「ティール隊長の、エースモンスター……」
「あぁ、そうだ」
フィールドに立ったその
フィールドを囲う観戦席から七光り組が声をひそめて囁き合う声が耳に戻ってきた。それを見計らったかのようにティール隊長が続ける。
「さて、忘れてはいないだろうな。今はまだバトルフェイズ中だ」
「……っ」
「私の発動した〈
「……ええ、そうでしたね」
噂でしか知らなかったシンクロモンスターに圧倒されている場合ではない。今、ミナミはティール隊長とのデュエルに望んでいて、この一戦にはミナミの懲戒処分がかかっているのだから。
デュエルディスクを構えつつ、そっとフィールドに目配せする。
(私のモンスターは〈アサルト・ガンドッグ〉が1体だけ)
機関銃と弾倉を背負いながらもその攻撃力は1200と低いが──。
(ティール隊長の〈ゴヨウ・キング〉は攻撃力2800。痛手ではあるけど、耐えられないダメージではない)
ミナミ LP 3500
今は兎に角この猛攻に耐えきって、次のターンにつなげなくては。ティール隊長に目を向けると、あちらもミナミの意図を汲んでくれたらしい。
「覚悟はできているようだな。ではいくぞ。バトルを続行する! 〈ゴヨウ・キング〉よ、攻撃だ!」
ティール隊長の声に〈ゴヨウ・キング〉が手にした大薙刀を天を突くように振り上げた。またしても雷鳴が轟き、白光する稲妻が落雷となって大薙刀へ降り注ぐ。見開かれた眼に力が
「攻撃力2800なら耐えられると思っているのなら甘いぞ。〈ゴヨウ・キング〉は攻撃する時、私のフィールドに存在する地属性・戦士族シンクロモンスター1体につき、攻撃力を400ポイントアップさせる!」
「また味方の数だけパワーアップを……!?」
「そうだ! 私のフィールドには〈ゴヨウ・キング〉を含め4体の対象モンスターがいる! よって攻撃力は──」
『オオオォォォ……!』
ゴヨウ・キング ATK 2800 → ATK 4400
「攻撃力4400!?」
「青ざめたな。だが、今さら後悔しても遅いぞ! 行けっ〈ゴヨウ・キング〉! やつのモンスターを粉砕せよ!」
天雷をまとわせた大薙刀を振り回した〈ゴヨウ・キング〉が、その白刃を大上段から振り下ろす。
「食らうがいい、轟雷一閃!」
『オオオァァァァアアアッ!!』
稲光を走らせた大薙刀が大地を叩き割る。その荒業にフィールドが断裂し、業火と雷電を吹きながら衝撃波が襲い来る。ミナミを守るべくモンスターが盾になるが、攻撃力の差は圧倒的だった。
一瞬でその身が消し炭になる。そして間髪入れず超過分のダメージが強烈無比な衝撃となってプレイヤーであるミナミを直撃する。
「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
全身で踏ん張っていたのに、それすら無視してミナミは吹き飛ばされた。体が宙を舞い、デュエルフィールド外の床に叩きつけられる。だが戦闘ダメージの衝撃を相殺するにはまだ足りず、そのまま何度も床を転がり、観戦席下の壁にぶつかってようやく止まった。
「うっ……、あぁ、あっ……」
ミナミ LP 3500 → LP 300
いったいどこを強打したのかわからないくらい全身が痛い。身動きしただけで体が悲鳴をあげた。
「満身創痍だな。しかし、まだ終わらないぞ。〈ゴヨウ・キング〉は戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターを私のフィールドに特殊召喚できる。これで終わりだな」
「う、うぅ……ま、まだ、です……」
遠くからティール隊長の声が聞こえてくる。フィールドの状況は目を開けずともわかった。ここで何もしなければ奪われたモンスターのダイレクトアタックでミナミのライフは尽きる。
「……くっ……〈アサルト・ガンドッグ〉のモンスター効果、発動……っ」
ミナミは脚に力を入れる。立としただけで身体中が痛むが、歯を食いしばって耐える。まだデュエルは終わっていない。
「このモンスターは……うっ……戦闘で破壊された時、デッキから同名カードを……特殊召喚できます……くっ……」
何とか片膝を立てたミナミの前に2体の〈アサルト・ガンドッグ〉がプレイヤーを守るように身を低くして背中の機関銃を構える。
アサルト・ガンドッグ(守備表示)×2
星4/地属性/獣族/ATK 1200/DEF 800
(これで、このターンはなんとか……)
「なるほど。守備表示か」
「……っ」
ティール隊長の声に、戦闘ダメージと緊張による消耗でぼやけていた思考が一気にクリアになる。
しまった、と直感が叫ぶが時すでに遅し。〈アサルト・ガンドッグ〉の守備力は800。しかし、ティール隊長のフィールドには攻撃表示の〈ゴヨウ・ディフェンダー〉とミナミから召し取った〈アサルト・ガンドッグ〉がいる。
「やれ」
岡っ引きロボが十手を振り下ろし、機関銃を背負った猟犬がミナミを守るモンスターを蜂の巣にする。瞬く間に壁モンスター2体が破壊され、黒煙をまとった衝撃が襲い来る。
「ぐっ……うわぁあっ……!」
守備表示なのでダメージこそないものの、ようやく立ち上がったミナミはまたしても吹き飛ばされてしまった。
再びデュエルフィールドの外に転がったミナミの目に、照明の光が黒煙に陰るのが見えた。
◆ ◆ ◆
(──どうやら、ここまでのようだな)
ティールは黒煙が晴れるのを待って、フィールドに向けていた目を細めた。
見据えた先では白いライディングスーツをボロボロにした新人が力なく倒れている。これが訓練ならへこたれるなと檄を入れていたかもしれないが、生憎と今は処遇を懸けた真剣勝負の最中。
(とはいえ、残りライフがわずか300では立つこともままならなるまい)
上層部からの苦言が耳の奥に甦ってくる。
せっかくの新人なのだからイジメすぎるないように、とどこか釘を刺すような物言いだった。
しかし、親の七光りを浴びた連中を腫れ物扱いするような面々の苦言だ。ティールは小さく頭を振った。目が相手の動きを察知したからだ。
「……くっ…………、はぁ……はぁ……」
膝立ちになった新人が息も絶え絶えになりながら立ち上がる。
もう痛めていないところを探す方が難しいほどに全身がずたぼろで、フィールドを挟んでも立っているだけで精いっぱいというのが見てわかった。仮にもいいとこの出のお嬢様が見せていい格好ではない。
(見せしめは、もう足りているようだな)
耳を澄ませば観戦席から囁き合って話す声が聞こえてきた。手でを覆い作り、いったいミナミとティールのどちらについて囁き合っているのかは不明だが、碌な内容でないことは確かだった。
「今ならサレンダーを認めてもいいぞ」
ティールはフィールドの向かいに立った新人に呼び掛ける。
「貴様もそんな姿を衆目にさらし続けたくはないだろう。サレンダーするなら、あとのことは穏便に済ませる。それとも説明されないと戦況を理解できないほど消耗してしまったか」
七光り組は入局してもどこかお嬢様然としているところがあった。それこそ無様な格好をさらすなど耐えられないといわんばかりのプライドを持ち合わせている。
だから衆人環視の中、完膚なきまでに叩き潰してやれば、折れると踏んでいたが──。
(少し見込みが甘かったか。しかし、この状況はどうしようもあるまい)
ティールはフィールドを見渡した。こちらには〈ゴヨウ・チェイサー〉〈ゴヨウ・プレデター〉〈ゴヨウ・ディフェンダー〉、そしてエースである〈ゴヨウ・キング〉が健在であり、召し取った〈アサルト・ガンドッグ〉を含めれば合計5体のモンスターがいる。
一方でミナミのフィールドはがら空きだった。モンスターは全滅しており手札もない。リバースカードが1枚あるだけだが、ここまで発動する気配を見せていない。
ブラフではなさそうだが、こうも戦況が傾いてしまっていてはカード1枚で巻き返すのは至難の技だ。
「……サレンダー、ですか」
「そうだ」
意識が朦朧として声が届いていない可能性も考慮してきたが、どうやら無用な心配だったらしい。
「……それは、私が七光り組だから……ですか」
「なに?」
「ティール隊長には……うっ……まだお伝えしていなかったかもしれませんが……」
ゆっくりとミナミが顔を上げた。力を入れた膝が震えて、息をしながら胸を押さえている。それなのにティールに向けられた眼差しには明らかな闘志があった。反骨心か、あるいは諦めの悪い心とでもいうべきか。
「……手加減は結構です。上層部から何か言い含められているのでしたら、改めて言わせていただきます……」
「本気でかかってきてください。元より諦める気はありませんので」
「……ほう」
自然と口から声が漏れた。七光り組といえば実力のわりにプライドだけ高く、軟弱なお嬢様ばかりと思っていたが、どうやらこの新人は違うようだ。
家柄や経歴で相手を見るのは嫌いな
ティールは満身創痍のままフィールドに立つ新人を──ミナミを見た。
あそこまで攻め立てられてもなお立ち向かってくるとは、なかなか骨のある新人だ。正直、このデュエルで懲戒免職にするのは惜しいなんて思っている自分がいるが、ティールは即座にその心を捨てた。
(そんな迷いをもっていては、足下を掬われかねないからな)
現にこちらを睨んでくるミナミの目からは──こんな状況にも関わらず──隙あらばティールのライフを削りきって逆転しようという気概がひしひしと伝わってきた。気づくと口角がわずかに上がっていた。
「いいだろう」
「……」
無言のミナミに反し、観戦席がまたざわめき始める。もう勝負はついているのに、実力差を見せつけるだけでは飽きたらないのか、と口々に囁き合う声が聞こえてくる。
「では諦めの悪い貴様を、隊長として本気で叩き潰してやろう」
言ってからティールは手札に目を落とす。
〈ゴヨウ・キング〉は例の希少カード輸送車強奪事件以来、エースとして活躍してきた相棒だった。しかし、今のティールにはそれとは別に治安維持局が新規開発したカードがある。
──
数日前にそのカードを手渡してきた長官の顔が思い出される。あの時は凶悪犯を相手に召喚するとばかり予想していたが──。
(まさか新人相手に見せることになろうとはな)
そして言わせてもらえば、実力のある新人かもしれないが運はないらしい。
なぜなら今のティールにはそのモンスターを召喚するための手札があったのだから。ティールは容赦なくそのカードを手に取る。
「私は手札から〈ミラクルシンクロフュージョン〉を発動する──!」
◆ ◆ ◆
「……ミラクルシンクロ……フュージョン……」
ミラクルシンクロフュージョン 通常魔法
ティール隊長のフィールドで発動されたカードに、ミナミは目を奪われていた。初めて目にするカードであり、同時に何か強力なモンスターを召喚するカードであるとデュエリストとしての直感が叫んでいる。
「このカードはフィールドまたは墓地から融合素材を除外し、シンクロモンスターを素材とする融合モンスターを特殊召喚する」
「シンクロモンスターを素材にした融合モンスター、ですか……」
果たして、そんなモンスターが存在するのか。ミナミには想像すらできなかったが──。
「そうだ。私はフィールドと墓地に存在するシンクロモンスター〈ゴヨウ・ディフェンダー〉2体を融合する!」
フィールドと墓地から甦ってきた岡っ引きロボがそれぞれ暗雲のような渦に巻き込まれていく。すると、黒々とした雲の中で雷鳴が轟いた。
「貴様には
その瞬間、ひれ伏すように暗雲が晴れた。そして、神々しいまでの日射しを浴びて天上から降りてくるものがある。それは緋色をした豪奢な玉座。
「融合召喚! 君臨せよ! 〈ゴヨウ・エンペラー〉!」
ゴヨウ・エンペラー(攻撃表示)
融合/星10/地属性/戦士族/攻3300/守2500
戦士族・地属性のシンクロモンスター×2
瞬時に第3デュエルフィールドを緊張が支配した。それこそ突然、皇帝陛下に拝謁させられたかのような。観戦席も含め、誰も彼もが口をつぐんでいた。
「ゴヨウ……、エンペラー……」
ミナミは辛うじてその名前を口にできた。
そのモンスターはまさにフィールドに君臨していた。黒い烏帽子を頂き、身にまとう衣は皇帝のみに許された
緋色の玉座に片肘を着いた尊大さに反し、白塗りの
「教えておいてやろう。〈ゴヨウ・エンペラー〉は自身が戦闘破壊した貴様のモンスターを私のフィールドに特殊召喚でき、さらに貴様から召し捕ったモンスターが相手を破壊した時にも同じ効果を発動できる」
相手から奪取したモンスターにさえ、ゴヨウモンスターと同等の力を与える。それはまさに皇帝が勅命によって臣下に特権を与える様だ。しかし、とミナミはわずかにいぶかしむ。
(どうして、そのモンスターをメインフェイズ2で)
既にティール隊長のバトルフェイズは終了している。攻撃力3300で、味方へ特権を付与する〈ゴヨウ・エンペラー〉は脅威だが、攻撃できないのであればただの置物でしかない。
(強力無比なモンスターを見せつけて、プレッシャーを与えるため……いや、ティール隊長がそんな小細工のために手の内を明かすはずがない)
顔を会わせたことは数度しかないし、直接言葉を交わしたものつい最近だ。それでもここまでのデュエルで、ティール隊長の人となりはつかめていた。
であれば、考えられる可能性はただひとつ。
(あのモンスターには、まだ何か隠された効果が……?)
自問しつつ、ミナミはそうに違いないとデュエリストとしての直感が叫ぶのを感じていた。
ここまでティール隊長のカードプレイは常に相手の防御を砕き、自分の攻撃を通すためのものだった。ならば、あの幼顔の皇帝が大人しく玉座に収まったままであるはずがない。
「さらに私は永続魔法〈
死金城 永続魔法
その発動宣言に、ティール隊長の背後で黄金の砂を吹き上げて朱塗りの宮殿が出現した。天を
「このカードは自分のターンのエンドフェイズにモンスター1体をリリースしなければ墓地へ送られる。そして〈死金城〉がある限り、そのターンを行っているプレイヤーが発動した魔法・罠・モンスター効果によって、フィールドのモンスターを破壊することはできない」
「効果破壊への耐性、ですか……」
「そうだ。貴様がデッキ調整でどんなカードを入れてきたかは知らんが、もし〈ブラック・ホール〉を入れていたのなら、次のドローで引かないことを祈るのだな」
「……」
まさに進退窮まるだ。一斉除去による形勢逆転を封じられた今、ミナミに残された道は戦闘破壊による強行突破のみ。しかし、ティール隊長のフィールドには攻撃力3300の〈ゴヨウ・エンペラー〉がいる。
果たして、手札のないこの状況からあの攻撃力を突破するなんてできるのか。迂闊にモンスターを召喚すれば、また召し捕られるリスクもあるのに。
「エンドフェイズだ。〈死金城〉の維持コストとして貴様から召し捕った〈アサルト・ガンドッグ〉をリリースする。ご苦労だったな」
その声に、機関銃を装備した猟犬がみるみる黄金に染まっていく。あっという間に猟犬の体が黄金像に変わって脆く崩れ、砂金となって黄金の大地に広がっていく。
「私はこれでターンエンドだ。さぁ、貴様のラストターンだぞ」
ティール LP 4000 手札 0枚
慢心の欠片もない声でティール隊長が宣言する。ゴヨウモンスター4体を従え、ミナミのフィールドはがら空きで、しかも効果破壊さえも封じられている。次にティール隊長のターンが来れば、総攻撃でミナミのライフが尽きるのは確実だった。
(絶体絶命……だとしても、ここで諦めるわけにはいかない……)
このターンがミナミに残されたラストチャンスだ。こんなことなら、もっとデッキ調整に時間をかければよかった。そんな後悔が頭をよぎってミナミは首を振る。
圧倒的な実力差。崖っぷちにまで追い込まれるデュエル。そんなことは闘う前から覚悟していた。
(……そのはず、だったけど)
観戦席ではガールズ・セキュリティの面々が手で覆いを作って内緒話をしている。
苛烈なティール隊長を非難しているのか、それともボロボロになったミナミを嘲笑っているのか。衆人環視のデュエルは観客すら敵になるなんて聞いたが、あれは本当だったらしい。
「どうした。啖呵を切ったわりには膝が震えているぞ」
またティール隊長に見られている。それだけで全身に緊張が走った。いつもなら粗相を隠すよう背筋を伸ばしていただろうが。
「……すいません。よそ見していました」
ミナミは両脚に力を入れ、デュエルディスクを構え直す。身動きしただけで全身のいたるところに痛みが走ったが、これくらい歯を食いしばってでも耐えなくては。
(今のティール隊長はこのデュエルを、本気で勝ちにきている)
それは七光り組への見せしめや懲戒免職の処分を下すためではなく、ただ純粋にミナミが手加減されるのを断ったから。そう感じた。
(だったら、全力で応じるのみ……!)
ミナミはデッキトップに指を置く。デッキ調整でカードを入れ換えて、さほど回したわけではないが、そんな不安は些細なものだった。
どんなカードであろうとも持てるすべてを懸けて勝利をつかみ取りに行く。
「行きます……! 私のターン……!!」
To be next true ……
この世界の〈ゴヨウ・キング〉と〈ゴヨウ・エンペラー〉はウルトラレア仕様でいずれも金文字です。OCGみたくカードショップでストレージ巡回はしていませんので、ご了承ください。