遊戯王5D's ガールズ・セキュリティ   作:なら小鹿

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Sp 2-1 ガールズ・セキュリティ日常業務

 

 デュエルで犯罪者を拘束する。それだけがセキュリティの職務ではない。

 

 ネオ童実野シティ全域の治安維持を一手に担っている関係上、常に誰かがどこかでデュエルの強制執行をしてはいるものの、本来の役目は犯罪を抑止し、万が一に備えて日々の訓練を欠かさない。

 

 それが再編成によって新しくなった治安維持局の掲げる理想だ。

 

 とはいっても、局内をすべてをオープンするわけにはいかない。だから入局してみて初めてわかることもある。

 

(デュエルのたびに報告書がある、って聞いた時はさすがに驚いたけど)

 

 ミナミはキーボードを打ちながら、そっと周囲に目を向けた。広々としたフロアには白いデスクが規則正しく配置されている。治安維持局の一角にあるガールズ・セキュリティのオフィスルームだ。

 

 もっとも指揮中枢である司令室に席をもつ局員はそちらに常駐しているし、今の時間帯なら先輩の多くはハイウェイ巡回に出て不在にしている。

 そうでない新人も早々に決着のついてしまったミナミを除いて、まだデュエル訓練の最中だった。

 

(静かなのはいいことだけど、これだとまるでサボってるみたいね)

 

 オフィスルームはガラガラだった。

 

 離れた席でガールズ・セキュリティの先輩がひとりデュエル雑誌をめくっているだけで、あとはどこも空席。

 

 それでも、ちょっかいをかけてくる相手がいないなら、それに越したことはない。

 

(兎にも角にも、他が帰ってくるまでにこれを完成させないと)

 

 ミナミもノートPCに向き直った。ホログラムモニターには8割方できあがった報告書が表示されている。内容はさっきまで闘っていたデュエル訓練について。

 

 デュエルのたびの報告書があるのはガールズ・セキュリティに限った話ではない。

 

 治安維持局が擁するセキュリティは職務で執行したデュエルを報告する義務がある。初めて聞かされた時、露骨にイヤそうな顔をした新人もいたが、怠るともっと恐ろしい目に遭うので、眉間にしわを寄せながらも頑張っている。

 

(これだって犯罪捜査の一環なのだし、捜査記録はちきんと残さないと)

 

 厳密にいえば、ミナミたちが今しているのはその練習のようなものだ。そう付け加えつつ、キーボードに指を滑らせる。

 

 なぜなら、犯罪者相手のデュエルではプレイミス1つで凶悪犯を取り逃がし、それが犯罪被害の拡大につながりかねないのだから。

 

(デュエルの振り返りはプロもやっていることだし、何より腕を磨いているのはセキュリティだけじゃない……)

 

 犯罪者たちも日夜、デュエルタクティクスを鍛えている。それこそセキュリティのデッキに対して、メタを張ってくるような輩もいるぐらいだ。己を鍛え、敵を知る。デュエルの報告書にはそうした意義もあった。

 

 しかし、入局してまだ2週間しか経っていない新人をハイウェイに送り出してデュエルで凶悪犯を拘束させ、そのうえ報告書まで書かせるのは酷な話だ。

 

 だから、まずは基礎訓練を兼ねて新人同士でデュエルをし、ターン経過や決着にいたるまでの流れを報告書にするよう指示されている。それでもひぃひぃ言っている新人は少なくないが。

 

(よし、これであらかたはできた。あとはカードテキストの引用をして…………あっ)

 

 デュエルの決着まで書き終え、報告書をスクロールさせたところで、ミナミは手を止めた。

 

 報告書の書き出しはテンプレートになっているのだが、その中に空欄があった。デュエルの報告書なのだから当然、デュエリストデータを入力する欄がある。その対戦相手の欄が空白のままだった。

 

(このまま提出していたら、間違いなく雷を落とされてたわね)

 

 ミナミは治安維持局のデータベースからガールズ・セキュリティの隊員リストにアクセスする。

 

 IDとパスワードを入力すると、モニターが切り替わり、ガールズ・セキュリティの公章が映し出される。ロードは一瞬。公章を背景にして各局員の名前とナンバーがリストになって一覧表示される。そして、探していた先輩の名前はスクロールせずとも見つかった。

 

(あの先輩、設立当初からいるメンバーだったの)

 

 リストは登録順、つまりガールズ・セキュリティへ入隊した順になっている。3年目の先輩たちの名前の中にさっきまでミナミとデュエルしていた先輩もいた。リストをクリックすると、顔写真つきの個人プロフィールが表示される。

 

 職  位:デュエルチェイサー103

 名  前:ノエル

 趣  味:1ターンキル

 座右の銘:風前の灯

 

「…………えっ」

 

 妙に物騒なプロフィールに、間の抜けた声が漏れてしまった。オフィスルームがガラガラで助かった。

 

 もしかしたら誤表示かもしれないと、個人プロフィールを再度読み込んでみるが、表示内容は変わらない。1ターンキル、風前の灯。

 

(趣味と座右の銘って、自由記入欄だったはずじゃ……)

 

 ミナミ自身、個人プロフィールはデータベースに登録され、正式なリストとして治安維持局内で管理されると聞いて、どう書こうか小1時間も頭をひねったのを覚えている。

 

 この先輩は思いきりがいいと言うべきか。今でこそ3年目の先輩だが、プロフィールは配属後すぐに入力する。そこでよくこんなデュエルマフィアの用心棒みたいな趣味と座右の銘を書けたものだ。

 

 隣にある顔写真には、いかにも人懐っこそうな女子の先輩が映っている。

 

 入局式で声をかけられた時の第一印象は後輩にからむのが好きそうな先輩だったし、現にデュエルしてみてそうだとハッキリした。間違っても、こんな物騒なプロフィールの持ち主では──。

 

(…………ないこともない、か)

 

 デュエルする前なら信じられなかっただろうし、きっと話題作りのための冗談だと自分を納得させていたかもしれない。

 

(でも、あのデュエルの後なら納得のプロフィールかも)

 

 誤字脱字のチェックを兼ねて報告書を読み返しながら、ミナミはデュエル訓練の内容を反芻した。

 

 

 

 

 

          ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 治安維持局には3つのデュエルフィールドがある。

 

 そのうち第1と第2は訓練を想定したもので、屋内のテニスコートのようにフィールドがいくつも横並びになって、複数組が同時にデュエルができるよう設計されている。

 

 この日は新人のデュエル訓練のため、第2デュエルフィールドをガールズ・セキュリティが貸し切っていた。

 

 ただし、新人にもハイウェイ巡回や司令室でのオペレートがあり、全員が一同に会してデュエルディスクを構えるのは難しい。

 

 だから各自の自主性を重んじるという名目上、当日中にデュエルし、期日までにその内容を報告書にまとめるよう指示が出されていた。

 

 他の新人たちは個人個人で連絡しあって相手を見つけていたようだが、ミナミが第2デュエルフィールドを訪れた時には人は疎らで、わずかにいた新人も既にペアを作っている状況だった。間に割ってはいるのは気が引ける。

 

「おーい、そこの新米ちゃん。訓練の相手を探してるのなら、私とデュエルしない?」

 

 どうしたものかと悩んでいると、まるで待ち構えていたように先輩が歩み寄ってきた。清廉な白のライディングスーツに身を包んだ、人懐っこそうな先輩セキュリティ。それが──。

 

「ノエル先輩が、相手をしてくださるのですか」

 

「うん、そーだよ。あとね、私のことはノエかノエちゃんでいいから。よろしくね、新米ちゃん」

 

「は、はぁ……」

 

 そんなこんなでミナミは3年目の先輩を相手にデュエルディスクを構えることになった。

 

 

 

 

 

          ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

「──バトルです! 〈ゴヨウ・セイバー〉でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 デュエル開始から数ターンと経たないうちにミナミは早々にシンクロ召喚を決めていた。

 

 攻撃宣言の声に、エースモンスターである〈ゴヨウ・セイバー〉が大きく跳躍する。

 

 ノエ先輩のフィールドにはリバースカードが1枚あるのみ。しかも、シンクロ召喚への妨害はおろか、直接攻撃に対しても発動する素振りすら見せていない。

 

(この感覚、何かある……けど、今は突き進む!)

 

 警戒を怠ってはならないが、深読みして判断を誤るのもまた危険だ。そのうえでミナミは今が攻め時と判断した。

 

「攻撃宣言と同時にリバースカードをオーブン! 〈シンクロ・ストライカー・ユニット〉!」

 

 シンクロ・ストライカー・ユニット 通常罠

 

「おおっ、いいカード伏せてるねー」

 

「んっ……このカードは発動後、シンクロモンスター1体の装備カードとなり、攻撃力を1000ポイントアップさせます!」

 

 跳躍した〈ゴヨウ・セイバー〉の得物が長十手から最新鋭の大型ビームキャノン砲に換装される。

 

 ゴヨウ・セイバー ATK 2300 → ATK 3300

 

 脇に抱えるほどの長大なビーム砲。瞬く間にエネルギーが充填され、チャージ完了のランプが灯る。

 

 その砲門が狙うはがら空きのフィールドに立ったノエ先輩だ。あえて攻撃を誘っているようにも見えるが、ならばその罠を撃ち破って攻撃を届かせるのみ。

 

「シンクロ・ストライカー・キャノン、発射!」

 

 砲門から最大火力のビーム砲が発射される。白熱するほどの光量。この一撃が決まれば、戦局はミナミの有利に大きく傾くが。

 

「んー、その攻撃はちょっともらえないかな。手札から〈バトル・イーター〉のモンスター効果を発動」

 

 バトル・イーター

 星10/闇属性/魔法使い族/ATK 2500/DEF 0

 

「ダメージステップに手札からこのカードを墓地へ送ることで、戦闘によるダメージを0にして、バトルフェイズを強制終了させるよ」

 

 着弾直前だったビームの前に、黒い頭巾の魔法使いが立ちはだかる。ずんぐりとした胴体と手にしたバキュームマシン。ラッパ型の吸引口がうなりをあげ、高出力ビームを吸い込んでいく。

 

 同時にデュエルディスクのフェイズ表示がバトルフェイズからメインフェイズ2へ強制移行される。だが、それだけではない。

 

「ノエ先輩、〈バトル・イーター〉は戦闘を強制終了させた後、プレイヤーに自身の攻撃力分のダメージを与えるカードです」

 

「うん、そーだよー。あ、もしかして新米ちゃんも使ってる?」

 

「いいえ」

 

 ノエル LP 4000 → LP 1500

 

 ごっそりとノエ先輩のライフが削られる。

 

〈バトル・イーター〉の攻撃力は2500。支給されてカードテキストに目を通して知ってはいたが、デッキには入れていない。

 

 手札から発動できて奇襲性があり、なおかつモンスターへのバトルダメージも0にするので、戦闘破壊を防ぐこともできるが、それにしてもライフダメージが痛すぎる。

 

 今も〈ゴヨウ・セイバー〉の攻撃を防いだとはいえ、このライフ差なら次のターンにも決着がついてしまいそうだった。

 

「ノエちゃんセンパーイ! 負けないでくださーい!」

 

「頑張ってー! ファイトーオーですよ!」

 

 現に観戦していた新人2人が先輩のピンチとばかりにワーワーと騒いでいる。ミナミ自身、ノエ先輩とはあまり話したことなかったが、どうやら他の新人はかなり親しくなっているらしい。

 

(応援されないことには慣れているけど……なるほど、そういうこと)

 

 デュエルフィールドの外に目を向ける。観戦している2人は前回の訓練でミナミがボコボコに……デュエルで倒した相手だ。

 

 本来は新人同士でするデュエル訓練になぜ先輩が顔を出し、なぜミナミを名指しで勝負に誘ってきたのか。当初はあまり気にしていなかったが、あの2人を見ていると納得がいった。

 

「だーいじょぶ、だーいじょぶ。このくらいのダメージ、実戦だとかすり傷だから」

 

 ダメージ2500がかすり傷か否かの判断は一旦置いておくとして。

 

(油断は禁物……とはいうものの、こうもすんなり勝ちが見えてくるのは逆に不気味ね……。油断を誘っているにしても露骨すぎる)

 

 ここまでのデュエルでノエ先輩はほとんどカードをプレイしていない。

 

 手札を温存しているようにも見えるが、それにしても相手であるミナミにシンクロ召喚を許し、ダメージを軽減したものの半分以上のライフを失っている。

 

 端から見ればデュエルの流れはミナミにあり、ノエ先輩は背水の陣といったところ。

 

 それでもミナミは言い知れぬ不安の渦中にいた。何がとはいえないが、攻めれば攻めるほど相手の術中にはまっているような気がしてならない。

 

「ところで、新米ちゃんさ、例の約束は覚えてる?」

 

「このデュエルで負けた方は週末、相手に好きなスイーツを奢るという話ですか」

「そーそー、覚えてるならいいよー。ちなみに私が好きなのはシャトー・ドルチェのマドレーヌね。新米ちゃんは好きなスイーツとかあるー?」

 

「あまり大声で言わないでください。私まで処罰対象になるのはイヤなので」

 

 スイーツアンティというらしい。もっぱらやっているのはノエ先輩と誘われた相手だけらしいが、まさかガールズ・セキュリティ内で賭けデュエルなんて……と聞いた時には耳を疑った。

 

 けれども、新人にはこのノリが人気らしい。ノエちゃん先輩と親しげに呼ばれているのを見るに、新人から一方的にスイーツ代を巻き上げているわけではないのだろう。

 

 ミナミ自身、アンティに興味はない。それでも負ければスイーツを奢らされると思えば、先輩相手にも遠慮せず挑めるので、一概に悪いとも言い切れなかった。

 

「処罰の心配よりもお財布の心配をした方がいいかもしれないよ? シャトー・ドルチェのスイーツって、どれも高いから」

 

「知っています」

 

「そうなの? もしかして、新米ちゃんもご用達だった?」

 

「…………カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 ミナミの足下にリバースカードが現れる。そのセリフは先輩なりの挑発なのか、それとも純粋に後輩の財布を心配しての警告なのか、判断がつかない。

 

(どっちにせよ、惑わされてはいけない)

 

 ミナミは小さく頭を振って、迷いを追い出す。

 

「エンドフェイズに〈シンクロ・ストライカー・ユニット〉を装備したモンスターは攻撃力が800ポイントダウンします」

 

 ゴヨウ・セイバー ATK 3300 → ATK 2500

 

 ミナミ LP 4000 手札 2枚

 

 

 

 

 

「よーし、私のターンだね、ドローっと」

 

 TURN

  ノエル LP 1500 手札 4枚 → 5枚

 

 いかにもお気楽そうにノエ先輩はカードをドローする。あと一撃でライフが尽きてもおかしくないのに、今にも鼻唄を歌い出しそうなほど上機嫌だ。

 

(これでノエ先輩の手札は5枚。フィールドにあるカードは伏せたままのリバースカード1枚だけとはいえ、一気にモンスターを展開して攻勢に転じてくることも考えられる……)

 

 あるいは、件のリバースカードが展開の要なのだろうか。攻撃を無効にしたり、ミナミのモンスターを全滅させたりするような罠ならとっくに発動しているはずだ。

 

「ターンが返ってきましたよ、ノエちゃん先輩!」

 

「反撃の紫煙(しえん)、もくもく上げちゃいましょう!」

 

 ギャラリーの2人も相変わらずだ。もしノエ先輩がブラフの伏せカードで攻撃を牽制(けんせい)しようとしていたのなら、ミナミの気を惹いてやまないあの2人は完全にその作戦をぶち壊しにしている。

 

「ありがとう、新米ちゃんズ! あとね、反撃の合図であげるのは狼煙(のろし)だよ。紫煙(しえん)はタバコの煙だからね」

 

 まるでファンにサービスするプロデュエリストのように、ノエ先輩は新人2人に手を振り返す。見ていて後輩の扱いが上手いのがありありと伝わってきた。

 

 それはそうと、この状況で随分な余裕だ。よっぽど強力な手札なのか、あるいは──。

 

「ノエ先輩、つかぬことをうかがいますが」

 

「んん? 急にかしこまって、どしたの? もしかして毎日の摂取カロリー知りたいとか? ちょーっとそれは教えられないかなー」

 

「誰かから手加減するよう言われているんですか」

 

 ミナミのひと言に、おどけていたノエ先輩が一瞬黙り込む。ギャラリーにもその雰囲気は伝わっていた。

 

 ガールズ・セキュリティが設立されて3年。もうできたばかりの新設部署と軽んじられることはないが、その反面、治安維持局内ではお嬢様のお守り役として見られつつある。

 

 ミナミ自身が良家の出身であり新人という立場にある関係上、ガラス細工に触るような扱いは何度もされてきた。純粋な好意もあれば、責任問題を発生させたくないという気後れ、親の七光りで入局した連中など大したことないという見下しなど理由は様々だった。

 

 こちらから「お嬢様扱いは結構です」と断っても周囲は首を縦に振ってくれないし、それこそ上層部から下手なことをしないよう言い含められている可能性だってある。

 

「手加減してるように見えちゃう?」

 

「さっきのターンもそうでしたが、手札が潤沢なのにフィールドに出すカードはごくわずか。手加減されてないのなら、相当な手札事故とお見受けします」

 

「ふふーん、言ってくれるねー。それじゃさ、逆に聞くけど、私が手加減するつもりで新米ちゃんをデュエルに誘ったとして、なーんでスイーツアンティで勝負するの?」

 

 その指摘には閉口せざるを得なかった。ノエ先輩はそれまでと変わらない調子で続ける。

 

「もし上層部から新人には手加減しろなんて言われてたら、そもそも私からデュエルに誘わないし、スイーツアンティで勝負するからには全力で勝ちにいくよ?」

 

 だって、人のお金で食べるスイーツは値段以上に美味しいからねー、とノエ先輩の口から問題発言がこぼれる。

 

(でも、それは確かに)

 

 スイートアンティを提案してきたのはノエ先輩だ。手加減して、それこそわざと負ける気だったなら、アンティルールでデュエルするはずがない。とはいえ論より証拠だ。

 

(手加減されてないとしたら、ここまでの出し惜しみのようなデュエルはいったい……いえ、考えるだけ無駄ね)

 

 その問題はここまでずっと考えてきたが結局のところ、わからないというのがミナミの答えだった。

 

「わかりました。では、そのうえで提案なのですが」

 

「んー、なになにー」

 

「このデュエル、レイズはありですか」

 

「れいず?」

 

「賭け金の引き上げです」

 

 本来はポーカーなど使われる用語だが、このデュエルで引き上げるのは奢るスイーツになる。ミナミは観戦している新人2人を指し示した。

 

「負けた方は対戦相手だけではなく、そこの2人にもスイーツを奢る。この条件でどうです」

 

 デュエル訓練で負けた私怨から先輩を刺客として差し向けてくるような2人だ。ミナミからむしりとれるチャンスを逃すはずがない。問題はノエ先輩が乗ってくるか否かだが。

 

「うん、いいよー」

 

 承諾まで2秒とかからなかった。即断即決というより、頭で考えてしゃべっているのか不安になる早さだ。

 

 それでも、この条件ならどんな手札だろうと手加減はできなくなった。負ければ3人分の奢りであり、ここからはノエ先輩も全力でくるはずだ。

 

「そーゆーわけだから、そっちの新米ちゃんズは食べたいスイーツ考えといてねー。あっ、リバースカード・オープン」

 

「このタイミングでですか」

 

 伏せられてからずっとそのままになっていたリバースカードが開く。その瞬間、バヂッとフィールドに電流が走った。

 

「これは……」

 

 トラップ・スタン 通常罠

 

「〈トラップ・スタン〉だよ。このターン、他の罠カードはすべて無効になる。もちろん、あとから発動した罠カードにも無効化は適応されるからねー」

 

(罠封じ……ということは、私の伏せたカードを警戒して? 〈サイクロン〉のような伏せ除去ではないのは、あの1枚で相手の罠を完封するため。だとしたら……)

 

 これは何かくる。デュエリストとしての直感がそう叫んでいた。自然と身構えたミナミからフィールドを挟んで、ノエ先輩はさっきまでと変わらない態度でカードをプレイしていく。

 

「さらに手札から魔法カード〈悪夢再び〉を発動」

 

 悪夢再び 通常魔法

 

「墓地から守備力0の闇属性モンスター2体を手札に戻すよ」

 

「なるほど。さっきのターン、手札から捨てた〈バトル・イーター〉は」

 

「そっ、守備力0の闇属性だよ。あとその前に手札交換で捨てたもう1体も回収するね」

 

 デュエルディスクが墓地からカードを2枚吐き出す。これでノエ先輩の手札は6枚になった。

 

 だが、残りライフ1500では〈バトル・イーター〉の効果は使えないし、レベル10では守備表示で召喚して壁にすることもできない。

 

(だとしたら、いったい何のために。デタラメに発動できるカードをプレイしているようにも見えないし)

 

 じわじわと緊張が高まっていく。フィールドの空気が張り詰めつつあった。何かを感じ取ったのは観戦していた2人も同じらしく、いつの間にか口数が少なくなっていた。

 

 そして、ノエ先輩がさっきまでと同じ人懐っこい顔で口を開く。

 

「さて、新米ちゃん、覚悟はいいかな。まぁ覚悟できてなくても容赦しないけどねー」

 

 笑みを浮かべたまま、恐ろしく冷たいセリフを吐くノエ先輩。ぞわぞわっと背筋が粟立つ。ミナミは目と耳を疑った。

 

(まさか、このターンで決着を……? でも、ライフはまだ)

 

「まだライフ4000あるから、負けるはずなんてない。もしかして、そー思ってる?」

 

「……っ」

 

 言いながらノエ先輩は手札のカードを引き抜く。デュエリストなら誰もが見慣れたはず仕草なのに、足がすくんでしまった。そんなミナミに、獰猛な笑みを向けてくる。

 

「見せてあげるよ、私の相棒」

 

「……相棒、ですか」

 

 いま手にしている、あのカードがそうなのか──。

 

 

 

 To be next true ……

 




 ミナミちゃん、設定上はスタイルもビジュアルもいい女の子なのですが、手加減をされるのもするのも嫌いなので、ボッチになりがちです。
 現に配属されて2週間少々で同期から目の敵にされつつあります。
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