──ミナミがラリーの下を訪れる数時間前のこと。
ガールズ・セキュリティの指揮中枢である司令室には重厚な電子扉が備わっているが、完璧に音や声を遮断できるわけではない。現に前を通ったミナミには微かながら話し声や笑い声が聞こえてきた。
(まるで蚊帳の外にされてるみたい。まぁ、慣れっこだけど……)
司令室を通りすぎると、急に廊下から人気がなくなる。反響した自身の足音にどこか重々しくすら感じるほどの静けさ。
しかし、足どりが重いのは誤魔化しようのない事実だった。
「…………はぁ」
司令室より先へは滅多なことがないと入らないが、ミナミにとってはもう2度目だった。
(ここまで来ておいて何だけど、もしかしたらということもあるし……)
歩みを止めずにミナミは支給端末を取り出し、今朝になって届いたばかりのメッセージを確かめる。もしかしたら、見間違いや誤送信の可能性だってある、と往生際悪く心の中で抵抗してみたのだが、
件名:緊急招集命令
宛先:ミナミ etc.
何度開き直してみてもメッセージの文字は変わらない。もし、これがただの招集命令なら、ミナミもここまで気落ちはしない。
デュエルチェイサーズへの招集命令は基本的に事件発生時に発令されるものだが、ガールズ・セキュリティであれば新人を集めて実践訓練をしたり、あるいはハイウェイ巡回の補填要員を呼んだりするのにも使われるので、そう肩肘を張るものではない。
しかし、メッセージの本文にあった招集先がただの招集命令でないことを物語っていた。呼ばれた先は隊長執務室、そして呼び出したのはあのティール隊長だったのだから。
「…………」
正直、嫌な予感しかしない。
前回はミナミの命令無視を咎めるための呼び出しだった。
あの後、懲戒免職を懸けたデュエルで辛くも勝利を収めたとはいえ──こういうと申し訳ないが──こちらから好き込んで会いたい人ではない。
新人たちの間では鬼のティール隊長なんて呼び名が定着しつつあるし、ミナミとしても義務感から歩みを進めているが、少しでも気を抜けば足を止め──。
「ぷっぷっー。はーい、そこの新米ちゃーん、止まって止まってー。歩きスマホの現行犯だよー」
「えっ……わあっ!?」
急に背後から両肩をつかまれて、ミナミは現実に引き戻された。状況を理解するより先に路肩に寄せられる車両よろしく、強制的に廊下の端へ誘導される。咄嗟のこととはいえ、背後の相手は巧みに重心を傾けさせてきて、成す術もないままミナミは壁際へ追い詰められる。
「はーい、捕獲完了ーっと。名前と年齢、あと所属はー? 教えてくれないとデュエルで拘束しちゃうよー」
「えっと……デュエルチェイサー313、ミナミ。年齢は18歳。所属はガールズ・セキュリティです」
「ふむふむ、正直に言えて偉いよー。あっ、でも減点はしっかりしとくからねー」
「それは……すいません、不注意でした。ところでノエ先輩」
「んん?」
セキュリティ手帳にペンを走らせていたノエ先輩が顔をあげる。
いくらガールズ・セキュリティとはいえ、ネズミ捕りの要領で歩きスマホを取り締まる人なんて、この先輩しかいないとは思ったが、こんな人通りの少ない廊下で張っていたとなると──。
「ひょっとしてノエ先輩もティール隊長からの招集でこちらに?」
「うん、そーだよ。えっ、というかノエ先輩『も』って言った?」
「はい。実は今朝、私にもメッセージで緊急招集命令が……」
また歩きスマホで減点対象になってはいけない。そう思ってミナミはしっかり立ち止まって画面を操作していたのだが、例の招集命令のメッセージを見せようとしたところで、ノエ先輩が露骨に明後日の方向を見た。
「あの、ノエ先輩?」
「ん、んんー、新米ちゃんもかー、いやー奇遇だねー」
大根役者もびっくりな棒読みだ。その他にも何やら独り言をいっているようだが、そんなことは聞かずともミナミにはノエ先輩の心境が手に取るように理解できた。これは間違いない。
「ノエ先輩、つかぬことを伺いますが」
「んん? 何かな?」
「招集命令に応じたくない、なんて思ってます」
「…………」
無言なのに目だけは忙しく泳がせるノエ先輩。どうやら図星らしい。クロ確定だ。こうなってくると、招集命令に応じたくない理由も察しがついてしまう。
前回、懲戒免職を懸けたデュエルの後、ミナミはノエ先輩と訓練中にスイーツアンティでデュエルしていたことがバレて、ティール隊長からこってりと搾られた。
思い出しただけでも肩が震えてきそうだったし、ティール隊長に会いたくない理由もそれがあったからだ。
それはノエ先輩も同じなのだろう。まだほとぼりの覚めていない状況で、ミナミと2人で顔を会わせれば、またスイーツアンティのことで眉をつり上げられるかもしれない。とはいえ、だ。
「ダメですよ。いくらノエ先輩と言えども隊長命令に背けば、それこそ厳重注意では済まなくなります」
スイーツアンティの件はティール隊長からの厳重注意と今後一切アンティルールでデュエルしないことを誓約するかたちで許された。降格や懲戒などの処罰がなかったのはティール隊長の恩情なわけであって、隊長命令に背くのはまずい。それこそクビが飛びかねない。
「そうは言うけど……あっ、いたたたた……」
「どうかしましたか、ノエ先輩?」
ノエ先輩がお腹を庇うように手をあてて、その場にうずくまる。心なしか顔も青ざめているように見えた。
「だ、大丈夫、いつものことだから……それより新米ちゃんさ……ちょっと先に行っててくれないかな……すぐ追いつくから……」
「いや、それは」
映画でよく見る死亡フラグ……ではなくて、明らかに逃走を図るための口実だ。
これでミナミが「はい、わかりました」と馬鹿正直に先に隊長執務室へ行こうものなら、ノエ先輩はしてやったりといった顔で逃げるに違いない。
あとでティール隊長に
「正直なところ、私も同じ気持ちですが、やはりここは招集命令に応じるべきです。ほら、立ってください」
「いや、ちょっとホントにあの時の面子でティールに会うって思ったら体調が悪くなってきちゃって」
「ですが……それなら、私がお手洗いまで同行します。万が一、個室で倒れられては大変ですから」
「うぅ……これも効かないか……強情な後輩……」
「あの、いま『強情』って言いました?」
聞き間違いではない。はっきり聞こえた。
その証拠にうずくまったままのノエ先輩が誤魔化すように口笛を吹こうと悪戦苦闘している。少しでも心配したミナミが愚かだった。この先輩は一瞬でも目を離したら逃げる。
「はぁ、わかりました。そこまで抵抗されるのでしたら、いくらノエ先輩といえど、強行手段をとらせてもらいますよ」
「おっ、なになにやる気? いいよー、前回のデュエル訓練での雪辱、ここで晴らさせてもらおっかなー」
ぴょこっ、と起き上がったノエ先輩。やはりさっきまでの腹痛は仮病だったらしい。であれば、もう遠慮はいらない。
「そうですか。では」
──カチャリ
ノエ先輩の腕に手錠をかける。ネオジュラルミン製の軽量かつ頑丈な、ガールズ・セキュリティの携行装備のひとつだ。その輪っかのうち片方はノエ先輩、もう片方はミナミの手首にはまっている。
「…………え」
──カチャ、カチャカチャカチャ!
状況を飲み込めていないのか、あるいは飲み込みたくないのか、ノエ先輩が手錠のかかった手を振り回す。さらに知恵の輪みたいに手錠をいじるが、そんなことではずせたのでは意味がない。
「ちょっ、ちょっと新米ちゃん!? はずれない、はずれないよ、これ!?」
「ええ、鍵がないとはずれませんし、鍵は私が持っています。どこに持っているかは私のライフを0にして聞き出してください。それ以外に方法はありませ……」
と、そこまで言ってミナミの言葉が途切れる。
「あった、あった。もしかして鍵って、これのこと?」
知恵の輪を攻略しようとしていたノエ先輩の手に小さな銀色の鍵がある。間違いない、手錠の鍵だ。
(そ、そんな……!? どうして、ちゃんと胸のポケットにしまっておいたはずなのに……!)
ミナミは慌てて胸ポケットに目をやった。ライディングスーツに備え付けのファスナータイプのそれはしっかりと口が閉まっているし、もし開けて中身を盗ろうものなら、すぐに気づいたはずなのに。
「へぇー、そこに持ってたんだー」
「……っ」
しまった、と直感が叫ぶ。しかし時すでに遅し。
ノエ先輩の自由なままだった手が目にも止まらぬ速さでファスナーを開け、その指先が手錠の鍵をかっさらっていく。次の瞬間にははずれた手錠が宙を舞っていた。
「あっ、ちょっと、ノエ先輩!」
「こーんな古典的な手に引っかかるなんて、まだまだ新米ちゃんだねー、うへへー」
さっき手の中に持っていたのは、
「ノエ先輩、隊長命令に背くのは本当にまずいですよ!」
「だーいじょぶ、だーいじょぶ、ちょっとハイウェイ巡回で厄介なデッキに遭遇してくるだけだからー」
ミナミの伸ばした手をあっさりとすり抜け、ノエ先輩が余裕たっぷりに廊下を駆け戻っていく。見かけによらずというと失礼だが、俊敏な身のこなしだ。
手錠抜けの手腕はさすがはガールズ・セキュリティの初期メンバーというべきだが、していることは脱走犯のそれでしかない。
「そーいうわけだからー、あとはよろし……」
──ぼふんんんっ!!
「ぐぇぇええっ!?」
「ノエ先輩!?」
手を振りながら全力疾走していたノエ先輩が廊下の角を曲がろうと瞬間、奥から何かが現れた。
白くて背の高いシルエット。その胸に突っ込んだノエ先輩がものの見事に弾き飛ばされ、手痛いダイレクトアタックをもらったかのごとく廊下に転がる。一方で衝突された相手は揺るぎない足どりだった。
「廊下を走るな。小等部か貴様は」
聞き覚えのある声に、ミナミは反射的に背筋を伸ばす。それから恐る恐る声のした主へ目を向けた。
ノエ先輩が衝突した相手は、こともあろうに招集をかけたティール隊長本人だった。
◆ ◆ ◆
ここへ呼ばれるのは2度目だ。
他の隊長執務室はどうか知らないが、ティール隊長の執務室は相変わらず、がらんとしていた。真っ白な壁を左右に、飾り気のない執務机だけが鎮座し、部屋全体の空気が重くのしかかってくる。
「どうした、後ろめたいことでもあるのか。自白なら聞いてやるぞ」
「いえ、そのようなことは微塵も」
無言のままなのを心配されたか、あるいは疑われたのか。ティール隊長の視線にミナミは背筋を伸ばす。
「それなら堂々としていろ。私とて過去のアンティ行為について蒸し返しているほど暇ではない」
どうやら、こちらがスイーツアンティの件で気を揉んでいたことは筒抜けだったらしい。ティール隊長はミナミとノエ先輩を一瞥してから話題を切り替えた。
「緊急で招集命令をかけたのは他でもない。急を要する事件が発生した。貴様らには至急本件の捜査にあたってもらいたい」
「急を要する事件、ですか」
「そうだ。百聞は一見にしかずというし、まずはこれを見てもらった方が早いだろうな」
ティール隊長が執務机に内蔵されたスイッチを操作すると、自動で遮光カーテンが閉まり、薄暗くなった執務室の壁に映像が投影された。
斜め上から見下ろすようなアングルは防犯カメラの映像だからだろう。
ショーケースにずらりと飾られたレアカードの数々とシャッターの下りた出入口は閉店後のカードショップのそれだった。
開始から数秒間は沈黙、しかしすぐに異常が発生した。ひとりでにシャッターが上がり始め、まだ上がりきっていないその隙間から小柄な人影が店内へ侵入してくる。
「あっ」
思わずミナミは声を漏らす。一方で隣にいるノエ先輩は神妙な顔つきのまま映像を注視し続けている。
侵入者は缶バッチを付けたニット帽を被っていた。その下からごわごわの赤毛が伸び放題になって、羽織ったパーカーにまでかかっている。顔はハンカチとウィンドゴーグルで隠しているが、耳にかかった髪をかきあげる仕草で、顔の輪郭が見えてしまっていた。
そこから先はミナミが予想した通りだった。
ショーケースのロックをピッキングで開け──3秒とかかっていなかった──陳列されていたレアカードの数々を盗っていく。
それが済めば次はレジの番だった。キャッシュレスの進んだネオ童実野シティでも場末のカードショップには未だ現金の入ったレジスターを置いている店舗も多い。慣れた手つきで紙幣を奪い取り、ニット帽の犯人は画面から消えていった。
「これが最新の犯行映像だ」
「最新の、ということは他にも同様の犯行があったということでしょうか」
「察しがいいな。この映像は5件目のものだ」
ティール隊長が再びスイッチを操作する。一時停止されていた映像が巻き戻り、ニット帽の犯人が耳にかかった髪をかきあげるシーンで止まった。
「では、もうひとつ。この映像から犯人はどういう人物だと推察できる?」
まるで訓練生に問題を解かせる教官のような口ぶりだった。
本来ならカメラ映像の解析などは、専門部署である
「素人の犯行に見せかけたプロの窃盗犯と推察します」
「その理由は」
「挙動のちぐはぐさ加減です。侵入直後に防犯カメラを探すような仕草を見せて素人であることをアピールしていますが、鍵開けのスピードからしては犯行には手馴れているものかと」
「なるほど。ノエルは」
「んー、プロの犯行っていうのは新米ちゃんと同意見だけどー」
顎に指をあてたノエ先輩はそこまでで言葉を切った。それかれティール隊長の方を見やってから、
「この犯人、変装してるよね?」
普段のノエ先輩からは想像もつかないほど真面目な声で言う。
「変装……確かにウィンドゴーグルとハンカチで顔を隠してはいますし……」
「あー、そっちじゃなくて、あの格好全部が変装なんじゃないかな」
一時停止された映像を注視するミナミに、ノエ先輩が両肩に手を乗せてくる。
「例えばだけどさー、新米ちゃんがあの窃盗犯なら、普段と同じ服装で顔だけ隠して犯行に及ぶー?」
「それは…………普段なら着ないような服装を、それこそ目立たない服を新しく買ってきて、犯行に及びます……」
ノエ先輩がいつもの後輩に絡む雰囲気で密着してくるが、ミナミとしては気が気でなかった。なにせ、すぐそばには鬼のティール隊長がいるのだ。その目の前で自分が犯行に及ぶならどうするかを語らせるなんて、肝試しもとことろだ。
「ふーん、なるほどねー。それじゃさ、なんであの犯人はいかにもな私服で犯行に及んだの? 顔は隠してるけど、あんな派手なニット帽とパーカーなんて、特徴を覚えてくれって言ってるようなものだよ?」
「それはそうですが…………あっ」
言われてミナミはハッとした。
「気づいたようだな」
あとを引き継ぐようにしてティール隊長が言う。
「ノエルの指摘したようにこの犯人は変装している。ただし、貴様が注目した顔を隠すためのものではない。あのニット帽や赤毛、それから羽織っているパーカーもすべて変装道具だ」
「すべて、ですか」
「そうだ。新人向けの教本にはまだ載っていないかもしれないが、この手の犯行は増加傾向にある。従来、変装といえば目立たない格好がその代名詞だったが、最近はあえて派手な格好をして犯行に及ぶ輩も多い」
「その方が犯人自身の特徴を記憶に残させないからね。あとで目撃者をあたっても派手な服装ばっかり証言されて、下手したら犯人の背丈や年齢すら特定できなかった過去事例があったくらいだし」
「それは……巧妙な犯行ですね」
ようやくガールズ・セキュリティの職務にも慣れてきたと感じていたが、こんな手に引っかかっているようではまだまだ新米だ。落ち込みかけた気持ちを引き締めて、ミナミはティール隊長を見る。
「となると、この映像を頼るのはよくないのでしょうか」
「そうとも言い切れないのが、この事件の厄介なところだ」
ティール隊長は溜め息を吐くような声で、再びスイッチを操作する。
画面が2つにわかれ、片側には防犯カメラ映像、そしてもう半分には治安維持局が収集したデュエリストデータが表示される。その顔写真には防犯カメラ映像と同じ人物が映っていた。
「この方は?」
「ラリー・ドーソン。現在は旧サテライト地区でジャンクショップを営んでいる。個人営業の許可書も提出済みだ」
「では犯人は、実在の人物に変装をしているのですか」
「その判断はいささか早計だな。──偽ジャック・アトラス事件は知っているか」
「はい」
偽ジャック・アトラス事件。起きたのはミナミがガールズ・セキュリティに配属される前だが、ネオ童実野シティの内外を問わず、あれほど騒がれていたのだ。知らないはずがない。
かつて『キング』と呼ばれたジャック・アトラス氏がハイウェイで危険なライディングデュエルを繰り返し、Dホイーラーを次々とクラッシュに追い込んでいる。
そんなニュースが報じられた。
夜毎に犠牲者が数を増していき、過激な犯行の数々に治安維持局は早々にジャック・アトラス氏を容疑者として逮捕した。しかし、だ。
「あの事件、結局はコピーキャットだったんだよねー」
コピーキャットとは模倣犯──世間を騒がせている犯罪者の手口を真似る者──を意味する用語だが、あの事件を切っ掛けに別の意味が生まれた。
有名なデュエリストに変装して、その人物の犯行に見せかけて犯罪を引き起こす偽者、あるいは犯行によって本物を不当に
「そうだ。悪党を褒めるような真似はしたくないが、当時としてはまさに脅威的な犯行だった。なにせ、あのホイール・オブ・フォーチュンやジャック・アトラス氏の代名詞ともいうべき〈レッド・デーモンズ・ドラゴン〉のカードまでコピーしていたのだからな」
「そこまで証拠が揃っていたのなら」
「そりゃ速攻でクロって判断しちゃうよー」
逮捕後の顛末についてはミナミも知っている。
犯行はいずれもジャック・アトラス氏の偽者による仕業だったことが発覚。2台のホイール・オブ・フォーチュンがハイウェイを走る映像はコピーキャットが存在した証拠として大々的に報じられ、本物のジャック・アトラス氏の容疑も晴れた。けれども、当時の治安維持局としては、ここからが大変だったはずだ。
「あの後ひどかったんだよねー。偽者だって判明した途端にどこのメディアからもバッシングの嵐で非難轟々でさー。まぁ『キング』の座から降りていたとはいえ、明らかな誤認逮捕だったからねー」
「他人事のように言うな。貴様も所属している時に起きた事件だろ」
コピーキャットの存在が発覚する前は、大手新聞も『堕ちた元キング』だの『栄光のターンエンド』だの、手酷い書きっぷりだったのを覚えている。
真相判明後、その矛先が治安維持局に向けられらたとなると……、具体的に何があったのかは想像したくない。
「メディアの手のひら返しはいつものことだ。しかし、今の上層部は当時のことでかなり慎重になっている。コピーキャットの存在が疑われると報告した途端に難色を示されたぐらいだ」
「うわぁ……よっぽど、誤認逮捕を恐れてるんだねー」
「ああ、同じ轍は決して踏むな、と釘を刺されもした。それこそ、
「コピーキャットが、本物……ですか」
思わずミナミはティール隊長のセリフを
「話がそれてしまったな。この事件で私が懸念しているのはそれだ」
ティール隊長が厳かに続ける。
「多くの犯罪において、コピーキャットは他人に変装して犯行に及ぶ。そうすることによって容疑を変装した相手に向けさせ、自分には捜査の手が及ばないようにするためだ。当然、変装された相手は何も知らない。ここまではいいか」
「はい」
「しかし過去に数件、
「それはつまり、素顔のまま犯行を?」
「ああ、極めて堂々と防犯カメラに顔を撮しての犯行だった」
顔を隠さず、身元が判明するような状態での犯行。ティール隊長の言葉を疑うわけではないが、にわかには信じられない犯行方法だ。
「これが意外と厄介な事件だった」
「あぁー、あったねー。防犯カメラに映ってた本人に事情聴取しても何も知らないの一点張りだったもんねー」
「最終的には、治安維持局がコピーキャットに対して敏感になっていることを嗅ぎ付けた輩の犯行だと判明したのだが、当時は前例がないせいもあって苦労させられた。本人がコピーキャットかもしれないし、逆に別の犯人が変装しているかもしれない。どちらの可能性も同時に捜査しなければならなかったからな」
そう語るティール隊長の声にわずかな疲労感がにじんでいた。思い出すだけでも疲れてくる事件。ミナミを含む新人はまだそんな厄介な事件を担当した経験はないが、確かにそれは考えただけでも頭が痛くなりそうだった。
「では、今回の事件も映像の人物がコピーキャットか本人か判断するところから、ということでしょうか」
「本来ならそうすべきなのだが、生憎と悠長にはしていられない」
「何かあったの」
いつになく真剣な声でノエ先輩が聞く。それでミナミも思い出した。ティール隊長は最初に急を要する事件だと言っていた。
「この映像は5件目だと今しがた伝えただろ。過去の事件で防犯カメラに映っていたひとりが襲撃された」
「えっ」
一瞬理解が追い付かない。そんなミナミをよそに映像が切り替わる。
さっきの偽ラリー・ドーソンらしき人物の犯行映像がスクリーンの端に寄せられ、4つにわかれた画面にそれぞれ別の映像が撮し出される。
年齢も性別もバラバラな人物たちが一斉に犯行に及んでいる。被ったままのヘルメットや派手なライディングスーツからしてDホイールで閉店後のショップへ来て、犯行後はそのまま逃走する気だったのだろう。
それらの映像が別々に一時停止され、デュエリストデータが表示される。ただし、その内のひとりには『被害者』の文字があった。
「犯人が意図してなのかは不明だが、場末のカードショップというのもあり、いずれも犯行場所はデュエルギャングの縄張りだった。あの手の輩は自分たちの縄張りで他の犯罪者が好き勝手するのを良しとしないからな」
「デュエルギャングというと……『グールズ』のような組織ですか」
「おっ、新米ちゃんなのに渋いところ知ってるね」
「犯罪組織に渋いも何もあるか」
また絡んできたノエ先輩に、ティール隊長が苦言を呈す。
レアカードの偽造、密売、窃盗。これらを世界規模で行っていた超巨大犯罪組織『グールズ』。組織自体は数十年前に開催されたバトルシティの裏で打倒されたが、その爪痕はなかなか消せるものではなかった。
デュエルギャングのような犯罪組織にはトップの座を狙う者、犯罪の手腕を盗みだそうとする者が常にいる。特に『グールズ』はトップがいなくなり瓦解したので、野心を秘めていた残党が各地で新たなデュエルギャングを組織する動きがあった。
ネオ童実野シティでもサテライトとシティが統合された際、それまで幅を利かせていたデュエルギャングを取り締まったことで、その残党や小規模だった犯罪集団に新たな犯行に及ぶ機会を与えてしまった。
「映像の人物が襲撃されたというのはコピーキャットと間違われてでしょうか」
「いいや。状況からして、本物とわかったうえで襲撃されている。恐らくは見せしめだろう。いくら場末のデュエルギャングとはいえ、コピーキャットの犯行ということぐらい気がついている」
「ですが、それでは……」
「まぁ新米ちゃんの言いたいことも理解できるよー。けど、あっちは無法者の集まりだからねー。コピーキャットか真偽不明なうちは手出ししない、なんてお利口なことができるはずもないしー」
「ノエルの言う通りだ。結論から言うと、襲撃された本人は犯行には関与しておらず、コピーキャットに一方的に変装されただけであることが判明している。しかし、被害者がコピーキャットであろうとなかろうと、ガールズ・セキュリティとして執るべき行動に変わりはない」
ティール隊長の目光がいつにも増して鋭くなる。
以前、命令無視を咎められた時の比ではない。あらゆる悪事を見逃さず、例え地獄の果てまでであろう追い詰める。そう感じさせる気迫があった。
「犯罪組織による治安維持の真似事を許したのでは、状況は悪化の一途をたどる。それを防ぐためにも早急に映像の人物の身柄を確保し、コピーキャットの正体を暴くのだ。デュエルギャングなどに先を越させるな」
To be next true ……
ティール隊長の執務室がさっぱりしてるのは普段から現場に出張っているからで、だいたい今回みたいな厄介な事件を担当してます。
あとコピーキャットの派手な変装は海外で実際にあった事件を参考にしてます。
オリジナルカードWikiの投稿方法について質問です( ・ω・)∩シツモーン
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今までみたくカードWikiのみでいい
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話の巻末に一覧として附属していい