がらんとしたフィールド立ったまま、ノエ先輩は手札からカードを引き抜く。
フィールドにはモンスターもリバースカードもないのに、その1枚からは言い知れない脅威を感じる。そんなミナミの胸の内を知ってか知らずか、ノエ先輩はさっきまでと変わらぬ声色で言う。
「このカードは通常召喚できない。手札からモンスター3体を墓地へ送った場合にのみ特殊召喚できる」
「手札から、モンスターを3体……」
それが召喚条件なのか。あまりにも重すぎる召喚コストだが、ノエ先輩の手札は潤沢だ。さらに今さっき〈悪夢再び〉で墓地回収もしている。
「これが私の相棒だよ。ちょーっとだけ
言いながらノエ先輩は手札を墓地へ送る。コストになった3枚のモンスターカードたちが手配写真のようにフィールドに現れ光る。
どれもレベル10の最上級モンスターだ。3色の光を放つ奔流が交じり合い、みるみる姿を変えていく。そうして現れたのは3つの首をもった巨大なシルエット。
「コラージュ作成! 現れなさい〈モンタージュ・ドラゴン〉!」
『『『グオオオォォォォォォ!!!』』』
光が弾け、丸太のような両脚がフィールドを揺らす。筋骨粒々の真っ青な巨躯に強靭な両翼。そこから生えた3つの首が威圧的な咆哮を轟かせ、デュエルフィールドを震撼させる。
モンタージュ・ドラゴン(攻撃表示)
星8/地属性/ドラゴン族/ATK ?/DEF 0
「こ、このモンスターは、まさか……!?」
「ああー、やっぱり知ってはいるんだねー」
知ってはいる。〈バトル・イーター〉同様、セキュリティに支給されるカードリストにその名前が載っていたし、テキストにも目を通していたはずなのに。
(迂闊だった……でもまさか、実戦のデュエルで遭遇するなんて……!)
無理もない。〈モンタージュ・ドラゴン〉はその豪快な召喚条件からお世辞にも使い勝手がいいとはいえない。
ゆえにセキュリティに支給されながらも、ほとんどの局員が使いこなせなかった超重量級のポリスモンスターとして格付けされていた。
まさかそれが召喚されるところを目にするなんて。しかもデュエルの相手がその使い手だなんて、想定外もいいところだ。
「驚くのはまだ早いよー。〈モンタージュ・ドラゴン〉の攻撃力は手札から墓地へ送ったモンスターの合計レベル×300ポイントになる」
ノエ先輩が召喚コストにした3体のモンスターはすべてレベル10だった。ということは──。
「合計レベルは30、攻撃力はその300倍、ですか……」
「そっ」
『『『グオッ……グオオォォォ……!!!』』』
ミナミが見上げる前で〈モンタージュ・ドラゴン〉の青いボディがさらに巨大化していく。踏み出した足下で床が軋み、天井を突き破りそうな3つの首が照明を遮って、ミナミに影を落とす。そのステータスは──。
モンタージュ・ドラゴン ATK ? → ATK 9000
「攻撃力9000……!?」
「んふふ、そんなに
(……どの口が言うんですか)
首を下げてきた〈モンタージュ・ドラゴン〉に、ノエ先輩は子猫をあやすように顎をさする。
仕草だけなら可愛らしいが、甘えてきている相手はいかつい3つ首のドラゴンだ。牙の間からは湿った吐息が漏れていて、可愛げなんて微塵もない。
「守備モンスターを出さなかったのは〈ゴヨウ・セイバー〉の効果を発動させないためでなく、手札を温存して召喚コストを確保するためだったわけですか」
「やーっとわかった? 私が手加減してたわけじゃないって」
3つ首だと撫でてもらうのにも順番待ちができるらしい。他の首をなだめながら、ノエ先輩は丁寧にスキンシップしていく。見ていて〈モンタージュ・ドラゴン〉よりもノエ先輩の方に恐怖を感じる絵面だ。
「あー、それとねー」
「なんですか」
「私の前だと、ライフ4000なんて風前の灯みたいなものなんだけど、言うの遅かった?」
「……いえ」
あの相棒を召喚される前なら、同じセリフを聞いても絶対に信じられなかっただろうし、それこそまたお嬢様扱いされていると反発してしまっていた。
ミナミは自身のフィールドに目をやる。〈ゴヨウ・セイバー〉は装備した〈シンクロ・ストライカー・ユニット〉の効果もあり、攻撃力2500にパワーアップしているが、それでも〈モンタージュ・ドラゴン〉との攻撃力差は6500。ノーダメージのライフすら一瞬で消し飛んでしまうパワー差だ。
「すいませんでした、ノエ先輩。手加減してるだなんて、疑ってしまって」
「ん? ああー、いいよ、いいよー。舐められてると思ってる相手をやっつけるのも好きだからさー。それで、一応これは聞いておいた方がいいのかな」
にっこりとノエ先輩が笑みを浮かべる。見ていて背筋が寒くなる笑顔だ。そしてひと言。
「──何か言い残すことはある、新米ちゃん?」
ノエ先輩に拘束された犯罪者も最期にこれと同じ景色を見たのだろう。頭上では〈モンタージュ・ドラゴン〉の3つ首が荒々しい息を吐きながら、今か今かと攻撃宣言を待ちわびている。
「では、お言葉に甘えて」
ここで引き下がるわけにはいかない。ミナミは足下にある1枚だけのリバースカードを指差す。
「もし、ノエ先輩が攻撃してきたら、私はこのカードで〈モンタージュ・ドラゴン〉を返り討ちにします」
「へぇー、このセリフでちゃんと言い残してくれる相手は初めてだなー。けど、ブラフに頼ったデュエルは先輩セキュリティとして、あんまり褒められないかなー」
「ブラフだと思いますか」
「んー、そーだねー。生まれたての子鹿みたいにプルプルしてたら断定していいんだけどー、んんー」
ノエ先輩が視線を下げてきた。見られていると意識したわけではないが、自然と足腰に力が入る。
「んふふー、すごい気概だねー。でも、忘れてないかなー。このターンは〈トラップ・スタン〉ですべての罠が無効になってるってこと」
「ええ、承知のうえです」
「なるほどねー、なら先輩として、しっかり応えてあげないとね。そういうわけだから、もし報告書でわからないとこがあったら遠慮なく聞いてねー」
バイバーイ、と言うようにノエ先輩が手を振った。
それが何を意味するのかわからないミナミではない。長年連れ添ってきた〈モンタージュ・ドラゴン〉も以心伝心らしく3つの首が頭上で吠える。
(……来る!)
ミナミは身構えた。訓練とはいえ、油断すれば気圧されて負けそうなプレッシャー。両足に力を入れて踏ん張る。
「モンタージュくん、いたいけな新米ちゃんに社会の厳しさを教えてあげるなさい! 攻撃力9000! パワーコラージュ!」
『『『グオオオォォォォォォ!!!』』』
筋骨粒々の胸部が膨れ上がったかと思えば、次の瞬間、3つの首がそれぞれ破壊光線を撃ち出した。暴力的な光量に、目に見えるすべてがジャックされる。チャンスは1度きり。そして、今がその瞬間だった。
「ダメージステップ、速攻魔法発動!」
着弾したパワーコーラジュの光線が〈ゴヨウ・セイバー〉を襲う。叩きつける暴風を切り裂くように、得物で破壊光線を左右に流しているが長くは持たない。
「なるほどねー、速攻魔法なら〈トラップ・スタン〉で無効化されないし、相手ターンでも発動できる。でも、例え〈ゴヨウ・セイバー〉の攻撃力を倍にしたとしても、バトルの結果は変わらないよ?」
「ええ、ですから私が対象にするのは…………〈モンタージュ・ドラゴン〉自身です!」
『『『グオオォォォ……!?』』』
名指しされた〈モンタージュ・ドラゴン〉の咆哮に交じってギャラリーから新人2人の声が聞こえてくる。
「……えっ、なんでノエちゃん先輩のモンスターを対象にするの?」
「……私に聞かないでよ。攻撃力半減の速攻魔法とかじゃ……いや、それでもまだ負けてるわね……」
新人の2人は考えあぐねているようだった。ハッキリいって純粋なパワー比べで勝てるような相手ではない。
ノエ先輩も〈モンタージュ・ドラゴン〉を相棒にしてきたから、そのことは重々承知しているはずだ。わずかに悩んだ顔が、ハッとして目を見開く。
「ダメージステップで速攻魔法……まさか……!? モンタージュくん、ストップ! その攻撃ストップ!」
「無駄です! 既にバトルはダメージステップにまで入っています!」
「…………そう、だったね」
パワーコーラジュの破壊光線の中にあっても燦々と光るリバースカード。ノエ先輩にはその正体がわかっているようだった。
「〈禁じられた聖杯〉、だね?」
「はい」
禁じられた聖杯 速攻魔法
ダメージステップでは攻守をアップダウンさせる効果を含め、ごく一部のカードしか発動できない。そして〈禁じられた聖杯〉もその1枚だ。
「このカードはフィールドのモンスター1体の攻撃力を400ポイントアップさせ、同時にそのモンスター効果を無効にします。〈モンタージュ・ドラゴン〉は自身の効果によって攻撃力を得ているモンスターです。よって効果が無効になれば──」
『『『グォ……グオオォォォン……』』』
モンタージュ・ドラゴン ATK 9000 → ATK 400
弱々しい声に、3つの首が吐くパワーコーラジュの破壊光線がみるみるしぼんでいく。
光の中から現れたのは無傷の〈ゴヨウ・セイバー〉だ。その攻撃力は2500。手に構えられた〈シンクロ・ストライカー・ユニット〉の砲門に再び光が灯る。エネルギーチャージは瞬く間に完了した。
「そして、これが〈ゴヨウ・セイバー〉の迎撃です! シンクロ・ストライカー・キャノン、発射!」
2度目の高出力ビームが〈モンタージュ・ドラゴン〉の巨躯を射ち抜いた。胸に風穴が開き、3つの首がそれぞれ断末魔を轟かせる。その両脚がガックリと膝を折ると、悲しい地響きがフィールドを揺らした。
「…………」
さっきまでミナミを見下ろしていた3つ首が、今度は持ち主であるノエ先輩の上に影を落としていた。ゆっくりと巨体が崩れ落ちる。戦闘で発生した超過ダメージは2100。
ノエル LP 1500 → LP 0
デュエルディスクからライフの尽きる音がすると同時に緊張の糸が切れた。足腰から急に力が抜けて、ミナミは危うくその場にへたりこみそうになった。
(なんとか勝てた……けど、正直かなり危なかった)
ミナミに背中を預けていた〈ゴヨウ・セイバー〉がソリッドビジョンと共に消えていく。
そのままデュエルディスクに目を落とした。実はいまセットされているデッキに〈禁じられた聖杯〉は1枚しか入っていない。
ガールズ・セキュリティを含め治安維持局では入局時に【セキュリティ】の共通デッキが支給されるが、そこからは各自でカードを集めてデッキを強化・改良する決まりになっている。
部署によって求められる戦略戦術は異なり、ガールズ・セキュリティでも隊員によってデュエルスタイルは違っているからだ。
(それにレアカードは元々希少だし、局内でも保有している枚数があまりないのよね)
レアカードを狙った犯罪があとを絶たないのはそうした背景からだ。強力なカードはそれだけレアであり、レアカードであればあるほど希少になってくる。
治安維持局には支給希望カードの制度があり、月に1度の申請で希望を出せば、それなりに融通を利かせてくれる。
(それでも局内のカーストというか、優先度の上下はあるみたいだから過度な期待はできないけど)
治安維持局としても強力なレアカードは実力あるセキュリティに支給したいだろうし、あとは功績を挙げた局員への報奨にしたいのが本音だろう。
ガールズ・セキュリティも犯罪検挙率に貢献しているが、後発である以上、どうてしも他の部署に遅れをとってしまっている。そして、ミナミはその中でも新人だ。
(このカードの支給希望が通っただけでも奇跡みたいなものよね)
1枚だけの〈禁じられた聖杯〉を見つつ、ミナミはさっきのデュエルを振り返る。もし、あそこで伏せていたカードが攻撃反応系の罠だったなら、まんまと〈トラップ・スタン〉に封殺され、そのまま1ターンキルで負けていたに違いない。
「あの、ノエ先輩」
フィールドを挟んでノエ先輩は燃え尽きたように立っていた。デュエル中に見せていた人懐っこさも獰猛さもない。
デュエルではミナミが勝ったが、デッキ構築の腕ではノエ先輩に軍配が上がるのは理解していた。
〈モンタージュ・ドラゴン〉のような超重量級のカードをエースに沿え、長所を伸ばして短所を補うデッキに仕上げているのがその証拠だ。
そして、カードの支給希望が常に通るとは限らないミナミにとって、手元にあるカードで今後のデッキ構築について相談できるノエ先輩は貴重な相談相手だ。
「ん……? あぁ、新米ちゃん、どしたの?」
「実は、少しご相談したいことがあって、もしよければ今度の
そこまで口にして「あっ」と思った。本当は今のデッキに合ったカードを一緒に探したり、弱点の対策を練ったりしたいだけだったのだが。
「えっ、
やっぱり、ノエ先輩も同じことを考えたらしい。
今の今まで忘れていたが、このデュエルはスイーツアンティ。負けた方は
しかも、ミナミがレイズしたせいで、観戦していた新人を含めた3人分の奢りだ。急いで誤解を解こうとしたが──。
「うぇぇえ~~~~ん!」
噴水のような涙でノエ先輩が泣き出した。
「あの新人、先輩をイジめてくるよぉ~~! 私からスイーツアンティ吹っかけたのをいいことに、破産するまで高級スイーツを奢らせまくる気だよぉぉ~~! 骨の髄までしゃぶり尽くされちゃうぅぅ~~! 2人とも助けてぇ~~!」
「いえ、あの……違いますっ、これはっ」
弁明の隙すら与えない速さで、ノエ先輩は新人の2人に泣きついた。物理的に。
別にミナミは相手からアンティを吹っかけてきたからといって、
泣きつかれた新人2人がノエ先輩をよしよしとなだめながらミナミに非難がましい目を向けてくる。
先輩セキュリティを刺客として送り込んできたのはどこの誰ったか。とてもそんなことを言える状況ではなかった。
◆ ◆ ◆
(はぁ……、思い出すだけで疲れてきた)
ミナミは背凭れに身を預けた。書き終えた報告書のチェックをしていただけのはずが、途中からデュエル終盤の記憶が甦ってきて、なんとも言えない疲労感にさいなまれた。
空欄だったデュエリストデータには、きちんとノエ先輩の名前やナンバーが入力されている。
無論、スイーツアンティの件や新人2人に泣きついた奇行については伏せてある。ノエ先輩の名誉のためでもあるが、清廉潔白を誇りとすべきガールズ・セキュリティがアンティでデュエルしたともなれば、ミナミの首が飛びかねない。
(〈モンタージュ・ドラゴン〉……この映像、ノエ先輩だったのね)
データベースには過去にガールズ・セキュリティが扱った事件や活動記録も保管されている。その中でミナミが見つけたのは入局式でスクリーン投影されていたガールズ・セキュリティが設立されて間もない頃の記録映像だ。
ホワイトライトを駆るセキュリティはヘルメットで顔こそ見えないものの、その頭上を飛ぶ攻撃力9000の〈モンタージュ・ドラゴン〉はノエ先輩の相棒に違いない。
設立当初からいる先輩であり、無名だった部署を今の地位まで引き上げた立役者。それを配属されて2週間少々の新人が負かした。
(……あまりいい目では、見られないわね)
デュエルの世界は実力主義だ。セキュリティが犯罪者を拘束するのにもデュエルで勝たなければいけないし、新人同士のデュエル訓練でも勝敗が局内の評価につながってくるのがその証拠だ。
その一方で暗黙の了解も存在する。先輩後輩の上下関係がいい例だ。勝率が絶対とされるプロの世界ですら、裏ではプロリーグでの活動歴で上下関係が決まっているなんて噂も囁かれている。
(先輩のメンツを潰した、と思われても不思議じゃないし……この手の噂は速攻で広まるから)
咄嗟に周囲に目を走らせる。
さっきまでいた先輩はいつの間にかいなくなっていて、オフィスルームにいるのはミナミだけだった。まさか言いふらしに……と思ったが、ここはデュエルアカデミアのブルー女子寮ではない。
根も葉もない噂でも悪評はいとも容易く広まる。
こういう時、親の七光りは厄介だ。思い出したくはないが、ブルー寮の女子先輩に勝った時は裏で両親が手を回しただの、金の力での勝利だの、馬鹿馬鹿しい噂がイヤでも耳に入ってきた。
ミナミは実力でデュエルし、そして本気で挑んで勝った。けれども、相手がそれを認めてくれているとは限らない。親の七光りは負けた相手にとってプライドを傷つける以外の何ものでもないのだから。
(まぁでも、あの先輩なら、その心配もなさそう……でいいのかしら?)
マンガのように涙を噴水にして新人2人に泣きつく姿を思い出すと、陰湿な噂を流布するタイプの人には見えなかった。
むしろ、あそこでおちゃらけてくれなかったら、新人2人とは険悪なムードになっていただろうし、警戒しなければならないほど悪い人でもないのかもしれない。
そんなことを思いながら、ミナミは時計に目をやった。
(ハイウェイ巡回までまだ時間はあるし、ひとまずはこの報告書を提出して、それから──)
頭の中でスケジュールを調整しようとしたタイミングで、オフィスルームの扉が開いた。そろそろデュエル訓練が終わる頃合いだ。新人の誰かが帰ってきたのだろう。
(ノエ先輩とのデュエルのこと、根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だし、さっさと退散した方がいいわね)
そう思って席を立った時だ。カツッ、と固い足音がした。
「デュエルチェイサー313、いるか」
「はいっ」
そのひと声だけで背筋が伸びた。返事は素早く、指を揃えた手を額に。
まるで上官に敬礼する新兵だが、ミナミだって他の先輩相手になら、こんな軍隊じみたことはしない。それでも配属後すぐ「……あの人には気をつけた方がいいよ」と耳打ちされた相手なら別だ。
「お呼びでしょうか、ティール隊長」
「敬礼は不要だ」
背の高い金髪の女性セキュリティがミナミを見た。切れ長の目がすっと細められると、それだけで息が苦しくなる。
スポーツ選手のような体型に白のライディングスーツがよく映えていた。
肩に引っかけた上着では隊長職であることを示す
「デュエルの報告書は順調か」
「はい、あとは……最終確認を済ませて提出するだけです」
本来なら今すぐにでも提出できるのだが、あの眼光を目の当たりにして自信満々に「提出できます」とは言えなかった。
(やっぱり、この人………苦手)
相手が強いからという理由で
ガールズ・セキュリティ全体を指揮する立場にあるティール隊長なら、今年になって入局した新人のことは既に知っているし、ミナミの生まれや家柄も当然把握しているはずだ。ただ、この威圧感満載の態度がミナミだけに向けられているかといえば──。
「どうした。何か見られて困る内容でもあるのか」
「いえ」
ホログラムモニターの報告書を眺めていたティール隊長がミナミに視線を移した。女性の中ではかなりの長身で、ミナミは自然と見下ろされる形になる。
あらゆる犯罪を暴き、些細な不正をも見抜く。そんな眼光だ。
(あぁ、確かにこれは…………薬物検査ね……)
検査キットを使うタイプではない。違法薬物を所持していないか、嗅覚に優れた警察犬に全身をくまなく嗅がれているような感覚。以前、同期がひそひそと話しているのを耳にしたが、まさにその通りだった。
(悪質な粗探しなら抵抗できたけど、そうじゃないのがまた厄介なのに……)
意外と──というと失礼だが──ティール隊長が揚げ足とりのような真似をしてきたことは未だない。かといって、新人が規則を破るのを虎視眈々を見張っているわけでもない。
違法な行為に対して規則に従った処罰を実行する。ある意味でセキュリティのあるべき姿を体現している人だった。
「後ろめたいことがないならいい。手を止めさせてすまなかったな」
やましいことはなくとも、その返答が聞けて、肩の力が抜けた。無意識のうちに緊張してしまっていたらしい。
だから、その後のひと言は完全な不意打ちだった。
「ところで貴様、このあと時間はあるか」
「……」
危うく声をあげそうになって、ミナミは喉まで出かかった言葉を飲み込む。内心が顔に出ていなければいいが、と思ったが、ティール隊長の目がすっと細められる。それを見てすべて悟った。
「どうした。顔色がよくないぞ。医務室に運んでやろうか」
「……問題ありません。この後は」
ミナミは再び時計を見た。
「30分後にハイウェイの定時巡回があります。それまででしたら」
「わかった。では、その報告書が完成次第、私の部屋に来い。ハイウェイ巡回の時間については、多少の遅れを許容するよう私から司令室へ連絡を入れておく。他に質問は」
「いえ、ありません」
ここで怯んではいけない。ミナミはできる限り毅然として答えた。元より拒否権はないが、口ごもってしまえば不正を隠しているように見られる。
それに、呼び出される理由については心当たりがあった。十中八九あの件だ。
「そうか。では隊長執務室で待っている。邪魔してすまなかったな」
金髪を揺らしながらオフィスルームを出ていく背中を見送って、ミナミは腹の奥が重くなるのを感じた。
To be next true ……
実はノエ先輩、Sp 1-1にも一瞬だけ登場しています。
「──行きなさい〈モンタージュ・ドラゴン〉! 攻撃力は捨てたモンスター3体の合計レベルの300倍! よって攻撃力9000! 食らいなさい、パワー・コラージュ!」
まだ新人で口調が自己主張していなかった頃のノエビア先輩です。逆にデュエルスタイルはこの頃からそのままです。