Sword Art・Online 《Strange Dramas》 【完結】 作:与祢矢 慧
今回は特に進展はありません。
簡潔に主人公の回想がメインです。
ヒースクリフとの決闘から既に一月以上経った、その日の気象設定は過去最悪と言っても過言ではなかった。
風向きが定まらない暴風に、殴りつけるような豪雨。
そんな状況の中、フードも被らず俺はずぶ濡れになりながらかつての丘の上に来ていた。
「……悪いな。自分で、言っておきながら、約束を守れなかった」
俺の右側にある黒いオブジェクト。それは『墓』だ。かといって、誰かの名前が彫ってあるわけでもないし、遺品が埋まっているわけでもない。まして『魂』という非システム的なモノが宿っているわけでもない。
ただ、俺の自己満足が作った体裁だけの墓。親友が死んだ、という事実を受け止めるための墓。そして、俺の弱さを表す、墓。
俺はここで、ザザを殺して仇討ちの報せを持ってくると、約束した。
そして、それを果たせなかった。
あの時邪魔をされたとは言え、失敗は失敗だ。
さらに、復讐を果たす機会はもうないだろう。現在、ザザは第一層の《黒鉄宮》に捕らえられている。ヒースクリフに頼んだところで解放されることはない。
つまり、俺は…………生きる意味を失った、かもしれない。
「……どうしたら良いんだろうな、俺は……」
などと、あるはずのない返事を期待してしてしまう。
馬鹿か俺は、と自らを罵倒してもただ虚しいだけだ。
話すことも、喋る気も無くなった。
Mobの咆哮も、NPCの音声も聞こえず、雨音だけが煩わしく耳に響く。
濡れた服が冷える、なんてシステムは無い筈なのにやけに寒さを感じる。
水滴が頬を伝って滴り落ちる。手のひらでそれを受けるが、決して涙ではない。
そう決めこんで、袖で目元を拭う。
「……はぁ…………」
長い息を吐きながら立ち上がる。
途端に風向きが変わり、雨風が正面から襲いかかってくる。濡れて黒さが増したロングコートがバタバタと音を立てる。
それでも俺は目を閉じず、水浸しな灰色の風景をしばしの間見つめる。
そこに誰かいるわけでもない。
「…………ははっ。…………じゃぁな、また来る」
返事をしない相手にそう言う。
次はいつ来るか、と考えながら転移門に行くために俺は丘から飛び降りる。
あざ笑うような暴風雨が、鬱陶しかった。
「止まない雨はない。……SAOだからな」
ログキャビン二階のバルコニー。そこで安楽椅子に揺られながら景色を眺める。
すでに雨は止み、見事な曇り空が広がっていた。軽く鼻で息をするが、雨特有の匂いなど感じられない。……そもそもSAOの空気に匂いは無い。ついでに呼吸する必要もない。
いまさらな確認をしていると、背後のドアがコンコンコンとノックされた。
「ロキー、お茶淹れたけど飲む?」
「……味による」
「多分、あなたが好む味だよ。あとお菓子も」
「そうか、なら、頂こう」
「手がふさがってるから、ドア開けてー」
立ち上がり、先にテーブルと椅子をセッティングしてからドアに向かう。
ドアを開くと、急須のような物と二つのカップ、そして焼き菓子らしき物を乗せた木目調のトレイを持ったヨシナが微笑んでいた。
俺はその立ち姿に少しばかり見惚れた。……つくづく何故こいつは俺に惹かれたのか、疑問に思う。
俺の内心を知ってか知らずか、鼻歌交じりにヨシナは茶を入れ始める。
彼女の仕草を見ながら、椅子に座って向きを変える。
「このお茶は手作りでね、つい最近作ったんだ。……ロキが飲みたいって言ってたしね」
「……ほう。料理スキルの、調子はどうだ?」
軽い返事程度の気持ちで聞いてみた。たしか、一週間ほど前は六割習得と言っていたはず……。
記憶を辿っていると、さっきとは違う無邪気な笑みを浮かべた彼女の表情が目に入った。
「ついにコンプしたんだ」
「………………すごいな」
素直な感想が口から出た。
実際、スキルのコンプリートは並大抵のことではない。時間をかければできることだが、彼女の成長速度は異常と言ってもいい。
カップを口に持っていき、透き通った赤色の液体を僅かに口にふくむ。
同時に、懐かしい味が口内に広がった。
俺は表情を隠さず、驚く。
まだ母が生きていた頃に、淹れてもらった煎茶を思い出す。
もう一口、味わって飲んで空になったカップを置く。
「……これは、
独り言を呟くが、距離的にヨシナに聞こえたようだ。
菓子を一つ取って、かじる。……これも見事なものだ。なんというか、俺の好みの真ん中を当てている。
食事をするたびに好みの味を聞いてきたのは、このためか。
「あのね、ロキ」
俺のカップを満たしながらヨシナは上目遣いでこちらを見てくる。
手にある残りの菓子を口に放り込み、差し出されたカップを受け取った。
俺が一口飲んでから、再び彼女は口を開く。
「私は現実のあなたに興味がある。だから、教えて?」
「……俺のことなど、知る必要はない。……と言いたい、ところだが、コレの礼だ。簡潔に、話してやるよ」
「えへへ、頑張った甲斐があったよ」
頑張った、か。この茶も菓子も、プレイヤーに売りだせば相当の金を儲けられる。それこそホーム一つは買えるほどの。
だが、ヨシナが求めたのは俺の話。……なんとも言えんな。
もう一口、茶を飲む。
俺はどこまで話すかを少し考え、ちょうど、カップの中身が消えたところでまとまった。
「……そうだな、昔の話か………………」
……何故か俺は生まれついた時から、今のように考える事ができた。
暇だったが、いくらでもあった時間を使い、知識を貪った。
そのせいで孤立したが、似たようなやつが一人いて、そいつとよく二人で読書なんかをしていた。気づけば親友になっていた。
小学生のころ突然、母親を『事故』で失った。
俺の家は少し特殊で、それに伴って親族と名乗るクズ共が財産目当てに擦り寄ってくた。父は母一筋の男だったせいか、それらは俺に回ってきた。
下心丸出しな奴もいれば巧みに『仮面』を作り、騙そうとする奴もいた。……なにもかもが最悪だった。少しの希望も砕かれ、裏切られた。
……怒りと絶望。そして、人間の醜さを再び思い知ったな。
そんな時に、アイツと出会った。
俺が人間不信に陥り、虚しさを抱え、完全に引きこもっていた頃だ。家にとある同級生が訪ねてきた。
……死んだアイツだ。
アイツからすれば、ただ学校に来ない生徒の様子を見に来ただけだっただろう……。
初めは追い返していた。しかし、繰り返し繰り返し来るアイツに呆れ、会ってみることにした。
その時はこう思ったよ。
馬鹿で何も知らないガキだ、と。
アイツの言うこと全部が上っ面だけの、軽薄な言葉にしか思えなかった。
俺の様子を怪しんだアイツに、そのことを伝えた。
すると、まさか、アイツは俺を平手打ちしやがったんだ。
呆然としていた俺にアイツは言った。当時の俺にとって、心に響き、浸透するようなことを。……もう忘れたがな。
こんな純真な人間がいるのか、驚きながらそう思った。
それからアイツとつるむようになり、暫く会っていないもう一人の親友と学校で再開し、少しは満たされていたかもしない。
それでも、心の奥に虚しさがあった。不満、満たされていない感覚が常にあった。
中学に進む時、アイツと離れ、親友とも繋がりがなくなった。
また孤独になったんだよ。
そんな面白くもない灰色の景色を歩いていた時に……SAOに出会った。
試しにβテストに応募して、予想外にも当選した。
βテスト期間中はがむしゃらにプレイしていたから、終わりも早く感じた。
正式サービス開始、デスゲームの始まりから数日後。ちょうど第一層ボス攻略会議の時に、アイツと再会した。
……あの時は驚いた。なにせ、数年前に別れた友人がデスゲームの中にいたからな。
俺とアイツは再び、昔のように二人で一緒にいた。ギルドには入らなかったが、コンビとしては攻略組の中でもそれなりに有名だった。
勇猛なアタッカーのアイツ、それを補佐する俺。猪突猛進じみた行動がアレだったが、アイツは強かった。
たとえ死と隣合わせの日々だったとしても、少しずつ充足している気がしていた。
だが、俺は満たされなかった。……いや、自身の『
……そして、アイツが殺された。
ちょうどアイツがあるレアドロップを手に入れた頃だ。当時ではかなり強力な武器で、買い取りの申し出は多かった。
けど、アイツは全部を拒否していたな。よっぽど嬉しかったんだろう、自力で勝ち取った武器が。
その武器にも慣れて、迷宮区から帰る途中に………………奴らが現れた。
PoH、ジョニー・ブラック、……ザザ。
特に、ザザは武器を奪い、コレクションを作っているらしい。
……俺は何もできなかった。
仲間が弄ばれ、惨めになっていく姿を眺めることしかできなかった。……血が凍った。
PoHが俺を押さえこみ、ジョニー・ブラックが俺達の動きを封じ、ザザがアイツを殺した。
すべてが終わった時には、涙も出なかった。
烈火のような怒りと、深い空虚感だけが俺の中にあった。
湧き上がる復讐心、自分の無力さに向ける憤怒、心の奥底に
だが、あの墓の前で決意した時から、復讐に身を投じていた時間に、しっかりと生きている『実感』があった。
所詮、俺は殺すことでしか自分を見いだせない、
「………………俺のプレイヤーネーム、『ロキ』ってのは、神話に登場する神だ。物語の中で、あらゆる秩序を破り、物語を引っ掻き回す。そんな存在だ。……《ソードアート・オンライン》という
……深い溜息を吐く。
右目の下の傷が、無いはずの痛みで疼く。そんな気がした。
気づけば雲の切れ目から、西日が差し込んでいる。
「……?」
「……ロキ」
フワリ、と何かが、いやヨシナが俺を包み込むように抱きしめた。
以前にされた時とはどこか違う感覚……。
「心に穴があるなら、私が埋める。充実を求めるなら、一緒に探そう。……ただ、私と出会った、それだけは必然だったのよ」
「………………」
「あなたは殺人鬼なんかじゃない。……さしずめ『聖騎士』を倒した『悪神』、『悪神ロキ』よ」
優しく、そして力強い抱擁。
最後だけ軽い雰囲気で言った彼女は、微笑みを浮かべている。
「……悪神、か。……いいな、それ。気に入った」
「ホント? 嬉しいな」
「……ヨシナ」
彼女の肩を持って、少し引き離す。
怪訝な顔をしている顔を、宝石のように黒い瞳を、見つめる。
「……俺達が出会ったあの日から、復讐を決意した時から、他にもいろいろあるが、……俺のそばに居てくれて、感謝している」
「あはは、なんでそんなに硬い感じで言うの?」
「……親の躾のおかげだよ」
「『ありがとう』とか、『サンクス』でいいの。……あ、キスでもいいよ?」
からかい混じりに彼女は言った。
……俺が彼女に対して抱いてる感情は『恋』とか『愛』とかではない。
さらに深い、『必要』という感情。
「ヨシナ、してやろうか?」
「……えっ…………」
さっきとは逆に、引き寄せる。それだけですでに体が密着しそうだ。
ヨシナの頬は赤く染まって、呼吸が浅くなった。
少しずつ、少しずつ距離が近くなっていく。
そして、俺とヨシナの影が、重なる――――――――
「オオーーイ! ロー君! ヨーちゃん!」
――――――――直前で無遠慮な大声が響いた。
一瞬ヨシナは固まり、即座に離れた。
「ろろろ、ロキッ! わわ私、お茶片付けるから、ロキはアルゴの相手して!」
「……ふっ。わかったよ」
すれ違いざまに、「続きはまた今度だ」と耳元でささやいて下へと降りる。
ドンドンと大げさに叩かれるドアを俺は……蹴った。
「ゲフッ!」
変な声が聞こえたな。そんな事を考えながら外に出て、アルゴを見下ろす。
「……で、一体どうした? メールも寄越さずに」
「あ、そうか! メール出せばよかったんじゃないカ! ってそんなことはどうでもいい!」
「ちょっと落ち着け。一旦中に入ってから説明しろ」
だがアルゴは首を横に振り、深呼吸した。
「ロキ、この新聞を見てくレ」
そう言って出してきた新聞を広げると、大きい文字が目に入った。
『三人目のユニークスキル使い現る!』
『スキル名は《二刀流》』
『保持者は《黒の剣士》キリト』
『脅威の五十連撃?! 第七十四層フロアボスを単独撃破!!』
「…………おい、アルゴ。これは、つまり………………」
「そういうことだヨ、ロー君」
いつもの雰囲気はなく、真剣な眼をしたアルゴは俺に告げた。
「……ついに、
何故か五千字を超えた……。
迫られた時のヨシナさんのアクションはよく解らなかったので、想像です。
知らないものはやっぱり書けないな〜。
心情の表現とか特におかしい所が多いかも……。
誤字、指摘、質問、アドバイス、感想等あればよろしくお願いします。