Sword Art・Online 《Strange Dramas》 【完結】   作:与祢矢 慧

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気がつけばはや一月+アルファ。
なんでこんなに遅いのかね、自分は?
本当は七夕あたりに投稿するつもりだったのに……。
サブタイも思いつかないし。
一応「予(あらかじめ)」と「兆(きざし)」です。



12th 予:兆

 『最強の男。生きる伝説。聖騎士など。

 血盟騎士団のギルドリーダーに付けられた二つ名は多い。もちろん、いい意味の二つ名ばかりだ。

 奴の名前はヒースクリフ。《神聖剣》という、唯一ユニークスキルを持つ男だ。

 ヒースクリフの十字盾を貫く矛なし。

 アインクラッドの定説の一つにすらなっている』

 

 『最凶のプレイヤー。歩く恐怖。殺人鬼など。

 何の前触れもなく現れた謎のプレイヤー。彼もその情報がSAO全体に知れ渡るまでに数々の二つ名を付けられた。こちらはどれも悪い意味ばかりだ。

 通称、PKK。名前も、素顔も不明。性別は男と解っている。バトルスタイルは両手剣を片手で扱う、システムアシスト無視、技能重視タイプ。

 通称の由来はプレイヤーキラーばかりをキルすることから。

 その強さは攻略組トップ層にも並び、かの《黒の剣士》本人が負けた、と認めている』

 

 『この相反する二人が衝突した時、どんな結果が生まれるのだろうか――――――

 

 

 

「……フウ」

 

 タイピングの手を止めて、一息をつく。

 画面をスクロースして、文章を読みなおす。

 

 ――――ま、これぐらいでいいダロ。

 重要な新聞の記事だ。あやふやな方が見る方も面白いだろう。

 テキトーに判断して、ウィンドウを閉じる。

 テーブルの上にある小皿に入っている小さい果実のようなものを口に入れる。

 

「……おっ、ウマイ」

 

 それの見た目は青色のレーズンだが、味はドライマンゴーだった。

 

「こんなモノ、どこで見つけたんダ? ねぇ、ロー君。………………ロー君?」

 

 買ってきた本人に聞いても返事はなかった。

 不思議に思い、座ったまま振り返る。すると、ロキはベッドの上で、座って寝ていた。

 片膝をたてて、愛剣を抱きながら眠る姿は警戒心を表している。

 

「……やれやれ、お疲れみたいだネ。まぁ、あんな男(・ ・ ・ ・)と一対一で対面したんダ。疲れるのも当たり前だナ」

 

 あんな男(・ ・ ・ ・)との対面。

 それは今アルゴが書いている記事にも関係している。

 SAOの数少ない娯楽の一つ、新聞。

 

『新聞の一面を借りて、載せろ』

 

 部屋に帰ってくるなり、ロキが言い放った一言。

 最初はわけが分からなかったアルゴだったが、ベッドに腰掛けながら言った次の言葉が予想外過ぎた。

 

『……神聖剣と話し合った結果、奴との決闘(デュエル)だ』

 

 思わず持っていたグラスを落としたほどだ。

 

 彼は数時間前、第五十五層の都市《グランザム》にいた。

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 圏内エリアに悠然とそびえ立つ城。

 第五十五層《グランザム》を拠点とするギルド血盟騎士団の本拠地。

 その中心部に近い一室、幹部でも一部の者しか入れない部屋で彼らは対面していた。

 

 一人は堂々とした態度で椅子に座り、目の前のプレイヤーを、全てを見透かすような眼で観察している。

 もう一人は出された椅子に座らず、両手をポケットに入れたまま、探るような眼で相手を見下ろす。

 互いに口を開かない。

 そうして、五分が経とうとした頃に座っているプレイヤーが話を切り出した。

 

「特に警戒することもあるまい。まずは座りたまえ」

「……お前の考えていることは、解からん。故に警戒も、当たり前だ」

 

 緊張した空気でもないが、穏やかでもない。

 さらに視線をぶつけ合うが、立っているプレイヤーは軽く息を吐き、椅子に座った。

 

「ふむ。まずはじめまして、とでも言うべきかな?」

「……勝手に、しろ。こちらは一方的に、知っている。……《神聖剣》ヒースクリフ」

「それは私もだ。PKKと悪名高い君に会えて光栄だ、ロキ君」

 

 皮肉交じりの返しにPKKと呼ばれたロキは鼻で笑う。

 ヒースクリフは眉一つ動かさず、ただ見ている。

 ロキは椅子に深く座り直すと、部屋を見渡した。

 

「……いい部屋だな」

「一応、接客用の部屋でね」

「……重要、もしくは危険人物、っていう肩書がつく、客だな」

 

 そう言ってロキは挑発的に笑う。

 それに対し、ヒースクリフはフッと笑うだけだった。

 

「先日の作戦、援助に心から感謝する。君のおかげで崩壊寸前だった彼らは戦線を立て直すことができた」

「……あの程度の雑魚に、苦戦するなら鍛え直すことを、推奨する」

「そう言ってくれるな。彼らは攻略組の中でも選りすぐりだ。さらに上の実力を持つ者など片手で数えるほどしかいない」

「……実力の話、じゃねぇよ。……メンタルの方だ」

 

 ロキは呆れたように息を吐く。

 ヒースクリフはその言葉に苦笑する。

 

「あくまでも彼らの根本は『一般人』だ。現実世界で殺人など体験するはずが無い」

「……その言い方からすると、俺は体験したことがある、って言うのか?」

「数ある中の一つの可能性として」

「貴様は学者か何かか……」

 

 ロキの返答に彼は、さてね……とだけ呟き、正面を見据えた。

 その眼は金属のような光沢を放っている。

 どこまでも、達観して、傍観者のような眼。そんな印象をロキは持った。

 

「……で、俺が『一般人』じゃないとしたら、何か問題が?」

 

 肩をすくめて、とぼけたように質問をする。気迫に呑まれそうになるも、視線を逸らして回避する。

 

「ふむ……。人間は異質なモノを忌み嫌う。例えば、髪や眼の色。または性格や才能……」

「……なるほど、『人殺し』が怖いと。だから、PKKを辞めろって言いたいのか」

 

 予想通りすぎる要望だな、とうんざりしつつロキは答えた。もちろん、それを断る算段もついていた。

 だが、ヒースクリフは変わらずロキを見ている。首を縦にも横にも振らない。

 

「………………」

「………………」

 

 お互いに相手の眼を見て、思惑を探る。

 十数秒の沈黙を破ったのは、ヒースクリフだった。

 

「単刀直入に言おう、私と決闘し給え」

「…………何を言ったか、理解しているのか?」

 

 間抜けな声が出なかっただけ、ロキは理性さを保てていた。だが、あまりにも予想外な申し出だった。

 ヒースクリフは質問に対して、小さく頷いた。

 

「昨日、私を含む攻略組ギルドのトップ陣が集まり会議を開いた。議題はPKK、君の処遇についてだ」

「……だろうな」

 

 ロキは事前にアルゴから情報を聞いた。

 正体不明の『人殺し』プレイヤーが出てきて、対策を考えないほうがおかしい。

 

「私としては不干渉でいたかったのだが……、周りがうるさくてね」

「……不干渉? へぇ、貴様は恐れないのか、俺を」

「肩書は所詮、肩書だ。君はラフコフとは違うだろう?」

 

 つまり、『殺人に快楽を求めているわけではないだろう?』と。

 ロキは口元に笑みを浮かべる。無意識に挑戦的な笑みになる。

 その様子を知ってかヒースクリフは続ける

 

「話し合いの結果、君には血盟騎士団の監視下、いわば入団してもらう」

「オイオイ、待てよ。俺はソロだぞ。命令を受ける、義務はない」

「だからこその決闘だ。別に受けなくてもいい。その場合、君の行動は悉く妨害されるがね」

「……クソ。……俺が勝った、場合は?」

「君に関しての妨害行為や敵対行為といったもの全て辞めさせよう」

「……一つ、訂正だ。俺だけじゃない、俺達に関して」

「了解した。日時は追って知らせよう」

 

 ヒースクリフがウィンドウを開き、操作するとロキの前に小さめのウィンドウが現れる。

 フレンド申し込みのメッセージだ。

 ロキは躊躇うことなく『Yes』を押した。

 それを確認したヒースクリフは少しだけ笑みを浮かべ、すぐに表情を戻した。

 

「最後に一つだけ聞きたい」

「……なんだよ、いまさら」

「君はユニークスキルを持っているかね?」

 

 ロキの目尻がピクリと動いた。

 ユニークスキル。現時点でたった一人しか会得できていない、ゲームバランス崩壊を起こしかねない強力なスキル。

 ガタン。

 ロキは椅子から立ち、ヒースクリフに背を向ける。

 ドアノブに手をかけながら、肩越しに答えた。

 

「……俺が負けたら、教えてやるよ」

 

 それだけを言ってドアを開き、部屋から出た。

 

 通路を歩いていると様々な視線が突き刺さる。視線を飛ばしてくる者の中にはラフコフ戦で彼に助けられた者もいる。

 だがそれらのほとんどは敵意といったものばかり。

 

「……臆病どもが」

 

 聞かれない程度の声で呟く。

 敵意を向けられたからといってそれを気にしない。

 途中見知った顔を見かけたが、無視して《グランザム》を後にした。

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ロキをベッドに寝かし、頭を自身の膝に乗せる。青みがかっている黒髪を優しく撫でた。

 

「ホント、無茶ばっかり。ちょっとはボク達のことも考えてよ」

 

 寝顔を覗きながら拗ねたような口調で呟く。

 もっとよく見たいと思い、目の辺りまで無造作に伸びている前髪を分けると、右目の下にそれを見つけた。

 

「……傷跡?」

 

 こんなものがいつの間に、と思ったが違うと判断した。

 VRの傷は残らない。つまり、リアルでできた傷。

 決して小さくないそれは切傷には見えなかった。

 

「なんだろう、もっとえぐられた感じがする。……岩場でコケたとか?」

 

 自分で言っておいて、無いなと否定する。

 

 かつてロキと岩山フィールドで競走をしたことがあった。

 争った理由は思い出せないが、ロキの圧勝だったことだけは覚えている。

 AGI値はボクのほうが高いのに、とショックを受けたのも懐かしい。

 穏やかな寝顔に思わず、クスッと微笑った。

 そして、彼の口が動いた。

 

「人の寝顔がそこまで面白いか?」

「ンニャッッ!!」

 

 驚きのあまり変な声が出た。

 大きく見開かれたアルゴの目と、眠気で半眼になっているロキの目がしっかりと合った。

 硬直すること約二十秒。

 その間にロキは上半身を起こし、欠伸をした。

 

「……いつから起きてタ?」

「ついさっきだ」

「……迷惑じゃ、なかっタ?」

「心地よかった」

 

 また頼む、と言ってアルゴの頭にポンと手を乗せる。

 彼女は頬を染め、ニヤついた顔を隠すようにフードを被った。

 その様子を見たロキは微笑する。右目の下の傷を少し撫でた。

 

「……この傷、見たのか?」

 

 別段、責めるような強い口調ではなかった。

 それでも彼女は恐る恐る、横目でロキの表情を窺う。

 彼は懐かしむような、そして悔いるような、遠い目をしていた。

 コクリとアルゴは頷く。

 

「……以前、ヨシナにも言った。これは拳銃で撃たれた痕だ」

「ハッ?!」

「数年前のことだ。避けようとしたが、ミスってな。掠った」

 

 あの時はまだ未熟だった、と苦笑しながら言う。

 

「いやいや、笑って済むことじゃないロ!」

「笑って済むことだ。俺は今、ここで生きている。後遺症もない。それに、俺を撃ったやつなら、死んだ」

「そう、だけど……」

 

 淡々とした言い方にアルゴは気づいた。

 彼が殺したのではないと。

 彼はSAOより以前に、人の死を見たことがあるのだと。

 

「……前から思ってたけど、ロキは怖くないノカ?」

「怖い? 何がだ」

「殺すことが。普通はためらったり、怖くなるもんダロ」

「……初めて、殺した時は実感がなかった。二回目は、嗤ったな」

 

 わらった?とアルゴが聞き返すと彼は自嘲的に笑い、ベッドに寝転んだ。

 右手を天井に向けて伸ばし、手の平を見つめながら、ゆっくりと話し始める。

 

「……命を消したと思うとな。訳が分からなくなって、嗤うことしか、できなかった」

「………………」

「……三回目からは、慣れた」

 

 慣れってのは、恐ろしいな。

 そう言い切ると、彼は無言になった。

 アルゴも、何を言えば良いのか分からなかった。

 何気なく時計を見ると、ちょうど午後十一時を過ぎたところだった。窓の外からの街灯の灯りも僅かにしか入ってこない。

 

 最低限の灯りしか点けていなかった部屋は薄暗く、ベッドの辺りには光が届いていない。

 暗さのせいか、二人はいつの間にか眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ユニークスキル《暗黒剣》、か。本来ならさらに上層で発現するように設定したのだが……。これもまた、意志が為す力……なのか」

 

 暗闇を照らすのは複雑な文字列とツリーダイアグラムが写っている、複数のディスプレイ。

 それら全てを操作する白衣の青年は腕を組み、興味深そうに呟く。

 

「……彼を変えた(・ ・ ・)のは復讐。決闘が楽しみだ。……彼はどう思っているかな?」

 

 机に置いてあった写真立てを手に取り、懐かしむように眺める。

 

「……ロキ、いやミズキ君。久しぶりの勝負だ」

 

 写真には白衣の青年と、右目の下に傷がある少年が誇らしく笑って写っていた。

 

 

 

 

 

 数日後、闘技場にて《神聖剣》と《暗黒剣》。

 相対する二人の決闘の報せはアインクラッド中に響いた。

 

 

 




 
早く書けるようになりたい。そしてクオリティも。

感想、アドヴァイス、誤字報告等お願いします。


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