Sword Art・Online 《Strange Dramas》 【完結】 作:与祢矢 慧
すこし間が空いてしまいました。
働き者のキリギリスさん、お気に入り登録ありがとうございます
夜の闇に覆われた平原エリアを一人のプレイヤーが疾走している。所属しているギルドのリーダーを真似て装備したぼろマントが激しくたなびいている。彼以外に他のプレイヤーは見当たらず、Mobが出現しているからレベリングにはもってこいの状況だ。
しかし、疾走っている彼の目にはそれら一つも入っていない。ただ、『逃げる』という行動だけが彼の思考を埋め尽くしていた。
ヒュン、シュパッ
後方から飛んできたナイフが彼の頬に赤いラインを引く。
「ヒィッッ!!」
何度目か覚えていない情けない声が喉から飛び出る。せめてものの幸いは麻痺毒が付与されていなかったことだろうか。
オカシイ フザケルナ なんで、こんな目に……
疑い、怒り、惑い、恐怖。頭にこびり付いて消えない。
彼は
今日はいつも通りだった。ダンジョンに潜るパーティをメンバーで襲い、殺す。入手した装備品は使えるものだけを選び、残りを売却して金に変える。スリル二割快楽八割の日常を繰り返すものだと思っていた。
…………とあるコンビが来るまでは。
打ち合わせ通りの配置に着き、ターゲットがポイントに来た瞬間に麻痺要員の二人がナイフを投げる。正面からは自分が、背後からは三人が攻撃した。多くのパーティを葬ってきた、パターン化した、確実な方法だった。
だからこそ…………
…………目に写った光景に現実を感じたくなかった。
数本のナイフは全て弾かれ、奇襲した三人の首が飛んでいた。
三秒、いや一秒もない瞬時に二人はそれをやった。
本能が警報をけたたましく鳴らす。
このままでは…………………死ぬ、と。
仲間を気にする余裕なんて無い。すぐさま身を翻し、出口へと走った。
背後からのポリゴンが割れる音が二つ、いやに耳に入った。
走り続けてどれほど時間がたっただろう。スタミナが存在しないこの世界では気の済むまで無限に走り続けることが出来るが、彼の精神は摩耗しきっていた。
では、そんなボロボロな状態でまともな思考が出来るか?
出来るはずがない。
故に、彼は選択を誤った。
逃走を続けている彼の視界にあるものが映る。
ゴースト系Mobが出てくるダンジョンだ。内部は基本的に薄暗く、ランプ系アイテムが必須とまでいかないが有ればかなり便利になる。また、壁が岩となっているのでボコボコであり、障害物となるような石もある。さらに構造が複雑で出口が複数あり、追跡者を撒くにも奇襲するにも絶好のステージである。
ここで彼は『逃走』ではなく『報復』を選んだ。
何故『逃走』ではないのか?
デスゲームと化したSAOではリスポーンなど無い。
普通なら可能性が低くても、生き延びる道を選ぶはずだ。まして、背後から襲った三人を一瞬で殺すような手練に立ち向かうなど愚行でしかない。
それでも、彼は『報復』を選ぶ。
レッドプレイヤーの時点で彼は普通ではない。
命の価値観が常人とはかけ離れている。
なにより、レッドにはレッドの誇りがある。
殺す側が殺されるという、イレギュラーな事態が許せない。
ダンジョンに突入し、道を右、左、右、右……と走っていき手頃な障害物を探す。二、三分ほど探索し、出口が間近にある岩に身を隠す。
急いで《索敵》をし、マップを凝視する。
(まだ来ていない)
フッ、と息を抜きかけて可能性が頭に浮かぶ。
(もし、《索敵》を上回るほどの《
一秒たりとも気を抜けない状況で、さらに精神が削れていく。
ガタガタと極寒の中にいるように体が震える。
コツッ、コツッ
…………足音!
遠くない。こっちに向かっている。
チラッと、影から覗き見る。
ダークレッドのロングコート、槍装備、フードで顔は見えないが他の見た目から女性プレイヤーと判断できる。
……間違いない。タッグの片割れだ。
なら、もう一人は……、
ブラックの、いやダークヴァイオレットのロングコート、両手剣装備、こちらもフードで顔が見えない。
コツッ、コツッ、コツッ、コツッ…………
ゆっくりと目の前を通りすぎて行く。
彼は自分の『必殺』の距離まで待つ。
近すぎず、遠すぎず、ソードスキルがジャストタイミングで発動する距離を感覚で覚える。
麻痺ナイフを二本取り出す。
狙いは、顔。
特有のライトエフェクトが彼の周囲を照らす。
ダッ、と二つの背中に向かって駆け出すと同時に《
すぐさま抜剣し、ソードスキルを発動する。
ーーー片手剣単発技《ホリゾンタル》ーーー
「死ィイッ、ネエェェェェェエッッッ!!!!!」
眩い閃光が大きな弧を描いた…………
……………………ザシュッ
音が軽く響いた。
目障りな蝿を払うように、小石を蹴るように、蟻を踏み潰すように、格下の邪魔者を排除するように。
カランカラン、と武器が地面を転がる。
「………………ハ? ナッ…………何を、シタッ?」
彼の体には二本のナイフが刺さっていて、右腕の肘から先が無くなっていた。
理解が追いつかない
まるで、悪夢みたいな
そう、コレは夢なんだ…………
「…………なぁ」
「ッッッ?!」
目の前の男が口を開いた時、彼は全身に寒気を感じた。
視線を腕から男に移す。
目に映ったものは『仮面』
ダークブルーとホワイトで陰陽を表すようなカラーリング。
ただ見ただけで絶対零度の狂怖を植え付けられた。
「……これでレッド、か。随分とおままごとを興じていたみたいだが…………雑魚だな」
体を動かそうとしてもまるで凍りついたように動かない。
仮面の男が両手剣を肩に担ぐように構える。
異様な剣の形に目が惹かれる。
ーーーーそれはまるで…………『死神』のような……
「……それではな、名も知らぬプレイヤー」
禍々しい剣が袈裟に振り下ろされる。
…………ザシュッッッ
レッドの彼の視界には《You died》の文字が表示されていた。
「雑魚が…………六人。つまらない……」
レッドプレイヤーのパーティを殺したタッグは闇に消えて行った。
どうでしょうか?
誤字報告、批評、感想等お願いしますm(__)m
学校が始まるので更に不定期になってしまいますが、頑張って更新していこうと思います!