ネオンライトの消えた看板には『
ミナミ自身、訪れるのは初めてだが、ジャンクショップとは本来こういう店構えをしているらしい。もっとも、今では小綺麗な外観をした店も増えていると聞くが。
(思ってたより治安も良さそうだし、少し警戒しすぎてた……?)
ミナミはホワイトライトをDホイールマークのある駐車スペースに停めてヘルメットを脱ぐと、目に見える景色がよりクリアになった。
青空の下、鉄の色を濃く残した町。煤に汚れたコンクリートにレンガの外壁、それから古びたフェンスが大半を占めている。
ネオダイダロス・ブリッジを渡った先、旧サテライト地区にはまだこうした場所が残っている。とはいえ、かつてのような無法地帯ではなく、あの頃の雰囲気を好んだ人々が廃品廃材を扱う店を構えるジャンクショップ街だ。
ここだと、真っ白なガールズ・セキュリティのDホイールとライディングスーツはやはり浮く。定期的にセキュリティがパトロールしているとはいえ、Dホイールから降りただけで、道路に面した店舗が一斉にブラインドを閉めた気がした。
(さすがに自意識過剰ね。仮にそうだったとしても、職務はまっとうしないといけないわけだし)
ライディングスーツのジッパーポケットを開け、支給端末を取り出す。急を要する任務だが、それゆえにミスは許されない。
(場所は……ここで間違いなし。店名もあってる。よし)
事前に共有された情報と相違ないことを素早く確かめ、ミナミは足早に入口へ向かった。『Junk☆Star』は道路に面した店舗の半分がガレージになっており、閉まったシャッターの隣にガラス張りの出入口がある。
──チリン、チリン……リン、リン……
ドアを引くと、廃材から手作りしたらしいドアベルが鳴った。
さっと店内に目を走らせる。チェーンで吊るされたペンダントライトがオレンジに光り、網ラックに引っかけられたDホイールパーツの数々が目を惹いた。どれも古い型式のもので、スクラップから回収されてきたジャンク品なのだろうが、錆び取りはもちろんのこと、塗装は塗り直され、割れや欠けも修復されている。
恐らくすべて店主の手作業なのだろう。どのパーツも大切にされているのが見て伝わってきた。
(……って、いけない。本来の目的を忘れるところだった)
ミナミはDホイールのカスタマイズにジャンク品を探しにきたのではない。レジを兼ねたカウンターは店舗の奥にあったが、店主の姿は見えない。
(留守……? それとも……)
まさか手遅れだったのか。嫌な予感を振り払うべく呼びかけようとして、バックヤードから鉄階段を駆け降りてくる音がした。
──カンカンカンカンッ!
「はいはーい、ちょっと待ってて。今そっちに行きますから」
その声と共に店舗とバックヤードを区切るカーテンが開いた。
慌てて出てきたのは、写真で見た通りの年若い店主。缶バッチを付けたニット帽からごわごわの赤毛が覗いている。一見しただけでは少女と見間違えそうな顔の店主はミナミを見て、それから白いライディングスーツに目を落とす。
そうして、再び顔をあげた店主はすっかり青ざめていた。ひとまず手遅れではなかったようだ。
「ラリー・ドーソンさんですね」
「そ、そうだけど……、セキュリティが何の用。営業届はちゃんと出してるし……」
「そちらについては確認がとれています。今日は別件でお話をうかがいたく、早速ですが治安維持局までご同行願えますか」
ミナミは端的に言った。それから、こちらは任意同行である、と規則にのっとった説明をしようとした矢先──。
「ご、ごめん! 今日はこのあと配達があるからッ!」
「あっ、ちょっと!」
空色のパーカーを翻して、店主ラリー・ドーソンは逃亡した。
◆ ◆ ◆
ジャンクショップのバックヤードはどこもこうなのか。暗い、狭い、肌寒い。剥き出しのコンクリートの床にジャンク品の入った木箱がうず高く積まれている。その他にもホイールや大型部品など箱に収まりきらないものは裸のまま壁に立てかけられていた。そして、それらすべてが
(くっ……、ただでさえ狭い所なのに……!)
廃材の木箱が通路をさらに狭くし、足下の暗がりにはボトルやナットの箱がブービートラップのごとく潜んでいる。
「待ちなさい、ラリー・ドーソン! 逃亡を図るのであれば、こちらも強行手段に出ますよ!」
「それって結局、任意同行じゃないだろ! だったらオレ、行かないぞ!」
前方の暗がりで小柄な背中がちらついている。ミナミは胸と背中を壁に擦りつけながら横っ飛びでラリーを追っていた。
しかし、このバックヤードは相手のホームグラウンド。小柄なラリーは障害物競走よろしく在庫の箱を避けて走るが、ミナミはそうはいかない。
「では聞きますが、なぜ逃亡を図っているのですか! 答えられないのであれば、後ろめたい理由があると判断し……あっ!?」
──ぎしっ!
(し、しまった……!)
ぎしぎし、と身動きするたびに木箱が軋む。そして胸に強い圧迫感。ちょうど照明の影になっていて見えなかったが、これは間違いない。
(…………胸が、挟まって……くっ……!)
ここまで何度か危ない場面を強引に潜り抜けてきたが、この場所は段違いだった。完全に胸が挟まっている。
「あっ、その箱、重いから気を付けて! 倒さないように!」
「だったら……くっ……大人しく任意同行に応じてください! それとも……ふっ……セキュリティに知られるとまずいことでもあるんですか……ぐっ……」
──ぎしっ、ぎしぎしっ!
「だから配達だって! げっ、もうこんな時間じゃん……!」
角を折れた先からシャッターの開く音がした。射し込んできた光がゆっくりと在庫の山を照らし出す。店舗の隣にはガレージがあった。そして、ここはDホイールのジャンク品を扱う店だ。考えるまでもなく、ガレージにDホイールが停めてあるのは明白。
「ま、待ちなさい! くっ……ふっ、ふんんっ……んんっ……!」
ミナミは全身の力を総動員して、挟まった胸を押し出しにかかる。ぎしぎし、と軋む木箱。年頃の少女らしく出るところは出ている体が今だけは怨めしかった。
胸が挟まって動けなくなり、相手を取り逃がしたなんて報告した暁には、何をされるかわかったものではない。とりあえず明日からサラシを巻いて胸を潰す命令が下るのだけは確実だが。
シャッターから射す光が高くなり、モーメントの駆動音がする。
(まずい、もう時間が……!)
ミナミは──褒められたことではないが──ライディングスーツの胸を手で押し込んだ。完全に挟まっていた体がわずかに動いた。よし、これならいける。
身をよじって見た先、ガレージではラリーがスクータータイプのDホイールに跨がって、モーメントを噴かせている。あのサイズならシャッターが半分開いていれば十分だ。このままでは本当に逃げられる。
だから、ミナミは咄嗟に叫んだ。
「『Junk☆Star』店主、ラリー・ドーソン! 治安維持局はあなたに同行を求めています! 用件は──」
「ほら、やっぱり容疑があるじゃんか!」
「容疑ではなく、用件です! あなたは今……わあっ!?」
──すぽっ!!
言いかけて挟まっていた胸が抜けた。抜けようとめいっぱい力を入れていたせいで、ミナミは勢いあまってガレージの工具棚に激突する。けれども、痛みに顔をしかめている暇はない。すぐさま体を起こす。
「うわぁあ、来たぁ!?」
「待ちなさいッ!」
だが、あと一歩遅かった。ミナミが制止するより早く、黄色いDスクーターが急発進する。
Dホイールとしては小型だが、それでもモーメントを搭載したマシンだ。手を伸ばした先で黄色いボディがガレージから飛び出し、店正面の道を突っ切っていく。そして、その後ろ姿が思い出したように叫ぶ。
「あっ、シャッター閉めといて! そこの右のボタン!」
「私は店員じゃありませんよ!」
ミナミは怒りの拳でボタンを叩き押した。
背中でシャッターの降りる音を聞きながら駐車スペースのホワイトライトに飛び乗る。モーメントを起動させ、アクセルを捻った。
ホイールが甲高い音を響かせ、鉄の色をした町を白のDホイールが疾走する。ぐんぐんと景色が後ろへ去っていく。
(見つけた!)
前方を走る黄色いDスクーターを捕捉し、加速と共にその背中へ追い迫っていく。
だが次の瞬間、ラリーのDスクーターが急ハンドルを切って横道へ入った。スクータータイプがギリギリ通れるくらいの道幅。一般的なサイズのホワイトライトでは到底走れない。
(やられた。抜け道なら、相手の方が上手をいっている。だけど……)
ミナミは横道の先を見た。横道を抜けたDスクーターが角を曲がると、ヘルメットの下で赤毛がなびいて、陽光を反射する海がキラキラと輝いていた。
◆ ◆ ◆
旧サテライト地区はネオダイダロス・ブリッジによってシティとつながっており、その橋を起点にいくつもの幹線道路が地区内を走っている。
『Junk☆Star』から出発したのなら童実野湾沿岸の臨海道路が最寄りだ。そして配達先がどこであれ、旧サテライト地区内なら幹線道路を走るのが近道になるはず。
しかもシティと違い、旧サテライト地区はまだ交通量も少なく、この時間帯であれば他の車両もいないので、Dホイールをかっ飛ばすには最適だ。
(それなら、この向こうのどこかに……)
ミナミはハンドルを握りながら目を凝らす。あれから曲がりくねった旧サテライト地区を抜けて、今は臨海道路へ直行するルートを走っている。
周囲は倉庫街で、左右を背の高い建物に塞がれているせいで見通しも悪い。狭まった外壁の奥に童実野湾が見えている。そこを一瞬、黄色いDスクーターが横切った。
(見つけた!)
ホワイトライトを倉庫街から臨海道路へ。途端に潮風が吹き付けてくるが、負けじとハンドルを切り、直角にカーブを曲がる。
風と波の音。他に車両はなく、ミナミはアクセルを捻って、未だ逃走を図るDスクーターに追い迫る。サイレンの音に気づいたのか、ハーフキャップのヘルメットとウィンドゴーグルをしたラリー驚いた顔で振り返ってくる。
「うそっ、もう追い付いてきた!? しかも制限速度ぶっちぎっている……おい、セキュリティがそんなことしていいのかよ」
「非常時における緊急措置ですから、問題ありません」
言いながらミナミはホワイトライトを横付けする。
テールランプを兼ねたエメラルドグリーンのパトライトは横道へ逃げられた時から点灯させている。でなければ、セキュリティとはいえ、下道で時速100キロなんて出せない。
「ちぇ、権力ってやつかよ」
「いつの時代の話をしているんですか」
とはいえ、強権時代の話をされては、あまり強く出られない。
「ラリー・ドーソン。先ほども伝えましたが、治安維持局はあなたに任意同行を求めます。拒否するのであれば、こちらも強硬手段をとらざるを得ません」
「何度求められてもお断りだね。これから配達があるって言ってるじゃんか」
べぇー、と舌を出して威嚇(?)してくるラリー。背負ったバックパックの膨らみからして配達は嘘ではないようだが、ここで大人しく引き下がるわけにはいない。
ティール隊長からは「ラリー・ドーソンの身柄を何としても確保しろ」と指示が下りている。そして理由はどうあれ、逃走を図る相手をガールズ・セキュリティは見逃さない。
「わかりました。では、お望み通りあなたをデュエルで拘束させてもらいます」
「うわっ……やっぱ権力じゃんかよ……」
「怖じ気づきましたか」
言いつつ横目を向けると、ウィンドゴーグルの下から闘志のこもった目で、ラリーがこちらを睨み返してきていた。
「……いいや。そこまで言うなら、オレだってやる時はやるってトコを見せてやる」
「そうですか。では」
ミナミはホワイトライトのスイッチを押す。お互いのDホイールにフィールド魔法〈スピード・ワールド・ニュー〉が発動され、デュエルディスクに光が走った。
『デュエル・モードオン、オートパイロット・スタンバイ』
モニターがルートマップからデュエルフィールドに切り替わり白と黄色、それぞれのDホイールから波紋が広がり、スピードがフィールドを支配する。
「準備はいいですか」
「ああ、いつでも来い!」
海風がミナミとラリーの間を吹き抜けていく。戦いの火蓋を切るように波が大きくさざめいた。
「「ライディングデュエル! アクセラレーション!」」
To be next true ……
今回、ちょこっとアニメ5D'sのキャラクターが登場します。ラリーはアニメでサテライト地区から他の仲間と車で移動するシーンがありましたが、こっちでは戻ってきて店を開いてます。セキュリティが苦手なのはアニメ1話の一件が理由ですね。
それとラリーを所見で男の子だと見抜けたデュエリストはかなり少ないはず……いや、だってあれは無理でしょ……。
オリジナルカードWikiの投稿方法について質問です( ・ω・)∩シツモーン
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今までみたくカードWikiのみでいい
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話の巻末に一覧として附属していい