Sword Art・Online 《Strange Dramas》 【完結】   作:与祢矢 慧

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遅くなりまして、大変申し訳無いです
綱引きで引きずられる側のごとく、ズルズルと延びてしまいました

後半部分なんかアレです……

通算UA1000を超えました!
お気に入り登録、ありがとうございます!


6th 情:想

 

 昼間の雨が嘘のように、晴れ渡っている夜空。

 雲ひとつ見当たらないその空は無数の星で飾られている。

 

「……スゥ……ハァッ」

 

 浅く吸い込んだ空気は冷えていて、肺をヒンヤリと冷たくした。

 乱雑に音をたてながら森の中を抜けていく。いつもならこんな事をしないのだが、時刻が既に午前二時を過ぎていることもあり人目がないと判断した。

 勿論、《索敵(Search)》は怠っていないがマップには表示されるものはない。

 

 体に当たりガサガサと鳴る草葉。知らぬ間に蹴飛ばしコロンカランと響く小石。地を蹴りズシャッ、と足跡と一緒に残る音。

 どれもこれも彼の耳には入らない。

 疾く早く速くと体を急かす。

 装備を変える時間すら惜しい。

 

 ピィンッ!

 

 突如、マップに光点が現れる。色は……グリーン。

 向かっている方向は……同じ。急に現れたということは隠れていたと考えられる。

 

(……見られたのか?だとしたら厄介だな。……殺すか)

 

 内ポケットから仮面を取り出し、顔に付けようとして気づく。

 自分の口角がニヤリと歪んでいる。

 

「何を楽しみにしてんだか……」

 

 ロキは自嘲するように呟く。

 表情を戻すために少し強めに顔に仮面を押し付け装着する。

 

 グッと足に力を込める。姿勢を出来るだけ低く、上体が地面と平行になるぐらいまで落とす。

 ベルトの投擲用ピックを二本引き抜き、左手の指の間に挟む。

 

「……フッ!」

 

 鋭く息を吐き、強く地を蹴る。

 同時に《消音(スニーキング)》スキルを発動させ、足音を消す。一連の動作は一瞬で終わり、異常に手慣れているように見えた。

 

 五秒ほど疾走していると、プレイヤーらしき影を見つける。

 体格は……小柄。装備はマントのようなモノで判らない。

 

(……なかなか、速いな)

 

 全速ではないといえ、ロキのAGI(敏捷値)は攻略組平均を凌駕する。それに追い付かせない前方にいるプレイヤーも並みのステータスではないだろう。

 ならば、とロキはとある(・ ・ ・)スキルを使用する。

 ズシャッと一歩地面を蹴った直後、ロキの姿がブレ(・ ・)た。

 直後、彼の姿が瞬間移動したかのように前方にいたプレイヤーの左横に現れた。

 

「……なッッ!!」

 

 唐突すぎるロキの出現にプレイヤーは驚愕した。

 その隙に左手に持っていたピックを連続で投げつける。《投擲》スキルの発動により威力と速度、眩しいライトエフェクトが加わる。

 

「くっ! ッハァ!」

 

 一本は避けられ、もう一本はガキィンと右手の武器で弾かれる。けれどもロキは牽制用と考えていたのか動揺していない。右手を背中に、愛剣の柄へと伸ばす。

 

「……ハッ!」

「うぉット!」

 

 抜剣から流れるような動きで上段から振り下ろす。それをプレイヤーはギリギリで地面に転がることで回避した。

 追撃は、無い。ロキは体制を戻すまでの挙動を観察している。いや、正確には右手に装着されている武器(・ ・)を見ている。

 ほとんどのSAOプレイヤーは主武器(メインアーム)をプレイヤーの持つ最大の特徴と認識している。ロキは両手剣使い。キリトは片手剣使い。エギルは両手斧使い。……そして、目の前のプレイヤーは鉤爪(クロー)

 ロキの記憶に鉤爪を装備しているプレイヤーとして該当する者は、一人。

 

「……お前は、情報屋のアルゴだな?」

「…………人気者はつらいネ。何の用だイ、青白仮面のピエロ君?」

 

 やはりな、とロキは得心すると同時に『道化(ピエロ)』という言葉に苦笑する。

 

(アイツが殺され、他人からすれば狂った道を歩んで、いや歩まされている俺は確かに『道化(ピエロ)』だな)

 

 フッと軽く笑うが仮面で表情は判らない。緊張感が多少緩んだのをアルゴは感じたがなにも言わなかった。見た目からして怪しい相手であり、情報(・ ・)と近似する点が幾つか思い当たったからだ。

 気を引き締め直したロキはアルゴがどれほどの情報を持っているか知るために、武器を突きつける。

 

「……最初に言っておく。…………逃げることはできない」

 

 

 僅かに見える両眼には狂気が渦巻き、太極を表すような青と白の仮面がグニャリと嗤ったように歪んだ。

 

 

 

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 カツンっ……カツン。石畳を蹴るたびに音が響く。喧騒の失せた通りの隙間まで音は染み渡り、よりいっそう不気味な静けさを引き立たす。

 だが、ロキは原始的な恐怖など気に留めず街の中を走り抜けていく。恐怖より、今にも爆発しそうな衝動を抑えこまなければならない。

 角を曲がると借りている宿が見えた。町の中央より少し離れた穴場だ。

 少し減速して扉を通って階段を登り二階へと駆け上がり、バンッと音をたててドアを叩くように開く。部屋に入り乱暴にドアを閉める。

 

 トタトタと小さい足音と共に奥からヨシナが顔を出す。どうしたの、とでも言いたそうな表情をするがロキの異様な雰囲気を感じ、開きかけていた口を固く閉じる。

 音に反応したのか銀色のオオカミ、ビショップが顔を上げるがまたすぐに眠った。

 

 トンとドアにもたれる。そのままズリズリとドアに背を預けたままずり落ち、片膝を立て座り込む。

 

 

ーーーーーもうダメだ、限界だ、我慢できない。

 

 

「……クハッ、フフッ、ククッ」

 

 

 彼は胸の奥から込み上げてくるモノを一気に吐き出した。

 

 

「…………ハッ、ハハハハハッ、フハハハハハッ、クハハハハハッッ!!」

 

 ロキは(ワラ)う。

 『勝負』に勝った。今までのPK狩りは『勝負』なんかじゃなかった。

 純粋な『勝ち』を手にした。

 単純に楽しい。単純に嬉しい。

 彼の顔は喜色を浮かべている。

 

 

「カハッ! クハハハハハハハッ、アハハハハハハッッ!!」

 

 (ワラ)いは止まらない。

 攻略組最強の一人、キリトに勝った。

 あの時の諦めた、負けを認めた顔は滑稽だった。

 レベルもアビリティも及ばない格上を圧倒した。

 本当に愉快だ。

 とても痛快だ。

 愉悦が彼を満たしていく。

 

 

「ハハハッ、クハッ……ハハ………………」

 

 彼の嘲笑(ワ ラ)いは少しずつ消えていく。

 キリトに勝った。……それがどうした?

 攻略組最強を圧倒した。……だからなんだ?

 

ーーーー愚かだな。お前は何がしたい?

 

 脳裏に浮かぶ声。

 この嘲笑(ワ ラ)いは自嘲だ。己に課した決意を忘れ、ただ無意味な時間を使った。あまつさえ仮面越しだとしても喋ってしまった。

 所詮、こんな存在だったのか。どうせ、俺なんか……。

 黒々としたナニかが思考を乱す。

 ギュッと右手がズボンを握りしめる。

 

「……クソ、ッタレ………………」

 

 誰に向けたのかすら判らない言葉が漏れる。

 ワカラナイ、シリタクナイ、コワイ、サビシイ、ミニクイ、オゾマシイ、クルシイ………………。

 ドロリと体が闇に沈んでいく。そんな錯覚を感じても、抵抗しない。

 

「……オレ、は………………」

 

 

 頭の中が朦朧とする。

 クシャっと左手で前髪をかきあげる。

 

 その時、何かがロキの顔に触れた。

 顔を上げると、ヨシナが目の前でしゃがみ右手にハンカチを持っていた。

 ハッとして目元を腕で拭うと、袖が濡れた。

 

「…………なんで、涙が……」

「少し前ぐらいから、かな。……気付かなかったの?」

 

 ヨシナは優しく声をかけ、丁寧に涙を拭いてく。

 その腕を右手で掴み動きをやめさせる。

 

「……ロキ?」

「やめてくれ。…………俺は、どうせ俺なんか……」

 

 口を開き言葉を続けようとした瞬間………………

 

 

 フワリ、と柔らかいものがロキを包む。強く、そして穏やかに抱きしめられた。

 突然の行動にロキは硬まる。

 ヨシナは耳元で話し始める。

 

「『どうせ俺なんか』なんて私の前で言わないで……」

 

 抱きしめる力が少しだけ強くなる。

 ロキはそれに何も言わず、行き場を失っていた右手で自分のものじゃない服の裾を握った。

 ポタリ、ポタリと涙は頬を伝い落ちる。

 

「以前、あなたは私のことを覚えていない。……そう言った。けど、私はあの時のことを今でも鮮明に、まるで一秒前の出来事みたいに覚えてる」

 

 覚えていない。

 ヨシナと出会った層は覚えていない。ただ、偶然目が合った瞬間に

 

 『あなたはあの時の……私のこと、覚えていますか?』

 

 と聞かれたことは覚えている。ちょうど今みたいな誰もいない、たった二人だけの夜だった。……いつの間にか止んでいた雨が降っている。

 左手も服を握る。さっきより少し力が入った。

 ピチャリと涙が小さい滴となって落ちる。

 

「二度と会えないと思ってた。……SAOがデスゲームになってから、その不安は大きくなって……壊れそうだった」

 

 声が少し小さくなった。

 ロキの背中に回している腕が小刻みに震える。

 

 儚くて……壊れそうで。

 気づけば両腕はヨシナを護るように(いだ)いていた。

 

「本当に限界が来るかも。そう思ってた時に……あなたに会えた。……嬉しい、なんて言葉じゃ言い表せなかったんだよ」

 

 お互いがお互いの存在を確かめ合うように、優しく抱きしめる。

 自分を信じてくれる存在を。

 自分が愛しく想う存在を。

 

「あなたが傷つくのを見ると、私も辛くなる。……自分を嫌いにならないで、なんて私は言わない」

 

 少し体を離し、顔と顔が正面で向き合うように位置を変える。

 けれど、と言って真剣に眼を見る。

 

「あなたは私を護ってくれた。あなたと出会って救われた。その事実は変わらないよ。…………私にとって唯一大切な存在、それがロキなんだから」

 

 心の底から、ヨシナの根幹から発される言葉。

 一瞬、視線が交差する。それだけでロキはヨシナの気持ちを理解する。

 

「…………少し、寝かせてくれ」

 

 気遣わない単なる我が儘。それだけでもヨシナは嬉しく感じた。

 

「うん!」

 

 

 よほど疲れていたのか、ロキはベッドに倒れると泥のように眠ってしまった。

 その隣、寄り添うように寝転んでいるヨシナは眠りに落ちるまで、彼の寝顔を愛おしく眺めていた。

 

 

 

 

「……ウフフ。そうだよ、ロキ。あなたは私だけを見ていてくれればいいの。……私だけを」

 

ーーーーそれが、『幸せ』だから。

 

 右手で柔らかにロキの頬を撫でる。

 意識が眠りに落ちる直前の、ヨシナの呟きだった。 

 

 

 

 

 雨は再び止んだ。

 月と星が夜空を彩る中で二筋の光が寄り添って煌めいた。

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?
結構メチャメチャですね

感情って難しい

いままで読んできた作品や小説などを思い出しながら、で書きました

誤字、感想、アドバイス待ってます
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