遊戯王5D's ガールズ・セキュリティ   作:なら小鹿

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Sp 1-3 法治の守護者

 

▼今週のキーカード▼

【挿絵表示】

 

「な、なんだ、このシンクロモンスターは……!?」

 

 時速150キロで疾走するDホイールを駆りながらリョナーは完全に目を奪われていた。オートパイロットがなければ、とっくにハイウェイのシールドを突き破って夜空へダイブしているところだ。

 

 ゴヨウ・セイバー(攻撃表示)

 シンクロ/星6/地属性/戦士族/ATK 2300/DEF 1000

 チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上

 

 ミナミもホワイトライトに並走するエースモンスターに横目を向ける。凛とした女性らしさを感じさせる横顔。その鋭い眼光はリョナーのDホイールに向けられていた。

 

「バカな……こんなモンスターがデッキに入ってるなんて……くそっ、あの情報屋……」

 

「情報屋が、なんですか」

 

「……ッ」

 

 うっかり口を滑らせてしまった、といわんばかりにリョナーが言葉を詰まらせる。

 

 しかし、そこまで語ってしまったのなら、今さら黙っても仕方ない。むしろ、知られてはいけないことを知られたと白状しているようなものだ。

 

【アンチ・セキュリティ】でガールズ・セキュリティを狙うのはいいとして、そもそも【セキュリティ】のデッキ情報をどこから得ていたのか気になってはいた。

 

「なるほど、そういうことですか」

 

 犯罪者たちの間には独自のネットワークがある。

 情報屋はその仲介人であり窓口だ。それこそ後ろ暗い情報屋なら、金さえ積めばセキュリティが主力にしているカードリストも教えてくれただろう。

 

「その情報を元にアンチデッキを構築して、ガールズ・セキュリティを狙ったわけですか」

 

「…………だったら」

 

「?」

 

「だったら何だっていうんだよ! てめぇらだって似たようなことしてんじゃねぇのか! えぇ!?」

 

 動揺していたはずのリョナーが急に吠えた。激昂した声に、ミナミは「しまった……」とつぶやくが既に手遅れだった。

 

 犯人と接触したセキュリティが避けなければならないのは相手を刺激することだ。興奮して歯止めが効かなくなった犯人が何をしでかすかわからない。

 

「知ってるんだぞ! セキュリティだって強制捜査前に相手のデッキを調べあげてブッ刺さるカードばっかのデッキを組んでから踏み込みに行くんだろ!」

 

「…………シティとサテライトが統合される前には、そういった方針もあったと聞いています」

 

「ほら見やがれ! 結局てめぇらも俺と同じじゃねぇか! 自分たちばっか特別扱いして、偉そうなこと言ってんじゃねぇ!」

 

 怒鳴るリョナーの声に震えはもうなかった。逆上して頭の中が怒り一色に染まり、他の感情が麻痺してしまっているのかもしれない。

 

 こうなってしまっては、いくらなだめても無駄だ。

 以前やった制圧訓練でもミナミは犯人役を興奮させてしまい、落ち着かせようとして火に油を注いでしまった。だから──。

 

「勘違いしないでください」

 

「ああ?」

 

「あなたがアンチデッキを構築してきたからといって、それを非難する気はありません」

 

「どうだか。おだてて情報を吐かせようたってそうはいかねぇぞ。てめぇらの手口なんて、こっちは調べ尽くしてんだよ!」

 

 落ち着きかけていたリョナーがまた声を荒げる。自分で自分を興奮させるのは、この手の犯罪者ではよくあることだ。

 

「あなたがセキュリティをどう思おうと勝手ですが、強力なカードやデッキにとって相手から対策されるのは当然のことです」

 

「当然のことだ?」

 

 プロの世界にだって相手への対策、俗にいうメタの張り合いは存在する。それこそカメラに向かって「メタを張られてからが一流」なんて言い残したプロもいるくらいだ。

 

 それまで日陰者だったカードが流行りのカードへの対抗策になって脚光を浴びて、一躍有名になることだってある。だから、メタを張ることが一概に悪いわけではない。

 

「ただ、そのうえであなたは大切なことを怠っています」

 

「ははっ……なんだよ。俺の【アンチ・セキュリティ】に勝てないからって、揺さぶりかけて追い詰めようって算段か? 公犬も堕ちたもんだな」

 

「今のが揺さぶりに聞こえたのなら、やはり自信がないということですか」

 

「自信だと? 俺のデッキは完璧だ! 今まで公犬相手に負けなしの全戦全勝! 例え天地がひっくり返ったって、てめぇに勝ち目はねぇ!」

 

「だとしたら、なぜ私の〈ゴヨウ・セイバー〉をそこまで警戒するのですか」

 

「…………」

 

 リョナーの勝因は単純なデッキ相性だけではない。自分は相手にメタを張っているから絶対的に有利。その圧倒的な自信があったから得られた勝利だ。

 

 しかし、前情報になかったシンクロモンスターを前にリョナーは明らかに動揺し、困惑している。それまで前情報に頼りきっていたばかりに磨いてこなかった力を問われているのだから。

 

「未知のカードに遭遇した時、デュエルの中でその答えを見つけ出すのも、デュエリストに求められる力ですよ」

 

 公犬狩りのリョナーはそれを怠った。そして今、その報いを受けている。

 

「何がデュエリストに求められる力だよ……、黙って聞いてりゃ偉そうに御託ならべやがって! はっきり言うぜ! そういうのは勝ってから言うもんなんだよ!」

 

 確かにそうだ。シンクロ召喚を決めたとはいえ、ミナミのライフは残り900。一方でリョナーは無傷のライフ4000。

 この状況でミナミが何と言おうと、それこそセコい盤外戦術か、負け犬の遠吠えにしかならない。

 

「ははっ、どうした? 結局は口だけか?」

 

「…………」

 

 犯人との接触時もうひとつさせてはいけないことがある。

 図に乗せる。調子づかせる。セキュリティなんて大したことないと舐めた犯人も増長して何をするかわからない。

 

 しかも、相手は強盗帰りの逃亡犯だ。過去何度も同じ手口で犯行を繰り返しており、もはや情状酌量の余地はない。であればミナミがすべきことはひとつ。

 

(相手のライフを0にして、身柄を拘束するのみ!)

 

 そのために必要な手札も既に揃っている。

 

「デュエルを再開します! 私は手札から装備魔法〈アサルト・アーマー〉を発動!」

 

 アサルト・アーマー 装備魔法

 

「このカードは自分フィールドに存在するモンスターが戦士族1体のみの時に発動でき、装備モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

 ゴヨウ・セイバー ATK 2300 → ATK 2600

 

「さらに〈アサルト・アーマー〉の第2の効果! このカードを墓地に送ることで〈ゴヨウ・セイバー〉はこのターン、2回攻撃できる!」

 

 ゴヨウ・セイバー ATK 2600 → ATK 2300

 

「2回攻撃だと!? だが、俺のモンスターどもは……」

 

 リョナーは咄嗟に自身のフィールドを見た。奇しくもモンスターはちょうど2体。戦士族殺しの〈サイファー・スカウター〉と守備表示の〈白い泥棒(ホワイト・シーフ)〉がいる。どちらを攻撃されたとしてもダメージはないが──。

 

「そんなことは百も承知なんですよ」

 

 もし勝負を分けるとしたら、リョナーが1ターン目から伏せているあのカードだ。

 ここまで発動こそしてこなかったが、リョナーのデッキからして、あれもガールズ・セキュリティを対策するカードであることは間違いない。

 

「ははは……この伏せカードにビビってんのか?」

 

 どうやら、リョナーもミナミの警戒には気づいているらしい。

 

「来いよ、公犬。今さら何したところで逆転なんかできねぇってことを教えてやる!」

 

「そうですか……では」

 

「あん?」

 

 

 

 

 

 

「遠慮なくいかせてもらいます!!」

 

 

 

 

 

 

「……ッ!」

 

「バトルです!」

 

「させるかよ! リバース罠 〈幻惑のダークランタン〉発動!」

 

 幻惑のダークランタン 永続罠

 

 件の伏せカードが開き、リョナーのフィールドに黒々としたランタンが出現する。現れた四角いランタンには灯火を隠す開閉式の扉が備わっていた。

 

「こいつは偽の合図で相手を誤誘導する永続罠だ! 〈幻惑のダークランタン〉がある限り、てめぇが攻撃する時、その攻撃対象は俺が決める!」

 

「なるほど。それがあなたの隠し球ですか」

 

 ポリスモンスターを一方的に蹂躙(じゅうりん)できる〈サイファー・スカウター〉で攻め、他のモンスターへの攻撃も〈幻惑のダークランタン〉で〈サイファー・スカウター〉に誘導して返り討ちにする。それが公犬狩りのリョナーの戦術か。

 

 このフィールドは既に相手の術中。本来ならメインフェイズ2へ移り、何らかの策を講じるべきなのだろうが……。

 

「バトルフェイズは続行です!」

 

「なんだと!?」

 

「〈ゴヨウ・セイバー〉で攻撃!」

 

「ふん……物分かりの悪ぃ公犬だな。〈幻惑のダークランタン〉の効果!」

 

 パカパカ、と黒いランタンが不規則に扉を開閉させる。モールス信号のように見え隠れする光に誘導され、〈ゴヨウ・セイバー〉が目を向けた先にはやはりあのモンスターがいた。

 

「てめぇの攻撃対象は〈サイファー・スカウター〉だ!」

 

 サイファー・スカウター ATK 1350

 

「今さら後悔しても遅いぜ! 既に攻撃宣言は完了している!」

 

「ええ、そうですね」

 

「あん?」

 

「行け、〈ゴヨウ・セイバー〉! 〈サイファー・スカウター〉を攻撃!」

 

 ホワイトライトと並走していた〈ゴヨウ・セイバー〉がフィールドを蹴った。

 夜の高層ビル群を背景に、高々と跳躍した岡っ引きの女戦士が長十手がきらめかせる。その身で夜風を切りながら急降下し、狙うは戦士殺しのサイボーグだ。

 

「おいおい、忘れちまったのか! 〈サイファー・スカウター〉のモンスター効果! 戦士族モンスターとバトルする時、攻撃力を2000ポイントアップさせる! 返り討ちにしてやれ、アサルトサイファー・ショット!」

 

 エネルギーを充填されたキャノン砲が暴力的なビームを発射する。瞬間、夜空に破壊の光が走った。あっという間にその光線が〈ゴヨウ・セイバー〉を飲み込む。

 

「ははははっ! 驚かせやがって、公犬なんて所詮こんなもんよ! 俺の【アンチ・セキュリティ】の敵じゃ…………なぁ!?」

 

 突然、リョナーの嘲笑が打ち切られた。ヘルメット越しに見上げたその先で〈サイファー・スカウター〉のビームを突っ切り、無傷の〈ゴヨウ・セイバー〉が空中に躍り出る。

 

「バ、バカな! なんで破壊されてねぇ!? 攻撃力なら〈サイファー・スカウター〉が上回って……!」

 

「〈ゴヨウ・セイバー〉のモンスター効果!」

 

「モンスター……効果だと……!?」

 

「このモンスターが攻撃する時、バトルフェイズ終了時まで攻撃対象となったモンスターの効果は無効化されます!」

 

「な、なんだと! ってことは……!」

 

 サイファー・スカウター ATK 1350

 

 自身のフィールドに立ったモンスターの攻撃力を見て、リョナーは青ざめただろう。しかし〈サイファー・スカウター〉を攻撃対象を選択したのはリョナー自身だ。

 

「これでもう、あなたに攻撃を防ぐ手段はありません! 〈ゴヨウ・セイバー〉の攻撃!」

 

 迎撃しようとする乱射されるビームをもろともせず、〈ゴヨウ・セイバー〉は相手フィールドへ向かって急行下する。大上段に構えた長十手が銀に光った。

 

「断罪のゴヨウ・カリバー!!」

 

『はぁぁあっ!』

 

 着地と決着は同時だった。落下の勢いを乗せた一撃が〈サイファー・スカウター〉を正中線で一刀両断にする。断面から電光と火花が散り、わずかに残心のための間を置いて〈ゴヨウ・セイバー〉がその場から飛び退く。

 

 直後、左右で別々に膝を折った戦士殺しのサイボーグが爆散。その衝撃と爆炎が超過ダメージとなってリョナーへ向かう。

 

「ぐっ、ぐあああぁぁぁ!」

 

 リョナー LP 4000 → 3050

 

(ようやくライフにダメージを与えられた!)

 

 一度のダメージとしては上々。それでもミナミが崖っぷちに立たされていることに変わりはない。ここは一気に畳み掛ける。

 

「さらに〈ゴヨウ・セイバー〉のもう1つの効果! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し、墓地へ送った時〈ゴヨウトークン〉1体を特殊召喚する!」

 

 ゴヨウトークン(攻撃表示)

 星4/地属性/戦士族/ATK 1600/DEF 0

 

 (おぼろ)げなな光を放ちながら、ミナミのフィールドにモンスタートークンが現れる。戦国武者を思わせる鎧兜姿。その全身は青白い炎を思わせる霊体でてきている。

 

「なっ! モンスターが増えやがった!?」

 

「まだです! 墓地へ送った〈アサルト・アーマー〉の効果により〈ゴヨウ・セイバー〉はもう1度攻撃できます! 〈白い泥棒(ホワイト・シーフ)〉を攻撃!」

 

 白い泥棒(ホワイト・シーフ) DEF 800

 

「あなたのフィールドにモンスターは1体のみ! この状況で、攻撃対象の選択権を奪う〈幻惑のダークランタン〉は機能しません!」

 

「ち、畜生……!」

 

 リョナーが歯噛みする。だが負け惜しみに攻撃を無効にする効果ない。ミナミは構わず突き進む。

 

「二の太刀です! ゴヨウ・カリバー・セカンド!」

 

 駆け出した〈ゴヨウ・セイバー〉が瞬く間に〈白い泥棒(ホワイト・シーフ)〉に肉薄。反撃の隙を与えず、長十手で怪盗を袈裟斬りにする。2度目の衝撃がリョナーのDホイールを襲う。

 

「ぐっ……だが、守備表示なら戦闘ダメージはない!」

 

「ですが再び〈ゴヨウ・セイバー〉の効果発動! 現れなさい〈ゴヨウトークン〉!」

 

 ゴヨウトークン(攻撃表示)

 星4/地属性/戦士族/ATK 1600/DEF 0

 

 また新たに鎧兜を着た霊体のトークンがミナミのフィールドに現れる。そして今、リョナーのフィールドはガラ空き。

 

「バトルフェイズ中に特殊召喚された〈ゴヨウトークン〉2体には、まだ攻撃権が残っています!」

 

「くっ、くそ……っ!」

 

「神妙にしなさい! 1体目の〈ゴヨウトークン〉でダイレクトアタック!」

 

 口を一文字に結んだまま〈ゴヨウトークン〉がリョナーの黒一色のDホイールに急接近する。素早い太刀筋が黒一色のDホイールを斬り裂いた。

 

「ぐっ、ぐぁぁああ!」

 

 リョナー LP 3050 → LP 1450

 

 4000あったライフを半分以下まで削られ、リョナーのDホイールが大きく傾く。夜のハイウェイにスリップ音と火花が散った。

 

「これで確保です! 2体目の〈ゴヨウトークン〉でダイレクトアタック!」

 

 抜刀した〈ゴヨウトークン〉が再びリョナーのDホイールへ迫る。振り上げられた霊体の刀。その斬れ味はリョナーの残りライフを上回っている。この一撃が決まればミナミの勝利だ。

 

「ま、まだだ! まだ俺は……ッ! 手札から〈厄罪師(やくざいし)マッドラッグ〉を捨てて、モンスター効果発動ッ!」

 

 厄罪師マッドラッグ

 星1/闇属性/魔法使い族/ATK 800/DEF 1000

 

「こいつは俺が戦闘またはカード効果でダメージを受ける時、その直前にライフを2000ポイント回復させる! ライフを寄越せ、ドラッグチャージ!」

 

「違法薬物ですか」

 

 リョナー LP 1450 → LP 3450

 

 リョナーの体が毒々しい光に包まれ、瞬時にライフが回復する。

 

「ですが、直接攻撃によるダメージは受けてもらいます!」

 

 ライフが回復したのも束の間。〈ゴヨウトークン〉の振り下ろした霊体の刀がDホイールごとリョナーを斬った。

 

「ぐっ、ぐぐぐ……っ!」

 

 リョナー LP 3450 → LP 1850

 

 またしてもダメージに蛇行するDホイール。火花を散らしながらもリョナーは速度を落とさない。それは不屈の闘志というより、逃亡を諦めなていないように見えた。

 

(……削りきれなかった)

 

 あとを追いながらミナミは静かに歯を噛みしめる。

 決して慢心していたわけではない。〈サイファー・スカウター〉とあの伏せカードを突破したうえで、ミナミはこのターンでライフを削りきるつもりだった。

 

 しかし阻まれてしまった以上、再び警戒しなければならないのはリョナーの【アンチ・セキュリティ】だ。

 

 未だ全貌は見えないが、徹底的にこちらを対策して構築されたデッキはその1枚1枚が致命傷になり得る。

 

「リバースカードを1枚セット」

 

 ホワイトライトの隣に伏せカードが現れる。

 ライディングスーツを叩く風が急に冷たくなった。緊張が不安を駆り立てかけて、ミナミは心の中で首を振る。

 

 今できることはこれだけ。見方によっては頼りないかもしれないが、次のターンこそ必ず勝ちにつなげてみせる。

 

「ターンエンドです」

 

 静かに宣言するミナミの隣を冷たい夜風が吹き抜けていった。

 

 ミナミ LP 900 手札 1枚

 

 

 

 To be next true ……

 




ミナミちゃんは隙あらば1 killを狙ってきます。
あと5D's世界なので〈ゴヨウ・セイバー〉に名称指定の1ターンに1度はありません。
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