかさないか監視してる。私は、ただ人に甘くするのがやさしさだとは思ってません。そういうのが、ほんとのやさしさだと考えているからです」

 

「ひねくれきった思考だね。僕があの時、君や犬の飼い主に厳しく接した理由はもっと単純だよ。気に食わないからだ。命を飼っているという責任を軽く考えて、やるべきことを怠る奴が」

 

「けどそのおかげで。以後あの子は、リードのチェックなどは事前にしっかりするようになり。犬が勝手に走り出さないよう、家でしっかりしつけをすることを習慣づけて。ついでに、私に割のいいバイトを紹介してくれなくなりました」

 

 

 どうやら、多少は過去を反省できる人間だったらしい。

 それを聞いたところで、『ああ、そう』としかならないが。

 こんなことを考える人間を『優しい』などと呼称するとは。

 彼女には、どうも人を見る目がないようだ。

 

 

「そんな理由で。私はあなたのことが好きになりました。私の考える本当の優しさを。甘さではなく厳しさを。結婚したら、きっといい家庭を築けそうだなぁと思って。……いえ、まあ。断られるのを前提に、加奈さんに近づきたいなぁと考えたのは、図星ですけど」

 

「ほら見ろ。さっきまでの弁明はなんだったんだ?」

 

「私が別に加奈さんに悪意を持っているわけではないと言う証明と。ちゃんとあなたが好きになったので、それに関しては嘘はついていないって言う弁明をしたかったんです。乙女の恋心を悪意と誤解されるなんて、それ以上の悲劇も無いでしょう?」

 

「……ハァ」

 

 

 一応は、納得することにした。

 これ以上話しても、煙に巻かれるだけだと確信したのもあるが。

 おそらく、これ以上追及しても、出てくるのはどうでもいいことだけだ。

 

 

「念のため言っておく。彼女に、加奈ちゃんには手を出すな。それは絶対条件だ」

 

「分かってますって。ただ、気になっただけなんです。兄を殺した人の子供が、どんな人間なのかなって。……いやまあ、まさか初手であんなことかましてくるとは思いませんでしたけど。面白い人ですね?あの人」

 

「……普段は。もう少しだけ、おとなしいから」

 

「面白いのは認めちゃうんですね」

 

 

 ごめん加奈ちゃん。弁明しようとしたが多分無理だ。

 いくらまともなところを探そうとしても奇天烈な光景ばっかりが脳裏をよぎる。

 カブト虫を捕るために虫のコスプレをして虫取りに行ったこととか。

 当時は真夏だったんだけど。案の定熱中症になりかけてたし。

 

 

「なんか凄く面白そうな絵面想像してません?」

 

「……可愛い子だからね、加奈ちゃんは」

 

「うわぁ絶対何かを呑み込んだ顔してる。もしこの恋を成就させたいなら面白さで加奈さんに勝たなきゃならないんですか?ちょっと難易度が高いと思うんですけど」

 

「まあ、そうだね。もし勝つなら……」

 

 

 後ろから聞こえてくる騒ぎ声に、チラリと目線を向ける。

 案の定、その騒ぎの中心には、彼女が存在していた。

 振り回される碧海君の姿は、なんとも哀愁が漂っていて。

 

 

「……とりあえず、あれ以上の面白いことをしてもらわなきゃ、かな?」

 

「クソゲーですね」

 

 

 うん、僕もそう思う。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「がぼぼぼぼぼ!!」

 

「姉ちゃんストップ!ダメだってそれは!!俺もムカついたけど、流石にダメだってハバネロソースを口にぶち込むのは!やばい顔してる、やばい顔してるから!」

 

「止めるなぁ碧海!こいつ、私の弟を突き飛ばした挙句、チビだとぉ!?列に割り込んできたクソDQNが偉そうに髪染めやがって!ピアスまで開けるなんぞ、両親から貰った身体をなんとも思ってねぇんだよなぁ!?ならこれされても平気だよなぁ!?」

 

「逃げろぉお前ら!本気だぞ!姉ちゃんは本気でやるぞ!?早く倒れてる奴連れて退散しろぉ!!命は惜しいだろうが!」

 

 

 注文しに行く列に並んだときのことである。

 DQN共は列に割り込み、俺にナンパを敢行した挙句、止めようとした弟を突き飛ばした。

 挙句の果てには倒れ込んだ碧海をチビとなじったので、もうゴングは止められない。

 

 

「まだあと四人いるよなぁ!?へらへら笑ってる取り巻き共が!なんだこらビビってんのかぁ!?私の弟に手を出してただで逃げられると思ってんのかコラァ!テメェらから仕掛けたんだから何されても文句言えねぇよなぁおい逃げんな腰抜け共がぁ!!」

 

「お、お客様!落ち着いてください!」

 

「あ、はい。すいません騒いじゃって」

 

「うわあ急に落ち着いた!!」

 

 

 いやだってこの店員さんに八つ当たりするのは違うし……。

 ていうかよく見れば、近くで二人が苦笑しながらこっち見てるじゃん。

 うわ恥ずかしい、純粋無垢な乙女モードに切り替えなければ!

 

 

「まあ、なんてこと?あの人達、逃げてしまいましたわ。きっと、神様が私達を守ってくれたんですのね……!神に感謝の祈りを捧げねば」

 

「無理ある、無理あるって姉ちゃん。姉ちゃん無神論者じゃん。特に信仰してる神様とかいないじゃん。あとあいつらをボコボコにしたのは神様じゃなくて姉ちゃんだぞ」

 

「バカ野郎私はちゃんと神様信じてるぞバカ野郎。なんなら輪廻転生だって全然信じているぞバカ野郎。見たことは無いけど多分神様もいるぞバカ野郎」

 

「微塵も説得力がねぇ」

 

 

 とりあえず気は収まったので、店員さんにペコペコと頭を下げ、トレイを持って合流する。

 二人は仲良く話していてくれていたようで、二人とも俺を見て上品に笑っている。

 この和やかな空気、きっと二人の仲はぐっと縮まったことだろう!

 

 

「弟よ。やっぱり私、恋のキューピットの才能があるかもしれないな」

 

「ぜーってぇ無いと思う。それより、なんでハバネロなんぞ持ってんだよ姉ちゃん。ていうかその鞄の中って何入ってんの?」

 

「ん?催涙スプレーと、警棒と、スタンガンと……あ、バールもあるわ」

 

「なんでそんなもん持ってんの?」

 

「備えあれば憂いなし……!」

 

「何に備えるつもりなんだこの姉……」

 

 

 何を言う、色々とあるんだぞ?話の通じない奴にはこれが一番なのだから。

 孤児院時代に色々あって、危うく貞操を失いかけたこともあるからな。

 変態共や悪党共を相手にするためにも、こういうグッズは必要なのさ!

 

 

「お前も防犯ブザーくらい持てよ~?物騒な世の中なんだから」

 

「考えとくけど。姉ちゃんが隣にいる限り、使う機会があるかは怪しいな」

 

「おお、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。やはり頼りになるか……!」

 

「いや、おかしな奴過ぎて怖がって変態も近寄らなさそうだし」

 

「お、こいつらの出番か?」

 

「すいませんでした」

 

 

 分かればいいんだよ分かれば。

 席に座り、二人の分の食事を置いてやる。

 ハンバーガーにポテトフライ、その他色々勢ぞろい。

 こういうテーマパークで食べる食事は、写真映えが良くていい。

 皆で記念写真を撮った後、揃って手を合わせて『いただきます』を口にする。

 

 

「お、これ美味しい。碧海、それどんな味?」

 

「自分の食べとけよ……はい、一口だけね」

 

「あはは……仲いいですね、本当に」

 

「少し妬いちゃうくらいだね。僕のも食べるかい?加奈」

 

「ほんと!?いただきまーす!」

 

 

 目的を果たせつつあり、ついでに皆で楽しく遊べている。

 こんなにも幸せでいいのかと言うくらい、今日は充実した一日になるだろう。

 次は何に乗って、どうやって遊ぼうか。

 そんなことを考えながら、でかい一口で弟に膝を突かせて。

 

 

「んお」

 

 

 ピロリン、と古臭い音が鳴った。

 俺の携帯電話。父さんからのメールだ。

 内容を確認して、少しだけ苦笑して。

 

 

「加奈」

 

「あー、うん。分かってるって」

 

 

 苦笑を浮かべて、鋭く、制すように言った優斗君の言葉にうなずく。

 ただ、今日は夜ご飯だけは、少なめに取ることにした。

 久しぶりに、少しだけ雑なチャーハンを食べられそうだったから。

 

 

「……」

 

 

 そんな俺を、ジッと見ていた奏ちゃんの様子が、少しだけ気になった。




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