遊戯王5D's ガールズ・セキュリティ   作:なら小鹿

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Sp 2-8 そのドローは死に札か切り札か(デッド・オア・アライブ)

 

「行きます……! 私のターン……!!」

 

 TURN 4

  ミナミ LP 300 手札 0枚 → 1枚

 

 気合いを入れてカードをドローする。わずかな望みを手離さないよう、ミナミはそのカードを見確かめた。

 

(くっ……このカードは……!)

 

 思わず唇を噛んだ。ドローしたのは魔法カード。直前のデッキ調整で投入した1枚であり、あの時は起死回生の一手になってくれるかもしれない、と淡い期待を抱いていたが──。

 

「どうやら、最後のドローは(かんば)しくなかったようだな」

 

「……」

 

 無言のまま、ミナミはドローカードを手札にする。

 

 強力なカードにはそれ相応のコストや発動条件がある。いまドローした1枚もその例に漏れない。発動条件を満たしていないカード。つまり、ミナミの引いたカードは完全な死に札だった。

 

(これで手札はゼロのままも同然。だけど……)

 

 まだフィールドにはカードが残されている。ドローがダメだった程度で諦めてなるものか。

 

「リバースカード・オープン! 〈リビングデッドの呼び声〉!」

 

 リビングデッドの呼び声 永続罠

 

「その効果により、墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚します! 甦れ〈ゴヨウ・セイバー〉!」

 

『はぁっ!』

 

 ゴヨウ・セイバー(攻撃表示)

 シンクロ/星6/地属性/戦士族/ATK 2300/DEF 1000

 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

 

 藍染めの衣を翻し、岡っ引きの女戦士が墓地から舞い戻ってくる。一度は捕らわれた身だが、今はしっかりとミナミに背を預けて長十手を構えている。

 

「ほう。最後の最後まで足掻こうというわけか」

 

「…………すいません。諦めの悪い性格ですので」

 

「いい心がけだ。しかし、無駄だったな」

 

 ──ぎらり!

 

 その瞬間〈ゴヨウ・エンペラー〉の眼が妖しげに光った。白塗り幼顔といえば可愛らしく聞こえるが、今は権謀術数を操る為政者(いせいしゃ)の顔だった。

 

「……えっ」

 

 思わずそんな声が漏れる。

 

 今しがた復活したばかりの〈ゴヨウ・セイバー〉が、なぜか(こうべ)を垂れ、(ひざまず)いていた。その相手は他でもない〈ゴヨウ・エンペラー〉だ。幼顔の皇帝が許しを与えるように手を振ると、岡っ引きの女戦士がゆっくりと起き上がった。

 

 ティール隊長に背を預け、手にした長十手をミナミに向けて。

 

「こ、これは……いったい……」

 

「さすがに驚いているようだな」

 

 その声にミナミはすぐさまティール隊長を見る。

 

「〈ゴヨウ・エンペラー〉にはもうひとつ効果がある。貴様がモンスターを特殊召喚した時、私のフィールドに存在する地属性・戦士族のシンクロモンスター1体をリリースすることで、そのモンスターのコントロールを永続的に得る」

 

 瞳に妖しげな光を宿した〈ゴヨウ・セイバー〉がこちらを見つめてくる。睨み付けてくるほどの力はないのに敵意だけは伝わってくる、とても嫌な眼だ。

 

 咄嗟に目を反らすと、ティール隊長のフィールドにいたはずの〈ゴヨウ・チェイサー〉がいなくなっていた。

 

「……なるほど。皇帝特権、ということですか」

 

「好きに呼べ。言っておくが、私のフィールドにリリースできるモンスターがいる限り、この効果は何度でも発動できる。貴様がいかに足掻こうと、私にはそれをひねり潰すだけ手数があるということだ。理解したか」

 

「ええ……、理解しました」

 

 わずかにうつむいていたミナミは顔をあげた。本来ならこの圧倒的不利なこの状況に絶望しているべきなのだろう。あるいは泣き崩れて同情を誘っているべきなのかもしれない。

 

「なんだ、その顔は」

 

「……はい?」

 

「敗北が目前だというのに、なぜそんな顔をしていられる」

 

 フィールドを挟んでティール隊長が眉根を寄せている。

 果たして、今の自分はどんな顔をしているのか。瞳に闘志を(みなぎ)らせているだけならいいが、好戦的な笑みまで浮かべていたら明日から噂になってしまう。けれども、ここは突き進むのみ。

 

「読みが当たったからです」

 

「読みだと?」

 

「ティール隊長なら、徹底的に逆転の芽を摘んでくる。そう確信していました。だから、このカードを選んだんです」

 

 言いながらミナミは最後に残った手札を切る。これこそ逆転への一手。

 

「魔法発動〈セメタリーキャプチャー〉!」

 

 セメタリーキャプチャー 通常魔法

 

「な、なんだ、そのカードは……!? そもそも、その手札は死に札ではなかったのか!」

 

「さっきまではそうでした。しかし今は違います。このカードは相手フィールドに、元々の持ち主が自分となるモンスターが存在する時に発動できます!」

 

「貴様のモンスターだと……はっ!?」

 

 すぐさまティール隊長はフィールドに目を向けた。勢揃いしたゴヨウモンスターたちの中には今しがた皇帝特権によって奪われたミナミの〈ゴヨウ・セイバー〉がいる。

 

「これで発動条件はクリアされました! 〈セメタリーキャプチャー〉発射!」

 

 ──バシュッ!

 

 突き出した右腕にアームギアが装着される。腕に力を込めると、射出音を響かせて、ワイヤーアンカーが飛び出し、ティール隊長のデュエルディスクへ潜り込んでいく。そのアンカーがティール隊長の墓地からカードをつかみ取る。

 

「なっ……貴様、私のカードを……!?」

 

「〈セメタリーキャプチャー〉は相手の墓地にあるカード1枚を、このターンに限り自分の手札とひて使用できます!」

 

「な、なんだと……!」

 

 瞬時にワイヤーが巻き取られ、ミナミの手に新たなカードが加わる。ウルトラレアであることを示す金文字の魔法カード。

 

「このカードは自分のメインフェイズ中に、相手がモンスター効果を発動している場合に発動できます!」

 

「その発動条件は、まさか!」

 

 そのまさかだ。このターン、相手プレイヤーであるティール隊長は〈ゴヨウ・エンペラー〉のモンスター効果を発動させている。それがミナミの逆転を可能にした。

 

「魔法発動〈三戦の才〉!」

 

 三戦の才 通常魔法

 

 発動と同時にミナミの手に天地人の文字が刻まれた軍配が現れる。〈三戦の才〉は3つの効果を内包したカード。その中からミナミが選ぶべき効果は──。

 

「ターン終了時まで、相手モンスター1体のコントロールを得るを選択! その効果により私は〈ゴヨウ・エンペラー〉のコントロールを得ます!」

 

 勢いよく軍配を振り下ろす。それを合図に緋色の玉座ごと幼顔の皇帝が厳かにミナミのフィールドへ移る。

 

 敏腕セキュリティと名高いティール隊長から圧倒的な攻撃力を誇る〈ゴヨウ・エンペラー〉を奪ったことで、観戦席は騒がしくなっていた。

 

 モンスターの数を見れば、まだティール隊長が有利に見えるし、ターン終了時には〈ゴヨウ・エンペラー〉も元々の持ち主のフィールドへ戻ってしまう。しかし、ティール隊長の眼はもっと先を見ているようだった。そして、ミナミも見ているビジョンは同じ。

 

「バトルです! 〈ゴヨウ・エンペラー〉で〈ゴヨウ・キング〉を攻撃!」

 

 玉座に片肘を着いたまま〈ゴヨウ・エンペラー〉が息を吹く。その吐息が瞬く間に火炎に変わり、一国すら焼き尽す勢いの炎が砂金のフィールドを駆け巡り〈ゴヨウ・キング〉の威容を飲み込む。

 

『オオォォォァァァアア……!』

 

 人の姿をとった炎が断末魔の叫びをあげる。その姿()ぜ、攻撃力差のダメージが火の粉をまとった衝撃となってティール隊長に襲いかかる。

 

「くっ、ぐっ……!」

 

 ティール LP 4000 → LP 3500

 

 ようやくライフを削れた。けれども、これで終わりではない。

 

「〈ゴヨウ・エンペラー〉のモンスター効果発動! 戦闘で破壊した相手モンスターを私のフィールドに特殊召喚します!」

 

 ミナミの声に〈ゴヨウ・エンペラー〉が手を振る。すると、墓地につながった穴が開き、そこから片膝を着いて(こうべ)を垂れた〈ゴヨウ・キング〉が甦ってくる。その光景に、ティール隊長の目に怒りが宿る。

 

 ゴヨウ・キング(攻撃表示)

 シンクロ/星8/地属性/戦士族/ATK 2800/DEF 2000

 チューナー+チューナー以外のシンクロモンスター1体以上

 

「きっ、貴様、よくも私のエースモンスターを……!」

 

「それはお互い様ではありませんか」

 

「くっ、ぐっ……!」

 

 歯噛みするティール隊長の口から言葉にならない声が漏れる。だが、これこそがミナミの見出だした突破口であり、唯一無二の逆転できる可能性だった。

 

 敏腕セキュリティのティール隊長のことだ。ミナミが〈三戦の才〉を発動した瞬間からここまでの展開を、あるいはこの先の展開まで、すべてを察したのかもしれない。

 

「き、貴様…………、こんな、こんな……、ぐっ……!」

 

 相手が何を狙い、これから何をしようとしているのか。そのすべてを理解してしまったのに、防ぐ手立てが残されていない。

 

 それゆえの歯痒さ、それゆえの悔しさ。しかし、デュエリストである以上、認めざるを得ない現実。

 

「バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターには攻撃権があります! 〈ゴヨウ・キング〉で〈ゴヨウ・プレデター〉を攻撃!」

 

『フッ、オオオォォォ!』

 

『ガァァァアア!』

 

 すべてを割断するかのごとく振り下ろされる大薙刀の白刃。それを獣人の岡っ引きが十手で受け止める。

 

 ──ガキンッ!

 

 鋭い金属音と共に衝撃が辺りに広がる。刃と十手が火花を散らすが、鍔迫り合いでの拮抗はほんの一瞬。

 

『〈ゴヨウ・キング〉のモンスター効果! このカードが攻撃する時、私のフィールドの地属性・戦士族のシンクロモンスターの数×400ポイント、攻撃力をアップさせます!』

 

 天に轟く雷鳴が白刃に落ちる。その白々した光が大薙刀にさらなる力を与える。

 

 ゴヨウ・キング ATK 2800 → ATK 3200

 

「行けっ、轟雷一閃!」

 

『オオオァァァァアアアッ!!』

 

〈ゴヨウ・キング〉が雄叫びをあげ、得物を握る手に渾身の力を込める。大薙刀を防いでいた十手がへし折れ、白刃が〈ゴヨウ・プレデター〉を一刀両断する。

 

 獣の断末魔が響かせながら獣人の岡っ引きが爆散。爆炎と雷電が砂金を吹き上げながら衝撃がティール隊長に襲いかかる。

 

「うっ……、ぐあぁっ……!」

 

 ティール LP 3500 → LP 2700

 

「この瞬間〈ゴヨウ・エンペラー〉の効果が発動します! 元々の持ち主が相手となる〈ゴヨウ・キング〉が戦闘でモンスターを破壊したことにより、そのモンスターを私のフィールドに特殊召喚します! そして同時に〈ゴヨウ・キング〉の効果も発動します!」

 

「貴様、やはり最初から()()を狙っていたのか……!」

 

「はい!」

 

 迷わずミナミは答えた。途端にティール隊長の目線がこれ以上ないほど鋭くなる。睨み付けるという言い方など生易しいくらいだ。新人でなくともティール隊長を知るガールズ・セキュリティなら、泣き出すか失禁しそうなほどの眼光。

 

 しかし、今だけは堂々としていられた。ミナミは声を張る。

 

「〈ゴヨウ・キング〉が戦闘でモンスターを破壊した時、破壊したモンスターか()()()()()()()()()()()()()()()()()のコントロールを得ます!」

 

 ティール隊長のフィールドに残っているモンスターは1体のみ。

 

「私のエースモンスターは返していただきます! 我が下へ帰還せよ〈ゴヨウ・セイバー〉!」

 

 ──ぱりんっ!

 

 何かが割れる音がして、皇帝特権の呪縛に囚われていた〈ゴヨウ・セイバー〉の目から妖しげな光が消える。正気を取り戻した瞳。背後を一瞥(いちべつ)した岡っ引きの女戦士はすぐさま状況を理解したらしく、大きく跳躍して身を翻し、ミナミのフィールドへ着地する。

 

 さらに〈ゴヨウ・エンペラー〉が手を振ると、再び墓地へつながった穴が開き、たったいま戦闘破壊された〈ゴヨウ・プレデター〉が甦ってくる。

 

 これで形勢逆転。ティール隊長がわずか1ターンで揃えたゴヨウモンスターたちの布陣が、同じく1ターンでミナミのフィールドに完全再現されていた。

 

 言うまでもなく、そのうちの2体にはまだ攻撃権が残っている。とはいえ、ここまで気の抜けない激戦と張りつめた緊張で、ミナミは既に限界だった。

 

 それでも、あと少しだけもってくれ、と満身創痍の体に言い聞かせる。ミナミは再び声を張る。

 

「これでティール隊長のフィールドにモンスターはいなくなりました! 〈ゴヨウ・プレデター〉でプレイヤーへダイレクトアタック!」

 

 野生剥き出しの雄叫びを轟かせ、獣人の岡っ引きがティール隊長に襲いかかる。超人的な膂力(りょりょく)にものを言わせ、握りしめた鉄の十手を大上段から振り下ろす。

 

 ──ガギン!

 

「くっ、ぐぅぅぅうう……!」

 

 ティール隊長もそれなりに消耗しているはずだろうに。疲労を感じさせない俊敏さで腕を交差させ、ダイレクトアタックの十手を受け止める。盾にしたデュエルディスクが火花を散らす。だが、ダメージを防ぎきることはできない。

 

 ──ギリッ、ギリリリッ、ガギンッ!

 

「ぐっ……、うあああぁぁぁっ!」

 

 ティール LP 2700 → LP 300

 

 十手の一撃に身を切り裂かれ、ティール隊長が悲鳴をあげる。ごっそりとライフを削り取られ、ミナミと同じ風前の灯。

 

 だというのに、ティール隊長はまだ負ける気はない、と言わんばかりに噛みしめた歯を剥き出しに、言葉にできないほどの激情を宿した眼差しでミナミを貫いてくる。

 

 はらり、と長い金髪が垂れて、顔にかかる。そこに入局式で見せていた敏腕セキュリティとしての面影はもうない。

 

「……き、きさ、ま……、こんな……、ぐっ……!」

 

 限界寸前なのに、意地だけで立っているのが伝わってきた。あるいはデュエリストとしてのプライドがライフ0以外で倒れることを許していないのかもしれない。

 

 そんな想像が頭をよぎるのはミナミ自身がそうだからか。だが、意地とプライドだけで立っているにも限度がある。

 

(これで、決める──!)

 

「ラストアタックです! 〈ゴヨウ・セイバー〉、ティール隊長へダイレクトアタックッ!!」

 

『ふっ!』

 

 フィールドを蹴った〈ゴヨウ・セイバー〉が藍染の衣をはためかせ、高々と跳躍する。ティール隊長が顔にかかった髪を払って、その姿を目で追う。

 

 その見上げた先、天井照明を背に岡っ引きの女戦士が急降下してくる。何度囚われようと、幾度挫かれようと、決して諦めず、必ずや勝利をつかみとると誓う不屈の闘志。それが宿った眼がティール隊長に狙いを定めた。

 

「断罪の……ゴヨウ・カリバァァァッ!!」

 

『はぁあああッ!!』

 

 ──ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

「貴様ぁぁ……ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 振り下ろされた銀の十手がティール隊長を一刀両断する。全力を乗せた一撃でなければ勝てない。衝撃が四方八方に広がり、フィールドに亀裂を走らせる。しかし、それ以上にティール隊長の悲鳴が何よりも轟いていた。

 

 すべては一瞬のうちだったはずなのに、激闘の中では時の流れすら遅れてしまうのか。目に見える光景、耳に届く音がすべて克明(こくめい)に感じ取れた。

 

「………………わた、しが……負け、る……」

 

 それこそティール隊長の口から最後にこぼれたか細すぎる声すら聞き逃さなかった。

 

 ティール LP 300 → LP 0

 

 わずかに間を置いて、デュエルディスクがライフ0を告げる。

 

 ミナミのフィールドへ帰還した〈ゴヨウ・セイバー〉がこちらの無事を確かめるように振り返ると、そのままソリッドヴィジョンが消えていく。

 

 同時に緊張の糸がぷっつりと切れてしまった。足から力が抜け、ミナミはその場にへたり込んだ。体裁を気にしている余裕もなかった。

 

「……はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 肩で息をしながら、体のあちこちに痛みを覚えながらミナミは状況を理解する。

 

(勝てた……、ティール隊長に、デュエルで……)

 

 自問しないといけないほどに実感がなかった。

 

 勝利の高揚感よりも厳しすぎる訓練が終わったような解放感が心を占めていた。観戦席ではきっと七光り組の面々があれこれ騒いでいるのだろうが、今は顔をあげる気力すらなかった。

 

 限界ギリギリのデュエルで忘れかけていたが、このデュエルにはミナミの処遇がかかっていた。

 

 公犬狩りのリョナーとのライディングデュエルでの問題行動。その処罰として懲戒免職になるか無罪放免になるか、ティール隊長からデュエルによって決めると聞かされ、デッキ調整をしていたのがほんの1時間前だなんて信じられない。

 

 とはいえ、ただ勝つだけでは胸のもやもやは消えない。そう自覚していたから、デュエル前に決めていたことがある。

 

 ティール隊長に勝って、そのうえで謝るしかない。

 

 微かに足音が聞こえ、ミナミは顔をあげた。第3デュエルフィールドには出入口が2ヶ所あり、ミナミが入ってきた所とは逆の方へ金髪を揺らしながら去っていく、弱々しい背中が見えた。

 

 ミナミは痛みが走るのも構わず立ち上がった。

 

 観戦席から飛んでくる声を無視して、デュエルフィールドを突っ切る。今だけはだだっ広いこのフィールドが憎たらしかった。

 

 

 

 

 

         ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

「ティール隊長、待ってください」

 

 観戦席の下をくぐって廊下に出たところで、ようやく追い付いた。しかし、呼びかけてもティール隊長は歩みを止めない。

 

「ティール隊長」

 

「……なんだ、貴様の処遇についてなら心配無用だ。今のデュエルの結果を以て、貴様の無罪放免は決定した。……この件を理由に不利益を被ることはないと保証しよう」

 

 金髪を揺らす背中が淡々と語りかけてくる。そこにデュエル中に見せていた威圧的とすら思える覇気はもうなかった。

 

「いえ、そうではなくて」

 

「……残念だが、このデュエルの勝敗は訓練成績には反映されないぞ。……元よりあれは訓練の域を逸脱していたからな」

 

 どこか自虐的な雰囲気のある言葉に、ミナミはどう返すべきか迷った。

 

 その間にもティール隊長は歩みを止めず、背中がどんどんと遠退いていく。このままでは埒が明かないどころか、話が先に進まない。だからミナミは意を決した。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる。その瞬間、それまで聞こえていた足音がやんだ。

 

「……なぜ謝罪する」

 

 ティール隊長がこちらに向き直ったのが気配でわかった。言わなくては。デュエルではミナミが勝った。けれども公犬狩りリョナーの一件での命令違反はミナミに非があり、それを謝りたかったのだと。

 

「頭をあげろ。言いたいことがあるのなら、そのうえで言え」

 

「はい」

 

 ミナミはゆっくりと顔をあげる。見られるたびに背筋を伸ばしていた、あの切れ長の目はいつもほど威圧的ではなくなっていた。

 

「実は──」

 

 喉まで言葉があがってきた時だった。廊下の奥から足音と共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 誰かと話しているらしく、ティール隊長の背後にガールズ・セキュリティのライディングスーツを着た先輩2人が見えた。ちょうど廊下の角から出てきたところで、そのせいもあって声がクリアに聞こえてきた。

 

「──その()()()()()()っていう新人の子に負けちゃってさー。あぁー、なんで3人分の()()()()()()()()なんか…………あれ、どしたの?」

 

 それまで親しげに話していたはずの声が途切れ、その片割れであったノエ先輩だけが取り残されたようにキョロキョロしている。

 

 なんかまずいこと言っちゃった(?)とキョロキョロさせていた目が金髪を流した背中を捉える。

 

「……………………あ」

 

 とても間の抜けた声が漏れた。しかし、これはまずい。

 

 なにせ目の前には敏腕セキュリティであるティール隊長がいて、今はっきりとスイーツアンティと言ったのだから。そしてミナミに聞こえていて、ティール隊長に聞こえていないなんて都合のいい話があるはずもない。

 

 ティール隊長がゆっくりと振り返る。それだけでノエ先輩はさーっと音が聞こえてきそうなほど青ざめた。

 

 怒られることが確定し、死を悟った人間の顔だ。隣にいたもうひとりの先輩がそそくさと退場する。

 

「ノエル」

 

 ティール隊長の声は冷やかだった。さっきまでなくなっていた覇気がしっかりと戻り、あらゆる不正と悪行を見逃さないという気迫がひしひしと伝わってくる。

 

「いまスイーツ()()()()、と言ったか」

 

 言うまでもなく、アンティルールでのデュエルは禁止されている。ましてやここは天下の治安維持局だ。

 

「その話、詳しく聞かせてもらおうか。じっくりとな」

 

「…………すぅー」

 

 瞬く間に緊張が高まっていく。ノエ先輩は明後日の方向に目をやったまま滝のような汗をかいているが、これはどうにもならない状況なのは明らか。

 

 カツッ、とティール隊長の足音が響く。その瞬間、緊張の糸が弾けた。

 

「ノエル巡査部長ッ、これよりハイウェイ巡回業務に行って参るでありますッ!」

 

 それで誤魔化せると思ったのか。踵を揃え、背筋を伸ばし、手はびしっと額に。お手本のような敬礼を決めたノエ先輩。しかし次の瞬間には身を翻してガレージへ全力疾走で逃走を図っていた。恐るべき逃げ足の速さ。まさに脱兎のごとし。並大抵のセキュリティなら()けそうだったが──。

 

「逃がさんッ! はぁッ!」

 

 今ここにいるのは敏腕セキュリティのティール隊長だ。肩に羽織っていた上着を脱ぎ捨てると同時に腰に携帯していた銀の得物が素早く投擲する。

 

 何かと思えば、それはガールズ・セキュリティのみならず、治安維持局に所属するデュエリストなら見慣れたものだった。

 

(えっ……、あれって十手……)

 

 ミナミは目を疑った。しかし、どう見ても十手だ。ゴヨウモンスターたちの得物。それが〈ゴヨウ・ガーディアン〉の必殺技ゴヨウ・ラリアットよろしく宙を駆け、柄につながった強化捕縄が逃走しようとするノエ先輩を簀巻きにする。

 

 ──ぐるっ、ぐるぐるぐるっ!

 

「あぎゃぁぁぁあああ! 誰かぁぁ助けてぇぇ、ゴヨウされちゃうぅぅぅ!」

 

 みっともなく泣き叫ぶノエ先輩に、ティール隊長が強化捕縄を引いた。ぐいっ、という音に「ぐえっ」という声が重なり、簀巻きにされたノエ先輩が廊下に転がる。その光景はまさにゴヨウモンスターによる逮捕劇であり、何ならさっきのデュエルでも同じ光景を見た。

 

 その一部始終を見て、ミナミの脳裏に入局式で先輩から言われたあるフレーズが甦ってくる。

 

「……り、リアルゴヨウ……」

 

「なんだ、貴様もそのあだ名を知っている口か」

 

 床のノエ先輩を踏ん縛りながらティール隊長がこちらを見た。切れ長の目が「貴様にも用がある」と睨んでくる。

 

 さーっと血の気が引くのをミナミは感じた。

 

「さて、スイーツアンティと言ったか。訓練でノエルに勝った新人がいたと聞いてはいたが、まさかアンティルールだったとはな」

 

「…………」

 

 どうしよう、何も言い返せない。

 

「しかし、自首してきたのであれば、多少は恩赦をかけてやれなくもないぞ」

 

 ティール隊長が目を細める。それだけで全身が縮こまる思いだった。

 

 ここで黙っていれば罪は軽くなるのだろうが、果たして狂犬とあだ名されるティール隊長にそんなセコい手が通用するのか。もしバレたら、それそこどうなるかわからない。

 

「い、いえ……実はそれ以外で謝罪したいことがありまして……」

 

 何もかも白状する(ゲロる)しかない。青い顔でミナミはそう悟った。

 

 

 

 Turn END

 




ここまでたどり着いた読者の皆さん!
vsティール隊長戦が無事決着したのと同時に10万字を読了されたことになります! おめでとうございます!
ちなみに10万字がどれくらいかというと〈CiNo.1000 夢幻虚神ヌメロニアス・ヌメロニア〉の攻撃力と同じです、世界救えます!

オリジナルカードWikiの投稿方法について質問です( ・ω・)∩シツモーン

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