真っ昼間のハイウェイのただ中、ミナミはホワイトライトを走らせていた。ガールズ・セキュリティに配属されてから何度か走ったルートで、もう慣れたと思っていたが、こうしてDホイールを追尾しながらだと緊張感で嫌でも身が引き締まる。
「もう1度聞きます、炎城ムクロ。本当に任意同行に応じる気はないのですか」
「何度も言わせんじゃねぇ! 俺様を取っ捕まえたきゃ、デュエルで拘束してみやがれ! 返り討ちにされるのが怖くなかったらな、はっはっはっ!」
ドクロを
しかし、これで逃がしていたのではガールズ・セキュリティのデュエルチェイサーは務まらない。ミナミもアクセルを捻り、ムクロのDホイールに食らいつく。
(……っ、話には聞いていたけど、この相手……速い!)
引き離されないようにするだけでも加速を余儀なくされる。ハンドルを握る手が汗ばむ。ホワイトライトのモニターではスピードメーターがあり得ない勢いで跳ね上がっていき、暴力的な風圧がライディングスーツ越しに殴り付けてくる。ふらつかないでいるだけで精一杯なミナミに対し、相手は余裕を見せつけるように速度をあげていく。さすがは『スピード☆キング』と名乗るだけのことはある。
炎城ムクロ。ライディングデュエルの世界ではスピード狂として有名なデュエリストだ。
かつて『キング』ジャック・アトラスとも闘い、敗戦を期したあとは姿をくらませたが、デュエル・オブ・フォーチュンカップに突如として現れて新たな戦術で観客を沸かせた実力者でもある。そして今は、コピーキャット容疑者のひとりでもあった。
ティール隊長の指揮の下、ガールズ・セキュリティのベテラン隊員たちは被害に遭ったカードショップを縄張りとするデュエルギャングの一斉摘発に動いている。場末の犯罪者集団だからと軽視していると、目に見えて増長するのがこの手の輩だとティール隊長は語っていた。
故にコピーキャットに変装された本人への襲撃に対しては厳粛に対処する。それがガールズ・セキュリティの決定だ。
当然ながらコピーキャットの方も野放しにてはおかない。デュエルギャングを壊滅させたなら、コピーキャットも捜査の手が自身に伸びていると察知する。
だから、デュエルギャングとコピーキャットを同時に逮捕する必要があった。それが今回の最重要事項であり、そのためにミナミを含むガールズ・セキュリティはコピーキャットに変装された疑いのあるデュエリストに接触を図っている。
偽者なら即刻逮捕し、何も知らない本人なら安全のため身柄を確保する。どちらにせよ、治安維持局へ同行願わなければいけないのだが、現在進行形で上手くいっているとは言いがたい。ラリー・ドーソンといい、この炎城ムクロといい、どうしてこうも──。
「おいおいおい、どうしちまったんだ! こんくらいで走ってもらわねぇと、俺様とライディングデュエルなんてできねぇぜ!」
「……っ」
スピードメーターは時速200キロに達していた。Dホイールの訓練でもこんな速度は要求されないし、いくらハイウェイとはいえ、こんなスピードで走り続けるのは危険すぎる。
この状況でライディングデュエルをして相手を拘束するとなると、正直まともなカードプレイができる自信すらなかった。下手をすれば、ダメージを受けた瞬間にクラッシュしかねない。
(それでも、ここで退くわけには……!)
退くわけにはいかない。ミナミは轟々と鳴り続ける風音に負けないようホワイトライトのスピーカー音量を最大にした。
『炎城ムクロ、治安維持局はあなたに当局までの同行を求めます! 従わないのであれば、こちらも強硬手段にでます!』
「いいぜ、かかってこいよ! 俺は一向に構わねぇぞ!」
『……っ、では容赦しません! フィールド魔法発……』
──ギュィイイ!
フィールド魔法を発動しようと、ハンドルから一瞬手を離す。たったそれだけでホワイトライトが大きく蛇行し、ミナミは慌ててハンドルを握り直した。ムクロのDホイールが遠退くが、今はそれどころではない。両脚でボディを締め、スピードと風圧に弄ばれるホワイトライトを必死に走らせる。
(ぐっ……ま、ずい……、こんな状況じゃ、デュエルするどころか本当に……!)
気を抜いたら本当にクラッシュする。ヘルメットの下で嫌な汗が垂れた。青みがかったシールド越しに睨んだDホイールがプレッシャーをかけるように、また速度をあげていく。このままでは振り切られるのは目に見えている。それでも何もできない自分自身に歯噛みした瞬間。
──ブゥゥゥゥウウウウウウン……!!
(こ、この音は……Dホイール!?)
後方からモーメントの駆動音が風を突き破って迫ってきた。ドップラー効果で甲高くなった音が急速接近を知らせる。しかし、ホワイトライトのスピードメーターを見れば時速200キロを越え。それにさらに追い迫るスピードとなると、完全に速度制限を無視している。
今はコピーキャット逮捕のために動いている最中だが、それでもスピード違反を見逃したとなれば、あとでティール隊長に睨まれかねない。
(兎に角、Dホイールの登録番号だけでも……!)
ハンドルを握りしめたまま、背後のDホイールを視認しようとしたミナミだったが──。
──ブゥゥゥゥゥゥウウウウウウウン……!!
「……えっ」
猛スピードで背後から飛び出してきたDホイールがホワイトライトを追い抜いていった。しかし、見間違いようもない。真っ白なボディに、エメラルドグリーンのテールランプ、そして遅れて聞こえてきたのはサイレンの音。
(まさか、あれはホワイトライト……?)
ガールズ・セキュリティの、今まさにミナミも駆っているDホイールと同型のマシンが甲高い駆動音と共に前方に躍り出た。
『はいはーい、そこのムクロちゃーん。こちらは治安維持局ガールズ・セキュリティ、直ちに減速して停まってくれないと、しょっ引いちゃうよー。これ正式な警告だからねー』
ホワイトライト搭載のスピーカーから発せられた緊張感のない声に、ミナミは思わず耳を疑った。
「ノエせんぱ…………あっ、デュエルチェイサー103、なぜこちらに」
声の主は今朝、隊長執務室へ招集をかけられたノエ先輩だった。Dホイールに跨がっている姿はまだ見たことがなかったが、まさかこんなスピード狂じみた走りをするなんて。
(……って、そうじゃなかった)
ノエ先輩はミナミと同じくコピーキャットの容疑者──あるいは変装された相手──の身柄を確保するために手分けして動くよう指示されている。今頃は別所で相手を説得しているものと思っていたが。
「んん? あぁー、デュエルチェイサー313へ通達。こちらの担当だった容疑者は全員身柄を確保したから応援に来たよー」
「そ、それは……ありがとうございます」
確かに前回のデュエル訓練で見たノエ先輩のデッキなら、早々に決着がつきそうだった。それこそ問答無用で相手を拘束してきたのかもしれない。デュエルの後、ライフを0で白目を剥いたまま護送車に放り込まれる対戦相手が容易に浮かんだ。
「おいおい、そっちだけでお楽しみか。俺様もちょっくら混ぜてくれよな」
時速200キロ越えの猛スピードに乗ってムクロの声が流れてくる。さっきよりスピードも上がっているはずなのに、その声には動揺ひとつない。
「おっと、ムクロちゃんともあろうデュエリストがガールズトークに混ざりたいなんてー、これはもしかして偽者かなー?」
「ノエ先輩、それは……」
まだ容疑者には伏せている情報だ。
「偽者? おかしなこと言ってくれるぜ。俺様がデュエル界の『スピード☆キング』こと炎城ムクロでなかったら、いったい誰だっていうだ?」
「コピーキャット」
「あん? コピー、キャットだ?」
ノエ先輩の至極真面目な声に、ムクロがいぶかしむように返す。ミナミもこの相手が炎城ムクロの偽者である可能性を捨ててはいないが、話に混ざりたがっただけで偽者と判断するのは──。
「知ってる? 本物の炎城ムクロはファンから『ムクロちゃん』って呼ばれるの嫌ってたんだよ?」
「えっ」
しかし、さっきはその名前で呼ばれてもなんとも──、とそこまで思考が巡って、ミナミはすぐさま前方を走る相手を見た。
「…………」
無言になったムクロが手で髪をかきあげようとする。当然そこにはヘルメットがあり、動作として手でヘルメットを撫でただけなのだが──。
「その癖は……」
ミナミはその癖を見たことがあった。招集された隊長執務室で見た犯行映像。ラリー・ドーソンに変装していたコピーキャットが同じく耳にかかった髪をかきあげる仕草をしていた。いまムクロがしたのと同じ仕草を。
「ビンゴ、だね」
ノエ先輩の声に獰猛なものが混じる。そして、それが決定打になった。
「……あーあ、完璧に化けてたのによ」
もはや隠し通すのは無理だと思ったのか、それとも偽者なりのプライドがそうさせたのか。時速200キロの暴風の中、そのスピードに似合わぬ気だるげな声が聞こえてくる。
「ちっ……セコい手を使ってきやがってよ。最近のセキュリティはノロマな捜査ばっかしてる癖して、こういうところだけは手際いいのかよ」
「変装相手の
「なんだと?」
振り返った偽ムクロがヘルメットの下からイラついた目線を投げかけてくる。コピーキャットの変装だとわかっていても、その顔や声はデュエル中継で見た本物の炎城ムクロその人だった。
「さっき、本物はファンから『ムクロちゃん』って呼ばれるのを嫌ってるって言ったよね」
「ああ。いつどこで言ったか知らねぇが、お陰で俺様の変装もおじゃんだよ」
「あれ、嘘だよ」
「……………………は?」
時速200キロの風の中、偽ムクロが間の抜けた声を漏らす。
「私の知ってる本物は『ムクロちゃんか? いいぜ、気に入ったぞ! 次に会う時にはそれで横断幕も作ってこいよ、ハハハハッ!』ってご機嫌だったよ」
「…………」
デュエル訓練で聞いた獰猛な声の中に、ハイテンションな声真似が混じって、嫌な緊張感を高めていく。そんなノエ先輩の種明かしにも偽ムクロは無言のままだった。風音だけが耳に轟々と響いていくる。
(あぁ、これ……)
ミナミはこの雰囲気は知っている。ガールズ・セキュリティでの模擬訓練で、迂闊な言動によって犯人役を挑発してしまい、そのままぶちギレさせてしまった時の記憶が甦ってくる。この沈黙は嵐の前触れで、今にも偽ムクロが怒声をあげてくるに違いない。と思ったが──。
「……ハハハハッ、ハーッハハハハッ!!」
腹の底から湧きあがってくるような笑いが豪快なそれに変わる。ミナミの予想に反し、偽ムクロは愉快でしょうがないと言わんばかりにDホイールを噴かせる。
「気に入ったぞ! 最近は張り合いのない相手ばっかりだったからな! てめぇみてぇなヤツに会いたくてうずうずしてたぜ、って本物なら言うのか」
「その相手っていうのは変装の相手? それともデュエルの相手?」
「決まってんだろ、どっちもだよ」
既に化けの皮は剥がれているのに、その声はどのまでも炎城ムクロのそれだった。しかし、そこに本物なら絶対に見せないだろう狡猾さが滲み出ている。
ひょっとしたら、ノエ先輩が他のコピーキャット容疑者の真偽を迅速に判断できたのは、この手法を使ったからか。本物なら引っかかるはずもなく、偽者なら沈黙してしまう。しかし、今はそれを聞いている場合ではない。
「おい、そっちの新人みたいなセキュリティよぉ。俺が大人しく同行に応じないなら、強行手段をとるんだったよな?」
「は、はいっ」
急に話を振られ、ミナミは慌てて気を引き締める。デュエルで拘束するのならいつでもいける……と言いたいところだが。
「へぇー、もうそこまでいってたんだ。ところでさ、このデュエルなんだけど、私が相手してもいいかな?」
聞かれると同時にミナミは吹き付ける風とはまた違った寒さに襲われた。背筋がぞっと冷えるような、それこそ絶対に逆らってはいけない相手から視線を投げかけられているような。
「……はい、問題ありません。本件についてはデュエルチェイサー103へ完全委任します」
「よしよし、それじゃ……これで遠慮はいらないね」
まるで猛獣2匹の檻に放り込まれた気分だった。ガールズ・セキュリティを目指した時からこうした状況は覚悟していたはずなのに、それでも手汗が滲んで、ヘルメットの下では冷や汗が滝のように流れていた。
「おいおい、新人いびりか。治安維持局に通報しちまうぞ」
「んふふ、それを言われたら何としてもここで息の根を止めないとね」
今しがたガールズ・セキュリティにあるまじき激ヤバ発言が聞こえた気がしたが気のせいだろうか。
ノエ先輩はモーメントを噴かせ、ホワイトライトをさらに加速させる。ミナミを抜き去り、偽ムクロのDホイールに並走する形になる。
「ってわけだ、この決着は」
「デュエルでつけさせてもらわないとね」
2人のデュエリストが凶悪に微笑む。それが風に乗ってミナミにも伝わってきた。
To be next true ……
めちゃくちゃお待たせしております(汗)
ひとまず、コピーキャットを捕まえるところまでは書けたので、読んでもらえたら幸いです。
オリジナルカードWikiの投稿方法について質問です( ・ω・)∩シツモーン
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今までみたくカードWikiのみでいい
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話の巻末に一覧として附属していい